突いていない藪から鬼が出る
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『カー!? 色んなヤツがいるもンだなァ!』
応接室のテーブルの上で、ピヨピヨとレグルスくんのひよこちゃんポーチが囀る。
誰あろう、ピヨちゃん。
彼はなんと、元はレグルスくんの帝都の実家から付いて来た花の精霊で、現在はひよこちゃんポーチに住み着いているのだ。
年齢は不詳、性格は……ご近所のオジサン。オジサマとかでなくオジサンなのが味噌だ。
レグルスくんの誕生日に話せるようになったとかで、その存在が明らかになった精霊さんだ。
彼は精霊としては結構強いらしい。でも上には上がいて、彼がこの屋敷にいられたのは上位存在がそれを許したからだそうな。
ひよこちゃんポーチに住むようになったのは、その上位存在が彼を姫君様に目通りさせてくれて、その席でレグルスくんや私の守護精霊になることと、その依り代をひよこちゃんポーチにすることをお許しくださったからなんだって。
因みにこのひよこちゃんポーチはなんと、物凄く稀少なフェニックスの雛の抜け毛が素材に含まれて、エルフ一のお針子さん……ソーニャさんが丹精込めて作ったものなんだそうな。
そのせいなのか住み心地は「極楽!」なんだってさ。
何で彼の話を聞いてるかって言うと、彼は自分から入った方だけど、生ける武器とは条件がほとんど同じ状態だから。
でもレクスの杖・夢幻の王やフェスク・ヴドラと違って、会話可能なのだ。これは話を聞くしかないだろう。
そう思ってレグルスくんにお願いして、お茶の席に連れて来てもらったのだ。
「君の家って本当になんでもあるね?」
「偶々ですよ、偶々」
「偶々で精霊と話せるのか……。宰相が来たがるな」
皇子殿下方の言葉に肩をすくめる。
兄弟子で将来のレグルスくんの義理の祖父になる方だから、いらっしゃったら全力でおもてなしするけど、今はちょっと無理かな。問題が大きいのかそうでもないのか、規模が掴めない。
『オラァ自分でこのひよこちゃんポーチに入ってるから、閉じ込められてるヤツのこたァちィっと解らんな』
「おなじせいれいでおはなしはできないのかな?」
ぴよっと黄色い胸を反らせていうピヨちゃんに、レグルスくんがこてんと首を傾げた。
『うぅん、どうかな……。あっちのが力が上だと、はね除けられちまうしな』
「え? ピヨちゃんまけそう?」
『あぁん? 馬鹿言うな。オラァ、ここに来るまでは縄張り争いで負けた事なんてねェよ』
「ここにくるまでは?」
『……ここに来るまでは、な』
ピヨちゃん、うちにいる上位存在にガチンコする前に負けたらしい。
それだって本人的には弱ってたからだって言い張ってるけど、瞬殺だったらしい。凄いな。
ピヨちゃんはレグルスくんに随分思い入れをもってくれてるようだけど、その過去の話全てをまだ教えてはくれない。
レグルスくんが大人になった時のプレゼントに置いておくそうだ。
それはちょっと置くとして、話しかければ答えが返ってくる可能性はあるみたい。
「ピヨちゃん、ちょっと話を聞いてもらえるかな?」
『おん? どっちにだ?』
「そうだな……。アレティの方が穏やかそうだよね」
『わっかンないぜ? 自分から完全に閉じ込められる事を選ぶようなヤツ、まともかどうか……。オメーの武器の中にいるヤツだって、ドン引きするぐらいのヘンタイだかンな?』
「そういうのは知りたくないかな!?」
ぴよぴよと可愛らしい擬音付きで笑ってるけど、可愛いのはポーチであって中身じゃなかったこの野郎。
ピヨちゃんの暴露に、頭の中に「ヘンタイじゃなくて、魔術師に対する愛が深いだけですぅ」って響いたけど、ちょっと黙っててもろて。
レクスも何考えてそんな精霊を杖に込めたのか、ちょっとどころかかなり謎だ。
「まあ、武器の事は若さまがどうにかするんだろう?」
「それはね。私にも関係しない事じゃないから」
「じゃあ、おれらはノエ兄ちゃんと識さんの修行の手伝いとかしたらいいかな?」
「期間はまだあるからね。それよりはラシードさんの方かな」
「ああ……この秋口だったな。うん、まとめておれらも頑張るよ」
にかっと奏くんと紡くんが笑う。
頼りになるよねー。
紡くんは識さんに回復魔術を本格的に習うそうだから、先生が早速一人増えた訳だ。
それもこれも、一つずつ片付けて行かないと。
差し当たり直近で問題なのは、ラシードさんの里帰りだろう。それだってケリを付けるなり落とし前をつけるなりする過程で、力を示さないといけないこともある筈だ。
それは戦闘かもしれないし、違う事なのかも知れない。けれど乗り越えれば確実に力になるものだ。
そう言えば、レグルスくんも奏くん紡くんも、何故か皇子兄弟も頷く。
いや、貴方達は首突っ込んじゃ駄目なんだってば。
そう思って言葉を発しようとすると、統理殿下の口が先に開いた。
「鬼ごっこしないといけないもんな!」
おぅふ、覚えとったんかい!?
ごふっと咽たのは私だけでなかった。統理殿下の横に座ってたシオン殿下もだ。彼は物凄く遠い目をしてから、大きく肩を落とした。
別に運動出来ない訳じゃないけど、菊乃井の鬼ごっこのえげつなさに引いてる感じかな。
いや、貴方がたはこれっきりで参加しなくていいかもだけど、私は折に触れてやんなきゃならんのだよ!
そんな目で見返せば、シオン殿下はすっと明後日の方向に視線を飛ばす。
私と弟のやり取りに全く気が付いていないのか、統理殿下が「そうだ!」と声を上げた。
「ラシードや、元気そうならその識嬢とノエシスも参加させては?」
「え? いや……」
「話を聞く限り、ノエシスの精神的ダメージは思ったより少なそうじゃないか。それに彼もそこそこ自分で修行していたんだろう? 今の自分がどうなのかという指標にもなるのでは?」
「あー……本人に聞いてみます」
えぇい、どうせやるなら皆道連れだ。
それに識さんは結構強いみたいだし、それならいい線いくのでは?
ふむっと顎を撫でつつ考えていると、不意にロマノフ先生がにやりと笑った。
「そうですね、今回の鬼は私とヴィーチャとラーラ、それから叔父上にしましょうか」
「へ?」
「叔父上もアレで中々の使い手なので、君達に退屈はさせないと思いますよ」
突然の言葉に瞬きを数度。
いや、だってフェーリクスさんってヴィクトルさん以上の魔術の使い手って言ってたじゃん?
「い、いやいや、そんな大賢者様に子どもの遊びの延長に参加だなんて……」
口元を引き攣らせて首を横に振ると、ロマノフ先生は「遠慮しなくて大丈夫ですよ」なんて仰る。
「あの人もフィールドワークする人だからね。研究には一にテーマ、二に知力、三も四も五も体力って言ってるから、こういう体力作り系の事には喜んで参加してくれるよ」
「そうそう。ボクら鬼ごっこは叔父様に鍛えられた感あるしね」
ヴィクトルさんもラーラさんもニコニコと付け加えた。
もうそれ、元祖が鬼ごっこに参加するって事じゃん!
内心で白目を剥いていると、ぽんっと奏くんに肩を叩かれた。
「って事は、おれら武器ありでもいいって事じゃね?」
「え?」
「だってただでさえ勝てないのに、それより上の人連れてくるなら、こっちは一切遠慮しなくて良いってことだろ?」
「あ!」
ってことは私はプシュケも夢幻の王も使えるって事だし、フォルティスは完全武装でいい訳だ。
それならちょっとは勝ち目があるかも!
ぐっと握りこぶしを決めていると、ロマノフ先生もヴィクトルさんもラーラさんも「武器ありで構わない」と頷いた。余裕か。
ふと難しい顔をしていたシオン殿下が口を開く。
「それならその時には識嬢やノエシス君にも武器を使ってもらえば良いんじゃないかな?」
「特性を見極めたり、武器同士で何か通じるものがあるかも知れないな」
統理殿下のいう事も一理あるな。
そんな訳で、鬼ごっこの鬼が決まった。
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