クラフトがとりあえず基本の世界
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次回の更新は、4/15です。
厩舎の建築はもうちょいかかりそう。
それでも普通に大工さんがやるよりも、魔術で土台を固めたり、木組みが外れにくくしたりっていうのをやってるからか、大分早いんだ。
多分あと一日ほど頑張ったら出来そうって言うところで、その日もお開きになったそうだ。
なんで伝聞かと言えば、私がジャミルさんや料理長達と作業している間に、そう言う運びになったから。
聞いたのはお夕飯の後の、憩いの時間だ。
「それで、君の方は何をしてたんですか?」
「飲み物を作ってました。ジャミルさんだけじゃなく次男坊さんも飲みたいっていうから、スパイスの入った飲み物なんですけど」
「にぃに、それ、おいしい?」
「うーん、好きな人は好きだと思うけど、レグルスくんはどうかな?」
レグルスくんは炭酸があまり得意じゃないんだよね。
あれは炭酸割りにして飲むのが異世界の主流だけど、牛乳に入れても楽しめる。でも砂糖を無茶苦茶使う分、飲み過ぎには気を付けないといけない。
そう説明すれば、ラーラさんが手をポンと打った。
「だから今までその飲み物を作らなかったのか」
「ああ、はい。使用する砂糖のお値段が怖かったのもあるし、その……ダイエット中でしたし」
一回作って飲んでしまったら、誘惑に勝てる自信がなかったんだよねぇ。
今もそれは同じだけど、私、二日に一回はエルフィンブートキャンプしてますし? 流石に一気にリバウンドするってことはない、はず。ない、よね?
って言うか、エルフィンブートキャンプ凄くきついんだよ。私がしてるのは主にかくれんぼや鬼ごっこなんだけど、先生やレグルスくん、奏くんから逃げ回るとか隠れるとか無理ゲーもいいとこじゃん。
味方はござる丸とタラちゃんで、二匹の手を借りて制限時間まで隠れるか逃げ切るかしたら私の勝ち。勝てる時は勝てるけど、負ける時は瞬殺の時もある。
先生やひよこちゃん、奏くんから逃げ切れたり隠れ切れるなら、何があっても誰かに捕まるような事はないだろうっていう訓練だよね。
ようは戦う事を考えるより、逃げ切って皆と合流しなさいって方針なんだ。まあ最近は「反撃してもいい」っていうルールになったけど、レグルスくんや奏くんにやり返すのは気が引けるので、専ら先生を狙ってる。でもタラちゃんやござる丸は、容赦なくレグルスくんや奏くんを狙うけどね。
偶にタラちゃんの糸で足止めされたレグルスくんが「にぃに~」って呼ぶから、思わず出ていきそうになるのを我慢するのが大変だ。そういう時に出ていくと、奏くんに狙撃されるので。
それはちょっと脇に置く。
兎も角、運動してれば大丈夫だろう。それはアレを今後発売するにしても、注意書きとかに載せないといけないなって感じ。まして、ポムスフレと組み合わせるって危ないんだ。主に脂肪と糖分的に。
「何にせよ、明日のおやつの時間のお楽しみって事だね」
「はい。楽しめるように色々用意しておきますね」
ヴィクトルさんの言葉に返せば、皆楽しそうな目で頷いてくれる。
さあ、どうなるだろう?
ドキドキしながら次の日。
朝ご飯はそば粉で作ったクレープ生地に目玉焼きを載せたガレットに、カリカリに焼いたベーコンとトマトをくり抜いて中にお野菜を詰めたサラダ、空豆のポタージュだ。
そば粉のガレットはラーラさんのお気に入りだし、空豆のポタージュはレグルスくんのお気に入り。
私は何でも食べられる方だけど、可愛く盛りつけられてると嬉しいから、トマトを器にしたサラダは結構好きだったりする。
それも終われば、今日も菜園の手入れをしてからせっせと工事だ。
そんな訳で玄関を出て庭に回ると、ラシードさんとイフラースさんとでくわす。
ラシードさんはアズィーズとナースィルとハキーマ、それにライラを連れてるし、グリフォンのガーリーもフヨフヨとイフラースさんの側で浮かんでいる。
どこかに出かけるんだろうか?
声をかけると、ラシードさんが答えた。
「ヨーゼフさんの颯とグラニの散歩に付き合わせてもらってるんだ。どうせだから今日は皆で、戦闘時の連携とか訓練しようかと思って」
「そっか。いつ戻る?」
「夕方には戻る予定。ナースィルやハキーマの実力もちゃんと把握しとかないと」
「そうですね。頑張ってください」
「ああ。勝てない戦いは下策も下策だからな」
にっと口の端を上げてラシードさんは親指を立てた。
彼は彼で自分なりにやらなきゃいけないことや、自分の立場というものを考えた上で行動することに決めたんだろう。
私もやれることをしなきゃ。
ってことで、厩舎建設をおやつの時間までに終わらせて、皆シャワーを浴びてさっぱりしたら、やって来ましたアフタヌーンティーのお時間!
料理長とアンナさん、カイくんが、応接室で待っていた私達とジャミルさんの前にポムスフレと昨日作ったシロップをカートに載せて持って来てくれて。
「仰る通り、ポムスフレと例のシロップ、よく冷えたお水と炭酸水をお持ちしました」
「ありがとう、料理長。じゃあ、仕上げですね」
「はい」
声をかけると、アンナさんとカイくんがコップを人数分出してくれた。
そこにスプーンで二掬いくらいシロップを入れると、それぞれ炭酸が好きな人には炭酸水を、そうじゃない人には冷たいお水を注ぐ。
そうすると琥珀よりもう少し濃いめの液体が、コップの中でしゅわしゅわと爆ぜた。
奏くんの持つグラスで起こるしゅわしゅわと琥珀のグラデーションに、レグルスくんの目が不思議そうな色を持つ。
「にぃに、これ、なぁに?」
「うん、クラフト・コーラって言うんだよ」
「クラフト・コーラ?」
そう、手作りコーラだ。
コーラというのはそもそもシナモンやバニラに柑橘類の皮やら実やら、ナツメグだのクローブだのカルダモンやらに、コーラの実を入れて作ったシロップを、水で希釈して販売されてたもんなんだけど、大手飲料メーカーさんが炭酸水で希釈したのを売り始めたからそうなったらしいんだよね。
んで、「俺」が死ぬ前には色んな飲料を手作りするのが流行して。
ビールやらワイン、サイダーがご当地で作られてて、コーラも作られ始めてた。それで「俺」はやっぱりそういう物には手を出したがるタイプだったようで、コーラも作った訳だ。
今回使ったのはその基本のレシピ。「俺」はもう少しこのレシピよりレモン強めが好きだったから、レモン果汁を飲むときに追加してたんだよね。
因みに前世の「俺」の生きてた時代でも、既にコーラの実はレシピから消えていたらしく、厳密に言えばこのレシピは「コーラ・シロップ、ただしコーラの実抜き」って事になる。
でね。
おやつにしたポムスフレは、ジャガイモを空気が入るように揚げて作った言うなればポテトチップス。味はうす塩。
ポテトチップスとコーラって、ポップコーンとコーラぐらい無敵の組み合わせじゃないですか、やーだー!
「コレガ次男坊サンノ仰ッテイタ飲ミ物……!」
「たしかにスパイスの匂いはしますが、味の想像がつかないですね」
「甘くて、ちょっと癖はあるけどレモンの爽やかさも感じますよ」
ジャミルさんが興奮したようにグラスを持ち上げて、一口。ロマノフ先生もちょっと香りを確かめてから、グラスに口を付ける。二人とラーラさんとヴィクトルさんに料理長は炭酸、私とレグルスくんと紡くん、アンナさんやカイくんはお水だ。
「お、凄い! しゅわしゅわする!」
「あまーい! でもおイモたべたらしょっぱいし、おいしい!」
「つむ、これすき! しょっぱいのもあまいのも!」
しゅわしゅわを楽しむ奏くんに、甘い飲み物と塩辛い食べ物を楽しむレグルスくんと紡くんがキャッキャウフフ。
「これは……癖になりますね」
「甘さが塩辛さを、塩辛さが甘さを引き立てあって、これはついつい食べ過ぎそうですな」
「うん。これは気を付けないといけないやつだよ」
「まんまるちゃんが警戒してたのも解るね」
大人の皆さんも気に入ってくれたみたい。
さて、ジャミルさんはどうだろう?
ちらっと見れば、その顔は確信に満ちている。
「コレ、イケルト思イマス」
「良かった。商機は恐らく近日中に来ますよ」
にこっと笑えば、ジャミルさんが不思議そうな顔をする。
「あ、遊びに来るからか!」
「そうだよ。友達なんだから、美味しいものは教えてあげないとね」
奏くんの言葉に、私は満面の笑みで答えた。
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活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




