実益と修行の兼ね合いと
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星瞳梟と絹毛羊は運命共同体。
絹毛羊の背で育った星瞳梟は、自身を育ててくれた羊の子を兄弟として育つ。
寿命は個体差はあれど絶対的に星瞳梟の方が長い。
だからというのではないけれど、自身の兄弟羊が死んでしまった後も、その羊の子や孫を見守っている星瞳梟は多い。
翁さんもそうで、絹毛羊の王様のママン羊さんは、翁さんの兄弟羊の孫にあたるそうだ。そして坊ちゃん羊はひ孫。なお、坊ちゃん羊を「お兄ちゃん」と呼ぶ雛と翁さんには血族関係はないそうだ。が、そこは長なので面倒を見ていたとか。
「だからあたちはお兄ちゃんと一緒にいくのだわ」
「はぁ。いや、俺はいいけど、お前らって何食べんの? 飯はどうすりゃ良いわけ?」
「お兄ちゃんは草とか木の実などだわ。あたちは同族と絹毛羊のお肉以外なら、何でも食べられるのだわ」
「虫とかネズミとかも?」
「食べるのだわ。どっちか言うとネズミが好きなのだわ」
「おお。えぇっと、こういう時なんて言ったっけ? 善処する、だったかな?」
ラシードさんが尋ねるように私を見るから頷く。
絹毛羊の方はござる丸の皮を前に食べてたからそれでいけるとは思っていたけど、星瞳梟の方はノーマークだったから、ラシードさんが聞き取りしてくれてるのは有難い。
というか、この雛ちゃん人間の言葉が話せるタイプの子だったようだ。巣立ちまでにはあと二か月くらい必要らしい。
坊ちゃん羊は早速アズィーズとガーリーとござる丸に遊んでもらって、ライラとタラちゃんは大急ぎで猛禽が掴まっても大丈夫なアームガード用の布を織っている。
「でも、なんでにぃにはけいやくしなかったの?」
「ラシードさんのお家に乗り込むなら、ラシードさんの戦力も補強しないと」
「ああ、同じような雪山に住んでるんだっけ?」
こてんと首を横に倒すレグルスくんに答えれば、奏くんが首を捻る。ラシードさんは少し考えてから、口を開いた。
「雪樹はたしかに雪山だし、此処と違って春になったからって雪が解けたりしないから、絹毛羊にも動きやすいとは思うけど……」
それがなんだ?
ラシードさんの顔にそう書いてある。
私はそっと彼の抱いている星瞳梟の頭を撫でると、雛に声をかけた。
「お嬢さん、つかぬ事をお伺いしますけど魔術はどのくらい使えます?」
「あたちの使える魔術は多いのだわ。得意なのは攻撃系なのだわ。攻撃魔術なら人間でいうところの上級魔術まで使えるのだわ」
「回復と付与魔術も?」
「勿論なのだわ」
おお、想像以上に拾い物な件。
「私、授業の一環で雪樹について調べたんですけど……」
前置きして、先生達や大根先生のお話を聞きつつ調べた事を話す。
雪樹一帯に住む魔物は勿論その生活環境に適応して、寒さに強い魔物が多い。
自然、雪樹の一族が契約するモンスターも寒さに強く頑丈な生き物となる。ラシードさんのオルトロスのアズィーズ然り、イフラースさんのグリフォンのガーリー然り。他にもユニコーンやバイコーン、ケルベロスなんかとも契約してるらしいけど、それらも寒さに強い生き物だ。
しかしそういった魔物は防御力とか耐久力とかはかなりだけど、一部を除いて水や氷属性以外の魔術に弱い。翻って絹毛羊は物理・魔術ともに攻撃も強ければ守りも強く、彼らの必殺技は口からの放電ときたもんだ。これほど雪山制圧にもってこいな魔物もいまいよ。おまけに星瞳梟の雛も頼れるし。
にこっと笑えば、ラシードさんが顔を引き攣らせる。
「いや、制圧って……大袈裟な」
「何言ってるんです。貴方、決着付けないといけない相手が雪樹にいるでしょう? 相手に対する不利は減らして、こちらの有利を増やすんですよ。まず戦場に着くまでに九割方勝ったも同然の状況にしておく。これが戦の定石ですからね」
「お、おう……?」
辛うじて頷いてるけど、ラシードさんの目が泳いでる。そこまで考えてなかったって事だろうけど、これは後でルイさんにも手伝ってもらってしっかり心得てもらわないと。
人の上に立つものが「戦う」って事は、勝たなきゃ意味がないし、そういう立場の者は勝てない戦いをしてはいけない。
とは言え、今は少し置こう。
だってブラダマンテさんがにこやかに紡くんとアンジェちゃんの手を引いて、刈ったばかりの絹毛羊の毛を持って来てくれたから。
お弁当を食べ終わって、坊ちゃん羊と星瞳梟の雛との契約も終えた後、毛刈り自体も終わったんだけど、今度は刈った毛を持って帰らないといけない。
皆で毛を一つにまとめて、ヴィクトルさんが作ってくれた特大収納マジックバッグに詰め込む作業をやってる訳だ。
虫型の極小モンスターを私達が魔力制御の修行の一環で退治して、それを先生達に渡して袋に詰めてもらうんだけどこれが中々難しい。
虫を瞬殺できるほどの威力で魔術を使うと、折角の絹毛羊の毛が傷む。さりとて弱い魔術だと逃がしてしまうんだよね。毛を傷めない、さりとて虫を逃がさず駆除できるくらいのギリギリを攻める。まあ、難しい。
「この魔術の使いかた考えたの、ぜったいロマノフ先生だよな?」
刈った毛を握りながら、奏くんが眉間に深く深くしわを刻む。
「なんでそう思うの?」
「にぃに、これ、すごくつかれる!」
「こういう出来るか出来ないかは、絶対ロマノフ先生だろ!?」
「ヴィクトルせんせいとラーラせんせいは、できることをいっぱいやらせてくれて、できたらいっぱいほめてくれるから!」
ひよこちゃんもぶちっと膨れて、おめめが心なし据わってる気がする。
いや、うん、そうだね。先生はいつもギリギリ攻めてくるし、大体それでぼやいてるのが私なんだけど。
「ろ、ロマノフ先生も、出来たら褒めてくれるじゃん!」
「ほめてくれるけど、出来ないかギリギリだったのを出来たから感がすごいんだけど!」
「いや、でも、出来たら次のレベルに進めるってことだし……」
それはそれでいい筈なんだけど、いい筈なんだけど……。
「っていうか、出来なかったら出来なかったで悔しいから、絶対やるんだよ! レグルスくんも、奏くんも出来るでしょ!?」
「やるよ!? 当たり前だろ!? 負けるか、絶対!」
「ぜったいまけないー! ぜったいできるんだからー!!」
私は多分根が物凄く負けず嫌いなんだよね。レグルスくんも奏くんも、その辺は多分似てるんだ。
なので気合を入れるために大声を出す。
「よっし! 二人ともやるよ!」
「「おー!!」」
魔力をじりじりと加減しながら極々微小な電流を、刈ったばかりのほやほや羊毛に流せばポトポトと小さな虫型モンスターの死骸が地面に落ちる。
星瞳梟の雛がラシードさんの腕の中から飛び出して、その死骸を「おやつなのだわ」と嬉しそうに啄み始めて。
「あー……俺も混ぜて」
「おう、ラシード兄ちゃんも負けんなよ?」
「そうだよ、ラシードくんもできるんだから!」
「やるからには不退転ですよ!」
「お、おう……。つか、鳳蝶この間の武闘会の時より気合入ってんな?」
「人に負けるのも腹立ちますけど、自分に負けたらそれより腹立つからですよ!」
私達のやる気に当てられたのか、ラシードさんが引き攣った笑いを浮かべる。
けれど「やる」って言ったからには彼もやる気なようで、羊の毛をいくらか握ると徐々に電流を通していった。
するとよちよち歩きで星瞳梟の雛がラシードさんの足元にやってくる。
「この虫を沢山食べられたら、しばらくあたちのご飯の心配はいらないのだわ」
「マジか、やるわ。使い魔に腹いっぱい食べさせてやれないなんて、魔物使いの名折れだからな」
「がんばるのだわ、マスター!」
「おう、任せろ!」
俄然やる気が出てきたラシードさんに、私もレグルスくんも奏くんも顔を見合わせる。
立場が人を作るってこういうことなんだなぁ。
そんな事を考えながらの虫退治は、ロマノフ先生の予想時間を遥かに上回る早さで日没より大分前に終了したのだった。
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