仁義なきお茶会 急
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次回の更新は、2/25です。
うーん、なんか既視感。
レグルスくんが女の子に優しいのは良いんだけど、この「よいのです」って言い回しがちょっと気にかかる。
何処か芝居がかってるっていうか……って、あ!
ぽんと心の中で手を打つと、つんっとお隣のゾフィー嬢に腕を突かれる。
彼女の意図を察して、私はワザとらしい咳払いを一つ。
「レグルスくん、ご令嬢の手をあんまり握ってちゃダメですよ」
「あ、しつれいしました!」
ぱっと手を離したレグルスくんに、ご令嬢は桃色の頬で小さく「いいえ」とはにかむ。
「それでは和様、私とお茶でも飲みに参りましょうか?」
「あ、はい。では菊乃井様、ありがとうございました」
「それでは少し外しますね」
にこやかなご令嬢達は、淑女の礼を置いてお茶のテーブルへと去ってしまった。
残った私達兄弟も、近場の席へと座る。
テーブルの上にはサブレやビスケット、キッシュなんかがおいてあって、それぞれ流石皇宮って感じに華やか。
近くにいたメイドさんに紅茶を頼むと、私はレグルスくんに話しかけた。
「レグルスくん、さっきの……」
「ん? ひめさまがおんなのこにはやさしくしなさいって。どうしたらやさしくしたことになるかよくわかんなかったから、アンジェにきいたら『おねーちゃんみたいにしたらいいとおもう』っていうから、シエルくんのまねしてみたの。へんだった?」
「うぅん。でもレグルスくん普段から女の子にも男の子にも優しくしてるから、いつものレグルスくんでいいと思うな」
「うん、れ、じゃない、えぇっと、ぼくも? わたしも? うーん、よくわかんないけど、そうおもう。なんかへんだった!」
「そっか。頑張ってくれたんだね、ありがとう」
フワフワの金髪を櫛けずるように撫でれば、レグルスくんがふわふわ笑う。
ひよこちゃんはひよこちゃんなりに、社交ってのを頑張ってくれてるんだな。本当に良い子。
こんな良い子に何かする奴がいたら、ぜったいに尻どころか強制永久全身脱毛の刑に処してやる。
ほわほわと和んでいると、サクサクとこちらに進んで来る足音が聞こえた。そわっと周囲がさざめく。
これは多分来たなと思って振り返れば、そこにはにこやかな第一皇子殿下と第二皇子殿下が。
レグルスくんを促して椅子から立ち上がれば、「やあ」と第一皇子殿下が手を上げた。
「来てくれて嬉しいぞ、鳳蝶」
「お招きに預かり……」
「いいよ、そういう堅苦しいのは。なぁ、シオン?」
「はい、兄上。レグルス、この間は楽しかったね。今日も楽しんでいってほしい」
「はい!」
統理殿下の気安い態度に、周りは……学友候補の年頃の少年たちが一気に騒めく。
これは計算。
私は既に第一皇子殿下を支持している事が明らかで、おまけにシオン殿下とレグルスくんも親し気アピールをしてくれるから、家族ぐるみのお付き合いをしてるって判断されるだろう。
それに私とレグルスくんが揃って統理殿下の目と同じ色の服を着ているのだから、これが何を意味するか、解る子ははっきりとわかった筈だ。
そして解った子は、これをはっきりと親に伝えるだろう。あとは伝えられた親がどうするか……。
判んなかった子の家? 知らんがな。
基本的に大半の貴族の家は、第一皇子殿下が次の皇帝陛下になることに何の反対もしてないんだから波風は立たない。
波風が立つのは第二皇子殿下を神輿にしようとしていた家だ。
私と事を構えるか、それとも……。
自惚れてる訳じゃないけど、神龍を召喚する、古代の魔術師の遺産を受け継ぐ、そして世間的には正義の味方の私を敵に回すってどうなん?
まして私の後ろには、陛下に弓引くこと以外を許された人たちがいるっていうのに。
少なくても今、平和な帝国にあえて乱を起こすことを望む貴族の方が少ない筈だ。第二皇子殿下を担ごうとした貴族もそこまで望んでやってるとは思えない。
いや、シュタウフェン公爵は解んないけどな。
でも公爵家って言ってもそれだけだ。大公家って訳じゃない。皇統に口出す権利なぞ、あるものか。
そんな事を考えつつ辺りを見回せば、穏やかな表情で和嬢を連れたゾフィー嬢がこちらに歩いて来る。
そして気付いた統理殿下が「ゾフィー!」と、親し気に彼女の名を呼んだ。
「会えて嬉しいよ、ゾフィー」
「御機麗しゅう存じます、殿下。でも昨日もお会い致しましたのに」
「やあ、ゾフィー嬢。兄上、今日は貴方が紺のドレスを着てくれるってソワソワしてたんだよ」
「まあ」
うーん、いちゃいちゃが始まったぞ。
正直色恋とか遠い物語の世界の話にしておきたいのに、こうまで近場でやられるとちょっとウザい。
目から光を消していると、肩をすくめつつシオン殿下が私の傍にやって来る。
「……政略なのに政略だって忘れそうになるよね」
「え? 政略なんです?」
「うん。ほら、母上の実家が兄上にとって獅子身中の虫だから、違う後ろ盾が必要でね」
「ああ……」
それにしたって、そうは見えない。というか、ゾフィー嬢の統理殿下を見る目が夢見てるみたいに熱っぽいんだよね。
統理殿下がゾフィー嬢を好きなのかと思ったけど、これは存外逆なのかな。
そうぼそっと言えば、シオン殿下が頷く。
「ゾフィー嬢は僕や君と同類項だもの」
「……ああ」
そらそうだわ。
妙に納得できて思わず目を逸らすと、今度はレグルスくんと和嬢が目に入る。
私が視線を下げたのに釣られてか、シオン殿下も目線を下げた。
「ああ、梅渓家の……和嬢だったね? 楽しんでる?」
「は、はい。とても……」
にこっと笑った和嬢に、シオン殿下も笑い返す。
そんな私たちの会話が耳に届いたのか、統理殿下が和嬢に声をかけた。
「おお、梅渓の! 久しぶりだな、元気にしていたか?」
「はい、おひさしぶりでございます」
声かけされた和嬢は立派に淑女の礼を以て殿下に応える。
すると何を思ったか、隣にいたレグルスくんと和嬢に視線を行き来させて。
「レグルスと仲良くなったのか?」
「あの……はい」
「そうか。なら和嬢もどうかな? 勿論宰相から許可が取れたらだし、そもそも鳳蝶が良いと言ってからだけど」
「え?」
いきなり水を向けられて、驚く。
ゾフィー嬢も、他の子たちも何が統理殿下の口から出るのか気にして、私に視線が集まった。
勿論こちらに近づく機会を逃した、シュタウフェン公爵家のご嫡男様の憎々し気な視線も。
こほんっと統理殿下が咳払いすると、シオン殿下もニコニコと私を見てる。
「いや、夏の事なんだが」
「はぁ」
「今年はロートリンゲン公爵家に避暑に行かせてもらう事になった。それでだ、その避暑に訪れている期間に菊乃井にも訪問させてもらえないかと思ってな」
「えー……」
いきなり何言ってんだ。
そう思っても顔に出さないようには出来たみたい。
ゾフィー嬢がぽんっと手を打った。
「お友達の家に遊びに行くというのは、よくある事ですわね」
「そう、それだ。ゾフィーの家にようやく泊りに行って良いと許可がもらえた。それなら近くの友人の家にもいきたい。そう思って父に伝えてみたんだ。そうしたら『菊乃井侯爵がいいと言ったら』と」
「僕も一緒にゾフィー嬢の家に行くし、兄弟で訪ねていければいいな、と」
「なるほど。それなら私もご一緒しとう御座います。ご近所のお友達のお家に私も遊びに行きたいです」
圧が強い。
これ、政治的なアピールなんだろうか? それとも、個人的な興味?
意図を測りかねていると、レグルスくんが私の袖を引く。
「どうしたの?」
「シルキーシープのおやくそく……」
「ああ」
そう言えば夏にはアースグリムに絹毛羊の王たちの毛刈りに行く約束をしてたっけ?
「あの、ちょっと夏にはお約束があってですね……」
「それが終わってからでどうだろう? こちらにも準備があるし、そちらにもあるだろう?」
「う、うーん。家の者と相談してからでも良いですか?」
「勿論だとも。ああ、本当に都合が悪かったら断ってくれていいから」
さてさて、どうしようかな?
お読みいただいてありがとうございました。
感想などなどいただけましたら幸いです。
活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




