チビッ子冒険者パーティ爆誕!
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あしからず。
アルスターとは、菊乃井のお隣の天領にある大きな街で、その少し行ったところにある大きな森、通称アルスターの森では珍しい木の実や花、染料になる樹液やソーニャさんが言ってた綿花なんかも、採取依頼がよく出されるそうだ。
棲んでるモンスターも悪鬼熊を除けば、大して苦戦するようなものはいないらしい。
ただ悪鬼熊は本当に狂暴で強いから、位階の低くて弱い冒険者達は熊避けの鈴や、緊急避難用の道具を必ず持って森に入る。
悪鬼熊ならエストレージャもバーバリアンも、相手に不足はないそうだ。
つまり悪鬼熊はそれだけ強いモンスターな訳で。
それを食い散らかしたモンスターがいる……かも知れない。
怖い話だ。
だからって依頼を受けたところで、すぐすぐ動ける訳じゃない。
まずは紡くんの冒険者登録をしなきゃだ。
それから私とレグルスくんと奏くん・紡くん兄弟でパーティを組んだことを、ギルドに届け出しないといけない。
丁度良くローランさんに会えたので、事情を話して手続きをぶん投げると快く引き受けてくれて。
紡くんのドッグタグを作るついでに、私やレグルスくん、奏くんの生体情報を更新すると、受付のロップイヤーのお嬢さんが失神した。
私の生体情報には、単独でデミリッチを、レグルスくんと奏くんと協力してクラーケンとギガントクラブを討伐したのが、はっきりと登録されたんだよねー……。
ローランさんが死んだ魚の目になって、ロマノフ先生をじっと見る。
見られたロマノフ先生は静かにローランさんから目を逸らしてた。
そんなハプニングがありつつも、紡くんは冒険者登録も終了。
私達のパーティは子どもなので、初歩の初歩・見習いからの出発だ。
ここから依頼を沢山こなさないと、位階は上がらないんだよね。
因みに私達のような子どもの冒険者は、菊乃井では無料で初心者講習を何度でも受けられる。その代わり講習を受けた回数だけ無償で依頼を受けなきゃならない決まりで、お年寄りのお手伝いや迷子のお世話係なんかを割り当てられているのだ。
時間が出来たら私やレグルスくんや奏くんも、紡くんと一緒に初心者講習を受けてみようかな。
とりあえず今日は先生方やソーニャさん、バーバリアンにエストレージャという名高いメンバーと一緒なので講習は免除。
このメンバーなら悪鬼熊が出ても、あっちのが気の毒なことになるだろうと、溜め息を吐きつつローランさんはアルスターの森のある天領の街の冒険者ギルドに依頼の受領の連絡を入れてくれて。
アルスターの街には、ソーニャさんの転移魔術でぽーんと飛んで行ったんだよね。
凄く大所帯だから、代表して話は先生方が聞きに行ってくれた。
その間に私はタラちゃんに協力してもらって、応急措置的に作ったスカーフに紡くんのお名前を刺繍して、ゴリゴリに付与魔術を仕込む。
「若様そんな心配することなくね? みんないんのに」
「万が一はぐれたら困るでしょ?」
準備はやり過ぎるってことはないんだし。
糸を始末して整えると、紡くんはスカーフを首に巻いて胸を反らす。
「つむ、ぼうけんしゃにみえるぅ?」
「うん、ちゃんとみえるぞ!」
レグルスくんが紡くんの頭を撫でる。
弟と友達の弟の尊みがヤバい。
奏くんとその光景にほっこりしていると、ギルドの木造の扉が鈍い音を立てて開く。
中からロマノフ先生とヴィクトルさん、ラーラさんがにこやかに出て来た。
「お待たせしました。依頼なんですが、大人数で来たので少し内容が変わりました」
「確認だけじゃなくて、悪鬼熊を食い散らかしたヤツを見つけたら討伐しても構わないそうだよ」
「バーバリアンやエストレージャには寧ろ、悪鬼熊よりそっちと鉢合わせした方が修行になりそうだね」
三人して「あはは」とか笑ってるけど、悪鬼熊より強いヤツにエストレージャとバーバリアンをぶつけるつもりってことだよね。
相変わらず何気にスパルタだ。
それを感じ取ったのか、エストレージャもバーバリアンもなんかげんなりしてる。
ともあれ、依頼は無事に受諾。
大人数なので三方に別れて、森に入ることに。
チーム分けは簡単に、エストレージャとヴィクトルさん、バーバリアンにラーラさん、私達正式名称「フォルティス」に宇都宮さん、ソーニャさんとロマノフ先生になった。勿論タラちゃんとござる丸は私と一緒。
強いのが出たら合流出来るように、連絡手段を持ってる先生方がそれぞれ別チームに入る方がいいからってことみたい。
私達はソーニャさんの魔術で転移して、アルスターの森の入り口にやって来た。
バーバリアンは森の北側から、エストレージャは南側、私達は東側からアタック開始。
「折角だから、初心者冒険者の実習といきましょうか」
「そうねぇ、索敵とか色々知っておいた方がいいものねぇ」
「「「「はーい!」」」」
皆で手を上げてロマノフ先生とソーニャさんにお返事すると、真似をしているのかタラちゃんも足を上げたし、ござる丸も腕のような枝をあげる。
私達の様子にソーニャさんもロマノフ先生も満足そうに頷くと、それぞれシャランラと手元を光らせた。
「まず基礎中の基礎、それぞれの武器と攻撃範囲を確認しましょうか?」
「ばぁばはロッド、アリョーシュカは剣ね。ばぁばは魔術は得意だけど、直接的な物理攻撃は不得意だから後衛ね」
光が収まると二人の手には、それぞれ立派なロッドと剣が握られていた。
ロマノフ先生の剣はたしか、名工・ムリマが鍛えた業物のはず。
鞘からして細かな葡萄の蔓のような見事な装飾がされていて、見るからにお高そうな雰囲気。
ソーニャさんのロッドも握る部分は金色で、エルフ紋のコンドルがびっしりと刻まれていて。
先端に付いている赤く輝く大きな石は、宝石か何かだったりするのかな?
四人して二人の武器をまじまじ見ていると、ロマノフ先生が宇都宮さんに声をかけた。
「宇都宮さんはモップを持ってきたんですか?」
「はい。モトおじいさんに柄を加工していただいて特別仕様になっております」
「ほほう。あの人が……」
「モップを作った事はないそうで是非に、と。いい経験だったと仰っておられました!」
そういうと何処からともなく、柄が象牙のような材質になったモップを出してくる。
なるほど、木の柄よりは強度が高そうだけど、あの象牙的な素材はなんだろな?
なんか覚えがあるんだけど……。
まさか……ロスマリウス様に貰ったお土産……。
ちょっとなんとも言えない予感が過ったけど、まあ、うん。
それを気にしたら紡くんの武器の方が気になってくる。
たしか紡くんの武器は、奏くんの弓を古龍の髭で強化した時に出た余りで作ったスリングショットだったはず。
冬の頃は魔力が足りなくて弾けないって言ってたような?
そう言うと、奏くんと紡くんが同じような誇らしげな表情で胸を張った。
「それがさぁ、聞いてくれよ若様!」
「つむ、おとちゅい……おとつい、スリングとばせるようになった!」
「そうなんだ!?」
「やったな、つむ!」
喜ぶレグルスくんと紡くんが、きゃっきゃうふふとハイタッチするのが凄く可愛い。
和んでいると奏くんが鼻の下を擦ってニカッと笑った。
「一昨日練習しててさ、急に出来るようになったんだ!」
「急に?」
急に。
その言葉になんか引っ掛かりを感じたけど、こどもってそんなもんだよね。
逆上がり練習してて、中々出来なかったのがコツを掴んだら急に出来るようになったりするし。
それは兎も角、スリングショットなら紡くんも後衛だし、弓の奏くんも後衛。
持ってきたプシュケをウエストポーチから出してふよふよ浮かせてる私も後衛だよね。
となるとバーバリアンから貰った小太刀を持ってるレグルスくんが、剣だから唯一の前衛になる訳で。
むむっと眉間にシワが寄る。
「パーティのバランス悪くない?」
「うーん、前えいにもう一人か中間にもう一人いた方がいいかな?」
「あ、でも私、プシュケを使って障壁張れる……。タラちゃんとござる丸も前衛行けるし」
「じゃあ、今回はタラちゃんとござる丸が先頭で、次にひよ様で行こうか。中間はアリス姉に入ってもらって」
「了解です!」
「じゃあ、れーはタラちゃんとござのうしろでにぃにのまえ!」
「つむはぁ、にーちゃんのちょっとうしろ!」
びしっと敬礼を決めた宇都宮さんも含めて、いそいそと隊列を組んでみる。
するとパチパチと拍手が二つ。
「良くできました。自分達の特性を把握して、きちんと隊列が組めましたね」
「ちゃんとお話し合いして決められたわねぇ」
誉められるとテンションが上がる。
そんな訳で「えい! えい! おー!」と勝鬨上げて、私達フォルティスは初めての依頼に挑むべく、森に踏み入った。
お読みいただいてありがとうございました。
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活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。