仕方ないと言えばそれまでだけど
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次回の更新は、7/4です。
まあ、ね。
皆なんか誤解してるって、薄々思ってはいたけど。
私のやることなすこと、全部計算づくって思ってる訳だ。
そんな訳あるかい!
「いや、そりゃね? 今回大掛かりな事をやりましたから、そう思うのもおかしくないかもですけど、私、流石に未来予測は出来ませんから」
「でも、ルマーニュ王国で冒険者ギルドと国の対立が始まるというのは予測できたわけだろう?」
シオン殿下がジト目でこっちを見るけど、それは予測出来てもおかしくないだろう。
だってそもそもの冒険者ギルドの立ち位置は国家の監視だもん。
それを踏まえた上で、ルマーニュ王国の圧政が、国家として正しいのか考えたら自ずと答えはでる筈だ。
そう言えば、統理殿下は首を否定形に動かす。
「一面ではそうだろうな。でも民からの搾取を当然と考えるものはそんな事は考えない。自分達は正しい事をしていると思っているだろうからな。そうであれば不満を抱える民こそがおかしい。その武装蜂起なんてとんでもない事だし、それを陰で唆しているものがあると考えるだろう。ルマーニュ王国はそういう奴が多いんだ」
「価値観の違いですね」
「そんなヤツからしたら、お前は見事に扇動者だ。皇家はルマーニュ王国から、そろそろお前に暗殺者が放たれるんじゃないかと危惧している」
統理殿下の口から出た暗殺者という単語に、レグルスくんや奏くん、ラシードさんやイフラースさんがそわっとする。
紡くんとアンジェちゃんも、お兄ちゃんたちの雰囲気が張り詰めたのを察して、果物氷を食べていた手を止めた。
でも、エルフ先生達は平然としたもので。
「遅いくらいですね」
「だね。僕らがなんのために菊乃井に敷く結界を毎月強化してると思ってたのさ」
「まったくだよ。闇に潜んでる小蜘蛛の数も、どれだけ増えたか」
ロマノフ先生もヴィクトルさんもラーラさんも、その可能性を大分前から考えて行動してくれてる。
それは勿論私も知ってるし、ルイさんやロッテンマイヤーさんも承知の事。
だって私だけじゃなく、屋敷の皆は当然として、ルイさんやエリックさん、ユウリさん、ヴァーサさんにも狙われる可能性がある訳だから、陰に小蜘蛛を潜ませてるし。
勿論、歌劇団や冒険者ギルド、ブラダマンテさんのいる神殿、役所。主要な所には小蜘蛛ちゃん達が潜んでいて、怪しい動きをするものは、闇に紛れて……。
「……まさか、殺して?」
「ないですよ。捕まえて必要な情報を抜き取った後、暗示をかけてからの再教育です」
「あらあら、やりますわね」
ゾフィー嬢が目を光らせる。
皇家にとっても密偵の再教育は、興味深い所だろう。
他人の記憶を弄って再教育って人道的には良くないんだろうけど、どうせこちらに捕まって必要な情報を抜き取られたなんて知れたら、末路は自害か雇い主に消されて終わりだ。
人間だって資源なんだし、無駄に散らせるくらいなら良いじゃん。良くないけど良いじゃん。
だって捕まえた密偵、皆セバスチャンか威龍さんとこの諜報部に送ってるけど、顔色良くなってるらしいし。
密偵って仕事の難しさの割に使い捨てだし、ブラック多いのかね?
「菊乃井に仕えていたけど、君は某国に潜入調査で潜んでて、役目を終わらせて帰って来たんだよ」っていう設定を強めに刷り込んだら、「もうめっちゃ最悪な調査だったわ。使い潰されて死ぬかと思った~」って、大概の密偵がのんびり過ごしてると聞いている。
次の仕事はブリリアントホワイトだと良いね……。
というか、私は今のところ情報収集以外に密偵を使うつもりがないので、彼らを使い捨てにする気はないけど。
「人の記憶を弄るとか良くないとは思いますが、菊乃井には何せ人手もお金もないんです。使えるものはなんでも使います」
「まあ、その辺は口出し出来る立場ではないから、危ない事は出来れば避けてくれとしか。いや、何かやるなら俺にも話しておいてくれたら、後々『第一皇子として命じた』って言えるから」
「む、それは、なんか……」
統理殿下の言葉に眉が寄る。
自分に話せっていうのは、私に向かう恨みや何かを「帝国がやらせた」ってことで薄めようと考えてくれての事だ。それは解る。
だけど、それをすれば最悪統理殿下が矢面に立つことになったり……。
それは、どうなのか。
そんな私の顔を見て、統理殿下は苦く笑う。
「お前が守ろうとする不特定多数に俺が含まれるように、俺の守りたい誰かの大事な誰かにはお前も入ってる。それだけの事だ」
この話はまたしよう。
統理殿下が静かに言えば、これでその話は終わり。
和やかに果物氷を食べた後は、買い物へ。
まずはアンジェちゃんが買いたいって言ってたお花を買いに、花屋。
此処ではアンジェちゃんとゾフィー嬢が出し合って、大きな花束を歌劇団全員に、小さなブーケをシエルさんへの贈り物にした。
統理殿下は剣を見たいそうだから、武器屋に。
今腰に佩いてる剣は、陛下が子どもの頃に使ってたモノだとか。
切れ味に不服はないけど、剣の鞘とかのデザインがしっくりこないらしい。
シオン殿下も使ってるクロスボウをデコりたいらしく、何か飾りが欲しいそうだ。
「れーもおはなかおうかな?」
「んん? なんで?」
「あした、なごみちゃんくるから」
「ああ、そう言えば」
道々歩いていると、レグルスくんがはにかんだように言う。
レグルスくんは、和嬢のこと結構気になってるみたい。可愛いし、なんというか貴族社会にどっぷり染まってない感じがしていいよね。
でも彼女も公爵家のお嬢さんだ。きっと守られるだけのお嬢さんとは違うだろう。今がか弱くても、十年後もそうとは限らない。
それに十年後、凛々しく成長したレグルスくんにおっとりした和嬢が寄り添うって、騎士と姫君って感じでロマンじゃん? リアル騎士物語じゃん?
想像するだけで、なんかキュンとするわー。
よし、お兄ちゃん、いい事考えた!
「レグルスくん、お花はござる丸に頼んでみようよ」
「ござるまるに?」
「そう。珍しい、可愛いお花を見せてくれるかも知れないよ?」
「そっか! うん、そうする!」
ぱぁっと目を輝かせるレグルスくんはとても可愛い。
そんな話をしている間に、殿下方は買い物を済ませたそうで、今度は屋台で買い食いだ。
街の屋台は事前に調査して、何処のものなら食べやすいかとかも把握済み。
なのでさりげなくその店舗に奏くんと紡くんに誘導してもらえば、場所は孤児院の前。
屋台で売っているものは、孤児院にいる子たちがたこ焼き用のプレートを使用して作った焼き菓子だった。
ここならブラダマンテさんが監修してるから、たしかに安全。
ただし焼き菓子は焼きたてだから、急いで食べてやらかした舌の火傷は自己責任です。
皇子殿下やゾフィー嬢にブラダマンテさんも挨拶して、孤児院の経営の話とかも聞けた。
帝都にも孤児院はあるそうだけど、菊乃井や次男坊さんと関わりのある孤児院と違って、何か自分達で経営しているのでなく、全て行政からの支援金と寄付で賄っているため、かなり困窮しているらしい。
「こういう店を出して、それで資金を稼ぐというのも必要かもしれないな」
「うーん、でも、うちのは参考になるかどうか……」
「と言うと?」
「Effet・Papillonの職人養成所としての側面があるから、他所の領地の孤児院より支援金は多めなんです。それに焼き菓子だって材料で一番コストのかかる蜂蜜と卵は、ブラダマンテさんが冒険者として採取してるものなので」
「なるほど」
統理殿下が難しい表情を見せ、シオン殿下もゾフィー嬢も頷く。
お忍びって言うより視察旅行なんじゃないか、これ?
地位があるって大変だよなぁ。
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