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様式は必要だけど面倒くさい

いつも感想などなどありがとうございます。

大変励みになっております。

次回の更新は、2/11です。

 顔だけでなく雰囲気まで微妙な感じになった頃、遠くの方の来場者が騒めく。

 皇帝陛下や妃殿下がいらしたんだろう。

 なのでお辞儀をして陛下と妃殿下をお待ちしていると、和やかな話し声が聞こえてくる。久しぶりに会った貴族や、地方から出て来た貴族を中心にお言葉をかけていらっしゃるみたい。

 そのざわめきが近づいてきたなと思うと、ぴたりと声が止まる。

 私の俯いた視線の先には凄く上等そうな靴とマント。

 いつかの再現に若干目から光が消えそうになっていると、宰相閣下から面を上げるよう声がかかった。それも私だけでなく、ロマノフ先生やヴィクトルさん、歌劇団のお嬢さん達や楽団員、ユウリさんにエリックさん、ベルジュラックさんと威龍さん、それからマリア嬢にも。

 来ちゃったよ……。

 ロマノフ先生やヴィクトルさんはそうでもないけど、他は皆神妙な面持ちで顔を上げる。

 すると皇帝陛下と妃殿下が穏やかに微笑んでいらした。

 そうして陛下が穏やかに唇を解かれる。


「此度の菊乃井歌劇団の公演、見事であった」

「ありがとう存じます」


 優雅にお辞儀するヴィクトルさんに倣って、歌劇団の面々がお辞儀する。男役のお嬢さんは紳士の、娘役のお嬢さんは淑女の礼をとると、陛下が感心したような顔をされた。


「そうか、普段から男性を演じる者は男性である事を心掛けているのだな」


 その言葉にヴィクトルさんが陛下に、菊乃井歌劇団の総監督としてユウリさんを紹介する。

 ユウリさんが優雅にお辞儀すると、陛下も妃殿下も目を細めた。

 帝国の初代皇妃殿下は歴史書によれば渡り人だそうで、同じ世界か違う世界か判らないけど、そこから来た人と言われると思う事があるみたい。


「菊乃井歌劇団は、劇団を支えて下さるお客様との位置が大変近い歌劇団です。お客様は劇場にひと時の夢を求めておいでになります。街中でお客様と団員がすれ違う事もあるほどです。仮にお客様が物語の中の端麗な皇子に憧れを抱いたとして、その後に街中で少女の姿をした演者を見た時にどう思われるでしょう? がっかりされるかもしれないし、そうならないかもしれない。けれど少しでも残念な想いをされることがないように、公演のあとでも夢を見続けられるようにすることこそ我らの務めと心得ます」

「なるほど、芸術というものは奥深い。役者というものも、中々難しい仕事であるな」

「演者にとっても、観客にとっても、その日その時の舞台は一生に一度きり。そのたった一度の輝きを、永久に心に留めるために御座います」


 胸を張るユウリさんに、劇団員たちも力強く頷く。

 陛下も穏やかに頷かれると、妃殿下がにこやかに頷かれた。

 ゆったりとした仕草で、美しく微笑まれると妃殿下が歌うように言葉を紡がれる。


「来年も一生に一度きりの、素晴らしい舞台を見たいものですこと」

「光栄なお言葉では御座いますが、それは我らがオーナーの次第に御座います」


 妃殿下に視線を向けられた劇場支配人のエリックさんが物おじすることなく答える。

 たとえ誰が相手でも、歌劇団は安売りしないって決めてるから、自分達からは売り込まない。そういう方針で行くことは私も承知してるからだけど、陛下も「もっともよの」なんて言ってくださって。


「なればそなたたちの主に、とくと頼んでおこう」

「恐悦至極に存じます」


 劇団関係者全員が頭を下げる。結構な人数の礼はそれなりに迫力があると思っていたら、宰相閣下がにっと笑った。


「では、後ほど来年の手はずを話し合う事に致しましょう。のう、菊乃井侯爵」


 小さくない声でそんな事を言うもんだから、辺りがざわつく。

 往生際が悪いって思われるだろうけど、本当に陞爵とか勘弁してほしい。でも公の場所で、しかも陛下がいらっしゃるところで「侯爵」と呼ばれてしまえば、辞退するわけにもいかない。

 ひっそりとため息を吐くと、陛下の眉が八の字に下がる。


「……菊乃井伯鳳蝶」

「は」

「邪教を信心し世に混乱を齎そうとする輩を誅罰したこと、並びにレクス・ソムニウムの天空城を継承し、帝国に古の偉大なる魔術師の技術を齎したこと、菊乃井歌劇団の素晴らしい芸術を以て記念祭に花を添えた事。その功を以て、其方を侯爵へと陞爵する。詳しくは後に文書で知らせる。これからも帝国のために励むがよい」

「……身に余る光栄で御座います」


 本当に余ってる。七歳の伯爵もあり得ないけど七歳の侯爵なんかもっとあり得ない。

 陛下も妃殿下も私も皆微妙な顔と雰囲気だけど、それが判るのは関係者。この場合私や陛下や妃殿下、宰相閣下にロマノフ先生とヴィクトルさんだけ。

 当然、ベルジュラックさんと威龍さんには伝わらないので、二人からソワっとしたあからさまに喜んでますって視線が突き刺さる。

 おまけに二人して「おめでとうございます!」なんて言うもんだから、歌劇団のお嬢さん方からも明るいざわめきが起こった。

 こんな嬉しくない「おめでとうございます」なんて初めてだけど、それはお国との関係であってお嬢さん達やベルジュラックさんや威龍さんには関係ないもんね。

 覚悟を決めて「ありがとう」と笑って背後に手を振れば、益々ざわめきが大きくなり拍手まで起こった。

 その拍手の最中さなか、ベルジュラックさんと威龍さんにも陛下からお声がかかる。


「この度の戦い、見事であった。その方らにもそれぞれ褒美を授ける。それは菊乃井侯爵に預ける故、主より後ほど受け取るがよい。心のすく戦いであった」

「は、有難きしあわせ」

「お畏れ多い事で御座います」


 二人ともラーラさんから礼儀作法を仕込まれてるからか、お辞儀する仕草も実に背筋が伸びて凛々しい。此方を注目してる貴族の御婦人方からも、感嘆のため息が聞こえてくる。

 まあね、格好良くて礼儀正しい人は素敵だよ。それは男女問わない魅力ってやつだ。

 でも好意的な視線ばっかりではなくて、やっぱり胡散臭い物を見るようなものもある。それに気づいた宰相閣下が、威龍さんをさりげなく庇う位置に立つ。

 陛下も少しだけ眉を顰めたかと思うと、穏やかに威龍さんに語り掛けた。


「世の中の旧火神教団に対する視線は厳しかろう。しかし其方が率いる者達は、悪しき企みに利用されていただけと聞く。誤解が早く解けるよう、我らも気を配ろう」

「……有難き幸せ。我らは仲間としてともに修行に励んでいながら、邪教の存在にも企みにも、諭されて漸く気付けた愚か者で御座います。この上は一から出直し、世の信頼を得られるよう、我らを受け入れて下さった土地の民の安全のために尽くしたいと存じます」

「うむ、その意気やよし。ところで、新たな教団名は決まったのか?」

「は、我らの新たな修行地は山の上の遺跡。そこから武神山派と号しようと思います」

「そうか」

「はい。伯爵、いえ、菊乃井侯爵閣下の一字をいただこうとしたのですが『反省するのは良いけれど、戒め過ぎるのは苦しくなるだけだ』と仰り」


 威龍さんの残念そうな言葉に、陛下も妃殿下も「なるほど」と頷いた。しかしその眼には何だか面白そうな光が宿ってる。

 ロマノフ先生から聞いてるんだろうな、本当の理由を。

 だって自分の名前が由来の宗教団体とか、ちょっと重いじゃん。それに姫君になんて言って良いか判んないし。

 微妙な顔をしそうになっていると、静かに妃殿下が私の前に立たれる。そして陛下とお顔を見合わせると、従僕が音もなく近寄って来た。従僕がお盆を妃殿下に捧げると、妃殿下はその捧げられたお盆の上に載った手紙を取り上げて。


「北アマルナ王国からのお手紙です。中身は必要ですから検めましたが、菊乃井侯爵宛のものです」

「え?」

「あちらの御妃からお預かりしましたの。侯爵に渡してほしい、と。ネフェルティティというお嬢さんをご存じかしら?」


 なんでここでその名前が……?

お読みいただいてありがとうございました。

感想などなどいただけましたら幸いです。

活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。

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[一言] いつも面白いです。最新巻かいましたよ。先週。出たてで買わなかったのは台本付きと悩んだせいだけど。こっちにも書き込みしたけど、ペンネーム違うからわからないかも。 コミックスも続き楽しみだけど当…
[一言] お疲れ様ですm(_ _)m 見てきました!マンガ~ この部分の原作を読み返したくなるほど、毎回見事に描いてくださいますよね!素晴らしいです° ✧ (*´ `*) ✧ ° 今回はキラキラ尽くし…
[一言] お疲れ様ですm(_ _)m お手紙!気になる!
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