見えてきた不穏
お読みいただいてありがとうございます。
書籍化されている部分に関しては、後々の方の資料になればと思い、あえて誤字脱字や加筆訂正部分をそのままにしております。
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あしからず。
私の傍らにある植物ってなんぞ?
姫君様はお笑いになるだけで、あの後いくら尋ねてもお答えくださらなかった。
ようはヒントはやったんだから、自分で探してみなさいってことだよね。
ぽてぽてとレグルスくんの手を引いて屋敷に入ると、レグルスくんがこてんと首を傾げた。
「にぃにのそばのしょくぶつってなにかなぁ?」
「うーん、屋敷には野ばらとか色々咲いてるけど……」
そういうんじゃないだろう。
野ばらが魔力を吸うとか聞いたこともないし。
なんだろうな?
レグルスくんと二人して首を傾げていると、目の前を雑巾がけをするござる丸が横切る。
春だからか、頭の葉っぱが青々と生い茂っててモサモサ。
なんだか重そうだし、源三さんに剪定を頼んでみようか。
そこまで考えてハッとする。
「ござる丸、植物じゃん!?」
「あ! ござるまる、だいこんだった!?」
そうだ。
モンスターと言えど、ござる丸はれっきとした大根……じゃなくて、マンドラゴラ。
植物には違いない。
それにマンドラゴラは魔力を食べて、つまり養分にして育つ。
それって魔力を吸収しているってことなんじゃ!?
レグルスくんにそんな説明をすると、ぱっと顔が輝く。
「レクス・ソムニウムのふくできるの!?」
「うん。私の考えがあってたら、だけど……」
そう、私の仮説が正しかったら、だ。
でもそれを誰が証明してくれるんだろう?
それに正しかったとして、どうやって繊維をマンドラゴラから作るのか……。
ござる丸を危ない目に遭わせたり傷つけたりする方法しかないのなら、そんなものはいらない。
どうしたもんか。
考えていると、つんつんとレグルスくんが私の服の裾を引く。
「どうしたの?」
「あのね、だいこんせんせいは? だいこんせんせいなら、れー、そういうのしってるとおもう」
「あ、そうか! 大根先生、マンドラゴラに詳しいって言ってたね!」
正確には、ロマノフ先生やヴィクトルさん、ラーラさんから聞いたんだけど。
それでも私達兄弟がござる丸観察日記に書いた疑問や質問に返事をくれてたりする辺り、本当に詳しい人なんだって解る。
善は急げだ。
レグルスくんと二人、私の部屋に急いで日記を取りに行く。
そして「人づてに聞いた話ですが」と前置きして、滅び去った「透明の蓮」からできる繊維と、マンドラゴラから採れる繊維は同じ付与効果を持つらしいけれどそれは真実なのか、そもそもマンドラゴラからマンドラゴラを傷つけないで繊維って採れるのかという、二つの質問を書き記す。
そして日記を持つと、今度は二人でロマノフ先生のお部屋に。
ノックを二回。
でもお部屋から返事はなくて。
代わりにお向かいの部屋の扉が開いて、中からラーラさんが顔を出した。
「どうかしたのかい? アリョーシャなら、シラノに稽古を付けにいってるよ」
「そうなんですか……」
「なにかあった?」
「あのね、だいこんせんせいにおしえてほしいことがあるの」
「大根先生に?」
レグルスくんの言葉にラーラさんがこてんと首を傾げる。
ラーラさんやヴィクトルさんにも「透明な蓮」の話はもう伝えてあった。
だからそこに今朝姫君からいただいた情報と、私が立てた仮説を加えてラーラさんに日記を見せると、「なるほど」と頷いてくれて。
「大根先生から急いでお返事を貰ったほうがいいね。解った、ボクがこの日記を大根先生に届けてあげるよ」
「ありがとうございます」
「ラーラせんせい、ありがとうございます!」
「どういたしまして、だよ。じゃあ、行ってくる」
ぺこんとレグルスくんとお礼のお辞儀をする間に、ラーラさんの姿が光に消える。
転移魔術って本当に凄いな。
とりあえず、繊維の件はこれで一旦中断。
次はお返事が来てからだ。
さて、じゃあ部屋に戻ろうかと思った時だった。
「あ、いた! ご主人! れー!」
呼びかける声に振り向くと、ラシードさんがいて。
青い蜘蛛を抱えて、後ろにイフラースさんを連れている。
「あ、ラシードくんだ」
「本当だ。どうしたの?」
てこてこと挨拶して近付くと、ラシードさんが「先生達は?」と尋ねる。
「ヴィクトルさんは歌劇団だし、ロマノフ先生はベルジュラックさんとこ。ラーラさんも今ちょっと私のお願い事をしに出掛けてくださったとこ」
「マジか……。どうしようかな?」
「どうしたの?」
困ったようなラシードさんに聞けば、用件は私が頼んだ火神教団の人たちの監視に関わる事らしく。
立ち話もなんだからと、ラシードさんたちと連れ立って書斎に行くと、そっとロッテンマイヤーさんが来てくれて。
明らかにラシードさんがほっとした顔をした。
私が頼んだことだから、私に報告してくれたらそれでいいんだけどと言えば、少し考えてラシードさんが口を開く。
「いや、そりゃ報告はご主人にすべきなのは解ってるんだけど、先生たちにも聞いてほしくて。でもよく考えたらロッテンマイヤーさんでもいいんだ」
「どういうこと?」
「うん、実はな……」
そう言ってラシードさんが話すには、彼の火神教団の二人、一人は砂漠を行く商人風のいでたちで、もう一人は風よけのフードを深く被って、いかにもなんだか怪しいローブを身に纏っているそうな。
二人とも腰に目立たないように同じ根付を付けているのを、監視につけた小蜘蛛達を通してラシードさんもイフラースさんも確認できたとか。
それでなんで先生達にも話を聞いてほしかったんだろう?
そう聞けば、ラシードさんが表情を引き締めた。
「二人につけた小蜘蛛を通して奴らの独り言を聞いたんだよ」
「なんていってたの?」
「ローブの奴が『奴らに気付かれる前に、彼の方に接触せねば』って言ってて、もう一人が『今頃あちらも動き出しているだろうが、もう遅い。我らの力を知って貰うぞ』って」
うん? それだけ?
そんな疑問が顔に出てたのか、ラシードさんが首を横に振る。
「いや、それがローブの方が『麒麟と鳳凰の守りし国の、菊花咲く地におわす紫闇の蝶の御方に』って。それって多分……」
「にぃにのこと!?」
レグルスくんが大きな声を上げて、ソファから立ち上がる。
ロッテンマイヤーさんもイフラースさんも、凄く難しい顔だ。
しかし。
「え? でもローブの人は『接触せねば』っていったんでしょ?」
「ああ、でも、もう一人は『我らの力を知って貰うぞ』だぞ? 同じ教団で違う目的で行動するとかってあるのか?」
「いや、それは……」
ないことはないだろう。
どこの組織だって一枚岩でいるのは難しい。
どの種族だろうと三人いたら派閥が出来ると思えって言うしね。
それに私はもう一つ、引っ掛かりがあるんだよ。
「なんだよ?」
「うん? それはほら、今菊乃井には凄く重大事の当事者が二人いるから」
「二人? え、誰?」
私の言葉にラシードさんとイフラースさんはキョトンとする。
レグルスくんもこてんと、首を小鳥のように傾げた。
顔色を一瞬変えたのはロッテンマイヤーさんで。
「ベルジュラック様とヴァーサ様のお二人ですね?」
「うん。何か関わりがないともあるとも言えないけど、今明確に誰かに恨まれてるとしたら、私以外だと彼ら二人かローランさんか……」
これが去年とかの話ならルイさんも入ってくるんだけど、今さらって感じはする。
何せ彼はルマーニュの、叩けば出る埃を沢山知ってるんだもん。
ただそれを無暗に話せば、ルマーニュの民が傷つくかもしれない。
その可能性を考慮して、私にすら必要以上に話さない。
しかし彼の良心を、ルマーニュが信じられるかは別の話だ。
ルマーニュを囲む国際状況が変化していないことが、その証明になるんだけど、それをあちらが気付いているやらいないやら。
……って、違うよ。話が逸れた。
それにしたって火神教団がなんで関わってくるんだろう?
うーん、なんか釈然としないな。
全体的に情報が足りてない。
兎も角、ラシードさんが先生方に一緒に話を聞いてほしかったのは、私に対する暗殺を警戒しての事だったとか。
「ん、じゃあ、それを逆手にとりましょうか」
にっと私が口の端を上げると、ロッテンマイヤーさんの眼鏡が光った。
お読みいただいてありがとうございました。
感想などなどいただけましたら幸いです。
活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




