魔物解剖教室 後期
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さて、解剖には続きがある。
何処からそうなんだか解らないけど、下半身にも重要な臓器があるんだよ。
所謂生殖器ってやつ。
これは大人の間では物凄い値段が付くという。
それにドラゴンは卵生なんだけど、雌なら卵があるかもしれない。
勿論ドラゴンの卵も美味だし、滋養強壮とかに大変いいし、殻も顔料や魔術の媒介として使える。
でもそんなに貴重なら、やっぱり献上とか言う話が出て来ちゃうのでややこしいんだよ。
ってな訳で、フェーリクスさんがリュウモドキのモツを取っ払って、その先にメスを入れる。
「……メスだな」
「え?」
「見なさい、卵がある」
そう言って取り出したちょっとオレンジ色したそれは、ごつごつと真珠のような塊が無数に見えた。
「これ、全部卵だけど……一般のドラゴン種と違って魚卵ぽぉい。醤油漬けにして食べたら美味しそうじゃね……じゃなくて、ですね?」
董子さんが慌てて語尾を付け直す。
普通に喋ってもらって全然かまわないんだけど、まあ、皇子殿下方いらっしゃるしね。
で、たしかに董子さんが言うように、リュウモドキの卵は鳥の卵でなく明らかに筋子だ。
これってこんなに沢山のリュウモドキが、菊乃井のダンジョンで生まれようとしていたって事だろうか?
ロマノフ先生が眉を顰めた。
「これはあの場で始末して正解、だったんですかね?」
「そうさな。リュウモドキの幼生は然程強くはないが、それでも中の下くらいの実力がなければ苦労はする。ましてこの卵の数……。百や二百じゃ足らん。外に出さず時を掛けずに倒せたのは僥倖だな」
なるほど。
あの時「この場でなら絶対に勝てる」・「寧ろここでないとダメ」って感じたのは、このためだったんだな。
奏くんと顔を見合わせて肩をすくめる。
奏くんの直観から派生したスキルは「真眼」というらしい。
真を見抜く目ってやつで、直観的に正しい行動を何のためらいもなく取れるようになるヤツだそうな。
それでもまだ下級らしいから、完璧になんでも見抜けないんだって。
嘘の上手な人とか、自分ですらそう思い込んでる人の言葉の真偽を見破るまでは出来ないみたい。
だけど今回の事を顧みるに、十分戦闘時には発揮されてる。素晴らしい。めっちゃ頼りになる。
そう思って拳を差し出すと、奏くんは解ってる顔でこつんと拳を合わせて来た。
そんな私と奏くんを他所に、解剖は進む。
とりあえず卵は一旦時間停止の瓶に保存、かつ冷蔵庫へ。
領民に振舞うほどにはないし、さりとて下級とはいえドラゴンの卵に安値が付くはずもないから、卸先があるかも解らない。
しゃあない。うちで責任取って食べよう。
別にイクラっぽいのを食べたいからって訳じゃないんだ、これは命を無駄にしないためなんだ。
さて、次は脚。
トカゲの足に似てるんだけど、爪と水かきが獲れる。
リュウモドキって水陸どちらでも行けるそうで、水かきは防雨用の道具になるとか。爪は他のドラゴンと同じく、武器に出来るそうだ。
本当に捨てるところがない。
「これ、市場に流したらどんだけの値段が付くんでしょうね?」
カタリナさんはギルドの職員でもあるから、その辺凄く気になるみたい。
フェーリクスさんが顎を擦りつつ答える。
「そうさな。リュウモドキは下級のドラゴンだから……金貨千枚から競が始まるくらいか?」
いや、こっわ。
思わず遠い目をすると、カタリナさんも顔を引き攣らせる。
「ヤバい。ウチのギルド、儲かってるけどそんな金額見た事ないですよ……?」
「そうは言ってもな、ほぼ完全体のリュウモドキなぞ珍しいんだ。それくらいの価値はあろうよ」
「ドラゴンにほぼ傷をつけずに勝つことが、そもそも難しいですからね」
フェーリクスさんの言葉にカタリナさんも頷く。
ドラゴンみたいな強い生き物を倒すのは本当に苦労するんだ。
まず人数がいるし、そもそも強い生き物なんだからお互い無傷って訳にはいかない。
倒されたあとのドラゴンの身体なんて無残なもので、鱗も剥げてれば皮も肉も骨もズタズタって事がほとんど。
内臓だって破裂してたり、ぶちまけられてたりで、売り物にならないのだそうな。欠片でも残ってたら、御の字だってさ。
ぽんっと董子さんが手を打った。
「ごりょーしゅサマ! 卵食べるんなら、舌とモツも少しずつ貰ったらいいですよ!」
「モツ?」
「そう、臓物! 腸とか胃とか肝臓とか心臓とかです。特に肝臓はレバーペーストにするとお酒のあてにも、パンのお供にもなるし! 胃とかは煮込み料理にすると最高ですよ! 舌は薄切りにして塩と葱とレモン!」
「なにそれ、美味しそう!」
あれか?
肉は断面が牛肉に似ていたから、もしやモツってのは前世でいうところのホルモンとかそんな感じだったりするんだろうか?
レバーはペーストにしたら美味しいのなら、もしや豚レバーとか鶏レバー的な味なのかも。
もし豚系なら、前世で好きだったパテ・ド・カンパーニュを食べられるかも知れない。
「やりますね、董子さん! 美味しいモノを流石に良く知っておられる!」
「でしょ? でしょ? うちの専門ですから!」
わぁっと二人で盛り上がる。
しかし、フェーリクスさんの冷静な声が、それを一気に沈静化させる。
「董子、君、料理出来たのかね?」
「痛!? ししょー、痛いとこつかないで!?」
「おや、出来るようになったわけではないのか」
「料理は出来なくても調合は出来るからいいんですぅっ!」
うぎっと叫ぶ董子さんに、何だか温い視線が向けられる。
でもそれならウチには凄い人がいるんだ。
素人の思い付きから茶碗蒸しを再現したり、タコ焼きを焼けちゃったり、圧力鍋を颯爽と使いこなせたりする、うちの料理長が!
そう思っていると、レグルスくんが胸を張った。
「あのね、りょうりちょうにおねがいしたらいいとおもう! りょうりちょう、すごいんだよ。れー、レバーすきじゃなかったけど、りょうりちょうのレバーペーストはたべられるんだから!」
そうなんだ。
レグルスくん、好き嫌いないのかと思ってたら、唯一食べられなかったのがレバーだったらしい。
でも菊乃井に来た当初に、レバーペーストが出たんだけど、レバーだと解らないまま食べちゃってたそうな。
宇都宮さんによると、帝都のお屋敷で食べたレバーペーストが凄く美味しくなかった上に、生臭かったみたい。それ以来レバーが全くダメだったんだけど、うちの料理長のレバーペーストは臭みもないし濃厚で豊かな味わいで、とっても気に入ったそうな。
今では出てくるともりもり食べて、お代わりまでしてるくらいなのだ。
「とってもおいしいんだよ!」
胸をはって物凄く得意そうな顔をするレグルスくんに、カタリナさんが「かわゆいわぁ」とため息を吐く。
そうでしょう、そうでしょうとも。私の弟は最高に可愛いんだ!
私もふふんっと胸を張っていると、それまで静かだったラシードさんが「そうだ」と呟く。
「あのさ、俺の一族にはモンスターのすり身に血とか内臓を混ぜたのをソーセージにするっていう料理があるんだけど……。料理長さん作れっかな?」
「うん? 豚の血を詰めたソーセージは帝都にあったけどね?」
シオン殿下が「どうなの?」と私とレグルスくんに尋ねる。
そういや、帝都にそういうのあった。前世でいうところのブルートヴルスト或いはブラッドソーセージ。
帝都にあるなら、菊乃井でも出来るんじゃないかな?
そう言えば、ロマノフ先生が「ふふ」っと笑った。
「君は大抵の人には我儘らしいことも言わないのに、料理長には遠慮なく甘えますねぇ」
だって料理長のご飯が美味しいんだもん。
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