会うは別れの始まりだとて
いつも感想などなどありがとうございます。
大変励みになっております。
次回の更新は、8/12です。
先生達の転移魔術で、一路私たちは空飛ぶお城に戻って来た。
リートベルク隊長も副隊長も一緒に来てたけど、二三のやり取りをして、副隊長はロマノフ先生に帝都に送って帰られた。
劇場前に立っている私達の前に、うさおがちょこんっと座る。
「いらっしゃいませ」
「今日は劇場の中を見せてもらいたいんだけど」
「はい、どうぞ。ただいま扉をお開けしますね」
そう言ってうさおが短い前足を押し当てると、びっしり華麗な彫刻が施された重厚な扉がゆっくりと開かれた。
赤いカーペットが入り口からずっと奥まで続いている。
うさおに案内されて建物の中へと入って行けば、感嘆の声が皇子殿下方やゾフィー嬢、和嬢の口から漏れ出た。
ここの装飾は何度見ても飽きない。
でも今回見学するのは劇場の中でなく、バックヤードの衣装置き場だ。
歌劇団の衣装を保管していた大きな部屋に着くと、うさおは「ごゆっくり」と声をかけてちょこちょこと去っていく。
「どうぞ、ご覧ください」
穏やかに告げれば、まず統理殿下が部屋の中をぐるりと見回して、小道具の剣を手に取った。そして軽く振ると「ふぅん」と興味深そうにそれを眺める。
「まるで本物のような重さだな」
「そりゃ、本物を模して作ってますからね」
「誰が?」
「小道具担当の職人さんですね。孤児院の子ども達や街の職人さんやら寡婦さんに、お仕事として斡旋してやってもらってるんです」
歌劇団が大きくなると、こういうところでも雇用が発生するんだ。
他にも観光客が来るようになれば、それ専用の宿屋や食事処、お土産物屋で雇用が発生するし、彼らの食を支える現場にも雇用が発生する。
今は自由に色んな所を行き来する冒険者が主な顧客になっているけれど、皇子殿下二人が行啓したとなれば、貴族達も菊乃井に訪れようと考えるだろう。
幸いなことにロートリンゲン公爵領は貴族向けの高級宿がある。そこから馬車で安全に菊乃井に来てもらえれば、宿屋の住み分けも出来るし、うちだけじゃなく周辺も儲かる筈だ。
そう言えばゾフィー嬢がにっこり笑う。
「当家の事までお考えいただいてありがとう存じます」
「街道の整備や安全確保など、ロートリンゲン公爵家にもご協力いただきたいのです。代わりにそういうメリットがあると考えていただければ、と」
「はい。私からも菊乃井との行き来が頻繁になるよう、父にお願いしておきます」
「よろしくお願いします」
まあ、つまり、確約は出来ないけど代理として良いようになるように頑張りますって事だな。流石公爵令嬢、言質は取らせない。
実際の所、この計画はそれとなく手紙や先生方から、直接ロートリンゲン公爵閣下には伝わってる。
だからこれは「そういう事業展開を考えています」っていう、皇家に対する非公式のご報告だ。上手く行きそうなら正式な話としてご報告するけどね。
そんな裏を統理殿下もシオン殿下も読めない人ではない。
「街道の整備は皇家としても色々考えているから、時期が来れば宰相から色々意見を聞きたいと言われるかもしれないな」
「そうですね。辺境の街道も再編した方がいいとの話も出ていますし」
「うちも辺境とまでは言いませんが、田舎は田舎ですしね」
四方八方良いようにするって言うのは難しいし時間がかかる。
それにもっと色んな意見も必要だろう。
そんな話を横において、ひよこちゃん達はどうしてるのかと窺えば、レグルスくんが和嬢の頭にティアラを乗せてあげていた。
ヴィクトルさんとラーラさんがパチパチと拍手している。
「なごちゃん、にあってるよ!」
「ほんとうに?」
「うん。おひめさまだ!」
「まあ、ありがとうございます……!」
ぽっと頬を染めた和嬢に、レグルスくんが手を差し出す。その手に自身の手を乗せた和嬢に、レグルスくんがゆっくり動き出した。
なんか足元がステップ踏んでるみたいに見えるんだけど?
じっと見てると、私の視線に気が付いたヴィクトルさんが口だけ動かして「歌って」という。
うーん、スローな方が良いかな?
そう考えてすっと息を吸い込む。
昔々、ある砂漠に一人の青年が住んでいました。
語るならそんな始まりの、砂漠にすむ青年とランプの精とその国のプリンセスが紡ぐ恋と冒険の物語。
ランプの精の力で貴公子に変身した青年が、プリンセスを魔法の絨毯で連れ出した時に流れる歌だ。
知らない世界を見せてあげる。
鳥籠の鳥のような姫君に、果たしてその言葉はどのくらい響いたのだろう。
レグルスくんにしても和嬢にしても、二人がお互いに対する理解を深めれば、きっと新しい世界への扉が開く。
それは嬉しい事ばかりじゃなく、何か厳しい壁にぶつかることもある筈だ。けれど二人乗り越えた先には、きっと喜びが待っている。
でもこれ本当は男女のデュエットなもんだから、男性パート女性パートを一人でやると、忙しいんだよね。
いや、でも、レグルスくんも和嬢も楽しそうだし、頑張ろう。
歌劇団のデュエットダンスみたいに華麗でなく、どちらかと言えばたどたどしいけれど、でも不思議と様になってる二人に、こっちの頬も緩むってもんだ。
なんか知らんけど、視界の端っこで統理殿下とゾフィー嬢も踊ってるし。シオン殿下もいつの間にかラーラさんと踊ってるけど、こっちは何故かラーラさんが男性パートを踊ってて。
うん、私はレグルスくんと和嬢以外何も見てない。見てないんだからね!
楽しい時間はあっという間、夕暮れ時がやって来た。
和嬢とゾフィー嬢が帰る時間。
統理殿下とゾフィー嬢は「またな」とか「楽しかったですわ」とか言葉を交わして見つめ合う。
そのちょっと離れた所で、私とレグルスくんは和嬢を見送ることに。
和嬢はマンドラゴラの花と色んなお土産を入れたバスケットを、大事そうに抱え持っていた。
「なごちゃん、そのおはななんだけど」
「はい」
「マンドラゴラのおはななんだ。おせわすると、にょきっとはえるよ」
「まあ、すごい!」
ああ、生えるんだ。
そう言えばネフェル嬢に差し上げたのも蕪が生えたって言ってたっけ。
マンドラゴラは魔物ではあるけれど、一から世話をした人には害は加えない大人しい生き物なのだ。
必要なのは魔力と土と水。動き出したら水と土は自分で何とかするから、そこまでは野菜を育てるようにしながら魔力を注いであげて欲しい。
マンドラゴラの飼い主として出来るアドバイスをすると、和嬢をお家に送ってくれるヴィクトルさんがふわっと笑う。
「魔力の注ぎ方は僕が教えてあげるから、後は和嬢のお爺さんやご両親に手伝ってもらうと良いよ」
「はい、わたくし、からさないようにせいいっぱいつとめますね」
「うん。だいじにしてくれるとうれしいな」
和嬢もレグルスくんもモジモジしながら手を握り合う。
名残は尽きないけど、今日の日はさようならだ。
「またいつか」のお約束だけして、笑顔で和嬢は帰って行った。
レグルスくんは転移魔術の光が消えるまで、じっとそこを見ていて。
なんだか急に大人びた横顔に、そっと話しかける。
「寂しい?」
「ちょっと……。でもまえよりなごちゃんとなかよくなれたから!」
「そっか」
どんなに別れが寂しかったって、会わないより会う方がずっといいんだ。
ぎゅっと私の手をレグルスくんが握る。それから私の胸に顔を埋めた。
「にぃに、あたまなでて?」
「いいよ」
甘えん坊なレグルスくんが戻って来た。
でも昨日のレグルスくんと、今日のレグルスくんは、少し何かが変わってる。
芽吹いた何かは、無かった事には決してならない。
それがちょっと寂しいと思うのは、私も何かが変わったからなんだろうか……?
気が付けば暮れ行く空に一番星がキラキラと輝いていた。
お読みいただいてありがとうございました。
感想などなどいただけましたら幸いです。
活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。








