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流行の最先端はいずこなりや

お読みいただいてありがとうございます。

書籍化されている部分に関しては、後々の方の資料になればと思い、あえて誤字脱字や加筆訂正部分をそのままにしております。

ご了承ください。

誤字報告機能を利用し、校正をされる方がおられます。

誤字脱字報告以外はお断りしております。

あまりに目に余る場合はブロックさせていただきます。

あしからず。

 記念祭は結構な盛り上がりを見せている。

 それは歌劇団の活躍もさることながら、武闘会も盛り上がってるからなんだけど、これが何と言うか……。

 うちのベルジュラックさんと威龍さんもだけど、呉三桂率いる火神教団・ルマーニュ王都冒険者ギルド代表チームは無事にっていっていいのか解んないけど勝ち進んだ。

 呉三桂は選手が死人である事を認めた。

 あの試合のあと、宰相閣下自ら呉三桂に問いただしたところ、悪びれることなく「出場選手がネクロマンシーで蘇った死人であってはならぬとの規定は存在しなかったので」と答えた上に「あらぬ疑いをかけられたとあっては火神教団、ひいてはイシュト様の御為にならぬ。イシュト様の御為にならぬ危機の時、我らの教主は蘇って戦うとされております。これは教主の心に適うこと」と言ってのけたそうだ。

 まあ、帝都民と他の選手からヘイトをよく稼いでくれるったら。

 その上で奴らは楼蘭教皇国の衛士団と戦った。

 楼蘭教皇国の衛士団の武器には、アンデッド対策として神聖魔術が付与されている。これは誰の目から見ても衛士団有利と思われたけど、案の定、彼らに神聖魔術は効かなかった。

 計算通りだよね。

 帝都っ子たちはざわついている。

 しかし、楼蘭教皇国の衛士団はカラクリに気付いたようで、高らかに「悪は去年と同様、菊乃井の心正しきものたちに討ち滅ぼされるだろう! 我らには力が足りなかった!」って宣言してくれましたよ。ナイスアシスト。

 実際彼らに足りなかったのは「正義」とかじゃなくて、本当に力だもんね。

 加護とぶつかったら、そりゃ人間が使えるレベルまで薄まった神威なんて弱いもんだよ。

 ベルジュラックさんと威龍さん、それからござる丸とタラちゃんには、氷輪様からのお言葉通り変若水おちみずを沢山飲んでもらってる。 勿論、私も。

 彼ら二人には戦闘中時間を稼いでもらわなきゃいけない。滋養強壮にいいなら、たくさん飲んでもらってたらスタミナ切れとか起こさないもんね。

 これで後は火神教団のチームに当たるまで勝ち進んでもらうだけ。

 此方の事はとりあえず、それでいいとして。

 残る戦場は皇子二人の合同お茶会だ。


「にぃに、れーのおようふく、にぃにとおそろいがいいなぁ」

「うーん。私はレクス・ソムニウム装備で行くつもりなんだけど……」


 もじもじとレグルスくんが言う。

 レクス・ソムニウム装備の見かけだけなら作る事は出来そうだけど、効果まではちょっと今は再現出来ない。

 火神教団チームとの戦いに集中しなきゃいけない時に、ござる丸の葉っぱを早々抜いてもいられないもんね。

 貴族が貴族として威容を示すのに着飾るためだけの服を、レグルスくんに着せるのはちょっとなぁ。

 この子にはもっとカッコいいだけじゃなく役に立つものを、それなりの材料を揃えてそれなりの金額をかけて作ってあげたい。

 レクス・ソムニウム装備だって材料から作ったから、そんなにかかってないだけで、本来ならマンドラゴラを育てる・糸を取る専門技術の育成、諸々を加味すれば領地の予算全部吹っ飛ぶくらいには掛かってる。

 さて、どうしよう?


「そういうのはさ、マリア様に相談したら?」

「マリアさんに?」

「うん。貴族ってかぶっちゃダメなんだろ? マリア様、そう言うのよく知ってるんじゃね?」


 私の隣で歌劇団のショーを鑑賞していた奏くんが言う。

 関係者及び乳幼児連れ専用防音桟敷席にて。

 今日は奏くんだけでなく、紡くんにアンジェちゃんも帝都に一緒に来てくれていた。マチネが終わったら、ベルジュラックさんと威龍さんの試合も、火神教団の試合もないから、ロマノフ先生にお願いして帝都観光の予定。


「ひよさま、おちゃかいはいつ?」

「えぇっと、きょーだんをボコボコにしたつぎのつぎのつぎの……とにかく、つぎのひ」

「ボコボコ! すごーい!!」


 紡くんの質問に、レグルスくんが胸をはりつつ答えると、アンジェちゃんがキャッキャとはしゃぐ。

 無邪気な光景に癒されるけど、本当にマリアさんに聞いた方が良いかも知れないな。でも、マリアさんも国立劇場でトリを務めていらして、今の時期は忙しいだろうし……。こういう時社交界に伝手がないってつらいなぁ。

 はふんとため息を吐くと、ポンと肩を叩かれる。

 振り返ればロマノフ先生が、白い肋骨服とマント姿で立っていた。


「そろそろ公演が終わります。お見送りの準備をしましょうね、オーナーさん」

「はい」


 すっと立ち上がってロマノフ先生とお見送りに向かえば、皆が手を振って送り出してくれる。

 相変わらず満員御礼で、そう言う時は城の外に定員に達した合図として空に魔術で花を咲かせることになっていて、今日も空には花が咲いていた。

 城の外に続く扉の前に立つと、公演が丁度終わったのか劇場に続く扉からざわめきが聞こえる。

 ユウリさんもエリックさんも私の隣に並んでお見送りの準備完了。

 するりと扉が開くと、劇場からどやどやと人が出て来て、口々に歌劇団の公演に対する感想を口にしているのが聞こえた。

 帰っていく人たちにお礼とお見送りの言葉をかけていると、私を見つけた貴族も市民も誰も彼もが、ショーへの賛辞と武闘会での菊乃井チームの勝利を祈る言葉をかけてくれる。

 そうしてだいぶん人が減った頃、シャランラシャランラと優雅に、落ち着いた臙脂のドレスの裾を翻して歩いて来るビスクドールのようなご令嬢がいて。

 その黒髪に若葉色の瞳のお嬢さんには見覚えがあった。

 挨拶をと思ったけど、その形の良い薄桃の唇の前に、ご令嬢の人差し指が立てられる。


「今日は父にお願いして市井を歩けるようにしてもらいましたの。なのでゾフィーとお呼びになって?」

「でしたら、私の事も鳳蝶、と。市井を歩ける……とは?」

「統理様とお話していただいたお礼を兼ねて、弟君のお茶会に際しての準備をお手伝いさせていただきたいと思いまして」

「それは、とても助かりますが……、この事は殿下は?」

「ご存じでいらっしゃいます。貴方様とお話しされて、お心が随分晴れたようで……。お礼の意味を兼ねて、是非ともそのように、と」

「然様でしたか。丁度帝都の流行りをマリア嬢にお尋ねしようと思っていたので、凄く助かります」


 鈴を転がすような軽やかな声音と笑顔に頷くと、ゾフィー嬢も同じく頷く。だけど私達これから帝都観光にいくんだけどな、どうしよう?

 ちょっと考えていると、ロマノフ先生が私の肩をぽんと軽く叩く。


「ラーラとレグルスくんと三人で、帝都の流行りを聞いていらっしゃい。私とヴィーチャは奏君達を合同祭祀神殿に案内しますから、終わったら合流しましょう」


 そんな訳で服を着替えると、私とレグルスくんとラーラさんはゾフィー嬢の乗って来た馬車で、帝都に住まう貴族御用達のオートクチュールのお店に行く。

 案内されたそこは帝都では老舗の店らしく、私達が入った時も貴族のご令嬢が数人、生地を選んでいるところだった。

 店員がゾフィー嬢の姿を見て、すっ飛んでくる。


「ようこそおいでくださいました!」

「御機嫌よう。今日はお友達をお連れしたの」

「然様で御座いますか」


 そう言った後、店員は私とレグルスくんとラーラさんをちらりと見たかと思うと、少し胡乱な顔をする。けれど相手も客商売、瞬時に表情を取り繕うと、「どう言った物をお探しでしょう」とゾフィー嬢に声をかけた。


「ルビンスキー卿はどのような物をお望みかしら?」


 高くもなく低くもない声に、店員の顔色があからさまに変わる。それを見届けると、ラーラさんは鼻を鳴らして店の中を見回す。その視線に私とレグルスくんも店内を見回した。

 すると、店の奥にセーラー服の上とそれに合わせたハーフパンツを着つけられたトルソーが見えて。

 ラーラさんが奥のトルソーを指差すと、店員が揉み手をしながら「帝都で流行りのデザインで、去年菊乃井家の方々が着てらしたモノと同じデザインなんですよ」なんて言うじゃないか。


「ご覧の通りですわ、鳳蝶様。今年の帝都の流行りは、昨年貴方様が御作りになったもの。来年の流行りは今年貴方様が作られるものですわ」


 にこっと笑ったゾフィー嬢とは対照的に、店員の顔色は真っ蒼になった。

お読みいただいてありがとうございました。

感想などなどいただけましたら幸いです。

活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 変若水でお腹たぷたぷ? 栄養ドリンクとかみたいな扱いに(笑) [一言] 貴族御用達の割に顔や態度に出過ぎだけどここ大丈夫?
[一言] ゾフィー嬢が最高すぎてニヤニヤが止まらなかったデス(思わず声出して笑った)
[一言] 店員の胃壁「ゾフィー様!?」 プレシャー:YES!YES!YES!YES!YES! 店員の胃壁「ルビンスキー卿!?」 プレシャー:YES!YES!YES!YES!YES! 店員の胃壁「き…
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