大晦日だよ、全員集合!
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大変励みになっております。
次回の更新は5/18・月曜日です。
さて、大晦日だ。
去年に続いて魔術で大掃除をすることになったんだけど、今年はタラちゃんやござる丸も加わって、凄く賑やか。
ポニ子さんの厩舎もついでに補修したんだけど、タラちゃんの糸とござる丸の出した植物で冬は暖かくて、夏は涼しくなるように出来て、ポニ子さんだけじゃなく颯やグラニも喜んでた。
今年の初めと同じく、先生方は朔日の朝は皇宮主催の新年パーティーに参加だし、奏くんも源三さんも朝は家族で過ごす。
だからうちの新年パーティーは夕方から、やっぱり立食パーティーだ。
だけど今年は大晦にもイベントがあるのだよ!
菊乃井の街や周辺にある村のひとが優先的に参加できるけど、それ以外の人だって楽しめる、菊乃井少女合唱団のコンサートが!
わー、拍手!
今日は子供が夜更かししてても怒られない日だし、なにより重大イベントがある。
そんな訳で私とレグルスくんはたっぷりお昼寝をして、お夕飯を食べてからお出かけだ。
行き先は街の中にあるユウリさんとエリックさんが暮らすお家。
彼らのお家は街の広場に面した二階建てで、その一室からコンサートの舞台が凄く良く見えるんだよね。
つまり特等席。
最初は普通にコンサートを見るつもりでいたんだけど、人出が想像を超えたくらい集まりそうで、その中に私たちが下手に混ざると押し潰されたりするかもっていうのと、やっぱり警備が疎かになってはいけないってことで、急遽ユウリさんがお家に招待してくれたんだよね。
当日は自分もエリックさんも忙しいし、なによりシエルさんは舞台の上。
「アンジェちゃんにもお姉さんの晴れ姿を見せてやりたいから子守りヨロシク」って笑うユウリさんに、エリックさんは恐縮してたけど、そういう名目があった方がひとのお家に入りやすい。
ユウリさんたちのお家に待ち合わせ時間に行くと、ユウリさんは「冷蔵庫にあるもの、良かったらなんでも飲んで」と言いつつ家の鍵を渡してくれて。
忙しいなかを縫って来てくれたんだろう、足早に野外舞台の控え室へと去っていった。
なので二人へのお土産の蜜柑のパウンドケーキをそっと置かせてもらって、先に中で待ってたアンジェちゃんを連れて私達は二階へ。
私達っていっても、屋敷のひとを皆連れては来れなかったので、エルフ先生お三方と私とレグルスくんと奏くんの計六名でお邪魔してる。
ユウリさんとエリックさんの家は、帝国では東国風っていわれる造りで、三和土があって基本は板張りだけど、一階の一部とユウリさんの寝室には畳が敷かれているそうだ。
玄関で靴を脱がなきゃいけないのも、そう。
最初は私もびっくりしたんだけど、帝国は東西の文化の交地。靴を脱ぐ文化も脱がない文化も、うまく融和していて、しっかり根付いている。
TPOと趣味趣向によって好きな方を選べばいいよって感じ。
広場に面した部屋は客間だそうで、二階に上がると早速窓を開けて外を覗けば、広場はコンサートを見に来た人達で一杯だ。
コンサートが始まるのを今か今かと待ちわびる熱が、離れていても伝わってくる。
「さ、若さま、あれ出そうぜ!」
「うん、ちょっと待っててね」
ニカッと笑う奏くんに促されて、いつも持ってるウェストポーチから金属の拍子木くらいの棒を六本取り出す。
それにヴィクトルさんが首を捻った。
「なにこれ?」
「えぇっと、サイリウムってやつでコンサートの時に使う異世界の道具です」
「コンサートの時に使う異世界の道具……?」
「らしいよ。これを使って踊ることもあるとか」
目を丸くしたヴィクトルさんに、ラーラさんが頷く。
バーバリアンの三人と再会した後ちゃんと名前も思い出せた事だし、奏くんと一緒にモトさんにも再会したんだよね。
奏くんは二週間に一回、鍛冶をモトさんに教わっていて、サイリウムの相談をモトさんにしてくれて。
形状とかどんな感じなのか解んないから、解ってる私を連れてこいと言われたそうで、源三さんのお家にレグルスくんとお邪魔して、奏くんと一緒に二人で鍛冶を教えてもらった。
それで魔力を通せば光る石を、安い鉄に混ぜて拍子木状に成形すれば、試作品より随分サイリウムっぽくなったんだよね。
ただ、まだ魔術が使えない人に使えるようには出来てないのがなー……。
まあ、これに関しては改良あるのみってやつだ。
因みに、私にもレグルスくんにも鍛冶のスキルは生えなかったんだけど、私は彫金っていうのが出来るようになったし、レグルスくんは刀の手入れの仕方を教わった。良き良き。
「ふぅん。で、ラーラはなんでそんなこと知ってるの?」
「ああ、まんまるちゃんとひよこちゃんがアンジェとあの棒を持って面白いダンスを踊ってたのを見たからさ。あの棒を持って踊りつつ、棒に魔力を通せたら魔力制御の訓練になるからね。アンジェは先に魔素神経を発達させなきゃだけど、棒に魔力を通すのを意識してればそのうちちょっとずつでも発達するかと思って」
「おちびさんたちには、瞑想させるより身体を動かす方がいいかも知れませんね」
ラーラさんの言葉にロマノフ先生が頷く。
なんと、雨の日に暇潰しがてらに踊ってたのが、そんな風に役立つとは。
二階の窓近くに椅子を四つ並べて、私と奏くんでレグルスくんとアンジェちゃんを抱っこしたラーラさんを挟む形で座ると、ロマノフ先生とヴィクトルさんは立ったまま。
申し訳ないなと思ったんだけど、窓もそんなにおおきい訳じゃないから私達の後ろに座っちゃうとかえって舞台が見えなくなっちゃうんだよね。
コンサート自体は小一時間程だから、お二人は立ってても平気とは言ってたけども。
少し寒いけど窓を開けて、サイリウムを全員に手渡せば、観覧準備は完了だ。
ドキドキしながら待っていると、舞台上にルイさんが現れる。
それから今日のコンサートの趣旨──領主からの細やかな今年一年の労いや、来年への祝福であることを説明し、この舞台に携わってくれた人達や道の補整に関わってくれた人達への謝辞を述べると、一礼して舞台を降りた。
それを合図に、入れ替わりにシエルさんを含めた菊乃井少女合唱団のメンバーが舞台に立つ。
観客に向かって綺麗なお辞儀をして見せた六人に、黄色い悲鳴や野太い声援が降り注ぐ。
それが収まらぬ中、そっと六人が一歩前に出た。
「本日はお忙しい中、私達菊乃井少女合唱団ラ・ピュセルのコンサートにお越しくださり、ありがとうございます!」
どっと拍手が巻き起こるのに、メンバー全員が美しい礼を披露する。
それからシエルさん以外の五人が、彼女の方を向いた。
「私達の新しい仲間を紹介します!」
五人の声が重なるのに応えて、シエルさんが衣装のマントを華麗に翻す。
その姿はまるで絵本の王子様のようで、何処からともなく女性の黄色い声援が起こった。
「シエルです。皆様どうかよろしくお願いいたします!」
シエルさんが再び観客に向かって礼をすると、拍手喝采。
シエルさんはもうラ・ピュセルの一員としてショーに出てて、ファンも沢山いるみたいだから、滑り出しは順調かな?
そう思っていると、眼下で銀に桃色の混じった頭が見えて、何となく見ているとその人の周辺から『シエル様ー! 頑張ってー!』とか『応援してますー!』とか、女性の大声が。
聞き覚えのある声に、奏くんが「あれ、カマラ姉ちゃんじゃね?」とぽつりと溢す。
カマラさんねー。
私がポロッとシエルさんの事を話した日、早速カマラさんはシエルさんの出ているショーを見に行ったそうな。
そして翌日、採寸のために会った時には「シエル様尊い」っていうのが中心の萌え語りを披露してくれたんだよね。
カマラさんがいるってことは、多分その近くにジャヤンタさんやウパトラさんもいるはず。
探してみるとやっぱりカマラさんの隣に、銀に青が混じった髪の人と虎耳の人が見えた。
「ジャヤンタたちもきてるよー!」
「そうだね。ジャヤンタさんたちも楽しみにしてるって言ってくれてたもんね」
ぴこぴこと身体を乗り出して下を見るレグルスくんを座らせると、丁度良いタイミングで曲が流れてくる。
最初の曲はラ・ピュセルがカフェでのショーでも初めに歌う曲だ。
知ってるひとは手拍子を打ったり、合いの手をいれたりで中々の盛り上がり。
それからは一人一人のソロ曲や合唱の合間に、ダンスやトークを織り混ぜた構成だ。
トリを飾る曲は歓喜の歌なんだけど、その前の曲は帝都のコンクールで歌ったのをシエルさんも加わった六人で歌う。
曲の出だしに合わせてサイリウムに魔力を通して光らせると、歌に合わせてそれを左右に振ると、舞台の六人が一斉に私達の方を見た。
すると隣の家から大きな歓声が上がって。
涙声混じりのそれに驚いて隣の建物──ラ・ピュセルの寮の大きな屋敷を見ると、バルコニーに人がいた。
四、五十代の男女数名に、私や奏くんくらいの女の子や男の子もいれば、アンジェちゃんくらいの子も。
時折ラ・ピュセルのメンバーそれぞれの名前を呼んだり、「頑張れ」とか「可愛い」とか叫んだりしているなかに「お姉ちゃん」だとかも聞こえてくる。
「もしかして、ラ・ピュセルの?」
「うん、そう。帝国のコンクールのご褒美に家族を舞台に呼びたいって、彼女たち言ってたでしょ?」
私の疑問に答えてくれたヴィクトルさんの言葉に、思い当たる節があって頷く。
帝都の音楽コンクールで優秀賞を取った時、彼女たちは故郷に帰って錦を飾るより、頑張ってる自分を見てほしいから家族を舞台に呼びたいと言っていたと、ロッテンマイヤーさんから聞いていた。
だけどこのタイミングになったのは、中々故郷のご家族とラ・ピュセルたちのスケジュールが噛み合わなかったからだとか。
新年の朔日はラ・ピュセルもご実家の家業もお休みだ。
それなら年越しコンサートを見てもらって、翌日家族でゆっくり過ごしてくれればっていう。
そんな話を聞いているうちに歌が終わったようで、「次がラストです!」と六人が元気に告げた。
それから私達のいる方に手を振ると、こちらに手を差し向ける。
「これから歌う曲は、去年の大晦に若様が歌われた曲です!」
「若様もコンサートに参加してくださっています!」
凛花さんとシュネーさんがそう言うと、広場にいた人達が全員一斉に私のいる建物を振り返る。
驚いていると、どこからともなく拍手が起こって。
「鳳蝶君、手を皆さんに振ってあげてください」
「は、はひ……」
ひょぇぇぇ、皆がこっち見てる。
その視線の多さにちょっと怯んでいると、隣にいたレグルスくんが私の手を取ってお手振りするようにブンブン揺らした。
「たのしいねぇ、にぃに!」
きゃらきゃら私の手を振りながら笑うレグルスくんに、緩く緊張がほどけた。
「皆さん、本日はお集まりくださりありがとうございました。どうぞ最後までお楽しみください」
ラーラさんに常日頃教わっているように、椅子から立ち上がって胸に手を当ててお辞儀すれば、一瞬静まり返って、今度はさっきよりより大きな拍手が起こる。
指笛や歓声が一頻り収まった頃、ステラさんとリュンヌさんが手を上げた。
「みなさーん! ショーを見て覚えていたらいっしょに歌ってくださいねー!」
「一緒に往く年に感謝と、来る年に希望を持って歌いましょう!」
「来年も、私達を応援してくださると嬉しいです!」
「今年一年ありがとうございました!」
続けてシエルさんと美空さんが観客に手を振ると、それを切っ掛けに歓喜の歌の前奏が始まる。
すると六人がそれぞれ手を繋いで、大きな声で歌い始めた。
それは小さな子供にも解りやすく訳された歌詞で、時折太い声や高い声が客席からも聞こえる。
隣の人と肩を組んだり、手を繋いだりしながら、思い思いの姿でみんな笑顔でコンサートを楽しんでいて。
夜空をキャンパスに花が降るイメージを描くと、祈るように手を組む。
魔力がじりじり集まって天に昇って行くのを感じていると、ざわざわと外がざわめきだした。
「にぃに、おはながふってるよー!」
「きれー!」
来年はもっと綺麗なものをみんなで見られますように──。
お読みいただいてありがとうございました。
感想などなどいただけましたら幸いです。
活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




