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うわ……私への期待値、高過ぎ……?

お読みいただいてありがとうございます。

書籍化されている部分に関しては、後々の方の資料になればと思い、あえて誤字脱字や加筆訂正部分をそのままにしております。

ご了承ください。

誤字報告機能を利用し、校正をされる方がおられます。

誤字脱字報告以外はお断りしております。

あまりに目に余る場合はブロックさせていただきます。

あしからず。

 説明って言っても、遠距離で映像をやり取りする魔術をかけるための大きな布がほしくて、その布の材料になる綿花を取りに行くついでに、折角だからパーティを組んで依頼を受けてみた。

 そしたら怪我人と迷子とその使い魔二匹に出会して、放っておくのも人としてどうかと思ったから連れて帰ってはみたものの、なんだか訳ありみたい。

 どうしよう?

 ロッテンマイヤーさんと、呼び出したルイさんに、ことのあらましを説明すると、二人は顔を見合わせた。


「隷属の紋章が気になりますな」

「先程の少年の身なりはたしかに良いものです。ですが、この辺りの服ではなく、何処か別の地域のもののような……」

「それに『逃げなきゃ殺されてた』というのも……」

「そこですよね。彼は乳兄弟とはいえ、護衛を付けられる身分のようですし」


 隣のロマノフ先生も、ゆったりとお茶を飲みながら頷く。

 謎が多い。

 しかしと、ルイさんが顎を撫でた。


「その少年、危機回避能力が高いのかも知れませんな」

「へ?」

「自分より強い魔物使いである我が君を、口喧嘩とはいえ咄嗟に巻き込もうと判断する辺り中々食えないものがあるかと」

「え? 私が悪人かも知れないのに?」


 きょとんとしてしまったけど、ロッテンマイヤーさんが八の字に眉を下げて言う。


「悪鬼熊を食い散らかす犬を、子犬だからと心配する悪人がいるとはとても思えないのですが……」

「そこまで加味して咄嗟に判断していたなら、あの少年はたしかに中々危機回避能力が高いのかも知れませんね」


 ロマノフ先生も首を縦に振ったけど、前提がおかしい。

 なんで私に彼の問題を解決出来る能力があると思うの?

 彼がヤンゴトナイ身分の、それも他国、ついでに隷属の紋章を禁呪指定してない国の人なら、手も足も出せないのに。

 やれるとしたら、あの森の中で出会ったんだから、使い魔や乳兄弟さんとはぐれて悪鬼熊に食われて死にましたって工作くらいか。

 それよりも天領で起こった事件なんだから、宰相閣下にご相談するのが先だな。

 いや、彼とその乳兄弟さんが冒険者登録していれば、単なる未熟な冒険者の不始末で片付けられなくもないか……。


「そういう打開策を、問題を把握した時点で考え始めているんだから、あながち過大評価ではないと思いますよ」


 機嫌がよさそうなロマノフ先生の声に、無意識に下がっていた顔を上げる。

 どうも考えていた事をブツブツと呟いていたようだ。我ながら不気味。

 首を振って纏まらない考えを払うと、私は「とりあえず」と口を開いた。


「彼と乳兄弟さんに、名前と冒険者登録のあるなしを聞くとしましょう。その後、冒険者登録があるなら冒険者ギルドに出頭、登録がないのであれば宰相閣下にご相談を。彼が事情を話すのであれば、その辺りも含めて知恵をお借りしましょう」

「そうねぇ、それがいいと思うわ」


 軽やかな声に続くノックの音で、開け放たれた書斎の扉を見れば、ソーニャさんとブラダマンテさんとエリーゼの姿が見えた。

 相談事があるときはいつも書斎を使うから、エリーゼが二人を案内してきてくれたんだろう。

 ソーニャさんは屋敷のいたるところに転移が出来るから、誰もソーニャさんが戻ってきたのに気づかなくて応対できなくても、私たちがいる場所が解るようにわざと扉を開けてたんだ。

 ブラダマンテさんは夕方に来てくれることになってたけど、ソーニャさんが魔術の方が歩くより早いからってお迎えに行ってくれたんだよね。

 すすっとソーニャさんがロマノフ先生の隣に座ると、ご挨拶してブラダマンテさんがその隣に座る。

 さっとエリーゼがお茶をふたりに出すと、お辞儀して音もなく退出した。

 そういえば宇都宮さんはまだ、気配の消し度合いでエリーゼに遠く及ばないらしい。

 ぼんやりとそんな事を考えていると、お茶で唇を湿らせてブラダマンテさんが口を開いた。


「それで、その隷属の紋章を刻まれた方と山羊角の少年は……?」

「二人とも休んでもらってます。怪我人さんは私が治した怪我以外は、特に重篤なものは見つかりませんでした」

「少年の方は緊張の糸が切れたようで、熟睡していると宇都宮さんから報告がありました」

「左様ですか。命を狙われるなど痛ましいことですね」


 私とロッテンマイヤーさんの説明に、ブラダマンテさんは手を胸の前で組み合わせて祈る。

 ソーサーに静かにカップを戻したソーニャさんが、にこっと笑った。


「宰相閣下にはばぁばの方から、それとなーく話しておきましょうか?」

「ソーニャさんは宰相閣下とお知り合いなので?」

「ええ。ほら、彼はヴィーチェニカのお弟子さんでしょ?」

「ああ、そのご縁で……」


 それなら問題になった時は改めてスムーズに相談出来るし、逆に大した問題にならなければ世間話で済ませられる。

「お願いします」と頭を下げようとすると、ソーニャさんはお茶を飲み干して、ソファから立ち上がった。


「それじゃあ、ばぁばに採取した綿花を預けてくれるかしら? 大きな布を作ってくるわ。布が出来たら、また来るわね」

「はい、それもよろしくお願いします」


 鞄からいくらか綿花を渡すと、それを持ってソーニャさんはしゃらんらと転移魔術で帰って行った。


「我が母ながら、まるで嵐のようですね」


 ロマノフ先生の言葉に、部屋の空気が暖かくなる。

 先生の個人的な部分に触れるって中々ないことだから、ちょっとほっこり。

 そんなまったりした空気の中、ロマノフ先生がぴくりと耳を揺らした。


「奏君が厩舎から戻ってきたみたいですよ」


 その言葉からちょっとも立たずに、奏くんがひょこっとお茶を持って書斎に顔を出す。

 屋敷に入って手を洗って、喉が乾いたからと厨房に顔を出したら、お茶とおやつのクッキーを持たされたらしい。

 ルイさんを見て挨拶すると、私の隣に座る。


「若さま、ヨーゼフさんから伝言」

「何かな?」

「あのグリフォンとオルトロスがケンカしてた理由なんだけど」


 ヨーゼフは調教師としての腕が良いからか、モンスターの言葉を私より遥かに正確に聞き取る事が出来る。

 そのヨーゼフがそれぞれ二匹から聞き取った話によると、二匹は同じ所で飼育されていたそうだ。

 ただ飼い主がそれぞれ違うせいか、調教に差が出ているようで、グリフォンは子どもにしては落ち着いていて、オルトロスは子犬らしく落ち着きがない。

 グリフォンはラーラさん達に見つかった時、怪我人さんや山羊角少年やオルトロスを探しているところだったらしく、たしかに捜索中にお腹が空いて悪鬼熊を食べていたそうな。

 オルトロスもはぐれた飼主や怪我人さん、グリフォンを探していて、グリフォンを怪我させてしまったのは、ラーラさん達がグリフォンをいじめているのだと勘違いして襲い掛かってしまったから。

 人に怪我をさせたモンスターは処分されてしまう。

 だからグリフォンはそれを防ぐために、オルトロスの牙の前に飛び出たのだそうな。

 なんという、同朋想い!

 そして私の「お座り」に服従したのは、オルトロスはグリフォンを守ろうとしただけなのに、突然大勢に攻撃されて混乱して悲しくて寂しくて、ついつい強そうだし頼れそうだからと従ってしまったとか。

 グリフォンの方もオルトロスを庇おうとしたけど、却ってオルトロスが窮地に陥ってしまって、どうしたらいいか混乱して、後はオルトロスと以下同文。

 因みに私達の方に走ってきたのは怪我人さんを連れてきたのが見えたから、だそうな。


「皆、期待値が高すぎる!」


 なんでや!?

 私は厄介事は嫌いだし、危うきには近付きたくないんですが!?

お読みいただいてありがとうございました。

感想などなどいただけましたら幸いです。

活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 神様たち……天の上で大笑いして見ている気がする 「やっぱりアイツに加護つけといて良かった」 って、加護って目印にもなると思うから コメント不要ですm(_ _)m
[一言] グリフォンとオルトロスがわちゃわちゃしてた理由も納得。 しかし咄嗟に鳳蝶君を頼るとは本当的に長寿タイプといったところですね。
[一言] 期待値?高くないと先生が叱りますよ?(*´꒳`*)
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