(社会的に)殺る気は満々
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次回の更新は6/5・金曜日です。
「えーっと……父は何を考えてるんでしょう?」
「あー……いや、それは私にも解りませんが、暗殺者とかの類いではないと思いますよ。だとすると呪具かと……。ただ何故我が子の誕生日にそんなものを贈ってくるのか意味が解らない……」
いくらなんでも年端もいかない我が子に暗殺者だの送るほど悪辣ではないし、そんな度胸はない。
それが新年パーティーだのなんだので会った事のあるヴィクトルさんとラーラさんの、父に対する評価らしい。
直接会話して色々あったロマノフ先生は、またちょっと思うところもあるらしいけど、概ね二人と同じ意見だそうだ。
「つまり、今、何故こんなに自分が苦境に立たされているか解っていない、お目出度い人ってことですか」
「恨まれている理由は流石に察しておられますが、自分の方が酷い目に遭わされているとは思っているでしょうね」
「度しがたいな……」
私に恨まれる覚えがあるのに、やり返されると思ってないとか、どれだけ鈍感なんだろう。
あれか?
自分が酷いことを他人にするのはよくて、他人からされるのは良くないってやつか?
呆れて声もでない。
バーバリアンは用事があって屋敷に来ようとしたのか、その使者とやらに案内を頼まれたのかは解らないけど、私と父の確執に巻き込まれたのは明白だ。
「とりあえず、バーバリアンの皆さんをなんとかしなきゃですね」
「はい。ですから、私とヴィーチャで行って来ようかと」
ロマノフ先生なら相手側が何であれ遅れを取ることはまずないし、呪具の類いならヴィクトルさんが解呪出来ればそれでよし。ダメでも呪具そのものを破壊すれば何とでもなる。
そういうことなのだろうけれど、私は首を横に振った。
「私も行きます。父が何を仕掛けてきたのか、それとも他に理由があるのか、見極めないと」
「や、でも……」
「足手まといですか? それなら大人しく家にいますが、そうでないなら連れていってください」
ヴィクトルさんは来ない方がいいと思っているのだろう。眉を八の字にして凄く困った顔だ。
でもロマノフ先生をみれば、顎を一撫でしてから「そうですね」と、口を開く。
「これがそうだとは思いませんが、君に含む所、ぶっちゃけ恨み辛み憎しみ嫉みを持っていて、更に権力と伝がある相手が仕掛けてくる一例を学ぶ機会ではありますね」
「アリョーシャ!」
ロマノフ先生の言葉に、ヴィクトルさんが困り顔から一変、憤りを露にする。
何と言うか、危ないことに嘴を突っ込む時、ロマノフ先生はしれっと私の背中を押すけど、ヴィクトルさんは私を背中に庇って近寄らせないようにすることが多い。
ロマノフ先生は事に当たらせることで、直接的な乗り越えかたを教えてくれるし、ヴィクトルさんは文字通り私を守ろうとしてくれている。
どちらも私のためだ。
だけど、今の私に必要なのは。
「ヴィクトルさん、ありがとうございます。でも私は、もしも父が何かしら仕掛けてきたのなら、それを逆手に取ってやりたい。レグルスくんの誕生日プレゼントにかこつけて何かしようというなら、その見下げ果てた性根を叩きのめしてやりたいんです!」
そうだよ。
レグルスくんはこの一年とちょっと、ワガママも言わずに良い子にしてたんだ。
お母様を亡くされたばかりで、父上に会いたいだろうに、そんなことおくびにも出さずに。
それにも拘わらずあのクソ野郎、宇都宮さんからも聞き取りしたけど、「宇都宮と二人で帝都に来なさい」ってバカみたいな手紙以降、ハガキの一枚も寄越してないらしい。
なのに、やっと贈ってきたプレゼントに呪具を仕込むとか。
こんなことが許されていいのか!? 否! 絶許!
肥溜めに落として三日くらいそのまま漬物にしてやろうか!?
「あ、うん。そうだね、解った。あーたんは僕が守るから、一緒に行こう」
「まんまるちゃん、やる気満々なのはいいけど、色々駄々漏れなのは優雅じゃないよ」
はう!?
ヴィクトルさんのドン引きしたような声と、ラーラさんの苦笑いに顔がひきつる。
いけないいけない、ついつい本音が口からポロリしてしまった。
貴族として殺意駄々漏れとか、美しくないもんね。
げふんっとワザとらしく咳払いをすると、ロマノフ先生がニコッと笑う。
それに応えるように、ラーラさんがソファから立ち上がった。
「じゃ、ボクはひよこちゃんとカナと庭いじりしてくるよ」
フリフリと手を振ってリビングを出ていくラーラさんは、もしもに備えてレグルスくんと奏くんを守りに行ってくれるのだろう。
そんなわけで、私とロマノフ先生とヴィクトルさんで、バーバリアンを迎えに行くことに。
ロッテンマイヤーさんに見送られて、一歩屋敷の敷地から出ると、冴えて冷たいけど爽やかだった冬の空気が一変して、なにやらネバついて鳥肌が立つほど異様な気配に覆われる。
マフラーを巻いていても首筋が冷たい。
「うわぁ、これはダメなのが来た感じだね」
「かなり強い呪いのようですね」
「そうなんです?」
「ええ、これはかなり強力な部類ですよ」
とか言いつつ、先生の顔はいつもの柔らかい微笑み。ヴィクトルさんの方も、肌に感じる気配が気持ち悪いのか鳥肌が立ってるらしいけど、全然怖がった感じじゃない。
私は呪詛なんて初めて感じるけど、猫の舌で繰り返し手を嘗められてる感じがする。
あれ、猫が好きなひとにはご褒美なんだけど、猫の舌ってざりざりしてて、嫌な人は嫌な感触なんだよね。
猫の舌は嫌いじゃないけど、猫もいないのにその感触だけあっても嫌だな。
ぽてぽてと街への道をロマノフ先生を先頭に、私とヴィクトルさんが手を繋いでその後ろを歩くこと暫く。
木々が奇妙に捻くれて見える場所に、人が四人。
カマラさんとウパトラさん、それからジャヤンタさんの姿はいつも通りなんだけど、一人見覚えのない人がいる。
いるんだけど。
「ああ……あれか。真っ黒だね」
「やはり呪具ですか」
「うん。まだ何系の呪いが掛かってるのか見えないけど……」
「えぇっと、あれ、人なんですか?」
四人目の人が、私にはどうしても人間に見えない。
そう言えば、ロマノフ先生とヴィクトルさんの目が少し見開かれて。
ヴィクトルさんが私の頭から爪先を視線で撫でると、「ああ」と溜め息のような声を漏らした。
「アリョーシャ、あーたん神聖魔術生えてる」
「おや、まあ。早いですね」
「うん。生えるのは想定内だけど、時期が早すぎ。先生の準備が出来てないよ」
「そうですね。どうするかな……」
むむっと唸る二人を横目に、私は人に見えない誰かに目を凝らす。
するとうっすらと、女の人の輪郭がその中に見えて来た。
「鳳蝶君、どう見えます?」
「が、骸骨を被った女の人?」
「骸骨か……厄介だね」
肩を竦めるヴィクトルさんとロマノフ先生はあんまり気にしてないのかもだけど、女の人に被さる骸骨がにたりとこっちを見て嗤ったような……。
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