タコ焼きに必要なアレとソレ
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外はかりっと、中はとろーり。
それが美味しいタコ焼きの必須条件だ。異論は認める。
鉄板には9つの窪みがあって、順次くるくると反転させてまん丸なタコ焼きを作っては、すっと宇都宮さんから差し出される皿に置く。
味付けは本当はタコ焼きソースとマヨネーズがいいんだけど、今のところどっちもないから、前世の「俺」のお勧めの醤油をたらりん。
ボールみたいに焼けたそれに、一番先にお箸を付けたのはレグルスくんだった。
湯気の上がるそれを一口で食べようとしたのを、慌てて止める。
「レグルスくん、熱いからふうふうしてからね」
「あい!」
レグルスくんは良い子のお返事をして、ふうふうと息を吹き掛けて、冷ましてからタコ焼きに噛りつく。
だけどふうふうしたぐらいではそんな冷めないから、ちょっと噛ると「あちち」とあわあわ。
それでも食べ進めると、とろりとした中身に歯応えのあるタコに行き当たったようで、はふはふしつつちたぱたと足踏みしながらタコ焼きを咀嚼する。
小さなお手々で口を覆って、暫し。
こくりと喉を動かすと、ぽぁっと顔を輝かせた。
「かりってしててぇ、とろってしてぇ、あちちでおいしかった!」
「そう? もっと食べる?」
「たべるぅ!」
「はーい!」とお手々を上げたレグルスくんを見て、次にタコ焼きを渡した奏くんとネフェル嬢が、顔を見合わせてタコ焼きを食べる。
反応はレグルスくんと似た感じで、熱さにはふはふしながらも、食べてしまうと顔が輝く。
「こんなの……初めてだ!」
「ふぉー! おもしろい! うまいし、おもしろい!」
キャッキャはしゃぐ二人を見て、今度はお皿に乗せたタコ焼きをロマノフ先生とモトさんがお箸で摘まむ。
それから、ソースが一段落付いた料理長とフィオレさんが手を伸ばし、最後に残った二つは私と宇都宮さんで。
「材料、たったあれだけでこんなの出来るンスか!」
「これはまた、新しい食感ですなぁ」
「うぅ、美味しいですぅ……!」
「これは……長く生きていますが、珍しい食感ですねぇ」
「酒の肴にもなりそうやね!」
概ね好評なようだし、これで明日のバーベキューでタコを美味しく皆で食べられそう。
そう伝えると、モトさんが恰幅のいいお腹を揺らす。
「これだけやったら足りんかろうけん、鉄板をもう二枚作っちゃろうかね」
「じゃあ、こげつきにくくしようぜ! そしたら何度も焼けるだろ?」
「おう、よしよし。焦げ付きにくくて丈夫なやつにしちゃろうね」
「わぁ、ありがとうございます!」
そうだよね、一回で9つしか焼けないとなるとちょっと少ないもんね。
でもそれなら千枚通しも欲しい。
そう言うと奏くんが「おう!」と引き受けてくれた。
そして何処から出して来たのか、鉄板を片手にモトさんと奏くんは部屋の隅で試行錯誤を開始。
私達はタコ焼きソースの開発をしなきゃ。
コンロの火を止めて、またフィオレさんに卵とボウルを用意してもらう。
「次は何をするんだ?」
「ソースをもう一種類用意します。卵を黄身と白身に分けてもらえますか?」
「了解ッス」
こればっかりはレグルスくんにはまだ難しい。
ボウルに卵黄が入ると塩を少し、それからお酢を入れると、そのボウルをレグルスくんに渡す。
「レグルスくん、かき混ぜてくれる?」
「あーい!」
「ネフェル嬢はボウルを支えてくれますか?」
「ああ、任せろ」
するとレグルスくんが小さく旋風を起こす魔術を使って、ボウルの中をかき混ぜ始める。
レグルスくん、剣の方も天才なら、まだ小さいのに魔術は幼年学校で初期に習うくらいのは使えちゃうんだよね。
卵黄と酢と塩が上手く混ざって、もったりしてきたら今度は油を少し注いで、またかき混ぜてもらう。
すると徐々に油と卵黄が混ざって固くなって来たのか、小さな旋風では混ざりにくくなったようで、レグルスくんが困り顔だ。
「レグルス、次は私に代わってくれないか?」
「やりたいの? いいよー」
「ありがとう」
ネフェル嬢の申し出を快く受け入れたレグルスくんは、今度はボウルを押さえる側に回る。
そしてネフェル嬢は、レグルスくんの旋風よりは少し威力のあるのを、ボウルの中に起こした。
ぐるぐるとかき混ぜられるボウルに、また油を注ぐ。
それから混ぜること少し。
もったりした中身がかなり固くなって、角がみょんと立つようになった。
そこで一旦旋風を止めてもらって、ソースをちょっとだけ箸で掬って嘗めてみる。
舌先に感じるのは程よい酸味とこってり感。
「マヨネーズ!」
ちゃんと出来た喜びに、ちょっとはしゃいじゃった。
そうなると、早いとこタコ焼きソースが欲しくなる。
試食したそうなレグルスくんやネフェル嬢に、これはソースだから単品で食べる物じゃないと説明しつつ、料理長とフィオレさんにボウルを渡すと、私はソースが煮られている鍋をみた。
料理長もフィオレさんも、マヨネーズの味見を少しすると「おお……」と、ちょっと呻く。
鍋の中身は沸騰していたから、火を弱めてローリエやセイジ、タイム、シナモン等々を細かくしてドボン。
それからまた煮なきゃなんだけど、これがまた時間がかかるんだよね。
沸騰してきたら今度は醤油や砂糖、お酢、塩コショウを鍋に投入。
「にぃに、まだー?」
待ち疲れて来たのか、レグルスくんが私の周りをそわそわと回り始める。
すると、料理長がレグルスくんに目線を合わせて屈んだ。
「美味しい物は時間がかかるんですよ。畑に種を植えてから、野菜が生るまで何日もかかるように」
「そうなの?」
「はい」
納得したのかしないのか「そっか!」と、レグルスくんは大人しくネフェル嬢と、奏くんとモトさんの作業を見に行った。
しかし、ソース作りは本当に時間がかかる。
圧力鍋が欲しい。
そういや圧力鍋の原理って、鍋を密閉することで水蒸気を逃がさないようにして、大気圧以上の圧力で中身を煮る……んだっけ?
魔術で上手いこと出来ないもんかな?
ああでもない、こうでもないと、悩みながら格闘すること暫く、どうにか鍋を密閉して、ある程度温度が上がったら少しずつ蒸気が逃げるよう魔術で細工することに成功!
鍋から、閉じ込めた蒸気が全て逃げるまで、もう一度タコ焼きを焼く準備を始めると、奏くんとモトさんが部屋の隅からキッチンへとやって来た。
「出来たぞ、若様」
「モッちゃんじいちゃんが、こげつきにくい加工してくれたぞ!」
「わぁ、助かります!」
「おれは千枚通し作った!」
「ありがとう、奏くん!」
タコ焼きプレートと千枚通しを二人から受けとると、それをフィオレさんと料理長に渡す。
「菊乃井の名物にするなら綺麗に丸く焼く技術は必須だし、フィオレさんが他の人に教えるんだから出来ないとダメですよね」
「ウッス」
「料理長も、明日のバーベキューパーティーで出す料理ですし、練習あるのみです」
「そうですね。若様のレシピを菊乃井の料理人が作れないなんてあり得ません」
そう言うと二人ともタコ焼きプレートをコンロに掛けて、油を馴染ませる。
手順は私のやったのを見ていたからか、すんなり生地を窪みに流し込んで、タコを一欠片ずつ入れていく。
二人がタコ焼きを焼く間に、私は鍋の方へ。
勢い良く出ていた蒸気が、やがて細くなって出なくなると、中身を覗く。
すると野菜はすっかり溶けているように見えた。
けど、まだ出来上がりじゃない。
鍋の中に旋風を起こすと、ミキサーの要領で残った野菜を潰してから、ソースを一度濾す。
そしてそれを再度火にかけて煮込むと、ソースはやっと完成だ。
けれど、それで出来たのはウスターソースであって、タコ焼きソースとは違う。
別の鍋に作りたてのウスターソースと、持ってきて貰った禍雀蜂の蜂蜜、それからお水をちょっと足して煮詰めて。
とろみが付いてきた頃、多少割れたり凹んだりしつつも、料理長とフィオレさんが焼いたタコ焼きが出来上がる。
お皿に盛られたタコ焼きに、出来たばかりのタコ焼きソースとマヨネーズをかけると、匂いにつられてキッチンへと戻ってきたレグルスくんにそれを渡す。
「たべていいの?」
「熱いからふうふうしてね?」
「はーい!」
宇都宮さんがさっと差し出したお箸を受けとると、レグルスくんはさっき熱いと学習したからか、タコ焼きを割ってソースとマヨネーズが付いたところをふうふうして、少し冷ましてから口に運ぶ。
それでも熱かったのか、ハフハフしつつ、良く噛んでタコ焼きを飲み込んだ。
「あまくてしょっぱくて、ちょっとすっぱい! とろとろ!」
「美味しい?」
「うん! おいしー!」
レグルスくんのキラキラ輝く笑顔が、タコ焼きの味を物語っていた。
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