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白豚貴族だったどうしようもない私に前世の記憶が生えた件 (書籍:白豚貴族ですが前世の記憶が生えたのでひよこな弟育てます)  作者: やしろ


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秘する花を知ること

いつも感想などなどありがとうございます。

更新は毎週月曜日と金曜日の二回です。

 ミケルセンさんのその気持ちは、今の自分にも、生前の「俺」にも、身に覚えがありすぎてツラい。

 そんなミケルセンさんの最推し俳優なユウリさんは、凄く遠い目をしてるし、ちょっと前までの上司のルイさんは唖然としてる。

 そんな中、「まあまあ」と口を開いたのは、ロッテンマイヤーさんだった。


「そのお気持ち、とても解ります!」

「本当ですか!」

「ええ、自分の働きが応援するお方の糧になると思えば、幾らでも頑張れますもの!」


 意外だ。

 ロッテンマイヤーさんも何かの沼の住人だったみたい。

 理解者を得たのが嬉しかったのか、ミケルセンさんはニコニコしてる。

 でだ。

 ミケルセンさんが飛び出る杭になった理由は解った。

 公爵夫人にユウリさんが見初められたのも、二人して芝居を観に行ってた時で間違いないだろう。

 しかし、こう言ってはなんだけど、芝居を観に来る公爵夫人なら、彼が元役者で現演出家だと知れば、もしかしたら健全な形でパトロンになってくれたんじゃなかろうか。

 その疑問を「無神経だとは思いますが」と前置きして二人にぶつけると、ユウリさんがため息をついた。


「それは俺も考えたんだよ。パトロンになって貰えたら、もしかしたらこの世界で演出家として生きていけるんじゃないかって」

「そういうことであれば、私よりも権力を持つ公爵夫人の方がユウリを守れると思いました……。しかし」


 彼の公爵夫人はユウリさんの外見だけに興味を持ち、演劇などどうでも良いという態度しか見せなかった。

 芝居小屋に足を運んでいたのも、結局自分好みの美男子役者を見繕っていただけに過ぎず、飽きたら飽きたで見向きもしなくなる癖に、よその女性がその俳優のパトロンになろうとすれば、それを邪魔するという。

 ユウリさんに目をつけたのはそう言う癖の悪い女性だったのだ。


「俳優として、演出家としてのユウリを欲するなら兎も角、公爵夫人は欲の捌け口としてしかユウリを見ていない。彼は芸術家なんですよ! 素晴らしい芸術家なんだ! そんなこと許せる訳がない!」

「落ち着けよ。俺はなんとも思ってないって。それこそ芸術なんてもんは、好きな人間には宝だけど、興味のない人間には無価値なんだから」

「私が! 嫌なんです! 君の作り出す芸術が好きな私には、絶対に許せない!」


 解る。

 よーく、解る。

 私だって菫の園のお嬢さん方やラ・ピュセルのお嬢さん達に、彼女らが作り出す物の素晴らしさを理解もせず、そんな不埒な視線を向ける奴がいたら、絶対に許さん。

 処す。

 社会的に処す。

 トコトコとミケルセンさんに近付くと、その文官らしい手をそっと取る。


「解ります! その気持ち、よぉく解ります! ええ、そんな人はお尻の毛どころか、頭の毛だって、脛毛も胸毛も、ありとあらゆる毛を毟り取ってやるんだから!」

「ああ! 菊乃井様!」

「ミケルセンさん! 私達は同志ですよ!」


 ミケルセンさんと堅く握手を交わすと「こわっ!?」とユウリさんが後退りしたけど、心外だ。

 真後ろでは「ほら、シルキーシープだろ?」とか「いやぁ、シルキーシープ以上ですよ」とか「本当に意外に血の気多いよねー」とか聞こえた気がするけど、振り向いたら先生が三人ともそっぽを向く。

 私、先生方の教え子なんですが?

 私の気持ちを代弁するように、ロッテンマイヤーさんが咳払いする。

 でも三人ともしれっとしたもの。

 それどころか、ちょっと嬉しそうにヴィクトルさんが私とミケルセンさんとユウリさんに近づいてきた。


「ねぇ、あーたん。このお二人さんどうするの?」

「え?」

「当然保護するんでしょ?」

「ええ、勿論。さっきも言ったようにEffet(エフェ)Papillon(パピヨン)商会か、菊乃井少女合唱団の方を手伝ってもらおうかと」

「じゃあさ、ユウリ君だっけ? 彼、演出家なんでしょ? これを機に歌劇団計画進めようよ。彼を雇うなら費用は僕が用立ててもいいし」


 ニコニコといつにもまして愛想よく笑うヴィクトルさんに、ユウリさんは眉を寄せる。

 怪しんでるというか、突然のお誘いに理解が追い付かない様子だ。

 だからヴィクトルさんと私の望み、これまでの取り組みを話すと「なるほど」とユウリさんは顎を擦った。


「芸術を真に楽しもうとすると、教養がいるんだ。芝居の舞台になった時代やその当時の世俗を知っているのと知らないのとでは、台詞一つ感じ方が違う。物語をどんな風に解釈をするのも舞台を見た人の解釈だとは思うけど、それでも心底楽しむためには最低限必要な知識ってのがあるんだ。演じる側にもそれは言えることだな」

「知識の幅が広がれば、演技にもそれを活かせるってことかい?」

「それもある。でももっと根本的なことさ。貴族の暮らしを知らない、想像も出来ない奴が、貴族の演技なんて出来ると思うか?」


 ユウリさんの真剣な言葉に、ヴィクトルさんも他の人達も「確かに」と頷く。

 人間、経験のないことは解らないもの。

 けれどその経験の無さを補うために、想像力があって、その想像力を補強してくれるのが知識だ。

 更にその知識を仕入れるための道具こそが学問で、平たく言えば読み書き計算になる。


「人は誰しも考える力や想像力を持つ。それに栄養を与えるのが知識で、育った考える力や想像力は優しさや勇気の苗床になる……と、俺は思う。だからあなた方が歌劇を広める前に、豊かで誰もが知識を得られて学べる環境を作ろうとしているのは理解できる」

「じゃあ……!」

「その歌劇団計画を引き受けてもいい。でも……」


 そっとユウリさんが目を伏せる。

 首を傾げるとミケルセンさんが、代わって口を開いた。


「ユウリが渡り人だということを、お国に報告しなくてもよろしいのですか?」

「ああ……」


 少し考える。

 ルマーニュ王国の腐敗の度合いと帝国の衰退具合、どっちがましだとか今はまだ判断がつかない。

 けれど、一つだけ言えることがある。


「この帝国の皇帝陛下は庶民のために、技術に対する利権の保護を……庶民が大貴族に搾取されない法を成立させてくれました。だから陛下にユウリさんの事をお伝えしても大丈夫かとは思います」

「でも国に保護されちゃったら、自由には動けないよ?」

「なのでこう報告します。『渡り人っていっても演劇の専門家』と」

「まんまじゃないか」


 そう、そのまんま。

 渡り人はこちらにない技術をもたらす。

 だから国は手厚く保護する訳だけど、それは翻すとそういうものを持っていなければ必ずしも保護したい存在ではないということでもある。

 演劇は文化で芸術ではあるけれど、生きるのに必要な技術なのかと言われれば、残念だけど答えは「否」だ。

 有益な技術をもたらさないと解れば、渡り人を抱えるメリットは少ない。

 今回はそこにつけこむ。


「ユウリさんは残念ながら、土木とか生活に必要な技術の知識を持っていない。しかし演劇は専門家。菊乃井は今、演劇や舞台芸術に力を入れている。国益になりそうな利益をもたらす存在ではなさげなので、舞台芸術に力を入れている菊乃井で是非保護したいと申し入れるんです」

「なるほど。国として保護するメリットはないけど、菊乃井にはあるから菊乃井に……と」


 フムフムとユウリさんが頷くのに、ミケルセンさんも頷く。

 すると、ルイさんがチラッと先生方の方を見た。

 ロマノフ先生がその視線を受けて、腕組みをする。


「鳳蝶君、陛下に嘘を吐くんですか?」


 あ、心外。

 私はこれでも陛下のことは心から尊敬してるのに。


「嘘なんか吐いてません。私はユウリさんから聞いたままを陛下にお伝えするだけです」

「……なるほど、そう来ましたか」


 ロマノフ先生が肩を竦めると、ヴィクトルさんやラーラさんが苦笑する。


「まあ、確かにあーたんは嘘は吐いてないよ」

「そこまで気が回らなかったって言えばいいだけの話だね」

「どういうことだ?」


 その二人の会話に、ユウリさんが首を捻る。

 そんなユウリさんにミケルセンさんが「ああ、なるほど……」と呟く。


「そういうことか……」

「何がだよ」

「うん、ユウリは自分には大した知識はないと思ってるだろうけど、そんなことないんだよ。ユウリの世界では当たり前の技術が、こちらの世界では全くない発想だったりするからね。それを知ってて、仕組みは詳しく解らないとしても、ふわっとでも説明出来れば、そこからその技術に辿り着くことも可能ではあるんだ」

「あ……」

「でも、菊乃井様は『それもない』として皇帝陛下に報告するって仰ってる」

「いいのか、それは!?」


 ぎょっとしたのかユウリさんが少し大きな声を出して、私を見れば周りの視線が一気に私に集まる。

 いいのか、悪いかなんて、そんなの。


「私、そんな難しいことは子供だから解りません」

「……は?」

「私は六歳のお子ちゃまなんでー、そんな難しいことまで考えられませんー。ふわっとした知識から技術が確立される可能性の話まで察しろとか無理ですー。」


 そう、私はまだ六歳の単なる子供なんだ。

 だから可能性の話までは知らないし解んない。

 ぷいっとそっぽを向くと、「クッ」とロッテンマイヤーさんとロマノフ先生が笑いだす。


「ふふ! さようで御座います。若様はまだまだお小さいのですから!」

「そうでしたね。君はまだ六歳のこどもでした。そんなことまで解る筈がない……クッ……!」


 二人に釣られたのか、唖然としてたヴィクトルさんもラーラさんも、クスクスと笑い始めた。


「プッ……だよねー……あーたんはまだ六歳だもんねー……ぷぷっ……」

「あはは。うんうん、こどもだもんねぇ」


 そう、私は子供。

 この世のことなんか、大抵のことは解んないのだ。

 その家庭教師三人と守役の様子に、ルイさんがフムと顎を一撫でする。


「そう言えば……麒凰帝国には、未成年者の監督は親の義務とし、未成年者の起こした問題の責任と賠償はその監督義務を持つ両親へと帰すべしという法律がありましたな。なるほど」


 ふぅん、そんな法律があったんだ。

 私、こどもだから知らなかったなぁー。

お読みいただいてありがとうございました。

感想などなどいただければ幸いです。

活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 明日が待ち遠しいです。
[良い点] キラキラおめめで小首を傾げる鳳蝶君が見えたぜ(撃沈)
[一言] ロッテンマイヤーさん(+レグルス君とエルフ3人衆)の推しは鳳蝶君ですね、解ります。 なんでかな…… 角を鈍く光らせて前傾姿勢で前足の蹄をカッカッと床に打ち鳴らす臨戦態勢の目を怒らせた仔羊の…
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