スーパーなんとか君はまだ出せない
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次回の更新は、3/20です。
仲が良いかそうでないかって言われたら、絶対良い方だよ。奏くんは初めて出来た友達だし、親友だもん。
ただ奏くんの方はちょっと解んない。だって奏くん、他に家の近所に友達いるみたいだし。
だけど「私達親友だよね?」って私の立場からは聞けないよ。
奏くんがどう思ってくれてようと、傍から見たら私は領主の息子、或いは領主として彼ら兄弟を自分に付き合わせてる感じだし。
奏くんは私に変な気を使ったりはしないように、言うべきことはしっかり言ってくれてる。でも、奏くんの親御さんってどう思ってるんだろうね?
最近は奏くんだけでなく紡くんも出仕させてるようなとこがあるし。
私やレグルスくんが出仕でなく遊びに来てもらってるだけだって思ってても、周りはどう考えてるだろう。
「ねぇ、奏くん」
「あー?」
「本当はもっと早く言わなきゃいけなかったんだけど、奏くんの親御さん何も言わない?」
「親? うーん、特には……。いや、前に怒られたことは反省してるっぽいけど、そんなんはおれが口挟んだらややこしいだろう?」
「ああ、あれか……」
奏くんと初めてあった時の事を思い出す。親と喧嘩して家出してたんだよね。
理由は兄弟あるあるの、上の子だけが叱られるってやつ。あの時私は、自分の事情含めて怒ってたんだよ。
奏くんが兄になったのは、奏くんの都合でなく親の都合だ。それを押し付けるのは理不尽だろうって、その理不尽さに我慢がならなかった。
あれから二年だ。
「あの時、私、奏くんのご両親に少し八つ当たりしてたんだよね。それはちょっと申し訳ないと思ってる」
「そっか。でもおれは嬉しかったよ。おれの気持ちを分かってくれるんだなって」
「そう?」
「うん。いや、じいちゃんから若さまめっちゃ賢いって聞いてたからさ。周りの大人と一緒になって、どうせおれに『弟はまだ小さいんだから、兄のお前が許してやれ』とか言うんだと思ってたんだ。でも若さまは怒っていいって言ってくれた。おれが我慢しなきゃいけないとは言わなかった。だから逆におれも悪かったのかなって思えた」
あっけらかんとしてるけど、あの時は本当に親御さんとの関係は最悪だったようだ。源三さんが最悪奏くんを引き取ろうかと思ってたくらいだって言ってたから、その後の和解は源三さんもほっとしただろう。
奏くんの親御さんも自分達が理不尽な叱り方をしていたのを自覚してて、源三さんに注意されて改めたそうだから、生活に余裕がなくてそうなってたみたい。
その生活の余裕の無さの原因は私の親なんだよなぁ。それを鑑みると、私の言ったことも「どの口がそういう事言うわけ?」って感じではある。
少々の反省を込めて息を大きく吐けば、奏くんが真剣な面持ちで私を見ている事に気が付いた。
「どうしたの?」
「あのさ。今更言うような事じゃないけど、最近色々あったから言っとくな?」
「うん?」
「おれ、何があっても若さまの味方だから」
「へ?」
「他人が若さまのこと間違ってるって言っても、おれは若さまの味方をする。若さまが間違っても、おれは全力で正しいっていうから」
物凄く真面目な視線に、私は顔をしかめた。
「え? 間違った時は間違ってるって言ってよ」
「言わなくても若さまは解るだろう? それでもあえてそのままにするんなら、それはそうする必要があるって若さまが決めたってことだろうから、おれは黙ってついてく」
「えー……それは……死なば諸共ってやつじゃん」
「うん、そうだな。そう言うわけだから、若さまは頑張って皆が笑って生きていける道を選んでくれよ」
私の肩をぽんぽんっと軽やかに叩いて、奏くんは笑う。そうして私の答えを待たずに、次の壁画へ。
その背に、眼帯の少年が首を傾げた。
「なんか知らんが、お前さん達世界の敵とでもやり合ってんの?」
「そんなつもりはないんですけど、気づいたら騒ぎの渦中にいるんです」
「ふぅん。それでもああいう事を言えるし、返せるって事は仲が良いってことだろ? 良いことじゃん」
良い事なんだろうか?
関わらずに済んだ騒動に、奏くんや紡くんを巻き込んだだけじゃないんだろうか?
今はそれが悪い方に行ってないだけで、普通の子どもとは大分違う道を歩ませてるだろうに。
いや。
両手でぴしゃりと頬を叩く。
友達だって言われなきゃ言われないで不安になる癖に、言われたら言われたで不安になるってなんだよ。クソ面倒くさい奴だな。
もう一発行くかと思っていると、眼帯の少年に手首を握られた。
「何やってんの⁉ 痛いだろ⁉」
「いや、ちょっと自分の面倒臭さに腹立って来て……」
「だからって叩くなよ。驚くだろ?」
「ああ、申し訳ない」
「謝んなくていいけど……!」
納得しかねるって感じで、眼帯の少年が口をへの字に曲げる。
それからガシガシと頭を掻くと、次の壁画にいる奏くんを指差した。
「呼んでるぜ?」
「あ、はい」
とことこと奏くんに近づくと、奏くんは奏くんで先に行ってるロマノフ先生達を指差す。早く追いつこうって事みたい。
小走りしつつ壁画を眺めていると、顕著な変化に気が付いた。
沼から主を表現した半円の物が出たと思しき場面で、その姿が四つ足っぽく描かれているのだ。
「え? めっちゃ変わってない?」
「それまでは沼にいて、全容が見えていなかったから半円……顔だけ出てる感じだったんじゃね?」
「ああ、あり得るね」
その当時の描写ルールが、ぼんやりとしか輪郭を描けないっていうならそれもありだろう。
メモに「四つ足?」と書き加えるのを見た奏くんが、少し考え込んだ。
少しの沈黙の後、彼は「解らん」と零す。
「四つ足って範囲広すぎなんだよ。鬣あって四つ足なんていくらでもいるっての。現に若さまの肩にもいるし」
「ああ、ぽちね。そう言えば獅子だったね」
猫じゃないんだよな。子猫サイズになって、人の肩の上で平和に寝てるけど。
さっきから全然起きない。ぷうぷう寝息まで立ててる始末だ。このフロアにはアンデッドいたはずなのに、起きる素振りも見せないんだから驚く。
火眼狻猊って闘争本能薄くないはずなんだけどな?
うちに来てからぽちは野生動物から家猫にクラスチェンジか転職したのかも知れない。因みに転職の神殿に連れてった覚えはないし、そんなものはない。
壁画を模写する奏くんの手が止まる。
「あっれ? なんだ、これ?」
そう言って奏くんが指示したのは、更に次の壁画だ。
そこには沼から出た四つ足の主がいたんだけど、鬣の他に頭に角が加わっている。それも凄く立派なヘラジカのようなやつが。
どういうこと? なんで前の絵にはない訳?
意味が解らなくて、前の壁画と見比べる。
近くから見たり、遠目で見たり。
そうしていると、ぼんやりとした違いのようなものが感じられて。
前の壁画も、変化のあった壁画も、背景は山を表す三角と、沼の水を表す渦巻がある。
「あ」
私は山らしき三角の麓を、奏くんに指差した。そこには花のような模様が描かれている。
「あー……花?」
「前のやつにはそれっぽいのは無かった。でもこの場面には花が咲いてる。それって時間経過の表れなんじゃないの?」
「ああ、前は花が咲く時期じゃなく、この壁画は花が咲く時期になった……ってことか?」
顎に手をやって、奏くんが考え込む。
前の壁画には角は無くて、この花が咲く壁画では角があるって事は、もしかしてその四つ足の主は季節か時間経過で角が生えたって事なんだろうか?
私も考え込む。
「この主は春になると角が生えて、秋には落ちる。そういう種族だったんだよ」
「へ? 鹿とかみたいに?」
眼帯の少年の声が背後から聞こえて、振り返れば「そういうこと」と彼が頷く。
「え? 凄く詳しいですね」
「ああ、ここにいるのも長いからな。それに近隣の村にはそういう生き物だったって伝わってるんだぜ?」
ははぁ。
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