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去りし日の面影には苦みが走る

いつも感想などなどありがとうございます。

大変励みになっております。

次回の更新は、2/24です。


 私は前世持ちの関係からなのか、夢だとわかる夢、所謂明晰夢を見る事が多々ある。

 ベッドに入って暫くの記憶はぼんやりだけど、今見ているのははっきり夢だなって解った。

 何でかって言うと、めっちゃ視線が高いから。

 見知った空飛ぶ城の主の間、あの部屋は基本調度品を動かしていないからすぐに解った。

 ぼんやりと狭い視界の中で、私の視線の大分下に赤茶の頭頂が見える。旋毛は一つ。

 その人は座っていて、膝に黒に近い紫の髪の女の子を乗せていた。より正確にいうと、座る赤茶の髪の男の人の腰に、女の子が抱き着いている。

 長い髪を揺らして、女の子が「うー」と唸った。その頭を撫でて、赤茶の髪の人の身体が揺れた。


『いいの? ゴイルさんをあげちゃって。あの子はイチルさんの趣味が一番反映された子なのに』

『でも、ルミがあの子が良いって言うんだもン』

『ルミさんとは趣味が似てるんだったっけ?』

『被ってないのは男の人の好みくらいだヨ』


 女の子は語尾に吐息が混じるような何とも言えない話し方ながら、不機嫌をそこに含ませる。

 そんな彼女に男性の苦笑するような気配があった。


『まあ、でも、ゴイルさんは私の最高傑作だし、気に入られるのも解るよネ。あの子、強いし最高にカッコいいンだもン』

『そうだね。でも、それゴイルさん知ってる?』

『え? 何を?』

『ゴイルさんがイチルさんの最高傑作で、だからマグメルを任せるって事』

『……言った、と思うヨ』

『本当に……?』


 二人の間に微妙な沈黙が落ちる。

 女の子の方がちょっとだけ挙動不審に指をモジモジさせるけれど、男の人の方は何か嫌な予感がするって感じの表情で。

 だけど女の子が『だ、大丈夫……と思う』と続けたから、柔く頷いて女の子の額にキスを落とす。彼女は私が原画から再現した、レクス・ソムニウムの衣装とそっくり同じものを纏っていた。

 どういうことだってばよ?


「あー……?」


 呻くと喉が渇いている事に気が付いて、私は身体を起き上がらせた。

 レグルスくんも奏くんも紡くんも未だ夢の中なようで、お布団に潜り込んでいる。

 水差しからコップに注いだ水を飲むと、乾燥していた身体に水分が染みていくのが解った。コップを置くと、テーブルサイドに置いてあったレクスの杖が変じた鎖に手を伸ばす。


「……もしもし?」

『はいはい』

「アレ、何です?」

『私の中のレクスの記憶です』


 しれっと中の精霊が言う。

 レクスって女の子だったんかい。

 夢を見ていたせいで疲労が解消されてないのか、頭が重い。寝起きの鈍った思考で、とりあえず聞かなきゃいけない事を聞いてみる。


「レクスって男性じゃなかったんですか?」

『そう思われていた方が動きやすいし舐められにくいからって。魔術人形達にも相手が気付かない限りは教えないように制限をかけていましたし』

「あー……なるほど。で、バレた訳だけど、いいの?」

『私は自分の記憶をお見せしただけなんで』


 物は言いようだな。

 因みにレクスは本名を「イチル」というそうだ。

 何処かの国を亡ぼすと予言されそれ故に殺されかかったのを、妖精に助けられ妖精の子として育った女性魔術師だったのだ。

 伴侶は異世界から渡って来た年上の青年で、レクスが幼い時に彼女に助けられてそのまま一生をともにしたらしい。

 伴侶の彼が時々レクスの影武者もしたらしく、男性だって話が定着してるのはそのせいだとか。

 その辺の話は追々でいいとして、今はもう一つの事だ。即ちゴイルさんの事。

 なんで今日まで言わなかったのか尋ねれば、あっさりとレクスの杖の中の精霊は『思い出したのが今さっきなので』としれっとしたもので。

 しかも場面が何か微妙に気になる。


「……ゴイルさんの反応からして、この話おかしくない?」

『ああ。聞いてましたけど、こちらとしてはおかしくないっていうか、事故が起こっても無理ないよなっていうか』

「どういう事?」

『レクスは妖精に育てられたせいか、元々そう言う子だったのか解りませんけど、なんというか私生活ポンコツなんですよね。肝心な事を言い忘れてて、しかもそれに全然気づかず言ったつもりになるところがありまして』

「は?」


 いきなりの暴露に、思わず眉が寄る。

 そんな大事故が起こりそうなこと言われると、落ちが読めるというか。

 戸惑う私に、精霊は大きなため息を吐いた。


『あの方、凄くポンコツの癖に思い込み激しかったんですよ。それで伴侶の方と一悶着ありまして』

「うん?」

『「好き」とは言ってたし一緒に暮らしてたし、愛してるっていうのも、本人としては伝えていたと思ってたらしいんですよね。でも伴侶の方にプロポーズしたら「そんな意味での好きなんて解らなかった」って返って来て』

「うわぁ……」


 結果その時はゴメンナサイされかけたのを、必死で繋ぎとめたらしい。そこから推測するに、ゴイルさんの件もやっちゃったんだな……。

 あまりの大惨事に眩暈がする。本当にこんなんばっかりかよ、あんまりだ。

 絶句していると、精霊が肩をすくめた気配がする。


『私には興味のない事ですが、今更だとは思いますけど知らないよりいいかと』

「なんか、人の振り見て我が振り直せって身に染みますね。気を付けよう」

『魔術や魔術人形の技術に関しては天才だったんですけどねぇ。まあ、天才ってそんなもんですよ』


 そんなもんですよ、じゃねぇんだわ。

 ガシガシと頭をかけば『お疲れ様です』と、全くそんな事思ってなさそうな声で精霊が告げる。

 まだ朝には遠いようで、窓にかかるカーテンの隙間からも光は入ってきていない。

 寝てたのにどっと押し寄せて来た疲労感をどうにかすべく、私は二度寝を決め込むことした。

 そして朝。

 疲れた雰囲気の私を心配する皆に、朝食を摂りながら夢で見た話をした。

 すると先生達は皆頭痛がするって感じで、指先で眉間やこめかみを揉む。レグルスくんや紡くんは複雑そうな顔をし、奏くんは苦く笑って朝ご飯に付いて来た苺を一つくれた。


「れー、だいじなことはなんかいでもにぃににいうね?」

「うん。私もそうするよ」


 今度の事の教訓としてはそんな感じだろう。

 苦く笑うと不意に「ごめんね~」という軽い声とともに、窓ガラスが叩かれる。

 ここ、ホテルの最上階。

 何事と思えば窓の外にゴイルさんの姿が見えて、宇都宮さんが慌てて窓を開けた。すると雪の大きな結晶が光って、ゴイルさんと一緒にキアーラ様が入っていらして。


「今日帰るって言うから、お礼をもう一度伝えておこうかと」

「あ、そうなんですね。お世話になりました」

「それはこっちのセリフだってば。ありがとうね」


 ぺこんとゴイルさんも一緒に頭を下げられる。

 たしかに大変だったけど、過ぎてしまえばいい思い出だ。そう告げて頭をあげてもらうと、私は皆の顔を見た。

 あの話、やっぱりした方が良いよな。

 どう言ったものかと考えながら、口を開く。


「あの、ゴイルさん」

「はい、なんでしょう?」

「その、蒸し返すようでなんですけど。ああ言いましたが、もしゴイルさんが姿を変えたいとお望みの時はいつでも仰ってくださいね?」


 おずおずと言えばゴイルさんが少しだけ戸惑った目をして笑う。


「はい。私ももう少し色々考えたいと思います。アレからキアーラ様も、ああは言ったけど私の気持ちが一番大事だとお話してくださいましたし」

「そうですか」


 余計な事かも知れない。そう思いながら、私は幻灯奇術を作動させる。

 そうして私が見たレクスの記憶を見せると、ゴイルさんは絶句した。キアーラ様も眉を顰める。


「これは……レクスが、そんな……」

「どういう事なの……?」


 戸惑う二人に、私が聞いたレクスのやらかしを伝えると、キアーラ様は額を押さえた。頭痛がする、そんな感じか。

 一方ゴイルさんはかなり複雑な表情だ。


「……そう言えば、あの方はそういう方でしたね」


 ほろっと零れた声音には、苦みと懐かしさが混じり合っていた。

お読みいただいてありがとうございました。

感想などなどいただけましたら幸いです。

活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。

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― 新着の感想 ―
ABEMAでのアニメ視聴し、2人が可愛くて面白そうなので一気読みしに来ました。 若様も頭の中で考えて口に出してない事多そうだから、ちゃんとヒヨコちゃんに伝えとかないとダメだぞ。
[良い点] かわいい作品が中心の作家さんのヘキがゴリッゴリのハードゴアだったという話を思い出しました(笑)
[良い点] たぶんやらかし逸話が杖の記憶にたんまりあるんやろなあ。いや、知り合いに見てられないから、結婚した。愛じゃなくて哀、情でくっついた。話の人がいて、なんか伴侶にお疲れ様。 奥さん、付き合って…
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