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お祭りって言ったらアレだから

いつも評価、感想、ブックマーク、誤字報告ありがとうございます。

更新は毎週月曜日と金曜日の二回です。

 一年前からは比べられないほど、今の菊乃井の街の宿屋や料理屋は忙しい。

  毎日毎日、ちょっとずつお客さんが増えていき、それに伴って物の出入りも増え、景気もかなり上向きになってきた。

 しかし、この四の月、菊乃井の名物であるカレーの基たるカレー粉が、帝国なら何処でも買えるようになったし、カレーの基礎のレシピは菊乃井の秘伝ではなくなった。

 とは言え、菊乃井の味を再現するのは一朝一夕で出来るものではないし、菊乃井にはカレー粉を使った他の料理もある。

 だからまだまだカレーや他の珍しい料理目当てのお客は来るだろう。

 でもそれに安穏としていると、いつか足元を掬われかねない。

 ちょっと前から政を取り仕切ってる街興しに協力的なお代官様の言うことには、エストレージャの武闘会準優勝とラ・ピュセルちゃん達のコンクール最優秀賞の経済効果がそろそろ出てくるらしい。

 それならこの機会に、宿屋や料理屋の名物に梃入れしよう!


「って相談に来てたンすよ。悔しいッスけど、俺より料理チョーパイセンは料理も上手けりゃ、アイデアも俺より上だし」

「お前、パイセンって呼ぶなよ。まあ、そんな訳で相談に乗ってたところに、ロマノフ卿が若様がお呼びだってんで、物はついでだと思って連れて来たんです」

「ああ、なるほど。じゃあ、丁度良かったかも」

「マジっすか!? やべー、俺、持ってるわ!」


 運が良いかは知らんけど、来たならフィオレさんにも働いてもらおう。

 そんな訳でフィオレさんがやって来た理由は解ったけど、じゃあモトさんは?

 そんな視線を向けると、モトさんはくっついてる奏くんの頭を撫でて。


「俺は奏が鍛治に興味ば持ったみたいやけん、暇もできたし、鍛治を教えちゃろうて思うて、源ちゃんの家ば訪ねたったい」


 だけど源三さん宅には誰もいなくて、モトさんは仕方なく源三さんの勤め先である私の屋敷に来たんだそうな。

 すると屋敷の玄関先で源三さんに出会って、奏くんが私達兄弟と海に行ったと告げられて。

 しおしおとお家に帰ろうかと思った矢先。


「転移魔術でこん若作りのジイさんエルフが飛んできてくさ。奏と海におる若様が、屋敷の料理人ば呼んどるってやけん迎え来たって言うとよ。源ちゃんは若様がまぁた面白いことば考えたからやろうて言うけん、そいやったら、そん面白かことに俺も混ぜてもらおうて思うて、一緒に来たったい」

「……若作りのジイさんエルフ!?」

「鳳蝶君、そこに食いつくのは止めてください」


 そう言えばロマノフ先生は最低でも二百歳超だっけ。

 たしかレグルスくんもお屋敷に来た頃に、ロマノフ先生はお屋敷の誰よりも歳上って話をしたら「おじいたん?」って、凄い顔して呟いてたっけ。

 でも、エルフの年齢行方不明ぶりは種族として仕方ないとしても、ロマノフ先生が見た目通りでないのを何故知ってるんだろう?

 源三さんが説明したのかな?

 訊ねようとすると、レグルスくんがモトさんの服……何だろう、素朴なシャツに革っぽい素材のツナギ、ゴーグルには歯車の意匠が付いていて、ツナギのポケットからは手拭いが垂れているんだけど、その手拭いをくいくいと引っ張った。


「なんでちぇんちぇがおじいたんってしってるの?」

「ああ、ジジイとは俺が洟垂れの頃から付き合いばあっとよ」

「もっとですよ。君のお祖父様には洟垂れ小僧呼ばわりされてましたし」


 ひぃ、壮大。

 つまり、モトさんとロマノフ先生は昔馴染みってやつか。

 そしてモトさんは源三さんと幼馴染み。それなら源三さんとロマノフ先生も実はお知り合いだったのかしら?

 疑問を口に出すと、モトさんが首を横に振る。


「うちは鍛冶屋ったい。商売をする以上、客の素性は他所には漏らさんとよ」

「ああ、なるほど」


 守秘義務は暗黙のルールとして存在するんだな。

 感心していると、奏くんが半球の窪みが付いた鉄板をモトさんに見せる。


「これは?」

「料理の道具だってさ。若さまがこういうのほしいって言うから、おれが作った!」

「ほ! これが料理の道具!?」

「おもしろいだろ? これで水で小麦粉をとかしたのを焼いたら、ボールみたいなパンができあがるんだぞ!」

「ほほぉ! そりゃ面白い!」


 しげしげと窪み付の鉄板を眺めて、ああでもないこうでもないと、奏くんとモトさんは二人して楽しそうだ。

 それを見て、料理長が顎を撫でる。


「なるほど、今度の料理はあの窪みのある鉄板を使った料理ですかい」

「うん、そう。お願いした材料は持ってきてもらえましたか?」


 尋ねると、大きな荷物を指差してフィオレさんが胸を張った。


「勿論ッス! トマトにセロリ、玉ねぎやらリンゴやら、それからスパイス各種、小麦粉に産みたて卵、他にも仰せのは全部! ロッテンマイヤー姐さんと、パイセンと一緒にかき集めました!」

「お前、姐さんとかロッテンマイヤーさんの前で言うなよ。兎も角、ご用命の物は全て持ってきました」

「重かったでしょう。ありがとう」

「どういたしまして」


 にこやかに話していると、ネフェル嬢が遠慮がちに近づいてくる。

 ここで知り合った友達で、明後日お別れすることになったから、明日は盛大にバーベキューパーティーをしたいと料理長に説明すると、彼とフィオレさんは恭しくネフェル嬢に頭を下げた。


「旅の良き思い出になりますよう、精一杯努めさせていただきます」

「ッス、俺もガンバります!」

「ああ、よろしくお願いする」


 優雅に微笑むネフェル嬢に、ポッとフィオレさんの頬が染まる。

 ネフェル嬢の眼を見て「綺麗だ……!」ってめっちゃ感動してるし。

 さて、その勢いで頑張ってもらいましょうか。


「じゃあ今から説明するので、フィオレさんは窪みを使った料理を、料理長にはそれに合うソース作りを手伝って貰います」

「「はい!」」


 Allez(料理) cuisine(始め)

 って、訳でまずは時間のかかるソースから。

 玉ねぎは薄切り、リンゴやらニンニク・生姜はすりおろし、トマトにセロリはみじん切りにするんだけど、量が多いと面倒なので魔術で作った鎌鼬をフードプロセッサーにする。


「魔力制御が見事だとは思うが、正直才能の無駄遣い……いや、うん……まあ……いいか」

「うちでは使えるもの何でも使うのが当たり前なんで」


 ネフェル嬢の遠い目にキリッとサムズアップすると、レグルスくんが「れーもやーりーたーいー!」と騒ぎ出す。


「レグルスくんは卵割って?」

「はーい!」

「フィオレさん、ボウルに小麦粉とお出汁とレグルスくんが割った卵を入れて、だまが出来ないようにかき混ぜてください。シャバシャバになりすぎないように注意してくださいね」

「ウッス!」


 歓声を上げてお手伝いを始めたレグルスくんをフィオレさんに任せると、次は奏くんが「おれは?」とスタンバイ。

 なのでロマノフ先生に視線を向ける。


「ロマノフ先生、タコの足を一本の半分くらい、奏くんに渡してください」

「解りました。重いですから気をつけて」


 そう言ってロマノフ先生がマジックバッグから取り出したタコの足の半分は、体格のいいモトさんの足より太い。

 それを受けとると奏くんがちょっとよろめいたのを、すかさずモトさんが支えた。


「こりゃあ、でかい」

「うん、家よりでかかったんだぞ!」

「そりゃあ、お前……タコっていうより、クラーケンじゃないか」

「うん、まあ、そうだけど。タコだからタコだ!」


 うん、タコだからタコだ。

 食材にしてくれているというだけはあって、タコの足はちゃんと柔らかく茹でてある様子。


「奏くんはその足を、鉄板の穴ぼこに入るくらい小さく切ってくれるかな?」

「おー、まかせろ!」


 魔術で風が起こると、あっという間にタコが小さく刻まれて、肉片が山と積まれる。

 そんなことをしている横では、料理長が炒めていた玉ねぎが、やっぱり魔術で水分を抜いたりしたお陰で飴色になっていた。

 そんな光景にネフェル嬢がシャツの袖を捲る。


「わ、私も何か手伝う!」

「そうですか。じゃあ、切った野菜を炒めた玉ねぎと一緒にお鍋に入れてください」

「よし、解った」


 料理長が持ってきた寸胴鍋に、野菜と飴色の玉ねぎをネフェル嬢が投入したのを確認して鍋へ。

 それからだし汁を沢山入れて煮込む。


「スパイスをそんなに使うなんて、贅沢なソースだな……」

「いずれ、スパイスもお安く出回るようになると良いですよね」


 スパイスが安く手に入るようになると、家庭料理の幅が広がる。

 すると食卓が色鮮やかになって、家族の話題が増える。

 話題が広がる食卓を囲む家族は、きっと仲良く豊かに過ごせている筈だ。

 そんな家庭が沢山ある国は、豊かで平和な国だろう。

 なにせ家庭は最小単位の社会、世相を写す鏡なのだから。

 菊乃井がそうなるように、私も頑張らなきゃ。


「小麦粉と卵と出汁、混ぜあがったッス!」

「にぃに、できたよー!」


 ネフェル嬢との会話が途切れたタイミングで、フィオレさんとレグルスくんが、わいわいと騒ぐ。

 生地になる出汁と卵と小麦粉の混ざったものが入ったボウルを受け取って、奏くんからもタコを受けとると、窪みのついた鉄板をコンロにかけて、油を馴染ませて。

 ちりちりと鉄板が熱くなったところで、窪みに生地を流して、間を置かず細かく切ってもらったタコを生地の中に入れていく。


「ははぁ、この鉄板、そういう風に使うのか」

「はい、これで生地の外側が焼けるのを待ちます」


 すっと静かに宇都宮さんが竹串を差し出すのを受けとると、それを窪みと生地の間に差し込む。

 生地が熱でしっかり固まってるのを確認してから、竹串で生地と鉄板の間に隙間を作ると、気合いを入れて──


「おりゃっ!」


 くるんっと窪んでいる方が上に来るように上下を反転させると、そこには見事な球状に焼けた生地があった。

 そして形を整えて焼き上がりを待つ。

 頃合いを見てくるくるとまた上下を入れ換えると、お月様みたいなまん丸が現れた。

 そう、タコが真ん中に入った、丸い粉もん。

 前世の俺曰く、タコ焼きの完成だ。

お読みいただいてありがとうございました。

評価、感想、レビュー、ファンアートなどなど、いただけましたら幸いです。

作者が元気になります。

活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。

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― 新着の感想 ―
[一言] タコ焼きの具はタコだけ? 紅生姜は無理だとしてもネギとかキャベツと可の野菜や揚げ玉は?
[一言] たこ焼きの液は意外とシャバシャバくらいでないと おいしくないですよ。 お好み焼きくらいにしちゃうと食感が悪いです。 中トロリ、外ちょっぴりカリ、でないと。
2019/12/31 07:36 退会済み
管理
[一言] ソースも作ってたこ焼き作って、あとはカツオ節? 熱々のままで食べたいたこ焼き(≧▽≦) ネフェル嬢も気に入ってくれるといいですね。 モト爺さんはロマノフ先生と知り合いだったのか^^; エルフ…
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