宴の前のてんやわんや
お読みいただいてありがとうございます。
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あしからず。
エストレージャ対バーバリアンの試合と歌劇団の公演は、結局菊乃井の歌劇団カフェでだけ生放送されることになった。
表向きは、だけど。
遠距離映像通信魔術はそんなに遠くには飛ばせない。
そう印象付けるためだ。
実際はロートリンゲン公爵邸と、皇宮内の陛下や妃殿下、二人の皇子殿下が集まる居間にも、映像が届けられる。
帝都を始めとするEffet・Papillonの商品を扱ってくれる遠方の冒険者ギルドには、後日プロモーションとして幻灯奇術の掛かった布を置いてもらうんだよね。
菊乃井の歌劇団カフェへの設営は完了してて、接続テストもバッチリ。
歌劇団の練習もいよいよ大詰めだし、衣裳も準備万端。
この辺りは孤児院を出て就職口を探さなきゃいけなかった子達の中で、お針子希望者を募ってEffet・Papillonに就職して貰ったから出来たことだ。
お給料は安いんだけど社員寮と三食社食付きで、福利厚生として月一回歌劇団の公演を無料で見られるって条件を大喜びで受けてくれた子達だからか、みんな歌劇団の衣裳作りに燃えてたそうな。
ありがたや。
んで、大本命の婚礼衣裳ですが!
あれだよ、流行り廃りがねー。
ローブ・ア・ラ・フランセーズは、スカートにあたる部分がフワッと横に広がってるんだけど、あのシルエットがなんとなくロッテンマイヤーさんのイメージじゃない気がして!
どちらかと言えば痩せ型で、シュッというかスッというかスレンダーな体型のロッテンマイヤーさんだから、そのスッキリしたシルエットを大きく広がった裾で隠すのってなぁ、と。
そんな訳で「俺」の記憶を総ざらいして、クリノリンだのバッスルだのエンパイアだのロマンチックスタイルだのAラインだの色々デザイン画を描いてみたんだよね。
その中で私とレグルスくん、エルフ三先生達とソーニャさんの琴線に引っ掛かったのは、上半身から膝くらいまでが身体のラインにそった作りで、膝から下でフワッと広がってまるで魚のヒレのように見える、その名もマーメイドドレス!
「人魚みたいに見えるドレスってことか?」
「おさかなみたいだねぇ」
「ヒラヒラ~!」
作業場にした書斎で奏くんと紡くんやアンジェちゃんにデザイン画を見せると、そんな反応があって。
「これならぁ、総レースとか刺繍とか色々するとぉ、すごぉく豪華になるかとぉ」
「そ、総レース! 頑張って編みます!」
「私も! 見習いとして頑張ります」
ワキワキと両手を動かして楽しそうに笑うエリーゼと、ぐっと手を握る宇都宮さん。
料理人見習いのアンナさんも「ロッテンマイヤーさんにはお世話になってますから」と加わってくれて。
三人もデザインに異存はないみたい。
あれこれ皆で話し合って、最終的には少し長めのトレーンにロングベールと髪飾りで決定。
ルイさんのも帝国の標準礼服のアビ・ア・ラ・フランセーズじゃなくて、フロックコートにして小物を豪華にすることに。
アスコットタイとかカフスとか、そういうのを用意することにした。
こう言う時、ミシンは凄く頼れる味方で。
ロッテンマイヤーさんのメイド服や、ルイさんが着た軍服からサイズを割り出して作った型紙にあわせて、タラちゃんの布やら、アルスターの森で採ってきた綿花から紡いだ糸で織った布、ソーニャさんが持ってた最高級の布地なんかを裁ったパーツを縫い合わせる。
首元からデコルテ、背中、腕部分は花の刺繍とレースとオーガンジー素材で少し透け感を出して、膝下の裾はチュール生地に花の刺繍をあしらった。
腰には布で作った大きな薔薇を付けて、そこからオーガンジーのオーバースカートが伸びる。
ベールもすっぽり被るタイプにして、裾には小花の刺繍を。
ドレスのトレーンにもロングベールにも、キラキラ輝くビーズとかも付けてみた。
ルイさんが着るフロックコートの下のベストにも、これでもかってほど刺繍を付けたし。
刺繍は当然私もやったけど、エリーゼやソーニャさん、宇都宮さんやアンナさんが物凄く力を入れてくれて。
二人のアクセサリーの小花のにしても、レグルスくんや奏くん、紡くん、アンジェちゃんが、小さな手で丁寧に一つずつ真珠百合の実をテグスに通してこちょこちょと。
それ以外にも源三さんや料理長は差し入れをしてくれたり、先生方はロッテンマイヤーさんに見つからないように授業だとか何だとかって目眩ましをしてくれた……んだけど。
「わぁ……【完全防御】、【疑似不老不死】……こわ……他のもこわ……」
完成した純白の婚礼衣裳を見た瞬間、呻いたヴィクトルさんが持ってきていた【鑑定】スキルを無効化する眼鏡をかけた。
まあ、リアクションからしてお察しだけど、結構な効果が付与されているらしい。
死んだ魚の目をしたヴィクトルさんによると、これでもかってくらい美容や健康に良い感じの効果が付いてるそうで、新郎の方にも防御に特化した色々がくっついているとか。
縫ってる最中、「俺」の覚えてたウェディングソングをメドレーしてたから、まあ、うん。
トルソーにかかる衣裳はキラキラと傍目から見ても眩しいくらいで、それに目を細めているとエリーゼがこてんと首を傾げた。
「旦那様ぁ私ぃ思ったんですけどぉ~」
「はい?」
「Effet・Papillonでもぉ、ドレスの取り扱いぃ~しませんかぁ~?」
「へ?」
思いがけない言葉に、エリーゼと同じように首を傾げる。
すると、ソーニャさんがデザイン画をヒラヒラさせて。
「このデザイン、勿体ないものねぇ」
「はい~。こういうのを結婚する時に着られたら素敵だと思うんですぅ」
ぎゅっと両手を握って力説するエリーゼに、宇都宮さんがポンッと手を打つ。
「あ! 安価で貸し出してあげたらどうですか!? 私達庶民にはこんな素敵なドレスは買えないですけど、もしも貸して貰えるなら、ちょっと高くても頑張れるかと!」
「そうですね……! こんな素敵なドレスを貸して貰えるなら、節約もお仕事も頑張れるかも!」
アンナさんも目を輝かせて、拳を握ってる。
そう言えば前世でもドレスの貸出業はあったし、それは別に婚礼衣裳だけじゃなく晴れ着全般に言えることだったはず。
ロッテンマイヤーさんとルイさんの婚礼衣裳は、二人へのプレゼントだから貸出は無理だけど、数組に借りてもらえれば採算がとれるくらいに原価を押さえて作ったものなら、安価で貸し出し出来るかも。
ふむ、これはもしや商機かな?
顎を擦っていると、ラーラさんが同じく顎をする。
「まんまるちゃん、貴族相手には一点もののドレスを商売したらどうかな?」
「そうだね。社交界は被ったら負けってとこあるし、あーたんが描いたデザインのって珍しい形のもあるから話題になるかもよ?」
「男性服も、このフロックコートやもっと実用美に近いものを求めている人もいますしね」
ヴィクトルさんやロマノフ先生も、それぞれに色々考えて意見を出してくれる。
となると、これはやっぱり商機なんだ。
なら、乗っかってみようか。
「それなら先生達に服作んなきゃな!」
「れー、マリアおねーさんにもにぃにのドレスきてもらったらいいとおもう! 歌劇団のおねーさんたちも!」
きゃらきゃらと奏くんとレグルスくんが笑う。
そうだな、社交界なら先生方とマリアさんにご協力いただこうか。
庶民の方はエストレージャや歌劇団に協力してもらって。
良い考えだと思って先生方を見ると、ニコッと良い笑顔でロマノフ先生やヴィクトルさん、ラーラさんとソーニャさんが首を横に振る。
「私達も協力しますがね、もっと効果的な方法がありますよ?」
「そうそう、あーたんは今年社交界に顔を出さなきゃいけないからね」
「しっかり磨きをかけてあげるから、きっちり自分に似合う服を作るんだよ、まんまるちゃん?」
「ばぁば、縫製は頑張るからね!」
げ、やぶ蛇だった!
お読みいただいてありがとうございました。
感想などなどいただけましたら幸いです。
活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




