馬に蹴られるような悪寒と予感
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次回の更新は、11/21です。
ムリマさんの事はちょっと置いといて、源三さんが刀の話をしにきてくれたのは、奏くんや紡くんから「破壊神」の話を聞いたからだって。
私の事だから「お邪魔しますよ」とかいって修羅場に乗り込んで行くんじゃないかって、奏くんは言ってたらしい。勿論当然のように自分も行く前提で。
ただそこで「紡は勉強優先で留守番な」って言われた紡くんと、「にいちゃんがいくならいくもん!」と言われた奏くんとで兄弟喧嘩になったらしい。
源三さんはそんな二人を「そんな事で喧嘩しよると、二人ともおいて行かれるぞ。集団戦闘はチームワークじゃからの」と叱ったとか。
うーん、そんな問題だったかな? まあ、うん。いずれ破壊神とやらのとこには乗り込むけどね。
それで、その強化対策として当然のようにレグルスくん用の装備とかも用意するんじゃないかと考えて、今の段階で刀の話をしに来てくれたそうだ。
今行くわけじゃないって話してはいたけども、私が準備しだしたら決行まで疾風怒濤のように事が進むからの五分前行動みたいなものらしい。
なるほど、皆私の奇行に慣れてるってこういうところに出るんだな。
それで源三さんは破壊神のところに乗り込む前には、是非声をかけてほしいと言ってた。レグルスくんに刀を渡すためだ。
これさー、確実にムリマさんに会えるフラグ立ったよね!?
そんな訳で、源三さんとのお話を終えて、夕飯まで私はニマニマとしながら機嫌よくお仕事が出来た。
これで乗り越えるべき直近の事案は明日の鬼ごっこだけ。
なんで明日になったかって、そりゃ大賢者様かつエルフ先生達の敬愛する叔父様・フェーリクスさんが場所を整えてくださったから。
あれよあれよと話が決まって、気づいたら識さんやノエくんの参加まで取り付けてたんだからビックリだ。
フェーリクスさんってこの手の事が好きらしい。
識さんと董子さんが「あー、旅の時にもやりましたねー……」って遠い目をした、夕食前のお茶の時間という名の報告会。
砦に近衛と菊乃井の合同訓練予備会の見学に行っていた皇子殿下方もタイミングよくお戻りだったので、お茶休憩が情報交換の場になった訳だ。
菊乃井の町に董子さんが借りたのは、ちょっと大きめの家なんだって。
これからフェーリクスさんを慕ってやって来る他の弟子達が泊まれる、もしくは共同生活できるように広くて部屋数のある家にしたそうだ。
それで一緒に暮らすのが、一番気の合う識さんとその婚約者ノエくんだというのは何か運命を感じるとか。
「識ちん、お料理上手だからマジ助かるぅ。ノエくんも神代文字教えてくれるの、本当にありがたや~」
「助かったのは私達もだよ、お姉ちゃん。私達だけだとお家借りれなかったと思うから。料理に関しては任せてね!」
「識のお姉さんなら、オレにもそうだよ。ありがとう董子さん。出来る事があったら、何でも言ってよ」
拝む董子さんに、識さんもノエくんも笑って返す。
その和やかな光景を見つめる大根先生のお顔は、とても優しくて穏やかだ。
引っ越しの手伝いに行っていたレグルスくんは、ノエくんに抱っこしてもらって、その大きなドラゴンの翼で空を飛んでもらったと、身振り手振りで教えてくれた。
「ふわって浮いて、びゅーんって!」
「家の二階部分まで飛んだけど、泣かなかったね。そこまで飛ぶと、同じドラゴニュートの子でも怖いって泣く子もいるのに」
「すっごくはやくておもしろかった! またやってね!」
「うん。いいよ」
「ありがとう、ノエくん」
「いえ、あんなに喜んでくれるならオレも嬉しいから」
穏やかな口調でレグルスくんと話してくれるノエくんを見てると、アレティが彼を契約者にした理由や、彼と契約したアレティが安定した理由が察せられる。
きゃっきゃするレグルスくんも、ノエくんの事は大分気に入ったんだろう。まあ、レグルスくんはあんまり人の好き嫌いないけど。
一方、人の好き嫌いの多いシオン殿下は、ちょっと不機嫌だ。
「近衛と菊乃井の兵の力量差が凄かったんだよ」
「アレは……大人と子どもといえばいいのか。そんな扱いだったな」
肩をすくめる統理殿下の口調も少し苦い。
そういう事聞かされるとリアクションがしにくいんだよ。
どう反応したものやら迷っていると、識さんがこてりと小鳥がするように首を曲げた。
「訓練……そう言えば、ノエくんに重力魔術かけて山登りとかやったよね」
「ああ、あれは物凄く体力付いたね」
「は?」
ニコニコとノエくんに話す識さんと、何でもない事のように言うノエくんに、私は目を大きく見開いた。
なんでそんな過酷なことして平気なの!?
口から飛び出そうになった疑問は、けれど統理殿下の声に遮られた。
「それは体力や瞬発力をつけるために良い訓練だな! 俺もやってみたいぞ!」
「れーもやってみたい!」
「いやいやいやいや!?」
「待ってください、兄上!?」
レグルスくんまで恐ろしい事言わないで!?
楽しそうに「やりたい」と言うのは可愛い。可愛いけど危ない事はしちゃダメだ!
奇しくもシオン殿下と同時に止めに入ると、レグルスくんと統理殿下はきょとんとする。
識さんが苦笑いを浮かべた。
「アレは山とかに登る時の方が効率いいと思いますよ」
「そうか。オレ達は山には滅多に行かないからな。残念だ」
若干ズレている。識さんてもしかしてこういうズレのある人なんだろうか。
ちょっと引いていると、ロマノフ先生が「いい訓練では?」とぼそっと呟くのが聞こえた。
あ、悪い予感がする。あれはもしや私にその重力魔術をかける気か?
レジストもしくはカウンターになる魔術仕込んでおこう。
レクスの杖から記憶を引き出しておかなくては……。
そう考えて、皆に話さないといけないことを思い出した。
「えっと、生ける武器とか諸々の話を神様にお尋ねしたんですけど」
そう口にすれば、全員が居住まいを正す。
まずは破壊神とやらの事。
「あれは神様からしたら足の小指を動かす程度の力で倒せる存在で、天の方々にしてみれば『なり損ない』の部類だそうです」
「なりそこない……」
「はい。神などとは程遠く、条件を満たせば人間の手でも倒せるそうです」
「条件を満たせば……!?」
ノエくんの目が驚愕に揺れる。
彼も彼のご両親も、きっと条件の事は知らなかったんだろう。長い間の戦いで情報が失われたのか、最初からなかったのか。
ただ条件が設定されている事だけでも知っていたら、彼らの一族はノエくんだけになってなかったんじゃないだろうか?
気まずい雰囲気が応接室に満ちる。
しかし、それを強い意志をもった声が打ち破った。
「その条件ってなんですか? 私達でも満たせるものですか?」
識さんの目に強い光が宿る。困難を乗り越えると決めた人は、皆識さんと同じ目をする。ノロノロと顔を上げたノエくんも、僅かだけど目に力が宿っていた。
「方法はあります」
頷くと、私は昨夜氷輪様やロスマリウス様、イシュト様から教えていただいた事を話す。
途中、ドラゴニュートの黒歴史に識さんとノエくんが遠い目をしたから、なんか思う事があったんだろう。
なり損ないの体内にある賢者の石や、その効果、破壊方法、ノエくんによるラストアタックでしか完全に殺せない事を話せば、二人は顔を見合わせて大きく息を吐いた。
でもそれは悲嘆とは違った趣があって。
「なんか、ちょっとびっくり。私達が悩んでた事が、色々あっさり解るって凄いね」
「うん。オレ、神様って本当にいるんだなって納得しちゃった。諦めなきゃ、拾ってもらえるんだな」
「うん。頑張ろうね?」
「ああ。負けられない!」
そっとノエくんの手を識さんが握り、握られた手をノエくんが更に自分の手で包む。
いい光景だよねー……。
でも、私は正直微妙だ。
だって識さんに寄生するエラトマの中の人が、実は識さんに片思いしてるとか聞かされた後だよ?
これ、でも、一応識さんは兎も角先生達には言っといた方がいいかな……。
二人を視界に収めつつ、私は内心で思い切りため息を吐いた。
お読みいただいてありがとうございました。
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活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




