見かけを裏切る生物
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次回の更新は、3/25です。
「お久しぶりです。本日はお招きいただいてありがとうございます」
「なんの、ご足労いただいたのはこちらの方じゃ。王達も再会を心待ちにしておりますぞ」
胸に手を当てた私に、同じく羽を胸にかざす翁さん。
ひよこちゃんや奏くん・紡くんやアンジェちゃん、ラシードさんも同じく翁さんに声をかけて賑やかだ。
先生達やブラダマンテさん、イフラースさんも声をかけたけど、こっちは穏やかに。
前の訪問時にいなかったタラちゃん達使い魔の事も紹介すれば、翁さんはそのふっくらした胸を膨らませて笑う。
「なるほど、蜘蛛族とは有り難い。それにマンドラゴラも」
「どういう事です?」
「うむ。我らは野に生きる故に、極小の虫型モンスターにしがみつかれることがあっての。退治していただけるなら幸いよ」
「ああ、なるほど」
「マンドラゴラにしても、葉の一枚、茎の一本でもあれば、この春生まれた赤子が今年の冬を安心して越えられるというもの」
「おお、そうですか」
丁度良かったみたい。
貰いっ放しじゃ悪いから、なにか出来る事があれば聞こうと思ってたんだよね。
そう思っていると、レグルスくんが私の手を軽く引っ張った。
「にぃに、くろいみのこと……」
「ああ、そうだね」
「うん? 黒い実とは?」
ほんの小さなレグルスくんの囁きを聞き逃さず、翁さんがこてんと首を傾げる。
それに近くにいた紡くんとアンジェちゃんが、たどたどしくも黒い真珠百合の実が欲しい事を話す。翁さんの表情が驚きに変わった。
「なんと、あれが欲しいと?」
「ええ。少しで良いんですが」
「いや、少しと言わずにある物全て持って行ってもらっても構いませんぞ」
「いいのー?」
「やったー!」
レグルスくんもアンジェちゃんも紡くんも、両手を上げて喜ぶ。でも私は翁さんの反応が気になる。それは奏くんやラシードさんも感じたみたいで、翁さんに二人が尋ねた。
「あのさぁ、翁のじいちゃん。その黒い実ってそんなに生えないって聞いたんだけど」
「なんか特殊な条件があるって。そんな沢山あるもんなのか?」
「うむ。アレはの、我ら野に生きるものには毒なのじゃよ」
「え? そうなんです?」
驚いた私に翁さんが教えてくれた事には、その黒い真珠百合の実は花の近くで毒性のある生物が死ぬと出来るという。
毒性のある生物の躯を養分として花が育つ時に、その生き物から吸い上げた毒が実の方に溜まって実が黒く染まるのだとか。
食べられない物だし、それを落ちるに任せるとまた毒のある実をつける花が付いてしまうから、収穫はするけど芽が出ないようにして一か所にまとめて保管しているんだって。
真珠百合は凍らせたり茹でたりすると、本当の真珠のように固まって、もう芽を出さないんだよね。ロッテンマイヤーさんやルイさんの装飾品にした時には、バレないように実を茹でるのに料理長に協力してもらったのもいい思い出だ。
毒性を抜く方法はちょっと考えないといけないけど、そういう希少材料は手に入るなら欲しい。
「えぇっと、じゃあ、その黒い真珠百合の実をいただきたいんですが……何かと交換でいいです?」
「それは構わぬが……。我らには必要のないものだから、特に対価は要らんがのう?」
「でも、貰いっ放しって良くない気がするので」
「ふむ。ではその辺りは、王にあってから決めると良かろうよ」
「そうですね、まずは王様にお会いしましょう」
そんな訳で、翁さんに先導されて、針葉樹の森へとハイキングだ。
先生達の転移魔法で森まで行けなくはないんだけど、急にテリトリーの中に人間やエルフ、そのほか使い魔達が現れたら羊たちが怖がる……なんてことはないけど、こっちが電撃を問答無用で浴びせかけられる。
なので、普通に徒歩で。
疲れちゃうからアンジェちゃんと紡くんはやっぱりアズィーズの上に乗ってる。
てこてこと歩くこと暫く、森の入口が見えた。
すると森の奥の方から「メェェェェェッ!」と大きな鳴き声と共に、塊が突撃してくる。
「あ、いかん。お若いの。左右に分かれて避けてくだされ」
「なんです!?」
「よく言うじゃろ? 走り出した羊は中々止まれないんじゃ」
「初めて聞きましたけど!?」
「ほほう? この辺ではよく使うんじゃが、文化の違いかの?」
「鳳蝶君、お話はそこまでで左右に散開しますよ」
「はい!」
何かよく解らないけどロマノフ先生の声が真面目だ。とりあえず塊は一直線に向かって来るから、左右に分かれて散らばれば当たらないらしい。
レグルスくんに手を引かれて避ければ、先生や奏君達も同じく散開してその塊を避ける。
するとその塊が、私やレグルスくんを通り過ぎて、近くにある大岩にぶつかった。お蔭で塊は止まったけど、大岩は粉々。
「……弱ったのう。またどこかから大きな岩を持って来ねばならんなぁ。全く坊にも困ったものよ」
「え?」
坊って言ったよ?
あの塊、坊なの?
いや、それより坊って?
ぐるぐると聞きたいことが頭を過る。
顔を見合わせると、レグルスくんも奏くんもラシードさんも困惑してるし、アンジェちゃんや紡くんもおめめが点だ。
大人の人達はどうかと思っているとロマノフ先生は笑ってるし、ラーラさんもお腹抱えて笑ってる。ヴィクトルさんはちょっと顔が引き攣ってて、ブラダマンテさんは口を手で覆ってビックリしてるみたい。イフラースさんは何か遠い目。
なにこれ?
皆思うことは一つなんだろう。視線が翁さんに集中する。
そんな困惑の視線に翁さんは首を横に振ると、「坊」と塊に呼びかけた。
その呼びかけに「坊」と呼ばれた塊が動く。
「メェェェ!」
鳴いたかと思うと、その塊に四つの足が生えて、くるんと振り向けばそこには羊の可愛い顔があって。
弾かれたようにラシードさんが塊に駆け寄った。
「久しぶりって、お前……。あの時の羊の王子様か!?」
「メェ!」
「そ、そうか。元気そうでなによりだな……」
あの時の王子様。
それってもしかして、ベルジュラックさんに助けられた絹毛羊の王様の子どもだったあの子か?
ラシードさんに声をかけると答えは「本人がそう言ってる」と返って来た。
でもあの子羊ちゃんはどう見ても子羊ちゃんって大きさだったのに、目の前にいる塊の大きさは普通の大人の羊より大きい。具体的に言うと、羊じゃなくて牛って感じ。
絹毛羊って三か月くらい会わないだけで、凄く大きくなるんだな……。
感心していると、「大きすぎない?」とラーラさんが首を捻る。
ブラダマンテさんが、ラーラさんを不思議そうに見た。
「あら、大きすぎるんですか?」
「ああ。流石に大人になるともっと大きくなるけど、それまでに二~三年かかるんだよ。この間あった時は生まれて一年も経たない大きさだったと思うんだけど?」
「それがのう。マンドラゴラの皮を沢山食べたお蔭のようでなぁ」
「え? これござる丸の皮の影響なんです?」
「うむ。他の子羊達も真珠百合の実は食べておるが、坊ほど大きゅうはないのじゃよ。違いと言えばマンドラゴラくらいじゃろうて」
「わぁ……」
思いがけない所でござる丸の皮の栄養価の高さを知ってしまったな。
でも塊があの時の王子様っていうのは解ったけど、それが何で突貫してくるんだろう。
羊王子は尚も「メェメェ」とラシードさんに何かを訴えてるし。
ラシードさんも時々「そうか」とか「ふぅん」とか相槌を打ってるけど、それがふっと止まった。それからラシードさんは緩く首を横に振る。
「うーん、それは俺だけの一存じゃ無理だな。お前も母ちゃんに聞かなきゃ駄目だろう?」
「メェ! メェェ!」
「聞くだけは聞いてやるけど……」
困ったような顔でラシードさんが視線を私に向ける。問題が彼の手に余るのかな?
そう判断して「なんです?」と尋ねれば、ラシードさんがもう一度視線を羊に移す。
「武者修行の旅に出たいんだってさ。そんで、契約して外に連れてってくれって」
「は?」
「強いヤツに会いに行きたいらしい」
「え? それ羊のいう事? その子武芸者かなんかなの?」
何言ってるか、ちょっと解んないです。
そんな顔をする私の傍で「れー、つおいよ!」とか「おー、おれが相手してやろうか?」とか、弟と友達がワクワクした雰囲気出してるのは何なんだろうな?
お読みいただいてありがとうございました。
感想などなどいただけましたら幸いです。
活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




