張り巡らされた縁
いつも感想などなどありがとうございます。
大変励みになっております。
次回の更新は、8/8です。
人間好き嫌いはあるもんだけど、シオン殿下はまた結構それがあるそうな。
とは言っても、彼が苦手とする梅渓家の跡継ぎにも問題はあって。
なんと一を言って十解るような人間でないと会話する意味もないと言って憚らないという。その上ちょっと四角四面で、融通が利かない。勉強はそりゃかつての契沖少年の再来かってくらい出来るそうだけど、人間関係はもうズタボロ。この間のお茶会に来なかったのも、人間関係を軽視してるからだ。要はそんなものにくる人間にロクなのはいないっていう先入観。
いや、まだ若いし?
それも挽回できるだろうって事で、第一皇子殿下の学友の一人に決定しているそうだ。
なにせその御年十二の従兄君、統理殿下には懐いて……げふん、胸襟を開いているから。
一を言って十解るし、大らかだし、人の話はよく聞いたうえで譲らない所は譲らない強さもある。
彼にしてみれば理想の君主だってさ。
そんな人物評に、私がひねり出した言葉は。
「……同族嫌悪って知ってます?」
「じゃあ、君も多分アイツ苦手なタイプだよ」
「巻き込まないで下さいよ」
私は別にレグルスくん大好きオーラを出してる子に焼きもち焼いたりしないよ。紡くんとか「ひよさまはもうひとりのにいちゃん!」って言ってるけど、「可愛いね、お菓子食べる?」くらいにしか思わない。
でもそこでお菓子渡すと、奏くんに止められるんだよね。お家帰って夕飯とか食べられないと、それはそれでご両親から紡くんが叱られるらしい。ゴメン。
違う、そうじゃない。
シオン殿下はそっぽを向く。
統理殿下はやっぱり苦笑いだ。
「悪いヤツではないんだが、こう、選ぶ言葉が厳しいんだ。もう少し言われた人間の身になってもらえればな……とは思う」
「人の心が判らない系ですか。面倒くさいな」
ツンツンしてる人間の言葉の裏にある親切を読み解くなんて、コミュニケーション能力が余程高くないと難しい。
私は無理。パス。
肩をすくめると、シオン殿下がにやっと笑った。
「うん。そういう言葉をバシバシぶつけて鼻っ柱を折ってやってよ。お前程度、代りはいくらでもいるぞって」
「だからシオン殿下は私を巻き込むの止めて下さい」
「あら、どうせあちらからいらっしゃるわ。なにせ、鳳蝶様は統理殿下のお悩みを即座に解決してのけた方。あちらからすれば、放っておいて良い存在ではありませんもの」
「私は敵対しなければ人畜無害ですよ」
「和嬢の義理の兄上となれば、レグルス様にも関わりありましてよ?」
ゾフィー嬢は推しのシエルさんが考えたプリンを優雅に食しつつ、ちろりとレグルスくんと和嬢に目線を流す。
たしかにレグルスくんと和嬢の婚約を考えるなら、家同士仲良くしておくことに越したことはない。まして向こうは予定とはいえ当主になろうって存在。下手に拗れたら、レグルスくんと和嬢の関係にもヒビが入りかねない。
悔しいけど、なんか色々踊らされてる。
「踊らされてるのは、何とかしてくれるという期待の証明でもありますわ」
「そんな期待はご遠慮申し上げたいんですが」
「あら、でも、今使われておけば、将来に大きな貸しが出来るのでは?」
「損して得とれ、ですか?」
「さあ、私にはなんとも」
にっこりと美しく桜色の唇が弧を描く。
未来の国母の微笑みは本当にえげつない。綺麗なんだけど、その綺麗さにうっかり頷きでもしたら、待ってるのは泥沼だ。迂闊に返事も出来ない。
だけどゾフィー嬢にしても、統理殿下の右腕か左腕か知らんけど、そういう立場になるだろう人物とシオン殿下が不仲っていうのは思うところが大分おありなんだろう。
判らないでもない。
恐らく宰相という地位を継ぐ人間が、皇家の人間とあからさまに不仲なんて、内内に突き崩す隙があるっていうのも同じこと。
帝国は今、攻め込まれるほど不仲な国は抱えていないけれど、じゃあ安泰かっていえば微妙。内乱の芽は摘んだけど、それもまた国内が安定していれば出なかった話でもあるんだ。
なんでこう、地道におかしくなってる所をあるべくようにしようとしてるのに、次から次に問題が見え隠れするのかねぇ?
少しばかりため息を吐いていると、レグルスくんが不意ににこっと私の方を見た。
「にぃに!」
「うん? なにかな?」
「あのね、なごちゃん、おしろのなかみたいんだって!」
「ああ、そうなんですね。構いませんよ、うさおに案内させましょうね」
「ありがとうございます!」
レグルスくんの言葉に頷けば、和嬢が元気に返してくれる。
そう言えば城にはまだ帝都公演で使った舞台衣装が残されているんだった。あれも見学させてあげれば喜ぶかな?
ヴィクトルさんにそう告げれば、「じゃあ、ユウリとエリックには言っておくよ」と請け負ってくれた。
それはゾフィー嬢にも聞こえてたみたいで。
「私も、ご一緒しても?」
「勿論ですよ」
ということになって。
そうなるとゾフィー嬢命の統理殿下も、舞台大好きシオン殿下もくっついて来ることになった。
そう言えば統理殿下にもシオン殿下にも、城を詳しく案内したことはないな。
善は急げって訳じゃないけど、お茶もお菓子ももういただいたことだし、それじゃあお土産を買って移動しよう。
そんなわけで併設のお土産屋さんに向かう。
統理殿下やシオン殿下、ゾフィー嬢は昨日稼いだ残りでお土産を厳選してる。
和嬢はご家族がヴィクトルさんに買い物用の費用を渡していたようで、これが初めての市井でのお買い物だそうだ。
その初めてのお買い物を、レグルスくんがサポートしている。
そばにさりげなく寄ってみると、レグルスくんは劇団のグッズを勧めているみたい。
いくつかある商品棚を眺めて、その一つで足をとめた。
「えぇっとね。ブロマイドっていうのがあって……」
「やくしゃさんがたのえすがたですか?」
「そう。おきにいりのひとのをかえるよ。れーもかったことあるんだ」
「そうなんですね……。わたくし、れーさまのがほしいです」
おおっと、ここで「れーさま」呼び来ました! 名前呼びは親密さの証です!
いいじゃん、いいじゃん!
お手々繋いだ二人のやり取りが可愛くて、更に耳を傾ける。
「れーのはここにはないかなぁ。あ、でも、にぃにのはあるよ」
「まあ、おにいさまの?」
おおう! お兄様だー!! 誰だよ、お兄様!? あ、私か!?
和嬢の言葉を受けてレグルスくんがふすふすと胸を張って「うん!」と答える。すると和嬢は何故か一枚私のブロマイドを手に取ると、「これ」と買い物かごの中に入れた。
え? いや、なんで?
「なごちゃんもにぃにすき?」
「はい! レグルスさまのおにいさまですし、まえにいちどおうたをきいたことがあるのです。すてきなおうたでしたもの!」
「でしょー! なごちゃんはわかってくれるとおもってた!」
「はい! レグルスさまもおにいさまもすてきですから……!」
ひしっとレグルスくんと和嬢が手を取り合う。
いや、可愛い光景なんだけど、そこで私の話なんかしなくて、もっとこう二人で盛り上がってくれたらいいんだってば。
ちょっと話題にスンっとなってしまう。
っていうか、そんなのお土産にするのやめてよ。大笑いしてる宰相閣下の幻が目に浮かんでくるんだけど。
ちょっとブロマイドどうにかしよう。
そう決めて二人の間に入ろうとすると、ラーラさんに躱された。
「あ、ひよこちゃんの絵姿なら、ボク達が作ってあげるよ」
「まぁ、よいのですか?」
「うん。ほら、折角こんなに仲良くなったしね。何だったら、お兄様からも秘蔵の可愛いのとかカッコいいのを貰えばいいよ」
ラーラさんは「ね?」と私に話題を振りがてら、またウインクを一つ。だから顔が良いってば。
その顔の良さを気にも留めず、和嬢がキラキラした目で私を見上げる。
「よろしいのですか!?」
「勿論!」
「わぁ、にぃに、ありがとう!」
きゃっきゃはしゃぐ二人。
この可愛さに逆らえる人がいる訳ないんだ。
お読みいただいてありがとうございました。
感想などなどいただけましたら幸いです。
活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




