同情するなら以下自主規制
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次回の更新は、2/7です。
お茶会の朝が来た。
けどお茶会が開かれるのは午後で、午前中には園遊会がある。
この園遊会は、武闘会と音楽コンクールで活躍した者達と貴族を集めて行われる短時間のお茶会みたいなものだ。
去年はエストレージャとバーバリアン、それからマリア嬢とラ・ピュセルが招かれたんだよね。
今年は歌劇団の団員全員とマリア嬢、武闘会の優勝者である威龍さんとベルジュラックさんが招かれている。
私?
招かれてるよ。
貴族としても、優勝者としても。
そんな私の保護者はロマノフ先生が務めて下さる。
いうか、この園遊会で私の陞爵が発表されるからなんだけどね。
案の定というか、私の陞爵に異議を唱える貴族が現れた。
理由は一杯あるよね。例えば私が七つで、伯爵なのも異例の話なのに侯爵ってどうなのか、とか。
これを理由に異議を唱える貴族は二派あって、一派は大人になってからまとめて陞爵する方が良いっていう派閥。
これはヴィクトルさんを通じて宰相閣下から聞いたんだけど、まだ年端もいかない私にそこまでの重荷を背負わせるのは……って本気で思ってくれているとか。
息子さんや娘さんが私と年が前後するらしくて、そんな苦労させてやらんでくれっていう感じらしい。
領地経営ってしんどいし、綺麗ごとでは済まない。
それに加えて私がやったのは大掛かりな政治闘争なわけだから、大人も尻込みするような事を子どもにやらせた上に、更に苦労を重ねさせるっていたたまれないんだとか。
威龍さん率いる新生火神教団に関しても、何とかして手分けして監視も手伝うし……と申し出てもくれたみたい。
中には新生火神教団の監視を最初に打診されて断ったけど、「菊乃井伯が背負うくらいなら請け負う」って直談判しにいってくれたお家もあるんだとか。
で、残りの一派は単純に私にこれ以上の力を付けられたくない派だ。
グダグダと文句を言うもんだから、宰相閣下が「卿らに菊乃井伯と同じことが出来るのかね? 出来るのならば示してくださらんか?」って言って黙らせたらしい。
そうだよ、やってよ。
大人がやってくんないから、私がやってんじゃん!
「おやおや、随分ご機嫌斜めですねぇ」
「だって、今陞爵してもいい事何もないのに……!」
「人造迷宮の管理費で収入が増えるじゃないですか」
「新生火神教団の維持費とお引っ越し代が先ですよ」
そうなんだよー。
もう早速新生火神教団の信徒さん達は、威龍さん達のアナウンスに従って続々とアルスターの人造迷宮に移り始めている。
在家の信者さん達もそうだ。早いうちに菊乃井に居を移した信者さんを頼りに、うちの領にお引っ越ししてきてるらしい。
人口が増えるのはいい事なんだけど、あまり急激だと問題が起こりやすくなる。その辺は威龍さんに説明して、信者さん達を押さえて貰ってるんだよね。
割譲されるアルスターの整備を急いでやんなきゃ。お蔭で菊乃井の建築業界はちょっとした好景気が来るって予想されてるけど、これも上手い事ルイさんにコントロールしてもらわなきゃだ。
人が増えれば治安維持につながる費用も増えるし、他にも農地やらなんやらもいる。
アルスターの人造迷宮と菊乃井を直で結ぶ道なんかも整備しなきゃなんないし、そもそも義務教育に使うお金だってまだまだ足りてないんだ。
切実にお金が欲しい。
「苦労してるって同情するなら、金をくれ!」
「あ、もらえますよ。報奨金もちゃんと交渉しましたからね」
「優勝賞金とかでなく?」
「別口で、ですよ」
「ぃよっし!」
やったー!
万歳すると、ロマノフ先生の顔に苦笑が浮かぶ。
「なんというか、最近華やかだから忘れがちでしたが、菊乃井家はそう言えばお金がないお家でしたね」
「そうなんですよ。菊乃井家、最近好景気だから忘れがちだけど!」
そう、歌劇団とEffet・Papillonのお蔭で何とか上向きだしたけど二年前はド貧乏だったんだよ。
今だって、やりたいことをやるにはお金が足りない。
そんな話をしていると、ゆらりと人影が二つ。見ればベルジュラックさんと威龍さんが立っていた。
待ち合わせは空飛ぶ城の正門前。
二人だけでなく歌劇団の団員のお嬢さん達や楽団員、ユウリさんにエリックさんも園遊会に呼ばれている。
だから此処で合流することになってたんだけど、大人数だからヴィクトルさんと一緒に先に歌劇団の人達には園遊会に行ってもらったんだよね。
威龍さんとベルジュラックさんは私と一緒に、ロマノフ先生に皇居まで連れてってもらうんだ。
因みにラーラさんは午後からレグルスくんをお茶会に連れて来てくれることになってる。
ベルジュラックさんはその神狼族特有の銀狼の耳も尻尾も隠さない。
皇居に行くって事で、服装は戦闘時とは変えて公の場所にも着て行けるようなナポレオンジャケットを用意した。
威龍さんにしても普段着ている功夫服を、前世でいうところの男性用チャイナ服に改造したものを着ている。
二人の服はEffet・Papillonで試みに用意した貸衣装だ。これの受けが良さそうなら、貸衣装部門とかも考えようと思ってたり。
「おはようございます。ベルジュラックさん、威龍さん」
「おはようございます、お二人とも」
「おはようございます、主様。ロマノフ卿」
「おはようございます、伯爵様とロマノフ様も」
穏やかに二人が返す。
園遊会では二人にも注目が集まるだろう。
中には神狼族の従者を得るためにベルジュラックさんに近づく人もいるだろうし、威龍さんに旧火神教団について意地悪い事を言う者もいるはずだ。
なるべく二人から離れないようにしないと。
歌劇団の事は気になるけど、あちらはヴィクトルさんがいるし、エリックさんはルマーニュの元官吏。貴族との渡り合い方は心得てるから、何とか切り抜けてくれるだろう。
「それじゃ、行きますよ」
にこっとロマノフ先生が笑ったかと思うと私の手を取る。空いた片方でベルジュラックさんの手を取れば、ベルジュラックさんは威龍さんと手をつないだ。
そして一瞬の浮遊感があったかと思えば、皇宮の、それも園遊会の受付に移動していて。
私達の姿を見た皇宮のメイドさんや従僕さん達がやって来て、園遊会が開かれるお庭へと案内してくれた。
案内された先にはもう、ヴィクトルさんが歌劇団の皆と一緒に並んでる。
ロマノフ先生に率いられて庭にやって来た私にヴィクトルさんが気付いて、お隣にいたマリア嬢に声をかけた。ちらっと私を見て、マリア嬢が笑顔でそっと手を振ってくれる。
「御機嫌よう、マリアさん」
「御機嫌よう、鳳蝶様」
相変わらずお美しいけど、今日のドレスは水色でお花のコサージュが胸元を綺麗に飾っている。
マリア嬢、本当にお洒落なんだよね。
素敵だなと思っていると、ヴィクトルさんが何か悪戯を思いついたように笑う。そしてつんつんとマリア嬢を突いた。
するとマリア嬢が、はにかんだような顔をする。
「どうしたんですか?」
不思議に思ったから聞いてみると、ヴィクトルさんがにこやかに口を開く。
「マリア嬢があーたんに聞きたい事があるんだって」
「聞きたいこと、ですか?」
「はい。あの……大きな猫ちゃんのことなんですけれど」
大きな猫?
なんのことよ?
頭に疑問符を浮かべていると、ベルジュラックさんが「火眼狻猊のことでは?」とボソッと呟く。
ああ、そうか。あんまりゴロンゴロン犬みたいに腹を見せるから忘れてたけど、あれ猫だったわ。
それが聞こえたんだろう、マリア嬢が頷いた。
「あの大きな猫ちゃん、お名前は決まりまして?」
「あ、某もちょっと気になっておりました」
威龍さんの言葉にマリア嬢だけでなく、ヴィクトルさんの後ろにいた歌劇団のお嬢さんや楽団の人たちも頷く。
そう言えば、ラシードさんに「世話するのに名無しじゃやりにくい」って言われて決めたんだったっけか。
マリア嬢に猫の名前が決まったことを告げると「どのような?」と聞き返される。
皆、猫好きだよね。
「えぇっと、城の門番をやってもらおうと思って『ぽち』って」
そう言った瞬間、皆微妙な顔になったんだけどなんでさ?
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