手八丁の知の番人
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次回の更新は、9/30です。
今日は朝から少しバタバタしてるけど、本来の予定は休養日というか、私の業務お休み日に当たる。
なので好きな事をして過ごすことになってて、殿下方が何をしたいかによって、予定が変わるはずだったんだけど。
殿下方とエルフ先生三人に、私とレグルスくん、奏くん・紡くん兄弟で、空飛ぶ城にある図書室で探し物だ。
何故かって言うと、生ける武器ってのが気になるから。
識さんによると、生ける武器というのは正確には武器の中に何かいる感じなんだとか。
それって何かに似てるなって考えてたら、ロマノフ先生が「レクス・ソムニウムの杖じゃないですか」って。
そうだよ。
私が受け継いだレクス・ソムニウムの杖「夢幻の王」も、あれはたしかに精霊が宿っている。それを生きているというならば、そうだ。
って訳で、早速うさおに話を聞いたら「生ける武器なら図書室に関連資料がありますよ」というから、今ここ。
探し物をするにはやっぱり人手、人海戦術が有効手段だ。
フェーリクスさんと董子さんに識さんとノエくんのお世話をお願いして、私達は図書館で探し物。
ノエくんは私達が図書館に入る少し前に目を覚ましたらしいけれど、まだちょっとぼんやりしていて識さんしか認識できないような状態だったそうだ。
朝ご飯に出て来た桃のコンポートを更に磨り潰した物を、ほんの少し識さんの手から食べて、また眠ってしまったらしい。
そんな状態の人に対面もないので、今はゆっくり療養してもらえばいいや。
それにしても生ける武器だ。
図書室は何処かの宮殿かと思うくらい、壁やら天井に装飾が施してある。この装飾も当時の一流芸術家の手になるものらしい。
うさおが誇らしそうに胸を張って、そんな事を言ってた。
彼から携わった芸術家の名前を聞いたけど、聞き覚えがあるから後で美術史の本でもひっくり返そう。
それにしても見つからない。
いや、さっきから物凄く貴重な、現代では何処かの国の国立図書館で持ち出し厳禁の秘宝扱いの魔導書とか魔道具辞典とか、そういうのは見当たるんだよ。
さっきなんてヴィクトルさんがずっと読みたいと思ってたらしい神聖魔術王国時代に書かれた魔術大全の原本があったらしく、凄くはしゃいでたんだもん。
ロマノフ先生も気になってた古王国時代の星占術の本を見つけたそうだし、ラーラさんも歴史上不仲とされている人物達の往復書簡集を見つけたらしい。
私もアクセサリーの作り方とか載ってる本を見つけたので、後で読もうと思ってる。
だけど目当ての物が一向に見当たらない。
何でだよ。
ちょっと肩が凝ったので腕を回していると、うさおがちょこちょこと足元にやって来た。
「お目当ての物はまだ?」
「うん。見つからないね。ここの蔵書の目録とかあったよね?」
「はい、御座います。しかし本のある場所までは……」
こてんとウサギが首を傾げる。
やっぱり手当たり次第に探すほかないんだろうか。
考えていると、うさおが「あ!」と叫んだ。
「そうです。ここの司書を目覚めさせましょう」
「うん? 司書?」
「はい。前の主が亡くなる時に、封印をかけて行った司書の魔術人形がいるのです」
「封印? え? 物騒なやつ?」
封印なんてあんまりいい印象を受けない言葉に、私は何となく躊躇する。しかし、うさおは首を横に振った。
「いえ。自立して動かすのに魔力がかなり必要なのです。それも定期的に注いであげなくてはいけないので、魔力が足りなくて機能停止したら可哀想だと封印されたのです」
「ほう。レクス・ソムニウムとは配下には優しい人物だったんだな?」
いつの間にやら統理殿下が傍にいて、話を聞いていたっぽい。
彼の言葉にうさおは軽く頷いた。
「あの方はどちらかと言えば、伴侶の方以外に興味の無い方でしたが、それでも仲良くなった方には優しい方でしたね。私達魔術人形も、伴侶の方が望み、我が子のようなものと仰った存在だと大事にしてくださいました」
「そうなんだね。そういうことをもっと聞かせてくれたらいいのに」
「では、お時間がある際はお話いたしましょうか」
うさおには人形とは思えないほどの感情がある。今だって懐かしむような色を目に乗せているんだから、彼とレクスの関係性なんて推して知るべし。
それはそれとして、魔術人形だ。
うさおによると、機能停止している魔術人形は他にもあるとか。
この城を維持するための人形だから、掃除とか修繕担当とか、その眠っている司書の他に数体。
今まで言わなかったのは、あんまり必要そうじゃなかったからだそうな。
一体起動させるのに物凄い魔力が必要らしく、メンテナンスにも魔力を食うから、折を見てにしよう。そういう事だって。
では早速その司書人形を目覚めさせよう。
そう考えて、はたと気付く。
「え? その人形何処に置いてあるの?」
「ああ、はい。こちらに」
事も無げにうさおが宙に浮くと、近くにあった女性の彫刻が施された柱に触れる。その彫刻の胸には大きな宝玉が付いていて、カッと光ったかと思うと球体が現れた。
「え?」
「お?」
中を覗くと、丸い頭部に小さなヒラヒラした耳、足も放射状で被膜に覆われている。
これって……?
「メンダコのめんちゃんです」
「メンダコ」
「はい。めんちゃん」
「ネーミングセンスに鳳蝶と通じるものを感じるな」
「ああ、可愛い名前ですよね。名は体を表す的な」
そう言うと、統理殿下とうさおが顔を見合わせて、ちょっと遠い目をする。
何だよ、解り易くていい名前じゃないか。
気を取り直して球体の中を覗くと、目に生きてる感じの光がない。生き生きしたうさおと比べて、物凄く虚ろだ。
なのでうさおに視線を向けると、その球体に触れて魔力を浸透させてくれという。
言われるままに魔力を込めると、段々と球体の中の色が変わっていく。
透明なガラスのようなそれが、まるで水が満たされたかのような青に変わった瞬間、メンダコの目に光が宿った。
『……おはようございます?』
球体から小さい子どもの声がしたと思うと、メンダコの耳がぴこぴこ動く。
それを静かに見守っていると、急に球体が色を青から緑、紫と次々に色を変えた。
『解析終了、うさお、状況説明を求めます』
「蓄積した情報を転送します」
うさおが耳をプルプルさせると、メンダコの耳もプルプルする。
可愛いけどよく解らない状況を見ていると、図書室にいた皆が傍に集まって来て。
何をやっているかを説明し終わった辺りで、うさおとメンダコの耳のプルプルが止まった。
『状況を理解しました』
「では、よろしく」
うさおの言葉に、メンダコが頷くように頭を上下させる。
それから私の方を向くとぴょいっと軽く身体を球体の中で持ち上げた。
『はじめましてぇ、めんちゃんでーす!』
「初めまして」
おぅふ、ノリが何か違うぞ?
さっきの無機質な感じは何処に行った?
若干驚いていると、ふよふよと球体ごと近寄って来る。球体の中の水は私の魔力って事なんだろう。
本たこに聞けば、そうだと返された。そしてこの水が干上がる前には、また魔力を注いでほしいとも。
「解りました。では早速仕事をお願いしても?」
『お任せくださぁい。うさおから『生ける武器について書かれた本』を探していると引き継いでます!』
「はい。何処にありますかね?」
『取ってきますので少々お待ちくださいませぇ!』
そう言うとめんちゃんはびゅんっと猛スピードで図書館の奥に消えたかと思うと、同じくらいの速さで球体の上に本を乗せて帰って来た。
それをロマノフ先生が受け取ってくれる。
「『精霊武器製作理論』ですか……?」
『はい。レクスの杖に応用されている理論が載っています』
おう、仕事がお早い!
お読みいただいてありがとうございました。
感想などなどいただけましたら幸いです。
活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




