新たな形に挑む時
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書籍化されている部分に関しては、後々の方の資料になればと思い、あえて誤字脱字や加筆訂正部分をそのままにしております。
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あしからず。
風も水も少しずつ温み出した頃、漸く一つ形になるものが出来た。
それはジャヤンタさんとウパトラさん・カマラさんからの依頼で作っていた服だ。
三人が持ってきてくれた火鼠の皮は、お揃いの赤いライダースジャケット風にして、毛皮部分は裏地に。
火鼠の皮と毛皮は暑さ寒さを避けて適温に保ってくれるから、どんな所でも着られるのが良いよね。
湖水の貴婦人の布は中に着込むシャツやスカーフに使って、どれもこれも白金娥の糸で縫い付けてある。
それで今回頑張ったのは刺繍で、ジャヤンタさんのジャケットには虎、カマラさんには龍でウパトラさんには蓮が、それぞれ施されている。
因みに刺繍には回復と能力を上昇させるような魔術はその効果が倍増され、逆に敵対者からかけられる魔術は全て反射するって効果を付与。
ただし火炎系や水・氷結系の魔術は、素材に元々無効効果が付いているから、進化して全吸収後体力や魔力に還元されるようになった。
なお、湖水の貴婦人の布の魅了効果は、商談や交渉の時に相手の好感度を底上げして、有利に運ぶような効果になっている。
これはでも、相手が精神操作系の魔術が効かなかったり、耐性があったりすると、あんまり意味がないのが玉に瑕。
お揃いのレザーパンツも作ったんだけど、それには変異種のカトブレパスの皮を使用して、状態異常無効を組み込んでみたけど、これで膝蹴りなんかすると蹴られた人は石化する。
我ながらちょっと恐ろしい物を作っちゃったかも知れない。
ちゃんと付与魔術が定着したか鑑定してくれたヴィクトルさんの目が、死んだ魚のそれっぽくなって。
「……どんだけ吹っ掛ける?」
なんて言い出したくらいだ。
材料はほぼほぼバーバリアンのお三方が持参してくれたもので、唯一変異種のカトブレパスの皮は仕入れたけども、これも付近の職人さんには鋏を入れるのも難しくて、皮職人さんが嘆いていた物を全部買い戻したもの。
残った皮は使いやすくして、また格安で売るなり、加工して服にするなり、自在だから損はない。
なので材料と色々を相殺すると……。
「金貨二十枚は安すぎて、逆に腹立つんだけど?」
「お友達価格はいらないって言ったよな?」
「きちんと技術に見合う対価を取ってくれなくては、次も発注しづらくなるんだが?」
応接間のローテーブルに請求書を出して商談してる筈なのに、私はバーバリアンの三人から圧迫面接を食らってたりする。
明らかに不服そうな顔の三人に、私はちょっと困った。
「いや、ちょっと待ってください。あの、理由があってですね……!」
三人の剣幕に驚いた私の背後から、すっとロッテンマイヤーさんが前に出てきてくれた。
「僭越ながら、Effet・Papillon商会の商会長補佐としてご説明させていただきます。実はEffet・Papillonは現在新たな取り組みを行っておりまして」
ツラツラと澱みなく話してくれるのは、これからのEffet・Papillonの宣伝戦略の話で。
私の作った幻灯奇術は、使用者が見たもの、或いは使用者がイメージしたものをスクリーンとなる布や壁に投影出来るものなんだけど、これを使ってプロモーション映像を作りたいんだよね。
私が作ったジャケットを着たバーバリアンの戦闘風景を実際に見て、それを幻灯奇術で布に投影する。
そしてその幻灯奇術をかけた布を冒険者ギルドで多くの冒険者たちに見てもらい、Effet・Papillonの冒険者用衣服が動きやすく防御に優れているかを目の当たりにしてもらうのだ。
「いや、でも、材料揃わないとそっくり同じのは出来ないだろ?」
「勿論。でも強い冒険者とデザインが同じってだけでも着たいと思う人はいると思うんですよ。それでデザインは同じだけど色違いで効果はかなり落ちるけど、それなりに良いものなら、売れるんじゃないかなって」
「うーむ、形から入る輩はたしかにいる……かな?」
「あー……いなくはないわね」
三人三様の反応だけど、悪くないかもって感じか。
だけど狙いはそれだけじゃない。
バーバリアンやエストレージャ、ラ・ピュセルなど、冒険者やそれ以外の人にも人気の人達がEffet・Papillonの商品を使っていることを、広く知ってもらう。
それこそが真の目的な訳で。
そう言うと、きらんっとカマラさんの目が光った。
「今、ラ・ピュセルって言ったかい!?」
「はい。彼女たちにも協力してもらいます」
「じゃあ、シエル様とお揃いの小物とかもあったりするのか!?」
「え? ええ、作る予定ですが?」
「言い値で買おう!」
凄い食い付き。
カマラさんの勢いにジャヤンタさんとウパトラさんの顔が、ちょっとひきつる。
その様子を見て、ロッテンマイヤーさんがすかさず声をあげた。
「このように、ご贔屓の役者や歌手とお揃いの小物を持ちたいと思う方はいらっしゃると思うのです。ですので実際に着けておられる様子をお見せすることで、更に購買意欲を煽ろうという戦略でございます」
「その宣伝にご協力いただけることを前提に、金貨二十枚でいかがでしょうか?」
「つまり指名依頼の依頼料と相殺して、金貨二十枚ってことか」
畳み掛けるように告げた私に、ジャヤンタさんが顎を擦って唸る。
そこにウパトラさんが手を上げた。
「それは一回で終わりなの?」
「試験的にやってみるので、好評だったら続けようと思ってますが……」
「そうね、だったら好評だったら次もやるとして金貨二十枚。そんなに効果がなくて一回切りなら金貨四十枚。それでどう?」
「値上げされてますよ!?」
提案にびっくりすると、ウパトラさんが肩を竦めた。
ジャヤンタさんやカマラさんも凄く真面目な顔で、私をじっと見る。
なんだろう?
困惑していると、ジャヤンタさんがワシワシと頭を掻いた。
「いや、だって、どう考えても倍の値段が付いたっておかしくないんだぜ? それを成功するかしないか解らんもんで安くされたら、これから先気兼ねして防具の注文出来なくなるだろ?」
「そうよ。もっと良い素材があって、違うデザインの服が欲しいって思っても、値引きされちゃうって解ったら頼めないわ」
「それだけの技術があるのに、きちんとそれに見合う対価を渡せないなんて、顧客としても友人としても気を遣うからね」
「……!」
それってつまり、次も何かしらあったら注文したいってことだよね?
確認すると三人からは「是」と返って来て。
勢いよくお礼を言ったら「こちらこそ」って、笑って返してもらった。
それで一応商談成立。
その場で契約書にサインしてもらうと、ニヤリとジャヤンタさんが笑う。
「そんで、何処で見学したい?」
「あ、戦闘の見学場所ですよね?」
「そうそう、何処がいい?」
近場の菊乃井のダンジョンでいいかな。
近いし日帰り出来るし。
そう言うと、ウパトラさんとカマラさんが首を横に振った。
「菊乃井のダンジョンは最下層くらいまで行っても、大した戦闘風景にはならないわね」
「あそこは、私達には少し物足りないんだ」
「そうなんですか……」
それじゃダメだ。
やっぱり迫力のある映像で、カッコ良く戦う三人の姿を通して、Effet・Papillonの商品の良さを見てもらいたいし。
どうしようかな?
考えていると「商会長」と、隣のロッテンマイヤーさんが私に呼び掛けた。
「どうしました?」
「エストレージャとバーバリアンの皆様で、菊乃井の砦で模擬戦をしていただいてはどうでしょう?」
「ああ、そうするとエストレージャとバーバリアンの二パターンが一気に見られるかな……」
そうなると砦の使用許可をルイさんとシャトレ隊長に取らなきゃだ。
でもその前にお三方はどうだろう?
目の前の三人に視線でお伺いをたてると、ジャヤンタさんもカマラさんもウパトラさんも、不敵な笑みを浮かべる。
「リベンジ・マッチとはありがたいな!」
「武闘会ではヤられたけど、今度はそうはいかせないわよ?」
「あの三人も強くなっているだろうし、異存はないな」
「いや、武闘会は勝ったのお三方ですけど?」
首を捻る私に、ジャヤンタさんがぶんぶんと否定系に首を振った。
「油断して負けかけたとか、実戦じゃ通じねぇっての!」
「そうよ、あんなの負けたのと同じよ!」
「前も言ったが実戦なら死んでたのは、私とウパトラだ。だからリベンジ・マッチなんだよ」
なるほど、それが武人の矜持ってやつか。
なら、凄いものが見られるかも知れない。
これは砦の兵士達にも良い娯楽になるかも。
「ではその様に手配します。よろしくお願いします!」
「「「こちらこそ!」」」
差し出した手を握り合うと、バーバリアンは獰猛だけど爽やかな笑みを浮かべた。
お読みいただいてありがとうございました。
感想などなどいただけましたら幸いです。
活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。
 




