授業参観@ダンジョン 二時限目
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めっちゃ大所帯なんだけど、ぶっちゃけこれは皇子殿下方とゾフィー嬢の警護も兼ねてるからそれで良いんだ。
隊列を崩さないように、さりとて早足にならないように警戒しながらダンジョンの中を進む。
哨戒のためにプシュケを一つ飛ばすと、ハキーマもナースィルの背中から出て来て探知の魔術を展開してくれた。
このお嬢さん、本当にできる。
タラちゃんやござる丸も情報収集をしてくれるけど、報告先はラシードさん。何かある時は字を書いてるより、鳴いて伝える方がやっぱり早いからだ。
私達は一応引率の教官から一歩下がって隊列を組んでるんだけど、それを振り返ってシャムロック教官が笑う。
「違う意味で緊張するなぁ」
「どうしてです?」
「いや、こんな戦力組んでるパーティーと潜るダンジョンなんて本当なら危ない所なんだろうなって。菊乃井のダンジョンはわりに初心者には優しいんですけどね」
皆が「へぇ?」という顔をする。
教官は中堅の冒険者で色々渡り歩いて来たそうで、その地にダンジョンがあると言われたら一応調べて潜っていたんだとか。
ソロで行く時もあれば、何処かのパーティーに臨時で入れてもらったり。
危ない所もあれば、簡単に一人で入って出て来れるとこもあったんだって。その経験でいうのであれば菊乃井のダンジョンは難易度がはっきり階層で変わるから解り易いそうな。
その時々で種類が変わるものの、いちばん最初の階層ボスは位階が下の上を抜けて中の下になろうという冒険者なら難なく倒せるらしい。しかしそのボスを倒して次の階層に行こうというなら、絶対に中の下程度の力がないと先に進めないとか。勿論そこの階層ボスは中の上から上の下へ至る実力がないと抜けられない。その下も同じことの繰り返し。
ただ最下層のボスはちょっと様子が違って、そのパーティーの実力に応じた敵が出るそうだ。何というサービスの良さげなダンジョンだろう。
それでも限度ってのがあるらしく、ロマノフ先生が行ったところでドラゴンとかは出てこないそうだ。
どんなシステムなんだ……?
若干の疑問が湧いたけど、それはそれ。
今がどうだってことだよね。
そう言えばぽちのリードを握った奏くんが、少し考えてから口を開いた。
「そんな強いのは出てこないんじゃね? 一番浅いとこに行くんだから」
「まあ、そうだよね」
だって私達、見習いだし。
フォルティスは皆見習い。ラシードさんやアンジェちゃんもそう。皇子殿下方もゾフィー嬢もそうだ。
しかしシオン殿下が首を横に振る。
「君達の見習いと僕達の見習いは意味が違うよ」
「そうだなぁ。俺は同年代の中では馬術はかなりなもんだと言われてたが、レグルスにあっさり抜かれてるしな」
統理殿下が苦笑い。でもそこには卑下とかそういう物はなく、どっちか言うと驚いたって感じ。
それにレグルスくんがきょとんとして「かなだっておなじくらいおうまにのれるのに、なんでれーなの?」と呟く。
奏くんはと言えば「ああ」と軽く。
「おれ、タラちゃんとかぽちとかに乗るのはひよさまと同じくらいできるけど、馬はそんなに上手くないからだな」
「そうなの?」
そう言えばヴィクトルさんがそんなような事言ってたな。
レグルスくんはタラちゃんが乗れる大きさに育った頃から、その背中に乗って壁も天井も走りまくってて、お馬さんの練習を始めた時には実は私よりも上手く乗れてた。翻って奏くんはどっちか言えば、馬よりタラちゃんみたいなトリッキーな動きをする生き物と相性が良く流鏑馬とかも得意。馬じゃないのに流鏑馬とはこれ如何に、だけど。
それでレグルスくんは馬術A++で、奏くんが馬術Aなんだそうだ。私はBから変わってない。良いんだ、Bもあれば普通に乗れてますってことだから。
統理殿下は奏くんと同じくらいで、シオン殿下もそのくらいなんだとか。
っていうか、このメンバーで戦闘面で私が勝てるのって魔術だけなんだよね。それだってシオン殿下なんかAで、ゾフィー嬢もA。ショックだったのが、剣術が私とアンジェちゃんと紡くんの三人とも、同じだった事かな。
アンジェちゃんと紡くんは伸びしろありそうだけど、私って……?
ゾフィー嬢が私の肩ぽんって叩いてくれたけど、笑顔に物凄い慈愛が籠ってて、かえって遠い目になったよね。ちくせう!
そんなワイワイしてるところに「おーい」とラシードさんの声。
同時にかなり先行させているプシュケからアラートが来た。
「敵影あり……。えぇっと、人食い蟻だな」
「はいはい。まだ大分先かな?」
彼方はこちらに気付いていない様子。それなら先手をとるのも良いかも知れない。
しかし、そこにストップが入った。
「まずは、使い魔なしでやってみようか? 今の自分自身の力と仲間の戦闘スタイルを理解して、連携を考えるんだ」
「魔術は使ってもいいですか?」
「勿論。付与魔術ありとなしで、自分が出せる力も確認した方がいい。なので最初は魔術師は攻撃に専念しようか」
シャムロック教官の言葉に皆頷く。それに難色を示しかけたのがリートベルク隊長だけど、イフラースさんが軽やかに「自分達より侯爵様達のパーティーのがお強いですよ?」なんて言うから、しおしおと引き下がった。なんか、ごめん。
という訳で、隊列を整えて敵が現れるのを待つ。
「接敵まであと……十、九、八、七、六、五、四、三、二、一……」
零を告げると同時に、矢とお盆と剣風と礫が飛んでいく。
奏くんとシオン殿下の矢は氷結魔術を帯びて敵の頭上で爆発し、やって来た蟻の群れを凍らせ、アンジェちゃんのお盆と、紡くんがスリングで飛ばした礫が、確実に一匹一匹凍り付いた蟻を砕いた。統理殿下が放った剣風の鎌鼬を、レグルスくんが飛ばしたそれが巻き込んで、まるで竜巻が起こったように蟻を複数蹴散らす。
蟻の前衛中衛はこれで粉砕。あとに続く蟻をプシュケを通じて重力魔術を使って圧し潰していると、ラシードさんとゾフィー嬢の雷撃がそれを容赦なく焼いていった。後衛も粉砕終了。一切付与魔術なし。
後には戦利品の石がゴロゴロだ。光ってるから魔力のこもった鉱物か、宝石かな?
戦闘で得たものはその三分の一を冒険者ギルド、残ったものを生徒皆で山分けなんだそうな。
「こんなもんか?」
「そのようですわね」
ラシードさんとゾフィー嬢の言葉に頷くと、アンジェちゃんと紡くんが「おわりましたー!」とシャムロック教官へと声をかけた。
見ればシャムロック教官は遠い目、イフラースさんはニコニコ、リートベルク隊長は引き攣ってる。
これ、絶対隠れてみてる先生達なら大笑いしてるよね。
気を取り直した教官が、私達に戦利品の回収を指示する。冒険者ギルドから貸し出しされたマジックバッグに品物を入れていくと、シャムロック教官が「お」と声を上げた。
「魔石の大きいのがありましたね。これは後で冒険者ギルドに売ると良いですよ。良いお小遣いになります。この調子でいきましょう」
ざわっと喜びの雰囲気が私達に広がる。
お小遣いって言われると、なんかドキドキしちゃうんだよね。それは私だけでないようで、奏くんと統理殿下が「屋台でなんか買おうかな?」って盛り上がってる。
奏くんと統理殿下は初対面でも「初めまして、よろしく!」「こっちこそ」で通じてたから、根本で気が合うのかも。
「アンジェ、おはなかう! おねえちゃんにわたすの!」
「まあ、シエル様に? では私も、ご一緒してよろしくて?」
「うん! ゾフィーさまは、シエルおねえちゃんすき?」
「ええ! 私、シエル様を贔屓にしていますの!」
ここでは御贔屓の話に花が咲いてる。
そんな私達の様子に、大人たちは何故かほっとした表情だった。
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