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エクストリーム鬼ごっこ、地獄の一丁目

いつも感想などなどありがとうございます。

大変励みになっております。

次回の更新は、12/5です。


 押し黙った私に、ピヨちゃんも黙る。

 脳裏に何処かで泥団子をぶつける戦いが始まったのか、ノイズのようなものが走って映像が切り替わった。

 色濃い緑の葉が揺れる中、矢がビュンビュン飛んでいる。


『ちぃっ、当たらない!』

『ラーラ先生、背中に目でもあんのかなぁ。背後を捉えた筈なんだけど……?』

『奏、まだ泥玉はあるかい?』

『おうよ。今のは様子見で氷の礫を矢じりにしただけだかんな』


 何だか高度な事をやっているみたいだ。

 プシュケからの映像を見る限り、奏くんはラーラさんの足を止めるべく凍り付かせようとしてるみたい。シオン殿下はラーラさんが奏くんの氷の魔術を避けられないようにクロスボウの弾幕を張ってるのかな?


『なるほど。ボクの相手はカナとシオン殿下か。それなら遠慮なくボクの弓の技を見せてあげよう。後学にしたまえ』


 ラーラさんの声が遠くから聞こえたかと思うと、空に向けて持っていた弓につがえた矢を放つ。

 これはまずい。

 感じた瞬間プシュケで奏くんとシオン殿下を包むように物理障壁を展開させる。その刹那ドンッと大きな衝撃が物理障壁を襲った。

 それから何十何百じゃきかない数の矢が降り注いできたのだ。

 ひぇぇぇ!?

 土砂降りの矢の雨って感じかと思いきや、物理障壁に当たったのは泥。矢だと思っていたものは泥が細く矢のようになっていたモノだったのだ。


『ちょ!? やべぇ!? 前が見えねぇ!?』

『うわ! これ、障壁なかったらとんでもないことになってるよね!?』


 なるだけ息を潜めていても出てしまうのか、奏くんとシオン殿下の悲鳴が聞こえる。

 これは怖い。なおも泥の雨が続く中、落ち着きを取り戻した二人は息を詰めた。

 泥の雨が終わった後にはラーラさんの気配が一切消えていたからだ。


『くそ!? 拙いな、場所変えよう』

『ああ、ルビンスキー卿の気配が読めないからね』


 二人の声には常にない緊迫感があった。こっちの心臓もドキドキですよ。泥の矢の雨、めっちゃ怖かった……。

 静かになった事で、心臓も落ち着いて来た。

 しかし。


『みーつけた』


 にゅっと奏くんとシオン殿下の背後から、白い手が伸びて二人の肩に触れる。

 恐る恐る振り返ると、にこやかな笑顔のラーラさんが立っていて。


「ぎゃぁぁぁぁ!?」


 暗がりの中から突然現れたラーラさんに驚いていると、奏くんが銀のプシュケを掴んで咄嗟に遠くに放り投げる。


『逃げろ、若さま!』

「奏くーん!? シオン殿下ー!?」

『僕らの見たものを皆に伝えて、警戒させてくれ!』


 叫んだ二人をラーラさんがいい笑顔で捕まえるのを、どこかに飛んでいく銀のプシュケで見送った。くっ、奏くんもシオン殿下も良いヤツだったのに……じゃないな。

 あっさり捕まっちゃったよ、ラーラさん超怖い。

 何あれ、あんなこと出来んの?

 最初につがえた矢は一本だったじゃん? しかも泥? どういうことなの?


『えー……なんだ、おっかねえな?』

「うん。なんかああいう事が出来たら、人間を逸した存在になれるんじゃないのかな?」

『逸般人て?』

「誰が上手い事言えと」


 収まった筈の動悸がまた激しくなったので、深呼吸。どうも銀のプシュケは風に流れているようで、空を漂っている。今は戻せないから近場の誰かのところに合流させようか。

 そう考えて銀のプシュケから魔術で皆の居場所を探ると、近くにラシードさんと紡くんがいるようだ。

 そこに銀のプシュケを合流させると、ラーラさんの情報をプシュケからまだ残ってる全員に流す。


『え? にいちゃん、つかまったの?』

「うん、ラーラさんめっちゃ強かった」


 蒼のプシュケに話かけてきた紡くんに素直に答える。すると唖然とした紡くんの目がちょっと潤んだ。

 あ、泣くかな?

 そう思っていると、紡くんは目を強引に拭うときっと眉を吊り上げた。


『にいちゃんのぶんも、つむがんばるぞ!』

『おお、つむ。その意気だぞ!』


 あああ、ヤる気になっておられる。

 紡くんって普段本当に大人しい子なのに、こういうとこあるんだよなぁ。

 紡くんの気合入れを見守っている間に、脳裏の状況が切り替わる。

 アラートが出たのは空だ。

 ビュンビュンと飛ぶ鎌鼬や炎の礫を識さんの魔術を阻む結界が打ち消している。


『識、大丈夫か!?』

『これぐらいは平気! でも決め手が撃てない! っていうか、あのエルフさん片手で何種類魔術使って来るの!? 能力低下魔術と攻撃魔術両方いきなり来るとか怖い!』


 あーあー……その人、両手で十の魔術は使えます。なんせ私の師匠なので。

 識さんの悲鳴に遠い目になっていると、ラシードさんと紡くんの方も動きがあったようだ。

 森を分けて、フェーリクスさんが現れたみたい。


『だいこんせんせー、いざじんじょうにしょうぶ! です!』

『おや? 鬼ごっこだから隠れてもいいんだぞ、つむ君』

『いや、なんか、隠れないで今の自分に出来る事を見てもらいたいってさ』

『そうか。よし、どんときなさい!』


 めっちゃ和やかじゃん。

 ラシードさんが頭を掻きつつした説明に、嬉しそうにフェーリクスさんが笑う。

 戦闘……というか、ここは実力試験みたいなもんかな? そんな和やかさで開始だ。

 現に『いきます!』と声を上げた紡くんはスリングを構え、そんな紡くんを守るようにラシードさんが鞭を構える。

 翻って空ではヴィクトルさんの後ろを突くために、ノエくんが遥か上からヴィクトルさんを強襲した。

 しかし、彼のアレティが変じた刃の無い剣がヴィクトルさんを捉える直前、そのヴィクトルさんの姿が忽然と消える。

 ハッとした識さんが急いでノエくんに物理・魔術両方を防ぐ結界を張るけれど……。


『一瞬だけなら僕も飛べるんだよね』

『へ!?』


 ノエくんを守るための魔術を放ってがら空きになった識さんに、泥と雷の魔術が炸裂する。

 雷の魔術は識さんの背中のエラトマが変形した翼に当たって、魔力が寸断されたのか飛行が解けてしまったけれど、それはノエくんがフォローして地上に落ちる前に彼女を抱きとめる。

 その隙にヴィクトルさんはノエくんにも泥団子をぶつけた。


『甘いよ~。空を一瞬だけ飛ぶんなら転移魔術を使えばいいんだから』


 おうふ、ニシニシと笑っておられる。

 けど転移魔術の応用だと、本当に飛んでる訳じゃないからすぐに墜落が始まるみたい。そのどさくさに紛れて、紅いプシュケは撤退。ヴィクトルさんは転移魔術で地上に戻ったみたい。

 識さんとノエくんもここで脱落だ。

 ヤバいわ~、怖いわ~。手も足も出ないじゃん。

 今のところ動きがないのはレグルスくん・統理殿下だろうか。

 なにもプシュケからは連絡がこない。

 一方で、ヴィクトルさんから逃げた紅いプシュケが、ラーラさんの姿を捕えた。

 湿地帯にいるみたいだ。流石にぬかるみは警戒してるっぽいな……。

 あそこには私の仕掛けた猫の舌がある。仕掛けるか、どうする……?


『おう、鳳蝶。手伝ってやンぜ?』

「え? どうするの?」

『オラァ、精霊の中でも高位だ。この森の精霊に魔術の気配を隠させてやるし、それとなくエルフの姉ちゃんを湿地に誘導してやンよ』

「マジで? よろしくお願いします!」


 お願いするとピヨちゃんの身体のひよこちゃんポーチが鈍く光る。すると何かそのあたりがさざめく雰囲気があって。

 そよそよと風がラーラさんの髪を揺らすのが、プシュケを通して見えた。


『……まんまるちゃんは、こっちかな?』

「……ッ!?」


 湿地帯を避けつつ進んでいたラーラさんが、何故かぬかるみに近づいて足を止めた。

 刹那「いけ!」と命じれば、猫の舌が勢いよく沼から大きな触手としてラーラさんへと襲いかかる。

 猫の舌とか言いつつ、見た目はタコやらイカの足っぽい泥で出来た何かが生えて来たって感じで、ラーラさんの目が点になった。その隙に、プシュケが沼の泥を掬って、べちょりとラーラさんの服へと投げつける。


『あー!?』

「ラーラさん、討ち取ったり!」

『やられた!? 何この気持ち悪いの! もー、まんまるちゃん!』

「ぃよっし!!」


 まず一人。

 ここから巻き返すぞ!

お読みいただいてありがとうございました。

感想などなどいただけましたら幸いです。

活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 奏くん:若様!ここは俺らに任せて先に行け! う~ん王道(* ̄∇ ̄*)
[良い点] 逸般人……既にこの場にいる全員が、その定義に当てはまるような気がします。 少なくとも主人公の能力は、間違いなく世間一般の水準を大きく超えているでしょうし、他の子供たちも大人と比較してなお、…
[一言] 這いよる触手攻撃 \(・ω・\)SAN値!(/・ω・)/ピンチ!
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