吹雪とお宝の夜が来る?
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次回の更新は、12/26です。
帝国の北、深い霧に閉ざされた巨大なマグメル湖。
その中央に浮かぶ島・マグメルは遥か昔から魔術と芸術の都として名を馳せて来た。
かつての帝国建国の騒乱の只中にあっても、この地は平穏であったという。
何故か?
魔術というのは一つの学問であり、教養であって、それを修る人は、その当時一流の知識人とされていた。
一方芸術の方も、それを嗜む人は知識階級や富裕層に属していたとされる。
要するに金持ち喧嘩せずを地でいった訳だ。
それが良いか悪いかは置くとして、戦禍に遭わなかったお蔭で、古くからの芸術作品が状態よく保管されている。
近年では富裕層だけでなく、その島に住まう人なら誰でもその芸術作品に触れられるのだそうな。
芸術で食べていきたいならマグメルを目指せ、なんて言葉もあるほどだ。
魔術の方だって、魔術を究めるならマグメルか象牙の斜塔に学ぶべしとか言われてる。
菊乃井が芸術・学術・技術研究都市を目指す辺り、参考になる場所でもあるよね。
それを見越して、ヴィクトルさんは私達をここに連れて来てくれたんだろう。
……と、思うんだけど。
「さみぃな?」
「うん、寒いね……」
豪華な飾り窓から奏くんと外を見る。
真っ白。
「ふぶいてるね?」
「びゅーびゅー……」
ひよこちゃん模様のセーターを着たレグルスくんと、子犬模様のセーターを着た紡くんが、やっぱり窓から外を覗いてぽかんとしている。
季節外れの吹雪で、外は大荒れ。
大理石で作られたテーブルの上には、ほかほか湯気が立つショコラが五つに、紅茶に甘いジャムを落としたものが三つ置かれていた。
ホテルが用意してくれてた備品のなんだけど、宇都宮さんが淹れてくれたやつ。
「……百年に一度あるか無いかの大荒れだってさ」
がくっと肩を落とすヴィクトルさんに、ロマノフ先生もラーラさんも宇都宮さんも苦笑いだ。
昼前に菊乃井を出発した時、凄く良い天気だったんだよ。
でもいざマグメルのお宿のロビーに転移したら、そこから見える景色は吹雪で大荒れだった。ビックリ。
でももっとびっくりするのは、この荒天でも夜にはピタッと晴れるんだそうな。
昔から魔術市のある日は天気が大荒れになるそうだけど、魔術市が開かれる夜になると何故か晴れるらしい。それでもこんなに大荒れの吹雪とかは珍しく、いつもはせいぜい雨が降るくらいなんだって。
そんなだからかマグメルの人達は、この天気の荒れ模様は魔術市のせいだと思ってるそうな。
魔術市で売りに出される何かの魔力が反発しあっての事か、はたまた集束しすぎてか、何らかの合成反応か……。そんな感じ。
迷惑だけど、街の住人のほとんどが魔術に何らかの関りを持っているせいで、その辺の現象は「仕方ない」の一語なんだろう。
それにしても吹雪は酷い。
念のためにと持たせてもらったクロークやひよこちゃんポンチョが、とってもお役立ちになりそうだ。
奏くん達もぬかりなくコートやらを持って来ているから、ひとまずは安心。
でもお昼ご飯を食べた後、予定では観光する筈だったんだけど、これでは無理かな。
だからって事で、この後は部屋に備え付けのパイプオルガンでヴィクトルさんのコンサートになった。
用意されていた部屋はお宿の一番広い部屋で、なんとパイプオルガンが設置されているだけでなく、パーティーが出来そうなくらい広いダイニングにリビング、寝室はそれぞれ五部屋に使用人専用のお部屋もある。
先生方は一人一部屋だけど、私とレグルスくん、奏くん・紡くん兄弟は同じ部屋を使うんだよね。
だってベッド広すぎるんだもん。一つが私とレグルスくんと奏くんと紡くんが一緒に寝たとしても余るくらい大きい。
広すぎてレグルスくんや紡くんがベッドから落ちたら大惨事なので、一緒に寝た方が安全なのだ。
そう言えば去年のコーサラでも、ベッドが広くて私とレグルスくんと奏くんで寝てたっけ。今年は紡くんが一人加わったのに、まだベッドが大きい。世の中には広いベッドがあるもんだ。
因みに、今年も恒例行事・ベッドに飛び乗るのをやったけど、スプリングが凄く良かった……!
閑話休題。
「そう言えば」と、お茶を飲みながらロマノフ先生が窓の外を見た。
「こんなに吹雪くと、あの伝説は本当の事じゃないかなんて思えますね」
「伝説?」
訳ありな言葉に、私とレグルスくんも奏くんも紡くんも首を傾げた。
でもラーラさんとヴィクトルさんは「ああ、あれ」って感じ。
宇都宮さんがメイド服のポケットから、メモ帳を取り出した。
「えぇっとですね、マグメルには荒天を呼ぶ何かが眠っているという伝説があるそうなんです」
「荒天を呼ぶ何か?」
「はい。大根先生とロッテンマイヤーさん調べだと、それは竪琴じゃないかと言われていたり、識さん・ノエくん調べだと雨雪の精霊に愛されたお姫様が身に着けていたアクセサリーだとか……。図書室のめんちゃんは諸説あるって仰ってました」
「へぇ、なんか面白そうな話ですね?」
「竪琴だったらヴィクトル先生ほしいんじゃないの?」
私と奏くんの言葉に、ヴィクトルさんが笑う。
そして「実は探しにいった」と教えてくれた。
「その竪琴か、アクセサリーかなんか解んないけど、あるって言われてるところに行ったけど何もなかったんだよ」
「えぇ……」
「もう持ち出された後なのか、そもそも無かったのか解んないけどね」
ヴィクトルさんのいう事には、マグメルの町のど真ん中にある大聖堂の地下にそれはあるって言われてたんだって。
だから帝国の許可を得て、ヴィクトルさんはその大聖堂の地下を探索したそうな。
でも地下に祭壇ぽい物があっただけで、他には何もなかった。それでこの伝説は終わったという。
「何かありそうな気配があったから調査に踏み切ったけど、結局何をしても何もなかったんだよね」
「そうなんですね。ちょっと残念です」
「僕もだよ。そんな伝説の竪琴、触れられたら最高だと思ったんだけどね」
長く生きてたら、ロマンの霧が晴れて柳の枝が見え隠れするなんてことはあるあるなんだとか。
でもマグメルは定期的に吹雪だの雨だのに見舞われる訳だよね?
ブツが伝承の場所に無いから、魔術市に集まって来る品の魔力が云々の話になるだけであって、それだって立証されてる訳ではないらしい。
気になるじゃん、そう言うの。
「きになります、そういうの!」
高い声が元気に響く。
紡くんが元気よく手を上げていた。
紡くんもこう言う不思議なことは知りたいタイプなんだよなぁ。じゃなかったら大根先生に弟子入りしないか。
そしてその紡くんの好奇心の大元っていうか、伸び伸びさせている奏くんもこくこく勢いよく頷いてる。
レグルスくんも気になるようだし、私だってそう言うのは知りたいタイプだ。
「じゃあ、吹雪が収まったら行って見るかい?」
「はい、是非!」
「大聖堂には行くつもりだったからね。良いんじゃない?」
ヴィクトルさんもラーラさんも、私の言葉に頷く。ロマノフ先生は少し考えると、座ってたソファーから立ち上がった。
「調査許可を宰相閣下からいただいてきますよ」
にこっと笑うと、そのまま転移魔術でいなくなってしまった。
そこまで大袈裟じゃなくてもいいんだけどな?
そう思っていると奏くんが、私を突く。
「なんかあるかな?」
「奏くんの直感は?」
「うーん? いい物がある気がする」
「おお、マジで? いいじゃん」
奏くんが言うならなんかいい物があるんだろう。
どの類か判んないけど、アクセサリーでも竪琴でも神秘的には違いない。
ニヤリと笑う奏くんに、紡くんもだけどレグルスくんの目も凄く輝いている。
「にぃに、たからさがしだね! たのしみ!」
君の輝く笑顔の方が私にはお宝だよ!
こんなに張り切ってるんだから、是非何か見つけて帰らないと!!
奏くんと顔を見合わせ、私達は固く手を握り合った。
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