二足歩行の大根侍
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湯のなかで真っ白な脚を持ち上げると、なだらかな稜線を雫が流れ落ちる。
磨かれて光るような白さに、その脚線美の持ち主は、こちらに見せつけるように艶やかな脚を組み換えた。
その大根で出来た脚を。
マンドラゴラ(マンドレイク):植物の姿をしたモンスターで、上位種にはアルラウネやドライアドなどがいる。
引き抜くときに凄まじい悲鳴をあげるが、それを聞いたものは発狂するか、運が悪ければ即死するといわれている。
しかし、その根には滋養強壮や精力増強の効果があり、ありとあらゆる病や傷、身体欠損すら癒す奇跡の妙薬の材料の一つである。
出典:ロマノフペディアより
たらいの中で悠々と、身体についた土を落とすセクシー大根は、ただのセクシー大根でなくてマンドラゴラだったらしい。
時々聞こえる「ゴザルゥゥゥ」という声は、やっぱりマンドラゴラの鳴き声らしいけど、今のところなんの害もない。
あの後、ちょっとした騒ぎがあった。
私やレグルスくんや奏くんは、この大根マンドラゴラは大根畑に埋まっていたのが、何かの拍子で歩いて出てきちゃったんだろうと思っていたんだけど、先生方三人に言わせるとそれは「ありえない」そうで。
マンドラゴラは基本的には、ダンジョンとか魔素の濃度が濃い場所に生えるもので、普通の土地に生えてもすぐに枯れてしまうものだからだ。
マンドラゴラは生きていくのに、どうやらかなりの魔素や魔力が必要らしい。
当然、「なんで平地に二足歩行出来るくらい元気なのがいるわけ?」ってなるよね。
その理由を解明してくれたのは、なんとタラちゃん。
たまたまサンルームにお散歩に行くために天井を歩いていた所に、私達が大騒ぎしているもんだから糸を使って降りてきたらしく、大根マンドラゴラとしばらく見つめ合うと、驚いたことに私の部屋からインク壺と紙を持ってきて、尻尾にインクを付けてスラスラ理由を紙に書いてくれたのだ。
『いちねんまえより、こちらのおにわでおせわになっております。ずっとますたーのうたにこもるまりょくをもらっていきてきて、このたびようやくじりきであるけるまでせいちょういたしました。ですのでおやくにたちたく、はたけよりあるいてまいりました』
いや、びっくり。
私の歌で大根マンドラゴラは生きていたらしい。
それよりビックリしたのはタラちゃんが字を書けたことだけど、それはレグルスくんが教えたそうだ。
屋敷にいるとき、レグルスくんは大概私といるけど、私がどうしても外せない用事があるときは宇都宮さんか奏くん、二人とも手が離せない時は屋敷にいる誰かと過ごす。
その誰かにタラちゃんも含まれていて、そんな時レグルスくんはタラちゃんに布絵本を読み聞かせていたという訳。
もうさぁ、うちのひよこちゃん才能溢れすぎじゃね?
剣術だけじゃなく、教師の才能まであるとか、天才過ぎる。
……話が逸れた。
ともかく私をマスターと呼ぶし、自分から使い魔になりに来て、私と接触を果たしたことで契約完了。
ヴィクトルさんの鑑定出来るおめめに映る大根マンドラゴラのステータスにも、見事私と契約している旨が映ったそうで。
「君は本当に目を離すと面白いことをするんだから」
「自前の魔力でマンドラゴラ育てたとか、聞いたことないんだけど」
「奈落蜘蛛に字を教えた幼児も聞いたことないな」
ありがたくないエルフ先生たちの生暖かい視線を受けつつ、レグルスくんとタラちゃんは「ふんす!」と胸を張り、セクシー大根マンドラゴラは照れているのか大根っぽいのにくねくねしていた。
で、それをロッテンマイヤーさんに伝えると、ロッテンマイヤーさんはお湯の入った盥をマンドラゴラに渡して。
「若様の使い魔になるならば、身綺麗にしていただきます」
「ゴザルゥゥゥ!」
なんて会話があったかと思うと、速やかに廊下の端っこで大根マンドラゴラはお風呂……じゃなくて、盥のお湯につかって泥を落とし始めたのだ。
それで私は何をしているかというと、ロマノフ先生にお願いして部屋からミシンを持ってきて貰って、リビングで大根マンドラゴラの服を作ってたり。
だってタラちゃんが『まんどらごら、はだかです』ってノートに書くんだもん。
書かれた大根マンドラゴラも、くねくね恥ずかしそうに内股で『ヴィーナスの誕生』ポーズだし。
持っていた藍色のハンカチをちゃっちゃと裁ち切って、ズダダダダとミシンをかければ、大根マンドラゴラサイズの着流しが出来上がる。
なんで着流しにしたかって言うと、鳴き声が「御座る」って聞こえるから。
「御座る」って言えばサムライでしょ。
ちなみに、同じ使い魔だし、マンドラゴラに服を作るならタラちゃんにもと思って、尻尾につけるリボンタイも作ったんだよね。
後で着けてあげよう。
「おお、鳳蝶坊器用だな」
そういってジャヤンタさんは、出来たばかりの着流しを摘まむと、廊下で宇都宮さんにタオルを渡されている大根マンドラゴラの所に持っていってくれた。
しかし、それを見ていたウパトラさんが首を捻る。
「アナタ、それ……」
「へ? なんです?」
ヤバい、漢服があるから着物もあるかと思って作ったけど、もしかして無かった!?
ドキドキしながらウパトラさんの言葉を待つと、同じく着流しを見たカマラさんが歓声をあげる。
「凄いな、コーサラの酉族の民族衣装じゃないか。良く知ってたな!」
「え、あー……ほ、本で見たような気がして?」
思わず疑問系になった。
それに疑問を抱いたのか、ロマノフ先生が口を開こうとするのが目に入った。
しかし、掩護射撃が思わぬ方向から入る。
「そういや、ひよさまと遊んでるときに、その服みたいな絵を見たぞ」
「にぃにのおばーちゃまのほんにあったよ?」
奏くんとレグルスくんのナイスアシストに、ポンとロッテンマイヤーさんが手を打つ。
「そう言えば私も見覚えが御座います。少々お待ちください、取って参りますから」
言うやいなや、ロッテンマイヤーさんはリビングから出て行くと、暫くして一冊の本を手に戻ってきた。
それをテーブルの上に広げると、確かに着物のような服を解説したページが、そこにはあって。
「……なんか、あれだな。鳳蝶坊も大概不思議だけど、坊のばあちゃんも不思議なおひとだったんだなぁ」
「そうですね。アウレア・リベルタスも元々は鳳蝶君のお祖母様のお考えから出たものだそうですし。どんなお方だったのか……」
ジャヤンタさんとロマノフ先生の言葉は、私の感想に近い。
貴方はどんなひとだったんですか、お祖母様。
沸いた疑問をロッテンマイヤーさんにぶつけてみようかと思った矢先、レグルスくんがひょこひょことマンドラゴラに近づく。
「にぃに、おなまえは?」
「んん、マンドラゴラのお名前のこと?」
「うん。なんてよぶのぉ?」
「そうだねぇ……『ゴザル』って鳴くから『ござる丸』で」
ぴしっとレグルスくんや奏くん以外が凍ったのは、なんでや?
お読みいただいてありがとうございました。
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作者がとっても元気になります。
活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。
 




