謎が謎呼ぶ遺跡探検
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意気込んでみたのは良いけども。
地下に下りる階段に辿り着いたので、そこを下る。
地面に足を着けた瞬間、明らかに空気が変わった。湿り気に加えて黴臭さのような物を感じて、レグルスくんに臭くないか聞いたんだけど、首を横に振られる。
「なんかいるとはおもうけど、くさくはないよ?」
「そっかー」
奏くんや紡くんに顔を向けても、レグルスくんと答えは同じだ。先生方も臭わないって言う。
なら、これは私だけが感じる異常ってやつだ。
鼻が曲がるほど臭いって訳じゃないけど、いい気はしない。眉を顰めると私は奏くんに弓を出すようにお願いする。
「貸してもらっていい?」
「いいよ。引けるか?」
「無理だったら手伝ってね」
「うん!」
軽く言って奏くんが愛用の弓を貸してくれた。
ロスマリウス様の古龍・ティアマトの髭を弦にしたそれは、生半可な魔力では引く事も出来ない。かといって魔力だけあれば良いってものでもないんだなぁ。
試しにちょっとだけ力を入れて弦を引っ張ると、どうにか動いてくれた。
なので片膝を付けて、矢をつがえずに天井に向けて弓を放つ。シュパッと空気を切る音に乗って、私の神聖魔術がフロアに拡散していく。
「弦打の儀ですか?」
聞いたのはロマノフ先生だ。
「はい。ブラダマンテさんから教わったんです」
こうやれば、音に乗せて私の魔術が遠くまで伝わる。この弦打の儀自体が浄化と魔除けの儀式だそうで、そこに神聖魔術の浄化作用を乗せれば、更に効果が期待できるんだって。
話しているうちに、黴臭さが消えた。
「ブラダマンテさんに神聖魔術の先生をお願いして良かったね」
「彼女って楼蘭でも実践派の方なんだろう? あの手この手色々知ってるって言ってたもんね」
ヴィクトルさんの感心したような声に、ラーラさんもこくこくと首を上下させる。
そう、ブラダマンテさんは私の神聖魔術の先生なんだよね。楼蘭って殴って浄化が基本らしいんだけど、私は生憎の運動音痴。武闘とかとんでもないあり様だったから、色々考えてくれたみたい。
楼蘭の過去から、ブラダマンテさんが眠っていた間の文献を調べて、運動音痴でも何とかなる神聖魔術の使い方を教えてくれたんだ。この弦打の儀もその一つ。
殴ることに才能は無かったけど、弓なら少しできる巫女さんがやってた浄化法なんだってさ。
「あ、ミイラが消えましたね」
ロマノフ先生が呟く。辺りの気配を魔術で探っていたんだろう。やっぱミイラいたのか。
げんなりしていると、ロマノフ先生が笑った。
「今のでこのフロア全体の浄化が出来たようですよ。魔石とか落ちてるようだから、拾っていきましょうね」
「わかったー!」
「はーい!」
ミイラとかスケルトンからのドロップ品とか呪われてそうで怖いんだけど、レグルスくんも紡くんも元気なお返事をしてくれている。
どうして君達ミイラもスケルトンも平気なの?
思わず遠い所を見ていると、サクサクっと楽しそうにちびっ子コンビが歩き出す。
弓を奏くんに返すと、私は「アンデッド怖くないの?」と聞いてみた。
「え? 生きてる人間のが怖ぇじゃん」
「そりゃそうだけど」
ぐうの音もでないご意見だ。正しすぎて苦笑いしか浮かばない。
モンスターだろうがアンデッドだろうが、彼らが襲って来るのは生存競争のゆえだ。しかし人間は違う。そう思えば、シンプルな分人間より魔物の方が行動にブレが無い。解りやすいから怖くないとも言える。
考え込む私の肩を叩いて、奏くんが「行こうぜ?」と促す。
見ればちびっ子コンビの後ろを歩く先生方とも、少し距離が開いてしまっていた。
なので壁を見ながら歩き出す。
やっぱり壁画になっていて、渦巻模様や大きな穴のような物が所どころに描かれていた。
「渦巻って何の意匠なんだろうね?」
「渦巻を囲うように楕円形があるっていうのは……沼を表してる、のか?」
「ああ、じゃあ、渦巻って水なのかな?」
確認しようにも、傍には解説の立て札もない。
沼と仮定した楕円形の背景には山なのか三角があったり、木と思しき絵もある。
上の階と比べると、随分と絵柄が記号的で、それがかえって何某かの意図を感じさせて。
次の壁画は場面が変わったのか、楕円形の中にまた半円があって、その半円の中に丸が三つ配置されていた。
「この丸、線で繋いだら逆三角形っぽい」
「おれには顔に見えるけどな。上の小さい二つが目。下の大きな丸一つが口って感じ」
「ああ、言われてみれば……」
まるで沼の中から何かが顔を出し、口を大きく開けているように見えなくもない。
これってもしかして、この地にいたっていう沼の主を表してるんでは?
奏くんにそう言うと、こくりと彼も頷く。
「そうだぜ。これって当時の絵の描き方でな。はっきり形を描いちまうと、そこに魂が宿って具現化するって言われてたんだ。だから具現化させないために、なんかよく解らんもんとして描いたんだ」
「⁉」
唐突に背後からかけられた声にびくっとして振り返る。するとそこには一階で皆とはぐれそうになっている事を教えてくれた少年冒険者がいて。
悪戯っ子のような雰囲気を漂わせて、彼が壁画を指差す。
「さっき言ったように、この当時は絵やなんかには魂が宿ったりするって考えられてた。だから沼の主みたいに強い力を持つ者をはっきりと描かなかった。そのせいで後世に沼の主の姿が正確に残ってないんだ。でもなヒントは残ってるんだぜ?」
彼は「ここ」と言いつつ、目口がある半円の絵に触れる。じっと目を凝らしてみると、三角形の何かがその半円に連なってついていた。
角にしては半円の上部だけに何個もついているのが気になる。
隣の壁に進むと、今度は半円ではあるけれど横を向いているのか目のような円は一つ。口は一つで、口はさっきの円を半分に割ったような形に変わっていた。小さな三角形は頭頂から背中に揃えて描かれている。
動物っぽいものだとして三角? 鱗、或いは……。
「鬣?」
「お、それっぽいな!」
奏くんが私の呟きを拾って頷く。
すると少年が「正解」と答えた。
「これは鬣だ。つまりこの沼の主は鬣をもった生き物ってこった」
「鬣のある生き物って……馬に獅子に龍に……後何かいたっけ?」
「モンスターなら色々いるんじゃね? 亀とかだって毛が生えてるようなのいたし」
「ああ、なんかそういうのいたって先生達言ってた気がする」
だけどモンスターなんてそれこそ種類がいて絞れない。
他になんかないかなと思っていると、奏くんが「そう言えば」と口を開いた。
「さっき行商のお姉さん言ってたじゃん。沼の主と孤児は友達だったって。てことは、人の言葉を解するか、孤児が魔物使いの素質があったかのどっちかだよな?」
「ああ、そうなるね。だけどさ、魔物使いの子どもを迫害するかな?」
「あー……いてくれたら、モンスターに襲われなくなるよな。それに迫害なんかしたら魔物に報復されるかも知んないし」
「一概には言えないけど、アルミラージみたいな兎でさえ人間を殺そうと思えばできるんだし、迫害するよりは協力してもらう方がいいと思うんじゃないかなぁ」
これは正直解んないんだけどな。
人間って目先の事に囚われると、広い視野で見たら損することも平気でするから。
となれば孤児が魔物使いだったって言うより、主の方が人語を解すると仮定した方が良いだろう。
忘れないようにメモしておいた方がいいかな?
鞄からメモを取り出して、壁画をスケッチ。奏くんは今まで解った事をメモしてくれてるようだ。
「お前ら仲いいんだなぁ」
眼帯少年が、何故か微妙な笑みを浮かべていた。
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