不思議な出会いの夜市
いつも感想などなどありがとうございます。
大変励みになっております。
次回の更新は、2/20です。
そんな訳で、今度はレグルスくんご希望の可愛いリボンを売ってるお店を探す。
レグルスくんの希望としてはひよこの羽毛のような濃い黄色か、レグルスくんのおめめと同じ空の青がいいそうだ。
自分の色を渡すとか、隅に置けないなぁ!
魔術市に集まる布は、魔術師のローブやケープに使われたり、アクセサリーの材料になるためか、魔力伝道の高い物や布自体に何か効果のある物が殆ど。
何軒かそういう布屋さんを回った中で、ちょっと寂れたテント造りの布屋さんが目に留まった。
重たいカーテンを開いて進むと、中は見かけより広い。他の布屋さんとなんか違う。
そう感じて無造作に積んである布の一巻を手に取る。
サラサラと上質な絹の手触り。でも伸縮性もあって、激しい動きをしても大丈夫っぽい。色は白だけど、布の中には魔力を通せば好きな色に染められるのもあるから、どうだろう?
そう思ってキョロキョロしていると、店の奥から「どうしたね?」と声をかけられた。
「ご店主さんですか?」
「ああ、そうだよ」
矍鑠としたお婆さんが姿を見せる。私はその人に「これ」と布を差し出した。
「これ、色とか変えられますか?」
「魔力を通せば変えられるよ。お前さん、その布がほしいのかい?」
「はい、是非」
「どうして?」
「え? 弟と友達の服を作るんです」
伸縮性があって丈夫そうな布って戦隊ごっこのコスチュームにぴったりじゃん。
私はお婆さんに戦いごっこの話をして、弟達にそのための変身衣装を作りたいと話す。すると話が聞こえたのか、レグルスくんや奏くん・紡くんが近寄って来た。
「動きやすくて破れにくいのがいいな!」
「れー、かっこいいのがいい!」
「つむはね、くろいのがいいな!」
きゃっきゃとそれぞれ希望を言うのに、お婆さんが「ほほ」と笑う。
「ああ、子どもは元気なのが一番さ。その布は本当は非売品なんだけど、いいよ、あげるから持っていきな」
「え? それは……なんか、ちょっと」
「なんだい?」
「ただで貰うのはちょっと……。これを作った人の技術に申し訳ない気がして」
だってこの布凄く手触りがいい。色んな生地に触れて来たけど、その中で一、二を争うくらい上質な手触りだ。非売品っていうのも、値段が付けられないからなんでは?
そう言えばお婆さんが大笑いしながら首を横に振った。
「それはアタシが若い頃に織った布でね。素材が良くても織の出来が悪くて、売り物に出来ないから取ってあっただけさ。そうだね、ただが気になるなら物々交換と行こうか? なんかあるかい?」
「えっと……」
持ってるウエストポーチの中を調べる。でも特に渡せるようなものは無くて、裁縫道具とか作りかけのニードルフェルトのマスコットが出てくるだけ。
悩んでいると、私がウエストポーチからだしたフェルトのマスコットを、お婆さんが手に取った。
「こりゃなんだい?」
「ああ、それは特殊な針で羊の毛を絡み合わせて作ったものです。えぇっと……」
持っていたニードルで作りかけのマスコットを突き倒して、形を整えていく。これは艶ちゃん様に差し上げるマスコットを作った分の残りで、折角だからウチにいる動物を作ろうと思ってるやつ。
記念すべき一体目はポニ子さんにしようと思って形成してたんだよね。
胴体と別に作っていた頭や足をグサグサさしてつけて、目も顔も未だだけどそれっぽくなったものをお婆さんに見せると、彼女のしわだらけの顔が輝く。
「おお、これは面白いねぇ。これ、その針がないと出来ないのかい?」
「そうですね、この形の針じゃないと毛を上手く絡み合わせにくいです」
これはニードルで物々交換が成立するかもしれない。そう考えて私は奏くんを振り返る。すると奏くんがお婆さんに声をかけた。
「あのさ、鉄とかある?」
「うん?」
「あれ、おれが作ったんだ。新しいヤツ、鉄があったら作れるぞ?」
「そうかい? じゃあ、そうしてもらおうかね。それなら何かおまけをつけてあげるよ」
お婆さんの言葉に、私と奏くんが首を捻った。おまけとは?
不思議そうにしている私達に、お婆さんがからりと笑った。
「お前さんからは技術と知識を貰った。この上坊やに針を貰ったらもらい過ぎになるからね。何でも一つ、持っていきな」
「えー……」
そう言われて店の中を観察する。その間に奏くんはお婆さんから何本か針を預かり、ニードルへと変化させる。
棚には布だけでなく、飾りボタンのようなものが沢山。その中でも五つ、綺麗で大きなクリスタルの飾りボタンが天井付近に飾ってあって。
宇都宮さんの手なら届きそうだったので、控えていた彼女に声をかけて取ってもらった。それは五個で一組のよう。
「これ、五個一組ですか?」
「ああ、そうだよ。それにするかい?」
「はい。これもコスチュームに使おうかと」
「ああ、いいよ。それじゃあ、交換成立だ」
「はい! ありがとうございます!」
奏くんがニードルを作り終えて渡すと、お婆さんが私に布とボタンをくれた。魔術市って物々交換も出来るんだな。
いい取引になったことに気を良くしていると、お婆さんが「それじゃあね」と手を振る。同じように手を振ろうとした瞬間、かっと何かが弾けて眩い光に包まれた。
あまりの光量に目を閉じていると、先生達の私達を呼ぶ声が聞こえて来て。物凄く慌てたそれに目を開けると、あった筈の布屋さんのテントがない。
あれ?
「鳳蝶君!? 探しましたよ!」
「へ……?」
「れーたん達も無事だね!?」
「えー……?」
「どうしたの、先生達」
きょとんと、奏くんが口を開く。それに先生達が驚いた顔をした。
「どうしたって、キミ達がいなくなったから探してたんだよ!?」
「いなくなった? つむたちずっとおみせにいました」
「どういうことですか……?」
それはこっちが聞きたい。
先生達も私達も、お互い顔を見合わせて首を捻る。
先生達の言うには、一緒に歩いていた筈の私やレグルスくんや奏くん・紡くんに宇都宮さんの気配が急に消えたと思ったら、姿そのものが消えたらしい。
悪意のある物は私達には近付けない。そんな結界を敷いていたのに私達がいなくなって、先生達は肝を潰したそうだ。
何とはなしに鞄に貰った布とボタンをしまうと、私達はそこにあった筈の不思議な布屋さんの話をする。
「……大精霊の店だったのかも知れませんね」
「大精霊?」
「はい。極々稀に力ある精霊が魔術市に、人間の振りをして紛れ込んでいることがあるそうです。様々な種族の交じり合う営みが、彼らの興味を引くそうです」
「ははぁ」
あのお婆さん、不思議な感じはあったけど良い人だったもんな。なるほど。
それにしても精霊は魔術だけでなく、手芸とかもするのか。
何はともあれ無事だったから良いだろう。先生達はほっとした様子で、そう言った。
心配かけたのはよくない事だし、皆で謝る。すると三人が代わる代わる皆の頭を撫でた。
「謝ることないよ。僕達がちょっと迂闊だったんだ」
「そうですね。大精霊が紛れ込むこともあれば、君達のような善良な子どもを彼らが好むことを失念していたんですから」
「本当に。気に入られ過ぎて連れて行かれなくてよかったよ」
おぅふ、本当に出会ったお婆さんが物々交換してくれる系の人で良かった。
そう言うこともあると肝に銘じて、今度こそ私達はレグルスくんのご希望のリボンを探しに行く。
結果としてはコーサラから遥々やって来た、人魚族のお姉さん魔術師さんのお店でそれは手に入った。
黄色と青のリボンを二つ買ったんだけど、どちらも魔除けの刺繍がされている。
用途を聞かれてレグルスくんが一生懸命説明したことに、お姉さんが感動してその場で刺繍してくれたのだ。
「良かったね」
「うん!」
ニコニコのレグルスくんに、寒さも心持和らいだ気がした。
お読みいただいてありがとうございました。
感想などなどいただけましたら幸いです。
活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




