純真なる信仰の復活?
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あしからず。
他者にステータスを見せるっていうのは、あまり品の良い行為じゃない。ましてマウントを取るためだというなら更によろしくない。
でも揺らいでいると言っても長年の信仰を崩すには、それより大きな権威がいる。
神託を巫女さんの口からでないと受けられない立場にあるものよりも、直接受け取れる立場にあるものでは、その権威は雲泥の差だ。
という訳で、はい! どーんっ!
 
名前/菊乃井 鳳蝶
種族/人間
年齢/七歳
LV/20
職業/貴族・商人・魔術師(上級)・魔物使い(上級)・神の歌い手(究極の一)、冒険者(見習い)
スキル/調理Ex 裁縫Ex 栽培A++ 工芸A++ 調合A+ 剣術E 弓術E 馬術B 魔術A+++ 調教A+
特殊スキル/青の手 緑の手 超絶技巧 祝福の紡ぎ手(究極の一) 千里眼(下級) 士気高揚(上級)
備考/百華公主の寵臣、イゴールの加護(大)、氷輪公主のご贔屓、ロスマリウスの寵児、艶陽公主の友(師)、イシュトの真なる覡、夢幻の王(究極の一/二代目)
 
あの話の流れで付いてるだろうなぁと思ったら、やっぱり有ったんだよ。私がイシュト様のご加護を受けている証拠になるようなものが。
因みにレベルが結構高いんだけど、これは海でクラーケンや人食いガニを倒し、デミリッチを単独討伐した上に、両親にきっちり落とし前を付けた結果、魂が物凄く磨かれたってことみたい。
実はレグルスくんも奏くんも、結構レベルは高いんだよね。まあ、人間生きてたら何もなくても十年に一回くらいは上がるらしいけど。
付与魔術師が魔術師になったのも、他の魔術分野が付与魔術の腕前に追いついて統合されたから、みたい。馬術もちょっと上がったけど、貴族ならこんな感じで及第点とか。剣術とか弓術はもう、先生達も「やることに意義がある……と思う」くらいしか言わないからお察しだよ。
千里眼と士気高揚というのは、どうも集団戦闘に役立つスキルのようで、これがあるから私はフォルティスのリーダーが出来るみたい。
ヴィクトルさんに「これ、なんでしょう?」って聞いたことがあるけど、士気高揚の方はそのまま指揮下の人達の士気を高揚させて、その状態で戦闘終了まで挫けたり諦めたりすることがないように保てるモノ。
千里眼は物理的に視力が良いってのもあるんだけど、物流や時流、他者の思考を考察し、次の流れを演算出来るようになるスキルで、上級になると、遥か遠く、時の彼方まで見渡せるようになって、その考察は予言の域まで達するとか。
そこまで行ったら最早神様の領域だし、下級でも地方領主には十分すぎるって。
閑話休題。
岸に打ち上げられた魚のように、威龍さんははくはくと口を開け閉めしつつ、私の顔と私のステータスの間で視線を忙しなく動かす。
あんまり見せる物でもないから、彼の視線が五回ほど行き来した辺りでステータスを消すと、彼の視線がようやく私に定まった。でも混乱して言葉が出ないみたい。
威龍さんが落ち着くのを待とうかと考えていると、別の方向から「我が君……」と掠れた声がかかった。
ルイさんの声だったからそちらを向くと、普段はつとめて表情を変えないようにしている彼が驚きを隠せないって感じの顔で。
「六柱の大神の加護をすべて受けられたのですか?」
「ええ、その……成り行きですけど」
考えてみたら神様皆、大盤振る舞いしすぎだよね。
こんなちびっこに目をかけて下さるのは嬉しいんだけど、ちっともお返しできなさそうで、本当にどうしよう。
私一人で考えても解んない事は、大人に丸投げしようか。
「これ、菊乃井に余裕が出来たら合同祭祀神殿とか建てた方がいいですかね?」
こういうことは代官をしてもらってるんだからルイさんに聞いた方が早いだろうと声をかけると、少しルイさんは考えるような素振りをする。と、エリックさんが手を挙げた。
「神殿のような大きなものは後で考えるとして、奉納舞踊などをまずは催してみるのは如何でしょう?」
「奉納舞踊ですか?」
「はい。ヴィクトルさんからお話を伺っている限りでは、百華公主様や氷輪公主様、艶陽公主様は歌劇団の公演をお気に召していただいているご様子ですし、音曲はよくロスマリウス様に奉納されています」
一理あるなと思っていると、今度はヴァーサさんが挙手する。
「それならば、イシュト様には先に行われた菊乃井冒険者頂上決戦のような白熱した武闘会などが喜ばれるのでは?」
「それがきっかけで商売が生まれ経済が巡るのであれば、即ちイゴール様への供物にもなるかと」
後を受けたルイさんの言葉に、先生方やロッテンマイヤーさんも頷く。
おお、これは菊乃井に良い流れが来たかもしんない。
特にイシュト様に武を捧げると良いかもって意見は、私がルマーニュ王都の冒険者ギルドと火神教団とを潰す策に使おうと思ってることと合致するし。
うむうむと意見を咀嚼していると、小さく「あの……」と呼びかける声があって。
威龍さんが戸惑いがちに、私を見ていた。
「その、伯爵様は……我らが武神の意を最初から受けていた、という事でしょうか?」
「正確に言えば、『目に余るなら叩き潰せ』と言われただけで、判断は私に委ねられていました」
「……そう、だったんですね」
威龍さんが肩を落とす。
所属している団体には嘘を吐かれて、信仰していた神様には見限られていたとか、正直しんどいだろうな。
この世界は前世よりずっと神様の存在が濃密で近い。そのためか神様って存在を本当に純粋に支えにしてる人が多いんだよ。
「最初にすべてを明かさなかった私を恨みますか?」
恨むんならそれでもいい。
でも身の振り方は本当に考えてもらわなきゃいけないんだ。それが現実なんだから。
私の目線から、威龍さんは顔を逸らして俯く。その身体は小さく震えていた。
「恨む気持ちはないのです。貴方様が我らを『信じるに値しない』と言っていた通りだと、理解しましたから。ですが武神のなさりようは……!」
涙声で拳を床に打ち付けながら「あんまりだ」と嘆く。
しかし、その拳をロマノフ先生が止めた。
「貴方はそうやって嘆きますが、私だって鳳蝶君の教師として、彼の周りにいる彼を愛する大人の一人として、貴方方には思う事があるんですよ。よくもこの子に重い物を背負わせてくれたな、と」
「そうだよ。イシュト様のやりようは正直致し方ないよ。君はあんまりだって言うけど、神様の怒りは殲滅だよ? 問答無用で皆殺しにされるより、まだあーたんに判断させるだけ、情があるってもんだよ」
「そうだよ。まんまるちゃんはね、君らには厳しい面しか見せてないから解んないだろうけど、優しい子なんだ。今だって君を、寝所に忍び込んだ奴から自分を守ろうとしてくれたってだけで、説得してやってるのに! こんなことになったら、全部が終わったらこの子寝込んじゃうかもしれない。今までだって、何度寝込んだか!」
ヴィクトルさんやラーラさんが憤りも露わに、威龍さんに詰め寄る。
あー……ねー……神様が直接手を下す時は、それこそ神話級の災害が来るときなんだよ。それこそ良い人も悪い人も一緒くたに公平に殲滅だ。
唯一希望があるとすると、殲滅に至るまでに息のかかった人間に説得させて、その説得に応じた者だけが助かるんだよ。
って、これ今の私と威龍さんの関係じゃんね。いや、そうじゃなくて。
私は先生方と威龍さんの間に割って入る。
「先生方、心配してくれてありがとうございます。でもほら、威龍さんの立場からしたら、泣きたくなるのも解らなくもないっていうか、信じてたのに酷いって思うのも仕方ないかなって」
「鳳蝶君の良くないところですよ、そうやって情けをかけるのは……。真実は突き付けてなんぼです」
ロマノフ先生が苦笑いして、私の頭を撫でる。ヴィクトルさんやラーラさんも、肩をちょっと竦めて苦笑すると、私の髪や頬を撫でてくれた。
私は涙を流す威龍さんの頬をハンカチで拭う。
「でもそれはイシュト様に言うべきものじゃなく、やっぱり火神教団の問題ですもんね」
「……?」
「んー……、だってイシュト様、貴方方に直接信仰を求められましたか? 教団を作り、自らを崇めよと仰った?」
「いえ……我らが勝手に彼の方を……」
「イシュト様は逆に『我が名を騙った不届きものめ』って言える所を、長年の信仰のゆえに、私に見定めることをお命じになったんだと思います。それを粛清して、元の清廉な教団に戻すために」
「もとの教団に戻す……?」
「ええ、あるべき姿に」
少なくともイシュト様は尚武の志や、勝利にこだわる姿勢自体を目に余るとは仰らないと思うんだよね。だとして、あの方が嫌いそうなのは薬を使って暗躍したり、自身ではなく他者の威を借り自分を大きく見せるとか、保身に走るような行為なんじゃないかと思うわけで。
そういうのを一切合切綺麗さっぱり叩き潰してナイナイしたら、まだ目はあるんじゃないかと。
つらつらとそういうことを話すと、威龍さんの涙に濡れた目に力が戻って来て。
かと思ったら、がしっと両手を思い切り彼の両手で握られた。
「某を存分にお使いくださいませ、教主様!」
「え?」
違うって。なんでそうなるんだってばよ。
半眼になった私の後ろで──
「我が君はどうしてこうも、何でもかんでも拾われるのだろうか……?」
「私もユウリも拾われた口ですが……」
「いや、それなら私も引き取っていただいたわけですが……」
とか、行政官組が話すのを、先生方とロッテンマイヤーさんが遠い目で聞いてるなんて、ちっとも気づいてないんだからね!?
お読みいただいてありがとうございました。
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活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。
 




