1%の閃きが無いヤツは才能があるとは言えないんだってさ
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書籍化されている部分に関しては、後々の方の資料になればと思い、あえて誤字脱字や加筆訂正部分をそのままにしております。
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あしからず。
「俺が言えた義理じゃないけど、何でもかんでも拾うのはどうかと思うぞ?」
「拾ってませんよ! 勝手に! 気絶した! だけです!」
ドン引きって言っていいような若干目逸らし気味のラシードさんの言葉に、私は思い切り憤慨する。
私の足元には黒ずくめの男の人が倒れていた。
呻いて倒れたんだから、怪我のせいだろう。
私は何にもしてない。
威圧返ししようとしたら、この人が勝手に倒れただけ。
そういや倒れる前にレグルスくんを見てたけど?
「レグルスくんは何か解る?」
「うぅん。れーもわかんない!」
「だよねー」
だってレグルスくんは「にらむのやめて」って、私を庇ってくれただけだし。
レグルスくんは紡くんやアンジェちゃんという、自分より年下の子と遊ぶようになってから、随分と頼もしい面を見せてくれるようになった。
それ以前からしっかりした子だったけど、最近は特にだ。
レグルスくんが一番年上というシチュエーションが増えて、お兄ちゃんとして頼りにされることが多くなったからかな?
いやー、うちのひよこちゃんは本当に良い子だよ。
「いや、れーが良い子なのは解ったけど、それよりこの男どうすんのさ……?」
おぉう、ついつい現実逃避が口から漏れてたみたいだ。
ひよこちゃんが私の背中に顔を埋めてぐりぐりするのが可愛いけど、目の前のラシードさんは凄くジト目。
「どうしようね?」
「ギルド連れていったら?」
「それが出頭するの、凄く嫌そうだったんだよね」
いつの間にか奏くんが寄ってきて、黒ずくめの人を見下ろす。
アンジェちゃんとえんちゃん様はどうしてるのか、気になって視線を向けると紡くんとブラダマンテさんとイフラースさんが付いているのが見えた。
メェメェと子羊が鳴いているけど、あれは大丈夫なのかな?
気になって見ていると、やっぱり駄目なのかヴィクトルさんが慌てて走ってきた。
「ヤバいよ、あの子羊鳴き止まさないと」
「やっぱりまだ警戒声なんですか?」
「うん。どうしようかな、寝かせようか……」
ヴィクトルさんの言葉に、奏くんがはっとした顔をして叫んだ。
「つむー! その羊にヨーゼフさんから預かったやつ食わせてみろ!」
「わ、わかったー!」
なんだろう?
仕方ないから、ラシードさんと一緒に来ていたアズィーズに黒ずくめの人を乗っけると、私達も子羊の元に向かう。
その間に紡くんは奏くんから言われた何かをポケットから取り出して、子羊の鼻先に差し出した。
彼の小さなお手々に握られていたのは青々とした大根の葉っぱと、瑞々しい白い大根の皮で。
「大根の葉っぱと皮?」
「ござる丸の葉っぱと皮だよ。ヨーゼフさんが、妖精馬の大好物だし絹毛羊も好きなやつだからって」
「ははぁ」
なんでもヨーゼフにルマーニュ王国に行くことを話したら、もしも絹毛羊を怒らせることになっても、これさえあれば許して貰えるって持たせてくれたんだそうだ。
因みにござる丸は、時々脱皮する。
それはござる丸が凄く栄養を蓄えてるかららしいんだけど、成長しすぎて表皮が分厚くなると動き難くなるそうで、自分でその厚くなった皮を脱ぎ捨てるんだよね。
でもその脱ぎ捨て方がなんというか、大根の着ぐるみを大根が脱いでいるって感じで、残った皮は見事にござる丸の形をしてる。
大根先生によれば、その脱ぎ捨てられた皮にも物凄く栄養があるらしい。
なので脱皮した皮は解んないように刻んで、うちで飼ってる動物達のエサに混ぜてたり。
お陰でうちの動物達は怪我も病気もなく、すくすく育ってる。
で、その栄養豊富なござる丸の葉っぱと皮を差し出された子羊ちゃんは、ふんふんと紡くんの手ごと匂いを嗅いでから、鳴くのをピタリと止めて。
じっと皮と葉っぱを見つめてから、むしゃっと一口食べた。
固唾を飲んで見守っていると、もう一口むしゃっとした後いきなり子羊は大音声で鳴き声を上げた。
逆効果じゃん!?
内心でそう悲鳴を上げていると、ラシードさんが感心したように頷いた。
「あー、よっぽど旨かったんだなぁ。警戒声消えたけど、代わりにめっちゃはしゃいでる」
「解るの!?」
「は? お前だって魔物使いなんだから解るだろ? めっちゃ喋ってんじゃん」
何言ってんだってラシードさんの顔に書いてあるけど、私には子羊がやたらテンション高く鳴いてるようにしか聞こえない。
ラシードさんには、あれが言語に聞こえるのか?
私には理解出来ないから、素直に首を否定系に動かした。
「全く解らないんですけど?」
「いやいや、魔物使いが何言ってんだよ。魔物の言葉が解らないとか、魔物使いならあり得ないだろ。からかうなよ」
「からかってません。私にはあの子羊が何を言ってるのか、全く解りません」
「は、はぁ!?」
ラシードさんと顔を見合わせて、お互いに首を捻る。
あり得ないものを見るようなラシードさんの表情と、私を見比べて奏くんがぽんっと手を打った。
背中に顔を埋めていたレグルスくんも、ひよひよ顔を出す。
「そういやそうだな。若さまって、ござる丸と話す時はタラちゃんが通訳してるし」
「うん。タラちゃんが字を書いてくれるし、それでも解らない時はヨーゼフいるから。奏くんもレグルスくんも、何となくござる丸の言葉なら解るでしょ?」
「わかるよー!」
「まぁな。大根だしな」
「うん、大根だしね。私もござる丸が土の中にいる時は、ござる丸の言いたいことが何となく解るし」
「え? 大根の言葉が解る方がおかしくね?」
いやいや。
大根の言葉が解るってのは、作物の出来が土の状況で何となく解るってヤツと同じじゃん。
農家あるあるでしょ。
お互いに「何言ってるか、ちょっと解らないですね」って顔をしていると、ヴィクトルさんが間に入ってきた。
「やっぱりあーたん、魔物とお話できないんだね」
「はい。って言うか、魔物使いって魔物とお話出来るもんなんですか?」
「うん。じゃないと、魔物と契約交渉出来ないでしょ?」
「ああ、そうですね」
「言われてみれば、だな!」
「ほんとだねー!」
奏くんとレグルスくんと三人で「なるほどなぁ」とか納得していると、ラシードさんが「あり得ない!」と叫んだ。
「だ、だって、じゃあ、タラちゃんもござる丸もどうやって交渉したんだ!?」
「タラちゃんは、さるお方から頂戴したんです。多分契約ごと」
「ござる丸は畑から自分で出てきたぜ?」
「あるいてきたよー?」
ありのままにその時の事を話すと、途端にラシードさんが物凄く頭の痛そうな顔をする。
「信じらんねぇ。俺も大概世間知らずだけど、それより上がいた!」
「世間知らずって、なんですか……?」
「魔物使いが魔物と話せるなんて常識っていうか、それが出来なきゃ魔物使いにそもそもなれないんだよ」
「なれましたよ?」
だって気がついたらステータスに「魔物使い」って出てたもん。
そう言えば、ラシードさんは眉をひそめて、怒ったような顔をする。
「それは……あの蜘蛛とそれを使い魔に出来た上に、契約ごと譲渡したヤツが普通じゃなかったんだろ……。誰だよ、ちゃんとそこまで説明してから譲渡しろよ!? じゃないと、お前、普通だったら魔物に食われちまってたとこだ!」
「えぇ……。タラちゃんは最初から良い子で、私に従ってくれてましたけど?」
「だからあの蜘蛛が特殊個体かなんかで、べらぼうに賢かったからだろ……」
「ああ、タラちゃんは賢いですよ。あの子、私やレグルスくんと話すために字を覚えてくれましたから」
「れーがタラちゃんに、じをおしえたんだよ!」
ゆるゆるとラシードさんが首を横に振った。
表情は怒りから困惑へと変わり、眉が八の字に下がる。
「普通の魔物は字を覚えたり書いたりしない。だって契約者の魔物使いとは話せるんだぜ? それなのになんでワザワザ魔物使いと意志疎通するのに、読み書きを覚えようとするんだよ」
うん、いや、まあ、ね?
薄々ね?
薄々感付いてはいたんだけど、このラシードさんの言葉ではっきりした。
ヴィクトルさんも気づいたようで、私と顔を見合わせると重々しく頷く。
「薄々思ってましたけど、私、魔物使いとしての才能はあんまり無いみたいですね」
あんぐりとラシードさんの口が開いた。
お読みいただいてありがとうございました。
感想などなどいただけましたら幸いです。
活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




