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人畜無害括弧多分・きっと括弧閉じ

いつも感想などなどありがとうございます。

大変励みになっております。

次回の更新は、2/13です。


 夜空の豪勢なお散歩の後、空飛びクジラの長老様はマグメル湖の近くの丘に私達を下ろして、海の向こうの大陸へと旅立っていった。

 今度こちらに来るのは新年くらいで、タイミングが合えば菊乃井にも寄ってくれるそうだ。

 長老様のお話では、世界にはまだ沢山長老様や星瞳梟の翁さん、絹毛羊の女王様のような、人間と上手く距離を取ってお付き合いしようとしてくれる魔物達がいるらしい。

 そして長老様が若い頃、その時の空飛びクジラとよしみを通じていたドラゴニュートの若者が、ノエくんの御先祖様なのだとか。

 長老様の借りっていうのは、ノエくんの御先祖様が同族の破壊神を名乗るヤツの暴挙をいち早く教えてくれたから、難を逃れて一族がこちらの大陸に逃げられたという話だ。

 その時の空飛びクジラの長老とノエくんの御先祖の間でどんな話になっていたのか、彼には解らないらしい。

 でもある時を境に、空飛びクジラはドラゴニュートと距離を置くようになり、やがて断絶したそうだ。

 思えばノエくんの先祖は、その後自分達の末路を解っていて、友だった空飛びクジラ達から距離を置いたのかも知れない。それでも、その行いを今の長老様は心に留めていたのだ。

 ある意味一族の恩人とも言える人の子孫が、それ故に不遇な立場なのは思うところがある。そういう事なんだそうだ。

 ともあれ、材料の良し悪しは見てみない事には解らないんだよなぁ……。

 そんな訳で翌日、私達はマグメルを一望できる高いお山に来ていた。

 このお山、通称白鯨山といい、帝国で二番目に高いお山なのだ。一番目? なんだったっけ?


「……シュタウフェン公爵領にある、『草噛山』ですよ」

「あー……」


 ロマノフ先生が私の頬っぺたを摘まむ。そう言えば授業の時聞いた気がするなぁ。


「忘れてたでしょう?」

「ち、地理は苦手なんです……!」

「今は良いですけど、幼年学校に入ったらクラスメイトのお家の地理や産物、名物、商業、景勝地なんかは覚えておかないと。社交がスムーズにいかなくなる場合もあるし、相手の面子を傷付けることになりかねませんからね?」

「う、はい……」

「侯爵家のご当主だから、あまり表立っては何も言われないかも知れませんが」

「頑張ります」


 もちもちとある程度頬っぺたをもちられたところで、ロマノフ先生の注意が終わる。

 地理はどうにも苦手なんだよなぁ。

 でも、ロマノフ先生の言葉は本当。こっちが侯爵だから、相手も強くは出られないだろうけど「貴方に興味は御座いません」っていうのを前面に出すのは、対人関係の悪手だ。

 閑話休題。

 白鯨山にやって来た理由だけど、答えはシンプル。ここが空飛びクジラの長老の言ってた、一族の墓場だから。

 空飛びクジラは死期を悟ると、この白鯨山の真上に飛んでくるそうだ。それでその真上で息を引き取ったら、後はその上で朽ち果てていく。空飛びクジラの大きな身体から魔力が全て抜け、白骨化したら最後は地面に墜落するのだ。もしくは飛行型のモンスターに食べられて骨だけになるかして、やっぱり墜落する。それが彼らの終り。どういう仕組みか判らないが腐臭とかはないけど、巨大なクジラの骨が空から落ちてくるんだから危ないには違いない。それで白鯨山は古来から一般人は立ち入らないそうだ。

 骨を狙って来る人間もいるけど、死に場所になるような所だからか、山は死の匂いや気配が濃い。

 生息しているモンスターも危険なのが多いし、何よりアンデッド化しやすいんだって。

 そんな訳で冒険者も中々近寄らないので、時々マグメル大聖堂所属の司祭さん達が神聖魔術でお祓いに行っているそうだ。

 効き目? さあ? キアーラ様は「生臭坊主は助けたくないけど、周りが困るんだよね」って言ってたらしいし、お察しじゃない?

 これを教えてくれたのはゴイルさんだ。

 白鯨山に出かける前に、防衛システムの肩代わりの儀式が済んだことを、ゴイルさんが知らせに来てくれたんだよね。

 その時に白鯨山に出かける事をお話ししたら、そういう話になって。

 まあ実際に白鯨山の麓に先生達にお願いして転移して、徒歩で山に踏み入ったんだけどアンデッドどころかモンスターの一匹も出やしない。


「……怖がられてるんだよね」

「主に若さまがな!」

「ですよね!」


 知ってる!

 にこやかに笑う奏くんが、ポンポン私の肩を叩く。

 お手々繋いで歩いてるレグルスくんの、なんかキラキラした視線が今は痛い。普段なら和むんだけど、今はとんでもない激痛。紡くんからも、若干痛めの視線が刺さる。


「にぃにはとってもつよいから! モンスターもびっくりだね!」

「わかさま、すごぉい!」


 やだー、お兄ちゃんそんな危険物じゃないよぅ……。

 そりゃあ、アンデッドが嫌がる火炎系攻撃魔術も過不足なく……この山一つ焼き払うくらいはできるけど! 神聖魔術の方も山一つなら楽勝で諸々浄化できるけど!

 そうなんだよな……。

 夏休みに入る前に不在の挨拶をしに行ったブラダマンテさんに「どこの古城や遺跡にも一人や二人幽霊がいますけど、鳳蝶様がおられるならあちらが怖がって出てきませんね」ってにっこり太鼓判押されたんだよねー……。

 なんだよ、皆して。こんなに人畜無害な私をつかまえて、どういうことだよ。

 そう言うと、ロマノフ先生が「人畜無害の意味が変わったんですかね?」なんて呟く。


「いやいや、私が有害だったら先生達は?」

「え? ボクらは英雄という名の戦争抑制存在括弧物理・魔術両用括弧閉じる、だけど?」

「こわ……」

「でしょ? 君もその内そういう風に見られるからね?」

「覚悟しておきます」


 ドン引きしながら尋ねると、「何言ってんだ?」くらいの軽さでラーラさんとヴィクトルさんが返してくる。

 話してる事は物騒だけど、声音は各人非常に軽い。

 そんな私や先生方を見て、ひよこちゃんがふわふわと金髪を揺らしつつ首を傾げた。


「にぃにやせんせいたちがつよいと、いやなひとがいるの?」

「うーん。よく知ってる人が棒を持っていても、それでレグルスくんを叩くって、レグルスくんは思わないでしょ? でも棒を持ってるのが知らない人なら、その棒をどうするか気にならない?」

「ちょっと気になる」

「だよね。それと同じことで、よく知らない私や先生が強いと、その強さで嫌なことをされるかもって思う人もいるってことかな」

「えぇ……そんなこと、にぃにもせんせいもしないのに」


 ぶすっと嘴みたいにレグルスくんが唇を尖らせる。紡くんも納得いかないのか唇を尖らせていて、それを奏くんが軽く摘まんでいた。弟達が大変可愛いです。

 でもぶすっとしてるって事は納得できてないってことだな。ゆっくり息を吐くと、私はレグルスくんの背に手を当てた。


「あのね、知らないなら知ってもらえばいいんだ。私は大きな力を持ってるかも知れないけれど、それでしたいのは菊乃井歌劇団を楽しくしたり、魔術市で売ってたみたいなアクセサリーが誰でも身に着けられたり、カレーやカレー味のお煎餅が誰でも食べられたりする事だって。誰かの事を虐めたり、苦しめたりしたい訳じゃない。それを知ってもらうために、誰かを虐めてる人がいるなら『いけません!』って言いに行くし、意地悪をやめさせたりもする。『こんな楽しいことが世の中にはあるんですよ! 争いなんかやめて一緒に楽しみましょう!』って解ってもらうために、空飛ぶ城で菊乃井歌劇団を世界の何処にでも見せに行く。今までの事は皆そのためでもあるんだよ」


 にっと笑えば、レグルスくんがぱあっと顔を輝かせる。


「うん! れーもがんばるね! なごちゃんにも、そういうことおてがみでかくから!」

「うん。って、お手紙?」

「そう、なごちゃん。おてがみかくやくそくしてるから」


 そっかー、和嬢にお手紙かくのかぁ。和むぅ。

お読みいただいてありがとうございました。

感想などなどいただけましたら幸いです。

活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。

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― 新着の感想 ―
[一言] あーたんは一般人畜には無害だけどアンデッドには劇薬だから…?(///ω///)♪
[一言] 大切なのは相手の力を見ぬくことですが 最も恐るべき相手はその強さ恐ろしさを全く表に出しません ドラゴンボールの神の気のように次元が違うというやつですね エルフ先生たちの場合はきっと表に出して…
[一言] 歩く戦略兵器っすなあ 正直一団で動くと「どこか侵略・滅ぼしに行くのか?」 と思われても仕方ないレベル
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