遺跡不思議発見‼
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次回の更新は、3/10です。
この遺跡、上は五十階下は四階あるんだって。
上は壊れてさえなければもっとあったんだけど、危ないので立ち入れるのは五階までだ。それ以上はこの遺跡を管理している楼蘭教皇国の許可がいる。地下に関しては四階全て立ち入りできるけど、あまり入る人はいないそうだ。
出てくるモンスターが強いわりに、実入りが少ないのがその理由。あと、ここって楼蘭の司祭さん達の修行場になってるから。出てくるモンスターはお察しだ。
「私、グールとかゾンビ駄目なんですけど⁉」
「あ、そういうのは大丈夫」
あっさりとラーラさんがいう。
「ここって、ゾンビとかグールは出ないんだ。過去沼地だったから、火と風の精霊を集めて乾燥させる魔法陣を敷いた上に建物を建てたんだよ。そうしたらそれが強すぎて、モンスターの死骸がミイラ化するようになっちゃってね。ここに出るのはそう言うミイラ系か身が全部剥げ落ちたスケルトン系なんだ」
ぱちんとウインクで「安心しなよ」って言われたけど、どこも安心できる要素がない。腐ってるのが苦手なんじゃなくて、死んでるのが歩いてさ迷って攻撃してくんのが理解できなくて嫌なんだってば!
心の中の叫びは、実際口からは出なかった。
だってレグルスくんが「くさってないならあんしんだねー」とか、物凄い笑顔でいうから。お兄ちゃん、どこに安心したらいいか分かんないです。
遺跡のワンフロア自体も結構広くて、壁画や彫刻装飾なんかの説明書きを都度見ながらだと、結構見歩くのにも時間がかかる。
食べ物飲み物の持ち込みは許可されているから、たまに設置されているセーフゾーンで休憩を取りつつ進む予定だ。
まず一階を隅から隅まで見て回って、解ったのは当時の人の信仰心の厚さ。物凄く色々捧げてた。
狩りしては獲物を捧げて、儀式をした後に宴を開いて王様や他の貴人たちに振舞い、残ればさらに下々に振舞う。この残ればっていうのが言い様で、必ず残るように一口か二口くらいしか食べないんだよ。ここでがっつくのは卑しいとされてた。
位高ければ徳高きを要すっていうのと、無益な殺生をしないというのを合わせると、一応食べるために獲ったけれど、それを貴人の義務として下々に下げ渡すっていう感じになるらしい。
この世界におけるノブレス・オブリージュの原型なのかな?
それ以外にも麦や稲、農作物が収穫されれば捧げる。そういう場面の壁画があった。
とにかく捧げる。家で子どもが生まれたらお酒を捧げる、結婚式でも兎の丸焼きとか捧げる。何があっても捧げるんだ。
そりゃ神様との距離も近かろう。
それが変化したのが神聖魔術王国の辺りだそうだから、その辺で何か一大事があったのかな?
それを口にすると、ロマノフ先生がにこっと笑った。
「鳳蝶君は今、それを聞ける立場にあるじゃないですか」
「え? お尋ねしてもいいんですかね?」
「お尋ねして、教えられないと言われれば独自で調べたらいいんじゃないですか? これまでの事を鑑みると、姫神様方は教えられないことは教えないし、話しても差し障りのない事は君に積極的に教えて下さってるじゃないですか」
言われてみればそうだ。宇気比の事をお尋ねした時も、あっさりと教えてくださったもんな。そっか。
一人で頷いていると、奏くんが「そう言えば……」と呟いた。
「キアーラ様のこと、どうなったん?」
「ああ、あれ……」
あれか。
思い出の彼方に行っていたけど、休暇の谷間に姫君様にお会いした朝があったんだ。
その時にキアーラ様本人にも言ったからにはと、姫君様に全部告げ口というご報告をしたんだよね。
そうしたら、姫君様ったら。
「妾の思う通り、解決してやったのだな。重畳じゃ。褒美をやる故、暫し待て」
だって。
笑顔が超がつくほどお美しくていらしたけど。
おまけに私が持って帰ったキアーラ様のアクセサリーも持って行って下さった。これに関しては厄介なものがなくなって良かったと思う。
勿論キアーラ様のアクセサリーに関しては、ロマノフ先生から陛下にご報告してたけど、無くなっちゃった経緯をもう一度ご報告申し上げると「神様のなさることだから、お任せしなさい」との事だった。
もうそれ以上の事はない。
私の説明に、奏くんはからっと笑った。
「姫様、キアーラ様の拗らせっぷり知ってたんじゃん」
「奏くん、勘が良すぎると後で大変なことになるからね?」
「若さま見てるから知ってる。それにおれが巻き込まれたら、若さまが助けてくれんのも知ってるんだぜ?」
うぬ、それはそう。
言い返せないでいると、ぴこぴこ金の髪を揺らしてひよこちゃんがぴよぴよ唇を尖らせた。
「にぃにだけじゃなくて、れーもカナのことたすけてあげるよ!」
「うん、それも知ってる。おれだって若さまやひよさまに何かあったら絶対に助けるし、紡だってそうだよ」
「うん。つむもにいちゃんのこともひよさまのこともたすけるよ! わかさまだって、つむたすけられるようにおべんきょうがんばります!」
小さい紡くんが張り切って手を上げてくれる。
ありがたいことだよ、本当に。
流行り病から復活した直後はこんな未来があるとは思わなかった。これから先は、この友人たちを失わないように頑張らないと。
感慨深く思っていると、ロマノフ先生やヴィクトルさん、ラーラさんがこちらを見ていた。三人の目が凄く優しい。
照れていると、ヴィクトルさんが不意に小さく動いた。そしてにまっと笑う。
「行商のひとが来たみたいだよ?」
「行商のひと?」
わちゃわちゃをやめて、首を傾げる。
行商って、ここダンジョンだよ?
ひよこちゃんや奏くん・紡くんも疑問に思ったのか、こてんと首を横に小さく倒した。
「ぎょうしょうって、おみせやさんのこと?」
紡くんが奏くんに尋ねる。
ややあって、ぽんっと奏くんが手を打った。
「あー、そういえば冒険者ギルドのおっちゃんが言ってたな。ダンジョンを渡り歩く行商人さんがいるって!」
耳を疑うような言葉に唖然となっていると、ひよこちゃんまで「そういえばきいたことある」って呟いた。
ダンジョンだよ? そんなことあるぅ? いや、あるわ。そういや前世でやってたRPGでも、ダンジョンの中に商人いたな。
何でこんなトコでお店開いてるんだろ? 普通のお客、来る? そんな疑問を感じてやまなかったけど。
「何、売ってるんだろう?」
「うん? たしか……傷薬に、麻痺やら毒やらを治す薬だろ? それから食料だの水だのも売ってるって、おっちゃんが言ってた気がする」
私の素直な疑問に、奏くんが答えをくれた。けど、なんとも言えない表情でひよこちゃんが「でも」と口にする。
「でも?」
「ぶきとかぼうぐをうってるひともいるんだって。だけどそういうときは、ちょっときをつけないとダメって、ローランさんいってたよ」
「なんでだろう?」
「ぶきとかぼうぐは、ダンジョンでしんじゃったぼうけんしゃのもちものをかってにうってるかのうせいがあるからって」
「ああ、そういう……」
たしかにそんな可能性もあるだろう。冒険者が亡くなると、解った時点で冒険者ギルドが遺体の回収に動いてくれる。でも全ての亡くなった冒険者の遺体が回収できるわけじゃない。肉体の一部しか残っていないこともあるし、そもそも全て魔物の腹の中という事もある訳だし。
魔物を倒したら、その腹の中から未消化の冒険者の肉体の一部が発見されたとか、そんな話はよく聞く事だ。巣から身に着けていた装飾品だけが見つかった、なんてこともよくある。
倒した魔物から防具がドロップしても、それが誰かの物だったかもって考えたら、それはそれでしんどいじゃん。売って手元からナイナイしても、そりゃあ咎められるかっていうと中々……。
考えている間に、ひたりひたりと暗がりから誰かの気配が近づいていた。
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