巡る思惑
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次回の更新は、10/31です。
結論から言えば、ノエくんの一族が封じて来た破壊神というものは神様ではない。
そして実力から言っても神様の足元にも及ばない存在で、人間の力でも十分倒せる。
ただしこれにはカラクリがあって、そのなり損ないを倒すためにはラストアタック……トドメは絶対にノエくんの手で刺さないといけない。
けどもなり損ないは体内に賢者の石を取り込んでいるために、不壊の肉体を得ている。
この不壊の肉体をどうにかするには、なり損ないの体内にある賢者の石を破壊しなければいけない。しかし、この賢者の石は武器でも魔術でも傷つける事が出来ない。
こういう前提ではあるけれど、希望は寧ろ出て来た。
「昨日の今日で随分早いですね」
「氷輪様とロスマリウス様とイシュト様がおいでくださって」
「れー、ねてたからわかんなかった……」
朝ご飯の席で、昨夜の夜中のお悩み相談会で神様方にお聞かせいただいた事を報告する。
今日の朝ご飯は大根先生がお留守。
菫子さんと識さん、それからノエくんと取るそうだ。
もう二、三日うちで身体の調子を見た後、識さんとノエくんは菫子さんが拠点として借り上げた大きめのお家にお引っ越しが決まっている。
それまでは菫子さんや識さん、ノエくんと食事をするんだって。
識さんとノエくんは「根っからの庶民なのであまりに豪華な部屋だとお腹がおかしくなる」って言うので、お部屋で食事をしてもらってる。
無理は良くないもんね。
後でノエくんの様子を見に行った時に、大根先生達とこの話は共有するとして、先にロマノフ先生達に報告しよう、と。
そうなると当然統理殿下とシオン殿下もいらっしゃる訳だ。
「体内に埋め込まれている賢者の石とやらを、どうやって破壊するんだ?」
「それなんですけど、埋まってる部位的に方法はあるんじゃないかって思うんですよね」
「部位的に……?」
「はい、部位的に」
想像するだに痛いんだけどな。
そうは言ってもその方法で行けるかどうかは、やってみないと解んない。
ただ何の手がかりもない所から、打つ手を考えられるっていうのは雲泥の差があるんだ。
「では一応対応策は立てられるし、どうとでもなる……ということで良いのか?」
「そうですね、方法はあると考えます。最悪荒業ですが、なり損ないを生きたまま冥府に送ることも視野に入れれば……」
「生きたまま冥府に送る……? 召喚魔術か?」
「はい」
これは氷輪様が仰ってたけど、嫦娥を召喚してヤツを生きたまま冥府に堕とすことは可能なんだそうな。
でもそれをすると、ノエくんが止めを刺した訳ではないので死なない。だからノエくんにかけられた呪いも解かれないという事になる。
これは本当にどうにもならない時に使う手であって、そこに行きつくまでに是非ともそのなり損ないを倒したい。
そう言えば、統理殿下は少しばかり難しい顔をした。
「解った。父上には俺の方からもそう伝えよう。鳳蝶の方はそのつもりだろうが、宰相やロートリンゲン公爵と連携を取ってくれ」
「承知致しました」
「非情なようだが、最悪の時はお前が神龍を召喚すると伝えるぞ?」
「構いません。責任を持つ・協力すると口にした以上、当たり前の事です」
視線をぶつけ合う私と統理殿下の顔を、レグルスくんが交互に見る。
一種の緊張感が食卓を支配する中、シオン殿下が口を開いた。
「討伐に行くなら、僕らも連れてってもらえるかい?」
「は?」
「や、だって、一応僕らも艶陽公主様の加護を受けてる訳だし、そんじょそこらの冒険者には引けを取らないと思うんだよ? 君らにはいいようにあしらわれたけど」
「それはいいな。露払いぐらいなら俺達にもできるんじゃないか?」
「いやいやいやいや、だから首を突っ込んじゃダメですって言ってるじゃないですか!?」
「ここで首を突っ込まないと、どこで貧乏貴族の三男坊やらフーテンの何とかが出来るんだ?」
しなくていいわ!
まだ諦めてなかったんかい!?
うっかり出そうになった言葉を飲み込んで口元を引き攣らせる。
するとカラカラと統理殿下が豪快に笑った。
「まあ、一緒に行くのは冗談としても、討伐に行く前には知らせてくれ。こちらでも何か打てる手はないか調べておくから」
「うん。菊乃井だけで抱え込むような事はしなくていいよ。そのなり損ないに関しては、仮に封印が解けることがあっても、まだまだ先だし、その時にはもっと何か出来る事があるかも知れないからね」
「はい。駄目だと思う前に色々ご相談させていただきます」
食堂にあった緊張感が薄れて、穏やかな空気が流れていく。
最悪な未来にしないように、ありとあらゆる対策を練らないといけない。
皇子殿下方とその認識を共有できたのは良かったかな。
それはそれで考えるとして、本日の予定は皇子殿下方と別行動だ。
帝都からお試しに菊乃井の訓練に参加する近衛が来るというので、そちらの視察にいらっしゃる。
これは皇子としての公務の一環にあたるそうだ。
護衛はラーラさんとベルジュラックさん。
偶々ベルジュラックさんがうちに戻って来たところを、統理殿下が声をかけて、そういう事になったんだよね。
ベルジュラックさんは何でかロミオさん・ティボルトさん・マキューシオさんのエストレージャにライバル心を燃やしているらしい。
その辺の機微は解んないけど、菊乃井の騎士としての仕事だと伝えればめっちゃ喜んでた。
私は領主のお仕事。
そう言えば今日のお昼前には、人が訪ねてくるらしい。誰だろうな?
皇子殿下方を送り出した後は、レグルスくんも送り出した。
レグルスくんは今日はお勉強をお休みして、奏くん・紡くん兄弟とフェーリクスさんと一緒に、董子さんと識さん、ノエくんのお引っ越し作業を手伝うんだって。
ヴィクトルさんとロマノフ先生は、識さんとノエくんの件をそれぞれ宰相閣下やロートリンゲン公爵閣下の元に報告にいってくださってる。
屋敷にいるのは必然、私やロッテンマイヤーさん達メイドさん連中とラシードさんくらいになった。
普段より静かな執務室には、コツコツと時計の音がやけに響く。
積まれた書類の一枚一枚をきちんと確認して、内容に疑問が生じた場合は保留の箱に。すんなり通せるものはサインして裁可済みの箱へと入れる。
その単調な作業の繰り返しに肩が凝って来たころ、コンコンと執務室の扉をノックする音が聞こえた。
入室を許可すると、ラシードさんが眉を困ったように下げて入って来る。
「どうしたんです?」
「いや、あのー……ロッテンマイヤーさんが、人が来たから執務室に連れてって構わないか聞いてほしいって」
「ああ。構いませんよ。っていうか、出向こうか?」
「や、出向く必要はないんじゃないかな」
「?」
人が来たのに出向かなくていいとは?
わずかに首を傾げて、なるほどと思う。
人が来るというのは、来客があるという事じゃなく、菊乃井に人手が来るって事だったようだ。
まあ、菊乃井人手不足だからな。働き手が来るのはいい事だよ。
という事は、私は面接かなんかすればいいんだろうか?
でもそういう話ならロッテンマイヤーさんにそういう話をされるだろうけども、それはなかった。
引っ掛かりを覚えていると、ラシードさんが「呼んで来る」と踵を返す。
ややあって帰って来ると、後を確認しながら部屋に入って来た。おかしな仕草に首を捻っていたけれども、彼の後ろから入って来た人物に「さもありなん」と納得する。
その人物は執務室に入るなり、ほんの少し緊張感を全身に張り巡らせた。冷や汗もそのツルツルの頭から流れている。
とは言え、その緊張が顔には出てない辺りは教育の賜物か。
先んじて、私はその人に声をかけることにした。
「久しぶりですね、オブライエン」
ニィっと口角を上げてやれば、男は「は」と震えながら頭を下げた。
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