授業参観@ダンジョン 一時限目
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次回の更新は、5/30です。
有意義な事を教えてくれたシャムロック教官の授業は、本来戦闘訓練も含まれるんだけどそれは免除。
私達のパーティー・フォルティスには悪鬼熊の討伐記録があるので、それで代替となるそうな。
そもそも免除の方向だったからそれは問題なし。
で、実技が終わったとなると今度は実際にダンジョンの浅い階層で実戦訓練となる訳だけど。
「……なあ、若様」
「にぃに、きづいてる?」
現在私達は菊乃井ダンジョン挑戦中。
私達フォルティスに加えて、アンジェちゃんとラシードさん、皇子殿下方にゾフィー嬢、それから護衛のリートベルク隊長と自分の修行を終えたイフラースさんが同行してる。
勿論タラちゃんやござる丸にぽち、アズィーズにナースィル・ハキーマ、ガーリーの使い魔集団だっている訳で、結構な大所帯で移動中だ。
今回は魔女蜘蛛のライラと奈落蜘蛛のアメナはお留守番。ラシードさんの里帰りに着ていく服になる布を作成中のため。
引率のシャムロック教官は苦笑いで、私達の会話に加わった。
「アレですかね、やっぱり自分頼りないですかね?」
「や、教官殿。アレは違うと思います」
「そうですね、自分もそういうことではないと思います」
ちょっと眉を落とした教官に、リートベルク隊長もイフラースさんも似たような表情で返す。
うん、違う。絶対違う。
三人の会話にいたたまれなくなって私は後ろを振り返った。
そこには広大な洞窟の風景が広がっているだけなんだけど、目を凝らせば微かに認識阻害の魔術痕が視える。
ぐぬぬ、気配が上手く読み取れない……!
でも、微かに魔術の痕跡を感じるから、絶対いるんだ。
何より奏くんとレグルスくんも微妙な顔してるし。
そんな私達の様子に、シオン殿下が首を捻った。
「どうしたんだい? 教官殿も鳳蝶も……」
「どうもこうも……!」
ワキワキと手を動かしていると、ラシードさんが面白そうに後方に視線をやる。
そこはやっぱり洞窟で、時々土の中に含まれる魔石の屑が魔素を吸ってキラキラと輝くのが見えるだけ。
アンジェちゃんが見えにくい物を見る時のように、洞窟に目を凝らす。
「あ、もしかしてロマノフ卿達が付いてきてるのか?」
のほほんと統理殿下の結構大きめな声が壁に反響する。
その言葉にゾフィー嬢が魔術で気配探知をしたようで。
「……何も感じませんけれど、鳳蝶様達がそう仰るならいらっしゃるんでしょうねぇ」
「うん、居るぜ。右の壁当たりに」
「ロマノフせんせいのうしろに、ヴィクトルせんせいとラーラせんせいがかくれてる」
「もう一人いるけど……大根先生かな?」
腕組みして呆れたように言う奏くんとレグルスくんに、皇子殿下二人もゾフィー嬢も言葉を失う。
おう、皆いるじゃん……。
先生達そもそも「君達フォルティスには菊乃井ダンジョンの浅い層は運動にもならないでしょうから、護衛は教官やリートベルク隊長やイフラース君に任せますね」って言ってたじゃん。それなのに後ろからついて来てるし、しかも大根先生まで。
「授業参観ですか、なるほど。小さいお子さんが初心者講座を受ける時、冒険者を護衛にしてその姿を見守るっていう親御さん、結構多いですよ。ギルドも格安で請け負うようにしてますし」
「ああ、なるほど。自分もラシード様の励んでおられるお姿を見られるのは嬉しいですから!」
「そういう事ですか。でしたら私も陛下や妃殿下にもお二方の雄姿を見ていただきたいですし、ロートリンゲン公爵閣下も……」
「それでしたら、後でギルドに依頼なさったら良いですよ。ギルドの依頼を受けた魔術師が、幻灯奇術で教官や護衛が見た記憶を布に移してくれるっていうのをやってますから」
「え!? そんな事してるんですか!?」
前半部分は心を無にして聞いてたけど、後半の幻灯奇術の話には反応せずにはいられなかった。
ローランさん、何やってんです?
うっかり出そうになった言葉を飲み込んでいると、シャムロック教官が穏やかに話してくれる。
なんでも小さい子が冒険者を志す家はやっぱりちょっと貧しいんだそうな。
冒険者って言うのは誰もが知る危ない職業でもある訳だから、幼いうちに働きに出さなきゃいけないようでも心配は心配だと悩む親は多い。そこで小さい子が初心者講座を受ける際は、安全を尽くしてることを示すために記録を残すようにしたんだとか。
それを親に見せているうちに「子どもの雄姿を残しておきたい」っていう親が増えたのと、新米魔術師のちょっとした稼ぎになるように考えられたのがそのサービスなんだそうだ。
因みに普段の初心者講座では実戦訓練の際、教官の他に後三人護衛が付くそうで全員の視点が見られるんだって。
ちょっと裕福だと、その記録布に加えて、護衛を雇って授業参観までやる親もいるとか。
なんか、思いもよらない事になってるな。
内心で若干白目を剥いてると、奏くんが首を横に振った。
「今回はそのサービス利用しなくても、先生達が見てるから頼めばくれるんじゃね?」
「は!? そうですね!」
リートベルク隊長は「お願いしてみます」なんて言ってるけど、その言葉に皇子殿下とゾフィー嬢が固まる。
授業参観なら頑張って良いとこ見せないと、だもんな。でも止めない。
私やレグルスくんや奏くんなんか、生で観られてるんだぜ?
そういやラシードさんなんか、いっつもイフラースさんと一緒なんだから授業参観も何もないんじゃなかろうか?
そう思って聞いてみると。
「え? 俺? イフラースは俺が何してもほめてくれるから、やる気になるけどな!」
「ああ、そういう……」
ラシードさんは胸を張る。
この人はやっぱり押さえつけられるより、褒められる方が伸びるタイプなんだろうな。
菊乃井に来た頃のオドオドした感はもうすっかりなくなっている。なら、故郷に帰ってもちょっとやそっとでは揺れないでいられるだろう。
「アンジェ、あのぬのほしいなぁ……」
ラシードさんの様子に安堵していた私の耳に小さな呟きが聞こえた。
アンジェちゃんはお姉さんに、自分が頑張っている姿を見せたいのか……。
お姉さんのシエルさんは、歌劇団で頑張ってる。自分もその姿を胸に、仕事に勉強に頑張ってるんだ。
レグルスくんがアンジェちゃんに気付いて、そっと私の手を握る。
「にぃに」
「うん」
すると奏くんも気付いたのか紡くんを連れて、私と一緒にアンジェちゃんと視線を合わせるように屈むと、カパッと笑う。
ラシードさんも近寄って来た。
「アンジェの姉ちゃんに見せるやつは、おれと若様で作ってやるよ」
「そうだね。いっぱい頑張ろうね」
「いいの? ありがとうごじゃ、ございます!」
「れーもてつだうから、シエルくんにみせような!」
「はい! アンジェ、がんばる!」
「つむも! つむもてつだうよ!」
「俺も、アズィーズ達も手伝うからな」
アンジェちゃんを中心に集まった私達に、統理殿下もシオン殿下もゾフィー嬢も近寄って来る。
そしてにっと笑うと、統理殿下がアンジェちゃんの頭を撫でた。
「よし、今日は一緒に頑張ろうな!」
「あい! よろしくおねがいします!」
「こちらこそ、アンジェ」
「皆で頑張ろうね」
まるで円陣を組むようになると、皆で「頑張るぞ! おー!」と声を合わせる。
教官やイフラースさんやリートベルク隊長が何故か拍手してる。
で、頑張るには先に進まなきゃいけない訳で。
此処ではパーティーの陣形やらを学ぶ目的もあるんだから、陣形を組む。
まずは既にパーティーを組んでるフォルティスの陣形を基本に、ラシードさんやアンジェちゃん、皇子殿下方、ゾフィー嬢を配置って形にして。
「前衛タラちゃん、ござる丸、アズィーズ、ナースィル・ハキーマ、レグルスくん、統理殿下で、中衛がラシードさん、紡くん、アンジェちゃん、ゾフィー嬢。真ん中にアンジェちゃんと紡くんとゾフィー嬢を入れて守りつつ、後衛に私、シオン殿下。奏くんはぽちと遊撃……かな?」
「若様が防御の要で、攻撃の要はひよさまな。俺は必要ならどこにでも入るから」
「うん、それで良いかな」
シオン殿下はクロスボウが得意で、ゾフィー嬢は魔術師だけど得意なのは薙刀。
だから「十分戦えます!」って言われたんだけど、それよりはアンジェちゃんと紡くんを守ってもらう方がいい。それに魔術は中衛でも十分届くんだもん。
さ、じゃあ、行くとしますか。
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