本当にあった血腥い生贄話
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この天地の礎石自体は権力の象徴として作ろうとされた物なんだとか。
いずれの王様の御代でしょうか……っていう語り口で、お伽噺でよく話されているもので、驕り高ぶった古王国時代の王様が天の国に手を伸ばそうとして、神々の怒りに触れたってお話。
伝説は天地の礎石建設の前日譚だ。
天地の礎石が建てられる前、ここにはとても深い沼があったそうだ。そしてその沼を統べる主がいたという。
で、天地の礎石を建てるにあたって王様はこの沼を埋め立てる事にしたんだそうな。
そんなとこ選ばないで、もっと立地のいい場所にしたらいいのにって思うだろ?
だけど古王国って今より密接に神様の御加護とかが王権に結びついていて、占いや巫女さんの託宣とかに政治が左右されてたんだ。
この天地の礎石を建てるにあたっても、占いで場所を選定したんだそうな。
そんなわけで王様はどうしても沼から主に立ち退いてもらいたかった。だから主に交渉したわけ。そうしたらこの沼の主が人間の生贄を要求してきたそうだ。
この沼の近くにある村の孤児を、だ。
王様は一も二もなく頷いて、そのご指定の孤児を村に差し出すよう指示した。
孤児だし、当然村人は喜んで差し出したんだよ。王様から村人に対して褒美も出るし。
主は孤児を受け取って沼を王様に譲った。でもその翌日、孤児を差し出した村はとある一家を除いて皆殺しにされて滅んだそうな。
それも獣の牙で引き裂かれたような、凄惨な殺され方だったらしい。
誰が何でそんな事をって感じだけど、お決まりに生贄にされた孤児が恨んで化け物になって復讐を遂げたってヤツが一番メジャーなんだって。
「で、どう思う?」
ラーラさんが面白がってる顔で、私と奏くんに話を振った。
ぽちから下りると、石で出来た門を潜って建物の中に入る。
長年風雨にさらされた影響なのか、床の日陰になるような場所は苔むしているようだ。だからってジメジメしてるわけでもない。
ぽちには天井が低かったのか、すぐに子猫サイズになると器用に私の背中を駆けのぼって肩に乗る。
「どうって……違うんじゃないです?」
私は答えると同時に、奏くんを見た。
「うーん、おれも違うと思うな。犯人は孤児じゃないだろ」
奏くんが何とも言えない顔で、やっぱり私を見る。この辺りは【千里眼】と【心眼】のお仕事だと思うけど、孤児が復讐したって事に違和感があるんだよね。
それにこの遺跡がそう言う権力誇示目的っていうのも、ちょっとなんか……。いや、研究者じゃないんだから、素人がそういう事言っちゃいけないな。
ラーラさん的には、私達の答えは「なるほどね」って感じみたい。
そのリアクションからしてエルフには何か違う話が伝わってるのかも知れないな。
そう思って尋ねてみると、ロマノフ先生が唇を引き上げた。
「当たりですよ。エルフの里には違う話が伝わってます」
「どんなのですか?」
紡くんがいち早く食いついた。
レグルスくんも気になったのか、近くにいたヴィクトルさんの手を引っ張って尋ねる。
「いきのこったひとが、はんにんしってるんじゃないのかな?」
「れーたん、鋭いね。そうなんだよ目撃者の言うには大型の獣のモンスターだったって話でね」
「えぇっと、ぬまのぬしさんだったの?」
レグルスくんと、話を聞いていた紡くんが、こてりと首を横に倒して不思議そうにする。
今度はラーラさんが肩をすくめて、お手上げの姿勢をとる。
「それが解らないんだよね。沼の主の姿を誰も知らないらしくて。孤児を生贄に求めた時も、沼から声だけが響いたらしいから」
「え? それってその声が真実沼の主かどうかも解らないんじゃ……?」
「当事者にはその声が沼の主だと確信できる何かがあったのかも知れませんね。現実として記録に残っている事だけを言えば、天地の礎石を建てるにあたり沼に孤児が捧げられ、その孤児を差し出した村が翌日何者かによって惨いやり方で全滅させられた……という?」
「……謎ですね」
うん、解らん。
因みにこの話を裏付ける資料は、現存する世界最古の図書館・アレーティア魔導図書館に保管されている魔術師の日記だそうだ。アレーティア魔導図書館は、なんでか目の敵にされてる北の某国に所在する。いつか行きたいんだけど、某国に正式に入国しないと入れないので……うーん。
図書館の件は、まあ追々。
壁に灯りが掲げられているのは、ここが一大観光地でもあるからの楼蘭の旅人への配慮らしい。
お蔭で壁の壁画とかがくっきり見える。
研究されているからか、解説用の立て札なんかも所々立ってるのがサービスいいよね。
壁画は空飛ぶ城よりは大分前の時代だからか、人の顔がどれも画一的に見える。
「あの、だいこんせんせいがおしえてくれたんですけど……」
頬を紅潮させる紡くんに、私達は視線を寄せた。
何でも古王国時代の絵画はほぼ人間の顔が同じ感じで描かれているらしい。それには意味があるそうだ。
「おかおをそっくりにかいちゃうと、それをつうじてのろいをかけられるとかんがえていたから、みんなわざとおなじかおにしてるんだそうです」
「あー、なるほど」
「へえ、紡、お前色々勉強してるんだな!」
説明されて、もう一度壁画を見れば納得がいく。たしかに立派な衣装っぽく描かれている人ほど顔ははっきりとしないし画一的だ。理由を知ればその画一さにも深みが出る。知る・学ぶの醍醐味ってこういうことだよね。
紡くんは奏くんやレグルスくんに褒められて、ほくほく顔だ。
壁に描かれてる事って内容は至ってシンプル。何処かの平原で王様と思しき人と貴族とが一緒になって狩りしてるって感じみたい。
解説立て札にもそういう風に書いてあるし、見た感じそのまんまだ。
二頭引きの戦車に乗った身形の立派な、頭に後光が射してる戦士然とした男の人が、槍を構えている。その視線の先には馬くらいの大きさに描写された大きく尖った一本角を額に生やした兎がいた。
「これって……」
なんだっけ? 菊乃井にはいないんだけど、食べたら美味しいんだ。
えぇっと、アレだ。ほら、アレ……アレだって!?
もう喉の辺りまで出かかってるのに、中々名前を思い出せない。
悶々と呻いていると、ぽんっと肩を叩かれた。
振り返った先には、眼帯を着けて足や腕に包帯を巻いた、けれど胸当ても籠手もピカピカの見るからに丈夫そうな冒険者用の皮鎧を身に着けた少年がいて。
「アルミラージって言うんだぜ、この兎。食ったらうまいし、角は良い槍の穂先になるんだ」
「ああ! そうそう、アルミラージ‼」
はー、すっきりしたー!
中々名前が出て来そうで出て来なかった事をその少年に告げてお礼を言うと、彼はおかしそうにクスクス笑う。
「いやぁ、それはいいけどさ」
「はい?」
「置いてかれてるぜ?」
ハッとして見回せば、たしかに皆僅かに先に行っていて、レグルスくんが丁度こっちを振り返るところだった。
離れたことに気付いて「にぃに?」と、レグルスくんが私を呼ぶ。危うくはぐれるとこじゃん⁉
気付かせてくれたお礼を言おうと振り返ると、少年の姿はすでに遠く離れている。
だから「ありがとう」と手だけ振ると、少年も手を振り返してくれた。そこから走って先を行く皆に追いつく。
「どうすると声をかけたんですが、聞こえてなかったんですね?」
「そうみたいです。アルミラージが気になっちゃって」
「それで、さっき後ろ振り返って手を振ったのは?」
「いやぁ、冒険者さんに声をかけられて気が付いたんですよ。その人にお礼を言ったんです」
「そうなのかい?」
私の説明にラーラさんもヴィクトルさんもロマノフ先生も、ちょっと微妙な表情をする。
「ここ、一応人工迷宮だもんな。他に来てる冒険者もいるか」
「そうだね。ソロかパーティーかは分かんないけど、また会ったらきちんとお礼を言うよ」
「そうだな」
奏くんが肩をポンポンと叩くと、反対側にいたぽちがびくっと身体を揺らす。どうやらぽちは人の肩で寝てたらしい。
ふみふみと肩の上で器用に足踏みをするぽちに、ダンジョンにいる緊張感が何処かに行きそうだった。
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活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




