それはありなのか!?
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更新は毎週月曜日と金曜日の二回目です。
私とユウリさんの間に、一気に緊張感が膨らむ。
それを崩したのはルイさんの思いもよらない言葉だった。
「ミケルセン、どうだろう? ユウリ殿の複雑な事情を我が君にお話してみないか? 大丈夫、我が君は異世界の事情に精通しておられる」
突然何言い出すのー!?
驚いて先生達やロッテンマイヤーさんを見回すと、何故かうんうん頷いてて、そんな皆をユウリさんが驚愕の眼差しで、やっぱり見回してる。
って言うか、なんで異世界の話をしても、私とユウリさん以外は驚いてないのさ!?
アワアワしている私を他所に、ルイさんがミケルセンさんを説得にかかる。
「ミケルセン。我が君は公にはしていないが、六柱の神々のうち、百華公主様、イゴール様、氷輪公主様の三柱の神々のご加護を得ている。そして百華公主様より託されし天命をお持ちだ。その天命には異世界が強く関わっている」
「そう、なのですか……!?」
驚くミケルセンさんとユウリさんに、ルイさんは力強く首を肯定の形に動かす。
するとヴィクトルさんが肩を竦めた。
「サン=ジュスト君、それちょっと違う。三柱じゃなくて四柱だよ」
は?
何言ってるんだろう。
そう思ってヴィクトルさんの方に視線を向けると、逆に「何吃驚してるの?」と尋ねられた。
「いや、四柱って……?」
「海神・ロスマリウス様のご加護だよ」
「なんで!?」
「それはこっちが聞きたいと思ってたけど、夏休みのお話聞いたら納得したよ」
えぇ……なんかあったっけ?
身に覚えがないんだけど。
困惑していると、ポンッとロマノフ先生が手を打った。
「もしかして、レグルスくんや宇都宮さんにも生えてませんでしたか?」
「うん、ばっちり」
「ああ、そういうことか……」
「うん。健康チェックとして、申し訳ないけど勝手に鑑定させてもらったんだよね。そしたられーたんにもアリスたんにもご加護付いてるから、気絶しそうだった」
「どういうことです?」
私の気持ちと同じことを、ルイさんが先生達に尋ねる。
ミケルセンさんもユウリさんも唖然としてるし、私も意味が解らない。
すると私のそんな様子に、ロマノフ先生が「やっぱり」と呟いて、私の頬をぷにっと摘まんだ。
「奏くんにも、もしかしたらご一緒したご令嬢にも加護が生えてますよ。さて共通点はなんでしょう?」
「共通点……?」
私達兄弟と奏くんと宇都宮さん、それからネフェル嬢の共通点とは?
なんかあったか色々記憶を探って出てきたことが一つ。
「海の宮殿に行ったこと?」
「はい、正解。でもその前にその切っ掛けになったことがありましたね?」
「切っ掛け……カニとタコ退治?」
「単なる蟹でもタコでもなく、人食い蟹とクラーケンですね」
そこまで言われたら解る。
っていうか、海の宮殿の歓待とか、古龍の色々だけでも大概貰いすぎだと思ってるのに……!
はっとしてロマノフ先生を見れば頷いてるし、ヴィクトルさんもラーラさんも真剣な目で私を見ていた。
置いてけぼりのルイさんとミケルセンさん、ユウリさんが揃って、先生達の説明の続きを視線で促す。
「サン=ジュスト君は知ってるだろ? あーたんとれーたんとかなたんが海に遊びに行くのにアリスたんが守役として付いて行ったの」
「勿論。もしやコーサラで何か?」
「うん。コーサラでロスマリウス様のご家族の敵討ちして、そのついでに領地に学問を敷くことにお墨付き貰ってきたんだって」
「なんと言うことだ……!」
めっちゃバッサリはしょった説明ですよ、ちょっと。
肩を竦めるヴィクトルさんに、ルイさんとミケルセンさんが驚愕の表情だ。
しかしユウリさんはピンと来ないのか「ふうん」で終わり。
今度はミケルセンさんが慌て出した。
「ユウリ、これは凄いことだよ!」
「そうなのか?」
「ああ! 神様の加護をいただく人は少なからずいるけれど、複数の神様からご加護を得るなんて極めて稀なことなんだ!」
「へぇー……」
興奮するミケルセンさんとは対照的に、ユウリさんの反応は鈍い。
この反応からして、凄く違和感。
でも私個人を軽んじてると言うより、何だか神様という存在自体に懐疑的と言うか。
もしや、去年の初めの私みたいに、この世界の常識に纏わる記憶が欠落してたりして。
「もしかして……神様を身近に感じたことがおありでない?」
「神様ってのは森羅万象の全てにおわして、八百万。一神教もなくはないけど、俺はそっちは信じない。逆に芸術に庇護をくれる神様なら、何だって信じるさ。それが俺の宗教とか神様ってものに対するスタンスだ。だいたい、俺のいた国自体がごちゃ混ぜなんだよ。新年にはお参りに行くし、盆には墓に線香をあげる。暮れにはその宗教の信者でもないのに教祖様の誕生日を祝ったり、最近じゃハロウィンに託つけていい歳の大人がばか騒ぎするしな」
んんん?
なんだ、この、覚えのある宗教観。
一つの神様を強く信仰するのはカルトだのなんだのと倦厭して、初詣に行くわ、お盆はするわ、ハロウィンはするわ、クリスマスはするわの節操の無さ。
なのに八百万の神様を日常的に信心するのは染み付いてる。
それ故に自ら宗旨を「無宗教」と言ってしまう……。
それは前世の「俺」と似てるような?
ああ、でも、ユウリさんは芸術の神様ならなんでも信じるって言ったっけ。
そういう、神様も仏様もごちゃ混ぜなとこもなんか似てるし。
そう思ってユウリさんの容姿を見てみれば、白皙の美貌ってやつだし、手足もすらりと長くて、背も高い。
だけど肌が西洋の人のように抜けるほど白い訳じゃないし、目の色も髪の色も凄く濃い雑じり気ない黒だ。
日本人は他のアジアの人に混じった同じ国の人が解ると言う。
言語化して説明するには難しい感覚だし、これは日本人だけのことではなく、他の国のひとにも言えることなんだろう。
けれど前世が「日本人」ゆえに、私にはユウリさんが日本人に思えてならない。
なんか心臓がドキドキしてきた。
押し黙った私に、ミケルセンさんの顔色が変わる。
ユウリさんの言葉と私の態度をどう捉えたのか、ワタワタとミケルセンさんが、ユウリさんの手を引く。
「ユウリ、何度も説明したと思うけれど、この世界には神様がいらっしゃる。そして極稀に人前に姿を現され、助言や罰を与えられる。それは本当にこちらの世界では当たり前の話なんだ。君の世界とは違うだろうけれど……」
「ああ……そう。そう、だったな」
ミケルセンさんの言葉に、ぐっと唇を噛み締めてユウリさんが目を伏せる。
ぎゅっと何かを思いきるように目を閉じて、再び開くとすっと彼は私に頭をさげた。
「申し訳ない。あなた方の常識や宗教観を否定する気は無かったんだ。ただ、俺の元いた世界とは感覚が違いすぎて、どうにも慣れなくて……」
「あ、いや、頭を上げてくださいな」
「こちらの世界」と「元いた世界」という言葉に、ユウリさんの抱えた事情が透けて見えるようで、背筋が凄く寒い。
もしかして私は、凄く大事なことを学び落としてるんじゃないだろうか。
ゆっくりと頭をあげるユウリさんの手を、ミケルセンさんは傍目にも解るほど強く握る。
「そういったことも含めて、ここは菊乃井様にお縋りしてはどうかと私は思うけれど……」
「そう、だな……。俺は正直、俺の存在がどういう意味を持つのかはっきり解らない。だって単なる一般人だったんだ。この状況で発狂しないのが不思議なくらい……」
「ユウリ、そんなこと言わないで。私は君が生きていて、踊っているのを見るだけで心が洗われるんだ。君のために出来ることがあるならやりたい」
微妙な言葉のチョイスだな。
この二人の関係も気になるって言えば気になるけども、それよりユウリさんの言葉の節々に匂う、この、その、あの……。
そう言えば、と。
心の中の「俺」が言う。
そう言えば、「田中」が読んでたライトノベルってやつには「異世界転生」もあったけど「異世界転移」ってやつもあったんだ、と。
お読みいただいてありがとうございました。
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