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第4話、アドレス交換

 あれ、私は?


 ここは莉里那りりなの部屋のようだが、カーテンの隙間から僅かに差し込む太陽光は朱色で、室内は全体的に薄暗い。

 私は椅子に座ったまま、寝てしまっていたのか。

 膝元にはタオルケットがあるので、莉里那が寝てしまった私にかけてくれたようだ。


 部屋を後にし下の階に降りると、涼子さんは帰宅していた。

 莉里那は既に洗濯物を畳んだようで、涼子さんと一緒になって食事の用意をしている。

 ちなみに涼子さんは、まだ私に気が付いていないようだ。


「涼子さん、おかえりなさい」


 そこで私に気が付いた涼子さんが、台所から顔を出す。


「ただいまれんくん、あとごめん。今からお風呂洗ってくれる? 残業で遅くなっちゃったから、莉里那に手伝って貰ってるの」

「わかりました」


 そうして風呂場に行こうとしていると、台所から出てきたセーラー服にエプロン姿である莉里那と目が合う。

 そこでタオルケットの件の御礼を言おうとするが、莉里那はプイッと視線を逸らしてしまった。

 もしかしたら、莉里那の部屋で寝てしまっていたことに腹を立てているのだろうか?

 それとも二人きり以外では、話さない設定にしているのだろうか?

 そうこうしていると、テーブルを拭き終えた莉里那がパタパタと足音を立てこちらへ来た。


「ご飯食べ終わったらLINEのアドを交換しますので、また少しだけリリィの部屋に来て下さい」


 小声でそう言われたため、私も小声で返す。


「わかった」


 そしてその日の晩、私は莉里那の部屋をノックした。

 全く返事がなかったため、勝手に扉を開く。

 するとベッドに腰掛けている莉里那は、何故かご立腹であった。


「遅いです」

「え? あぁ、すまない。あまり早く行っても迷惑かなと思って」


 私の言い訳を聞いている莉里那は、途中から頬っぺたを膨らます。そしていっときの間のあと、携帯片手に立ち上がる。


「……これ以上お風呂に入るのが遅れたら嫌なので、さっさとスマホをだして下さい」


 単身赴任中の親父は月末にのみ帰って来るのだが、親父がいない時は私が一番風呂に入るという決まりがある。

 これはここ数年で我が家に出来たルールで、知らず知らずのうちに出来上がったルールでもある。


「わかった」


 そして私たちは、無事にアドレスを交換した。

 すると突然背中を向けた莉里那が、高速で誰かにメールを打ち出した。

 程なくして私の携帯からメールの着信音が鳴る。

 誰からのメールか確認してみると、やっぱり莉里那からであった。


「注意事項を送ったので、確認したら返信して下さい」

「あっ、あぁ」


 背中を向けたままの莉里那を前に、私はさっそく内容を確認してみる。



 ◆◆◆

 ⚫︎催眠が早く成功するように、明日から毎日、二人ともお風呂を上がったら、僅かな時間でもリリィの部屋に来るのです。

 ⚫︎リリィが『来てもいいです』とメールしたら、1分以内に来るのです。

 ⚫︎ノックをするとお母さんに気づかれるので、こっそり物音を立てずに来るのです。

 ◆◆◆



 と書かれていた。

 毎日か。しかしこれは、私にとっては良い風が吹いているのかもしれない。何度も足を運ぶ機会があれば、それだけ勉強を促す機会が増えると言うことだから。


 そこでチラリと莉里那を見る。依然背中を向けたままだ。

 しかしこのメールに対しての返信って、口頭で言っては駄目なのだろうか?

 そんな事を考えていると、莉里那が自身の爪を噛み始めた。

 莉里那は極度にストレスが高まると、うわ言を言いながら爪を噛み始める悪い癖を持っている。そして恐らく今回のストレスの原因は、私がなかなか返信を送ろうとしないことだろう。

 普段はそうそうしないのだが、私関係になるとすぐ噛み始めるので、見慣れた光景でもあった。


 と言うわけで、メールを打つぞ!

 しかし気が利いた言葉は思いつくわけもなく、ひと言だけ『わかった』と打ち送った。

 着信音が鳴ると同時に携帯の液晶画面を見る莉里那。短い文章にまた怒るのかなと思ったのだが、振り返った莉里那はなぜか迫力というか凄味は消えていた。


「ニィーニ、後がつっかえますので、早くお風呂に入って下さい」

「わかった、それじゃまた明日」

「わかりました」

「……そうそう、さっきはタオルケット、ありがとう」


 すると莉里那はか細い声で、わかりましたと呟いた。



 それから催眠術は連日行われている。

 と言っても寝る前の僅かな時間だけだが。

 ただ時間が短いためだからなのか、前世の記憶を呼び戻す事より、私が莉里那に好意を寄せるように働きかける暗示しかされていない。


 深い記憶にダイブするには、それなりの準備が必要と言うことなのだろうか?


 それと催眠終わりのほんのひと時ではあるが、勉強の話題から始まり莉里那の苦手な数学を教えるところまで来ていたりする。


 よし、今日も軽くジャブを撃つぞ。

 部屋に無造作に置かれたノートの一つを拾い上げると、パラパラとページを捲る。


「懐かしいなー、今日は小数がある連立方程式の授業があったみたいだね? 」

「うん」

「それで、分からないところは無かった? 」

「えーと、この問題がちょっと」

「なるほどこの問題ね。ここは両辺に百を掛けて、整数にするところから始めるんだよ」


 よし、まずはこうして復習をするクセをつけさせよう。


「とまあ、こんな感じかな」

「ニィーニ、ありがとうございます。……それと——」

「ん? 」

「ニィーニ、もしかして勉強を教えるために、リリィの部屋に来てたりしますか? 」


 しまった、ちょっとあからさま過ぎたか?

 でも考えたら、ケースバイケースの方が、莉里那も私を誘いやすくなるわけだし、それに莉里那の催眠はとても心地良いわけであって——

 えーい、こうなったら白状するか。


「……実は、莉里那の成績が少し心配で。でも催眠は私も楽しんでいる所があって、それだけじゃないというか」


 すると莉里那はくすくす笑い出した。


「つまり、異世界にはあまり興味がないのですね」

「えっ、いや」

「わかりました、リリィとしては催眠術に協力的なだけで問題ありませんので、これからもよろしくお願いします」

「……よろしくお願いします」



 それから更に数日が過ぎた。

 しかしこの催眠術、どうも眠くなって仕方がない。それとも私は知らず知らずの内に、疲労が蓄積してしまっているのだろうか?

 ただ半分寝ているような状態から起きた時は、まだ頭がどこかボーとしている感じではあるが、自室に戻って朝を迎えると、頭と身体、双方がスッキリしておりその日1日を良いものに出来ている気がする。

 だから頭を空っぽにして、このままなすがまま、されるがまま、今日も莉里那に身を任せボーとするのであった。

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