好奇心はアンデッドを滅す、かもしれない
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次回の更新は、3/24です。
眼帯の少年によると、伝説には様々なバリエーションがあるそうだ。
例えばさっきの行商人のお姉さんから聞いた話や、少しアレンジされて生贄の孤児は実は沼の主の恋人だった説、そもそも生贄ではなく花嫁として差し出せって事だった説などなど。
その恋人とか花嫁だったバージョンでは、村人が勘違いして花嫁や恋人に暴力を振るったことに対する報復処置として、彼らは一家族除いて全滅の憂き目にあったことになっている。
それだと助かった家族にも意味付けしてあって、孤児・恋人・花嫁に唯一暴力を振るわなかったとか、庇っていたとか、彼らがひたすらに善良だったから助かった的な。
「よくあるだろう? 『こういうことがあるから、情けは人のためならず』ってさ」
「ああ……」
眼帯の少年の皮肉気な物言いが理解出来る。
人が誰かに優しくするとき、たいていの人は先にある何かの事なんて考えてない。計算もしてない。ただ困ってる誰かを助けてやりたいって思って行動する。後の人間がその流れを客観視した時に、巡り巡って親切が返って来たって結果になるだけだ。
巡り巡って自分に返って来るから人に施せというならば、それは打算しろって言うんだ。なら打算で行動する人間を非難するようなことは言えない。
けれど一方で「見返りを期待するのは優しさじゃない」とか言われる。大いなる矛盾だ。そう思えば皮肉な物言いになっても、そりゃ仕方ないじゃん。
先を行くロマノフ先生達が時折立ち止まってるのは、私達と同じく壁画をメモしてるからか。
一度合流して見解を聞いてみようか?
奏くんにそう言うと、「そういうのはこのフロア全部見終わってからでよくね?」と返って来た。
奏くんが紡くんと合流しないとか珍しい。
「珍しいとか思った?」
「うん」
「でも若さまだってひよさまと離れてんじゃん」
「そうだね。でもこれからレグルスくんもお友達が増えてバラバラに行動することもあるだろうし、たまには良いかなって」
「おれもだよ。紡、大根先生とフィールドワーク行き出したら行動もバラバラになるかもだし」
ちょっと寂しいけど、予行練習だよね。
この間和嬢が遊びに来た時に、ちょっと考えたんだ。
今は私にべったりのレグルスくんも、大きくなるにつれて独自の人間関係を作っていく。それが今は大部分重なってるけど、いつか重ならなくなるだろう。そうすれば私といるより、お友達といるようになるかもしれない。
もうレグルスくんに殺される未来は無いにしても、レグルスくんが独り立ちする未来はあるんだ。
今からそれに備えておく方が良いかも。
そんな事を言えば、奏くんがぽりっとほっぺたを掻いて苦笑いした。
「そーだよなー! まあでも、あっちはそう思ってないかもだけど」
奏くんが指差した先にはレグルスくんと紡くんが、ロマノフ先生とラーラさんに腕を取られてジタバタしてるのが見えた。
大きな声で「にぃにー!」とか「にいちゃーん!」と叫んでる。
「どうしたの?」
「はぐれちゃうからぁ!」
「迎えに行くって言ってきかないんですよ」
レグルスくんが地団太を踏んでるのを、ロマノフ先生が笑いながら見ていた。
紡くんの唇もちょっと尖ってて、面白がるラーラさんに突かれている。
「お兄ちゃん二人が仲良く探検してるのが気になったみたいだよ」
「えー、いつもの事なのに?」
「そうだぞ。いつもおれと若さま二人で喋ってんじゃん」
茶かす訳じゃないけど、いつもの事なのに二人は何がそんなにきになるんだろう?
首を傾げると、ヴィクトルさんが手をひらひらさせた。
「難しい話を二人でしてたからじゃない? そういう難しい話の時は、なんか毎回起こってるからね」
「いや、壁画の話なのに」
「そうだぜ? 壁画の主の形が段々変わって行ってるって話で」
奏くんが「な?」と私に振るから、「そうそう」と頷く。すると先生達の顔色ががらっと変わった。
物凄く真剣な顔つきに、私も奏くんも目が点になる。
「え? 何事……?」
「今、絵が変わったと言いましたね? どんな風に?」
「どうって……」
ロマノフ先生の問いに普通じゃ無さを感じて、私と奏くんは取っていたメモを先生方に見せた。
それを見て、ヴィクトルさんが唸る。
「条件が揃えば絵が変わるよう、魔術で指定してたみたいだね」
「んん? どういうことです?」
聞き返すと、ラーラさんが私達に紡くんのメモを見るように言う。
それに従って紡くんが見せてくれたメモの中、壁画はずっと渦巻で埋め尽くされていると書いてあった。
奏くんが首を横に振る。
「えー……、なんだこれ? おれたちと同じモノ見てたよな?」
「うん。にいちゃんのはうずまきいがいのもかいてあるね……?」
そう、半円の訳の解らない顔のようなものから、四つ足の何か、そして四つ足の何かに角が生えているとか。
段々と変化しているそれは、同じ壁画の筈なのに全く違う。
違いは神聖魔術を使う私がいたかいないか、か?
「もしかして、神聖魔術を使える人間がいるといないとじゃ、見える絵柄が違う……と?」
口に出してみれば、なんかそれっぽい気がする。
「ちょっと試してみましょうか」
そう言ってロマノフ先生は一人先に進む。そうして少し行った場所で止まると、壁画を見た。
「渦巻三つですね」
此方にそう告げると、ロマノフ先生は私を手招く。
ぽてぽてと歩いてロマノフ先生の横に並ぶと、先生が「あ」と呟いた。
壁画は渦巻三つではなく、四つ足でヘラジカのような立派な角、鬣を生やした生き物が、背中に人間らしきものを背負っている絵で。
「渦巻じゃないですね」
「渦巻三つだったんですよ。君が隣に来るまで」
「あー……そういう……」
「なるほど、中々地下の壁画の解析が進まない訳ですね」
そりゃこんな仕掛け、解んないよ。
ああ、でも、楼蘭のひとなら解ったかもしれないな。あそこ神聖魔術を使える人、多いし。
それにしてもややこしい仕組みを考えたもんだ。
「何を考えてこんな仕掛けにしたんだろう……」
「色々考えられますよ。容易には解らなくしたかったとか、伝えたい人にだけ伝わるようにとか」
「ああ、そうですね。なるほど」
ようは暗号のような機能を壁画に持たせたかったって事か。なんのために?
一つ推論が出来ると、また疑問が湧いて来る。しかも推論は推論でしかないから、また何か違う事が出てくれば、立てた仮説は容易にひっくり返るのだ。考えれば考えるほど、推論は増えていくし。
ふへっと口から変な笑いが出て来た。
「ヤバい、燃えて来た」
「おや?」
「なんでこんな厄介なことしたんですかね? バレたくないこととかあるのかな? それとも誰かに知らせたい隠し事? あ、もしかしてそれこそお宝?」
「おやおや?」
ロマノフ先生がニコニコしてる。これはアレだ、先生も気になってるやつだ。これは調べるより他ないだろう。
燃えて来た。断然やる気出て来た。
「よし! サクサク探していきますよ!」
声を上げると、レグルスくんや奏くん・紡くんが駆けて来た。
「珍しくヤる気じゃん?」
にしにしと笑う奏くんにサムズアップだ。
ダンジョンは好きじゃないけど、謎解きは嫌いじゃないんだなこれが。
ちょっとテンションが高くなった私に、ヴィクトルさんが心配そうな顔をする。
「でもあーたん、ここから先アンデッドもっと多くなるよ? 大丈夫?」
「大丈夫です。ミイラなんて鰹節みたいなもんだから!」
「いや、全然違うよ⁉」
慌てるヴィクトルさんにひよこちゃんがぐっと親指を上げて見せる。これって私がサムズアップしてるからかな? 真似っこ可愛い。
そしてにっこり笑うのも可愛い。
「だいじょうぶ! でろでろじゃなかったら、れーまっぷたつにできるから!」
持つべきものは頼れる弟だよ!
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活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




