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墓穴を勝手に掘るタイプ

評価、ブックマーク、誤字報告ありがとう御座います(^人^)

更新は毎週月曜日と金曜日を予定しております。

 忌々しげな視線に、私が返すものは無関心。

 まるで道端の石ころに対するような態度は、私だけではないのだけれど、そんなことは関係ないようで、バラス男爵は私に敵愾心を剥き出しにしていた。

 だけどおあいにく様、こっちは剥き出しの敵意に怯えるほどか弱くはない。

 メンタルは豆腐だけど、世の中には荒縄で縛っても壊れない豆腐もあるんだ。

 マホガニーのローテーブルに置かれた証文は二組計四枚。二組計四枚なのは、決着がついたあとで一枚を相手、もう一枚を自分が保有するため。

 公爵はそのうち二枚を、私に渡してくれた。


 「ギルド長のマキャベリから預かった証文のうち、鳳蝶殿の物を先ずはお返しする」

 「はい」


 これはうちの今回の顛末書に添付して資料行きだ。

 預かりを申し出てくれたロマノフ先生に証文を渡すと、残ったバラス男爵の証文の一枚を差し出された。

 最後の一枚は公爵の手の内に。

 ギリッとバラス男爵が歯噛みして、その肉厚な唇を開いた。


 「兄上!? 何故証文をお渡しになるんです!? あの賭けは無効だ! この小僧が宇気比(うけひ)に何か仕込んだに決まっている!」


 自分で墓穴を掘るひとってのは何処にでもいるもんで、公爵と鷹司さんが呆れた視線をバラス男爵に投げ掛けた。

 そして、何度目かの溜め息とともに公爵が言葉を吐き出す。


 「……何故宇気比に何か仕込まれていたと断言できる。儀式が成立して、お前のお抱え連中が改心したと偽りを述べたから、呪いが発動したのだろうが。それとも、宇気比が成立していなかったから呪いが発動する筈がないとでも言いたいのかね?」

 「そう言えば試合終了後に『月桂樹の葉は飲み込むなと伝えておいたのに!』と叫んだとの噂があるが……それは本当だった、とか?」

 「そ、それは……」


 公爵に続いた鷹司さんの言葉に、男爵が言い淀む。

 宇気比の人界での正式なやり方は、儀式をすると決まった時点で男爵家には手順として伝えていた。

 その際「儀式は月桂樹の葉を飲み込んで完了」と言っておいたのだが、奴等はやっぱり飲み込まないよう指示されていた様子。

 しかし、それも罠だったなんて気がつかなかったのだろう。


 「……月桂樹の葉を飲み込まなくても、宇気比はあの時点で成立していたんですよ」


 種明かしをすると、かつて正式と定められた方法は人間が意図的に面倒くさくしただけで、本来は炎の前で証人を立て「なになにだったらこうなる、なになにじゃなかったらこうならない」っていう宣誓をし、嘘偽りを述べないことを誓うだけのことなのだ。立会人も一人いればいい。

 あの宇気比で言うなら「改心が偽りだった場合呪われる、改心が真ならば呪われない」と宣誓し、それに対して本心から悔いていることを神に懸けて誓えるかと問われて、「はい」「おう」とマキャベリ氏の前で返事をしたことで成立している。

 千を越える立会人の必要も月桂樹の葉を飲むのも、後付けにすぎない。つまり儀式の成立不成立に、何ら関与しないのだ。


 「サイクロプスの三人が月桂樹を食んだなら、三人にバラス男爵が騙されている可能性も考えられましたが……男爵ご自身が月桂樹の葉を飲み込まないよう指示していたとなると……ことはより重大になります。この件は単なる犯罪人引き渡しに纏わるいざこざではすまない」

 「菊乃井伯爵家への、バラス男爵家からの明確な敵対的攻撃行動ですね」


 男爵家が伯爵家に敵対的行動を取るなんて、貴族の序列を考えると先ずあり得ない。

 私含め四人の眼がバラス男爵を厳しく見詰める。

 それに対してバラス男爵は顔を赤から青に変えたりしながら、助けを求めるように公爵に顔を向けた。

 だらだらと滝のように流れる汗が、彼の焦りを物語る。

 が、公爵の視線は冷たく、とりつく島も無さげに言葉を紡ぐ。


 「どうするつもりなのだ?」

 「どう、とは……?」

 「お前は奴等に男爵家の持つ領地・屋敷・収税権を賭けて負けた。それがどういうことか解らんのか?」


 牛蛙、沈黙。

 そして公爵の眉間にシワが刻まれ、疲れたような顔が私の方を向いた。


 「私としては速やかに犯罪人を引き渡して頂いて、後は証文にもありますし、屋敷・領地を速やかに渡して頂くか、屋敷・領地が持つ資産価値と同等の金銭をお払いいただければ、それで構いませんが?」

 「そ、それなら奴等は好きにすればいいし、金は払う! それで良いだろう!?」


 ええ、別に構いませんよ。しかし、だ。


 「お金はどうやって用立てなさるので?」

 「そんなもの、税金を増やして平民どもから取り立てれば……!」

 「私、収税権をお返しするとは言ってませんが」


 静かに告げると、バラス男爵が目を見開く。

 私が金銭と対価に返すと言ったのは屋敷と領地だけで、収税権のことには触れていない。

 その意図に気付いたのか、ロマノフ先生が頷く。


 「賭けなんて個人的な借金が理由で増税されては、領民も立つ瀬がありませんからね」

 「はい。これは男爵が個人的な理由で、それも儲かったとしても領民に還元される類いの資産ではない。そんな物のために、何故領民が重税を課されねばならんのです」

 「何を寝惚けたことを!? 領民は男爵家のために存在するのだ! 奴等は我ら尊い血を持つものたちに飼われているだけの存在なのだ! 我ら尊い血の持ち主に奉仕するのが使命ではないか!」

 「……恐れながら閣下、このバラス男爵の発言は公爵家の総意でもあるのですか?」

 「……愚弟の言葉は聞かなかったことにしていただきたいが……」


 ちらりと公爵が鷹司さんを窺う。

 公爵の隣に座っていた鷹司さんの眼が、物凄く怖い。

 公証人がいてこんなこと言っちゃったら、もう男爵家ダメかも。

 それどころか公爵家も巻き込みかねない。

 これは計算外だ。

 緩く首を振ると、私は交渉相手を公爵に切り替えた。


 「閣下、男爵家の収税権は公爵家へと返上致したいと思います。私が収税権を証文に盛り込んで貰ったのは、男爵の負債のために領民に重税が課されるのを阻止するためでしたから」

 「鳳蝶殿の目は確かだな。申し出、ありがたくお受けしよう。その他については、愚弟が支払うのと同等の金銭を私が支払わせて頂こう」

 「いいえ、借財はした本人が返すものです。閣下には男爵の監督と取り立てをお願い出来れば……」

 「それでは何年かかるか……一生かけても払えないかもしれん……」

 「私は閣下には金銭以外のものを頂きたいのです」


 バラス男爵に関しては、公爵家の監督下に下るということで首輪を着けた。

 これで彼が何かする前に、公爵家が責任取って潰してくれるだろう。

 後は、私が権力を両親から奪い取る時の後ろ楯になってもらうこと、それからEffet(エフェ)Papillon(パピヨン)の販売ルートの拡張を取り付けないと。

 気合いをいれなきゃいけないのは、ここからだ。

お読み頂いてありがとう御座いました(^人^)

評価、感想、レビュー、ファンアートなどなど、頂けましたら幸いです!

活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ( ^-^)_旦~

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