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推し活推進と、やって来た騒乱

いつも感想などなどありがとうございます。

今週は書籍発売記念に毎日更新致します。

 さてさて、新たな菊乃井名物の目算が立ったところで、私たちは休憩に入るフィオレさんの邪魔にならないように宿屋をお暇することに。

 お茶も出していないと引き留められたけど、多忙なフィオレさんが休めなくなると気になってお茶が飲めないと言えば、素直に休憩に入ってくれた。

 それで私たちはというと、ラ・ピュセルのカフェへ。

 彼女たちは元気に今日も歌っていた。

 ラ・ピュセルの歌のレッスンは、ヴィクトルさんが二日に一回担当してくれている。

 なので、カフェに来た私達に、ラ・ピュセルの五人は気兼ねなく声をかけてくれた。


「ああ、なんか街が騒がしいと思ったら、やっぱり盗賊退治やってるんですね」

「ラーラ先生が向かわれたなら、盗賊なんてすぐに捕まりますよね!」

「ラーラ先生、お強いもの!」

「そうそう、ラーラ先生ならきっと!」


 女の子が五人もいると、物騒な話題も華やかだけど、ラ・ピュセルのラーラさんへの期待値が半端ない。

 なんで?

 目だけで私の疑問はヴィクトルさんに伝わったようで、ぽりぽりと頬を掻きながら教えてくれたことには、五人のダンスレッスンはラーラさんが受け持ってくれてる。

 それは私も知ってたんだけど、実はダンスだけじゃなく、護身術も教えているそうだ。

 なるほど、つまり五人はラーラさんが物凄く強いのを知ってるわけね。

 そりゃあ期待値も高くなるわ。

 納得して一人頷いていると、いつも控えめな美空さんが、テーブルに三人分のお茶を置きながら、小鳥のように小首を傾げた。


「襲われた方々は大丈夫でしょうか?」

「どうだろう? 盗賊が出て誰かが襲われたけど、菊乃井の兵士が救出しか出来ないから、冒険者に捕縛を依頼したとしか聞いてなくて」

「そうなんですか」

「無事だと良いですね」


 リュンヌさんの言葉に、祈るように残りの四人が胸の前で手を組む。

 彼女たちはかつて、不法な奴隷商人の手から、この街の冒険者ギルドの手配によって助けられた過去を持つ。

 そんな自分たちと襲われた人とを重ね合わせて、無事でと祈らずにはいられないのだろう。

 本当に無事だといい。

 ラ・ピュセルに倣って私もレグルスくんも、胸の前で手を組んで祈ると、暗くなった雰囲気を払うように、凛花さんが明るい声を出した。


「そうだ、若様! ちょっとご相談があったんです!」

「はい、なんでしょう? 衣装とかアクセサリーのことですか?」

「あ、じゃなくて……」


 もじもじと五人で顔を見合わせて、肘でお互いをつつきあう。

 それを受けてステラさんが、私の前に一歩出た。


「あの……宿屋さんの特別メニューみたいに、カフェにも名物になるメニューが欲しくて……」


 ここはラ・ピュセルのカフェってだけでも、菊乃井では有名だけど、だいたい出されるメニューは軽食で、人気メニューというものがない。

 本来はカフェなんだし、ラ・ピュセルがお休みの時は閑古鳥が鳴くそうだ。

 お世話になってるカフェがそんな状態なのはちょっと忍びない。

 ラ・ピュセルの皆が口々に言うのは、そんな話だった。


「なるほど」

「出前に来てくれるフィオレさんに聞いたら、菊乃井の名物料理は若様が考えたって言ってて、私達もご相談出来ないものかと」


 シュネーさんが眉を八の字に落として「お願いします」と頭を下げる。

 それに倣って残りのラ・ピュセルのメンバーも頭を下げた。

 うーん、名物か。

 そういえば、菊乃井少女合唱団は、菫の園の前段階を真似ていて、彼女達の活躍の場を舞台にまで拡げられたら「少女歌劇団」へと転身させるつもりでいるんだけど、この計画が中々難しい。

 何せちょっと前まで歌も躍りもやったことのないお嬢さん達だったのだ。

 加えてお芝居に歌やダンスを盛り込むっていうのが解る演出家の先生が中々見つからない。

 とりあえず、お芝居を教えてくれる先生を見つけて、それから考えることにしようっていうのがヴィクトルさんとラーラさんの意見で、現行それに乗っかって「歌劇団」計画は進んでいる。

 それはちょっと置いといて。

 記憶って言っても「俺」の記憶を脳内でゴソゴソと探ると、菫の園での出来事が見つかる。

 さる有名な演目のチケットを手にいれた「俺」は、いそいそ歌劇団の本拠地である大劇場のある街へとでかけて、劇場に備え付けのレストランに入った。

 そのレストランでは歌劇団の公演に着想を得た特別メニューが出されるんだけど、その公演の演目があまりに人気過ぎたのと、娘役のトップスターの退団が重なったせいで、なんと特別メニューが売り切れてしまっていたのだ。

 涙を飲んで食べた生姜焼き定食が、ちょっとしょっぱかった……気がする。

 そんな切ない想い出に、でもヒントがあった。


「じゃあ、ラ・ピュセル特別メニューを作ったらどうです?」

「ラ・ピュセル特別メニュー?」

「そう。例えばですけど、私の今の推し……レグルスくんは卵焼きが大好きなんです」


 「ね?」とレグルスくんに尋ねると、お手手を上げて「はい! たがもやき、だいすち!」と良い子のお返事。


「その卵焼きを入れたり、他の好きなものを入れたりしたご飯のセットを作って『ひよこちゃん大好きセット』なるメニューを作ります。すると、私と同じようにレグルスくんが好きな宇都宮さんが『きゃっ! レグルス様が大好きな卵焼きを、私も食べられるのね!』って食いつきます」

「ちょっと待って。アリスたんは君の中でどんな位置付けなの?」

「え? レグルスくん推し仲間?」


 宇都宮さんはレグルスくんの守役だけど、決して仕事だけでレグルスくんに関わっている訳じゃない。私は知っている。彼女が時々、レグルスくんの可愛い仕草に「ん゛ん゛!」と身悶えていることを。

 そう言うと、若干ヴィクトルさんが遠い目をした気がするけど、気のせいだ。


「まあ、冗談はおくとして」

「え? 冗談なの?」

「リュンヌさんのファンは、リュンヌさんが好きな物とか知りたいと思うし、普段食べてる物とかも食べてみたいと思うんですよ。それはリュンヌさんのファンだけでなく、皆さんのファンは皆そうだと思います」

「確かにラーラ先生がお好きな物やマリア御姉様のお好きな物とか、私も知りたいかも……」


 リュンヌさんがそう言えば、美空さんや凛花さんも頷くし、シュネーさんもステラさんも同意のようだ。

 それに彼女達の歌う曲に花が使われてたりしたら、野菜を花の形に切って使ったり、花の形のお菓子を作ったりで、イメージメニューなんかを作るのも良いかも知れない。

 それも伝えると、レグルスくんが「はーい!」と手を上げた。


「れー、まえに、にぃににさんかくおやまのたがもやきとぉ、ひよこちゃんのおにぎりつくってもらったの!」

「えー! なにそれ、可愛い!」

「そういうの! そういう可愛いのも、メニューに入れたいです!」

「ああ、じゃあ……」


 三角形の卵焼きの作り方と、ひよこのおにぎりの作り方を、ラ・ピュセルに説明する。

 それはもうメニューに入ることが決定したようで、「野菜は花の形に切ったら凛花ちゃんだよ」とか、「星の形にしたらステラちゃんだね」とか、きゃっきゃうふふとメニュー決めに入った。

 やっぱり女の子が楽しそうに話してると、華やかで明るくなるなぁ。

 ほげぇっとその光景を見ながら和んでいると、急にヴィクトルさんの表情が険しくなる。

 そして唇の前で人差し指をたてて「しっ!」と声を抑えるように言うと、外へと目を向けた。

 エルフの素晴らしく聴こえる耳が、何かを捉えたようだ。


「あーたん、外に出よう」

「どうしたんですか?」

「アリョーシャが呼んでる。怪我人を連れて帰ってきたみたいだ。重傷者がいるっぽい!」

「解りました、行きます!」


 弾かれたように立ち上がると、カフェの扉に向かって走る。

 ラ・ピュセルの声援に送られて外に出れば、ロマノフ先生が血塗れの男の人を横抱きにして、カフェの前にいた。

 丁度転移してきて冒険者ギルドへとヴィクトルさんを呼びながら移動していたところみたい。


「アリョーシャ!」

「良かった、ヴィーチャ。彼を診てください」


 そう言ってロマノフ先生はヴィクトルさんへと、横抱きにしていた男性の傷を指し示す。


「袈裟懸け自体は浅く入っていて命の危険があるような傷ではないようですが、回復魔術を掛けて癒すそこから、傷口が腐って開くんです」

「解った、任せて」


 静かに頷くと、ヴィクトルさんが指先に光を集めて、それでもって袈裟懸けの傷をなぞる。

 すると、出血が治まり、次に悪かった顔色に少しずつ血色が戻ってきたのだった。

お読みいただいてありがとうございました。

感想などなどいただけましたら、幸いです。

活動報告は夜の更新ですが、色々書いておりますのでよろしければ、どうぞ。

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― 新着の感想 ―
他には卵焼きと同じ要領でメレンゲ作ってふわふわのスフレパンケーキもいいかもしれませんね♪
[良い点] 毎日更新お疲れ様です! 書籍の方は予約してあるので、手元に届くのが楽しみです(*´ω`*) それにしてもあーたんもれーたんもかぁいいなぁ(*´ω`*)
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