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途中経過と不意の来客

お読みいただいてありがとうございます。

書籍化されている部分に関しては、後々の方の資料になればと思い、あえて誤字脱字や加筆訂正部分をそのままにしております。

ご了承ください。

誤字報告機能を利用し、校正をされる方がおられます。

誤字脱字報告以外はお断りしております。

あまりに目に余る場合はブロックさせていただきます。

あしからず。

 回答期限を設けた以上、その期間は待たなければいけない。

 その間に二通の手紙が来た。

 一つは次男坊さんから、もう一つは宰相閣下から。

 次男坊さんからの手紙は、私が送ったルマーニュ王都の冒険者ギルドと事を構える旨の連絡に対する返事で、次男坊さんの方でも「火付け」に回ってくれるそうな。

 ついでに初心者冒険者講座のシェヘラザードへの輸出に関しても、「任せろ」と頼もしい言葉をもらった。

 それだけじゃなく、次男坊さんもEffet(エフェ)Papillon(パピヨン)のプロモーション映像を見たらしく、あの戦いで剣を失ったロミオさんに「ダンジョンで見つけた」と、業物の剣を贈ってくれたんだよね。

 これはラーラさんが砦にいるロミオさんに届けてくれた。

 ロミオさんは剣を新調するお金を貯めるまで、武器屋さんで買ったお手頃価格のを使うつもりでいたらしく、凄く喜んでたとか。

 宰相閣下からの方は、案の定ルマーニュ王国から今回の件で使者が来たことと、即位記念祭の件だった。

 ルマーニュ王国の使者は何やら意気込んできたようだけど、そもそも帝国も菊乃井も、ギルド同士の紛争には「介入しない」と公表していて、私は表向き何もしていないもん。

 今回の件も冒険者有志一同が、ルマーニュ王国の冒険者ギルドの腐敗に立ち上がっただけのことでしかない。

 寧ろ私は冒険者ギルドの紛争に巻き込まれた、気の毒な少年領主なのだ。

 自分達が新人冒険者に行った悪事を棚にあげ、親の不始末を背負って難儀しながら、どうにかこうにか領地を治め、領民も冒険者も安全に生活出来るよう奔走している子どもに因縁をつけて困らせている。

 王都ギルドのやっていることは、客観的に見ればそういうことで、これに肩入れするのであればルマーニュ王国もその様な無法者の国家と言うことになる。

 宰相閣下はその辺を噛んで含めるように、ルマーニュの使者に話したそうな。

 自分達が対外的にどう見られているのかを悟った使者は、「何やら誤解があったようで」とそそくさと帰っていった、と。

 で、それは閣下的には「意気地のないことよ」って鼻で笑い飛ばせるくらいどうでもいいことだそうで、本命の用事は即位記念祭らしく。

 昨年のお祭りは、それはもう盛り上がった。

 武闘会ではエストレージャのリベンジに、バーバリアンとの手に汗握る死闘があって、音楽コンクールではマリアさんとラ・ピュセルの活躍が感動の嵐だったんだよね。

 今年も同じような、いや、それ以上の盛り上がりがほしい。

 何故かっていうと、今年の祭典にはなんと北アマルナ王国から国王陛下と王妃殿下がいらっしゃるのだとか。

 ようは帝国の国力とか、国民の忠誠心や民度とかを外国に示したい訳だ。

 ついては私に協力してほしいことがあるって。

 一つは音楽コンクールの特別枠として、菊乃井歌劇団を正式に招待するので、砦の慰問公演の時のようなショーを公演してほしいこと。

 もう一つは、バーバリアンとエストレージャに武闘会参加を説得してほしいということだ。

 去年の決勝に続き、今年の菊乃井冒険者頂上決戦は凄く盛り上がってて、貴族の間でもまたあんな迫力ある試合がみたいと評判なんだそうな。

 そんな訳で両者に打診してみたところ、双方から「無理」というお断りが。

 バーバリアンは「菊乃井でやったすぐ後だから、癖とか連携を見直す時間がほしい」と言われ、エストレージャからも「まだまだ再戦には修行が足りない」と言われたんだって。

 うーむ、これなー。

 菊乃井歌劇団の方はヴィクトルさんに伝えたら「そりゃそうでしょ」って言われた。

 ヴィクトルさんがサロンで見せている菊乃井歌劇団の映像は、当代の文化人達に大好評で、彼らの口から口に色んな人に伝わってて、観たことない人は流行から取り残された人扱い。

 日に日に需要が高まってるし、何よりあんな華麗なショーを田舎の地方領主が領民に提供してるっていうのは、帝国の国力の底深さを内外に示すには持ってこいだから。

 まあ、だから、菊乃井歌劇団へのオファーは受ける方向で。

 ただし、演目は慰問公演とはガラリと変える。

 これは、ユウリさんにヴィクトルさんを通じて帝都公演を打診したら、そんな返答が返ってきたんだよね。

 その辺りのことは全てユウリさんとヴィクトルさんにお任せだ。

 素人が口出しはよくない。

 私は彼女達が全力を出せるよう、出来るバックアップを全てするだけ。

 そうそう、ユウリさんと言えば夢幻の王(レクス・ソムニウム)の衣裳デザイン原画を一目見て、それからちょっと唸って「蓮から糸って取れるの?」って言ったそうだ。

 つまり、読めるんだよ。

 翻訳は仕事の片手間になるけどって言いつつ、引き受けてくれた。やったね!

 後はバーバリアンとエストレージャ。

 これは難しいかもしんない。

 二組の返事ももっともなことだし、それ以前に二匹目のドジョウは兎も角、三匹目のドジョウは余程のことがない限り成功しないんだよ。

 しかも二匹目が直近じゃねぇ?

 宰相閣下は手紙でそれも理解していると書いておられた。

 けれど、その二匹目のドジョウが良質すぎて、他の冒険者達の対戦を見せるくらいなら、あのプロモーション映像を最初から流した方が未だしもだとも。

 これは困ったな。

 プロモーション映像を流すのは構わないんだけど、帝国の威信とかなんとかを考えると、それは決して良くない。

 うーむ。

 顎を擦って私が出した返事は、歌劇団に関しては喜んで行かせてもらうけど、武闘会に関してはちょっと保留。


「……そなた、つくづくよく解らぬ騒動に巻き込まれるのう」

「えー……あー……何故でしょう?」

「妾の厄除けがあっても訪れる災難は、それ即ちそなたの成長に必要なものじゃ。必要なものじゃが、ちと尋常ではない巻き込まれぶりよの」


 朝のお歌の時間。

 菊乃井歌劇団の進捗を報告がてら、直近の騒動をお話しすると、姫君様が団扇をひらひらと呆れたように閃かせた。

 いや、まあ、ベルジュラックさんは何となく後ろにあるものを察しつつも連れて帰ってきたし、ヴァーサさんは解っててこっちに寄越せって言ってる訳だから、自分から揉め事に突撃してる感がなくはないんだけどね。

 だけど、揉め事が起きるときは怒涛のように起きるのはなぁ。

 眉を八の字にしていると、姫君様が面白そうな表情を浮かべる。

 何だろうと思って視線を追うと、それは私の横へ。

 くふんっと姫君様の唇が三日月を描いた。


「どうした、ひよこ?」

「にぃに、れーにリッター・シュラークしてくれません!」


 姫君様の問い掛けに、ふすふすと鼻息荒くレグルスくんが答える。

 そうなんだよ、ベルジュラックさんが首打ち式をしてほしいとか言うから、そこからレグルスくんも「れーもするぅ!」って言い出して。

 悪戯っぽい光を湛えた目で、姫君様が私を見る。


「ほう、何故じゃ?」

「いや、何故って……」


 あれは騎士が主に忠誠を誓い、それを主が許し受け取るっていう主従の儀式であって、私とレグルスくんは兄弟だ。

 そんな兄弟で主従とか、壁があるみたいで嫌なんだもん。

 私の可愛いひよこちゃんは多分そこまでは思ってなくて、私を守る=騎士になるって判断で首打ち式をやりたがってるんだろう。

 たしかにあの儀式自体はカッコいいけども。

 だいたいあの儀式、ロマノフ先生の剣をお借りしてやったわけだけど、大抵の剣は子どもには重いんだ。

 ロマノフ先生の支えがなかったら、あの剣は私には持てないんだよ。

 そんな重いのをひよこちゃんの肩に乗せるとか、とんでもない。

 そんな事をツラツラ考えていると、にわかに空が暗くなる。

 何事と思っていると、姫君様の眉間に凄いシワが刻まれていて。

 ひぇ、怒っていらっしゃるぅ!?

 もしや私の重いから云々がご不快だったのかな!?

 焦っていると、ひよこちゃんが庇うように私の前に立った。

 すると姫君様がばっと振り返って、肩の領巾を虚空に投げつける。

 いきなり稲光が走ったかと思うと、鋭く領巾に打たれた場所に亀裂が出来て、中からぬっと人影が。


「……痛いぞ」


 現れたのは壮年男性で、頭には猫の耳。

 黒い羽織を肩から引っ掛けて、同じ色の着流しを大きく着崩しはだけさせ、惜しげもなく逞しい胸板を晒す。


「え、誰?」


 いや、本当に誰?

お読みいただいてありがとうございました。

感想などなどいただけましたら幸いです。

活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。

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[気になる点] 296話で天空の城にロマンを感じつつ、今話でも『伝説級の魔法使い殺し服の材料その1:蓮』に食いついた人が居ないので、ちょっとションボリ…… 日本や中国の昔話に出てくる、『天の羽衣(あ…
[良い点] 姫様からの一撃を痛いですませる... まさか、最後の一柱様!?
[一言] 和装猫耳ムキムキ壮年男性?!(情報過多)
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