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10-7.賊の魔術士

「キア殿。……大体の位置はわかりました。お手数ですが」

「はいはい、よろしくな」

「はい」


 どうやら麻痺の術はその術の性質上、術士の位置に近い場所から効いていくらしい。

 自分の場所からでは幌に隠れた向こう側の部分が死角になるが、この身体(ひと)は相変わらず()()()()


 術が波状していった順を(さかのぼ)れば、おおよその隠れ場所は見当がついた。


 ここは林もない平野ではあるが、街道そのものには、道がある場所が遠くからもわかるように樹木が並んで植わっている。

 その根が石畳の下に張り出してしまっているため、多少デコボコになってしまい、馬車は少し走りにくそうにしていた。


 街道の石畳はデコボコしているとはいえ、街道としての整備はちゃんと行われているものである。「整備した」と伺えるのは、石畳があるからでも、並木があるからでもない。

 その道の外側を見渡すと、大きな岩がゴロゴロしているからだ。


 街道を真っ直ぐに敷く時に、通り道にあった岩は全て取り除かれたのだろう。


(――しかし詰めが甘いですよ、カトレヤ。並木の根の対策が足りていないから数百年後にはこう――)


 ふと(よぎ)る、己の思考への違和感に、私は心の中でかぶりを振った。


(――ん? なんだ今の――いや、とにかく)


 とにかく今は、()()()()()()()()()()()()()()を拘束する!


「観念なさい」

「――へ」


 アタリをつけた岩まで15メートルほど。五、六歩で辿り着く。その行動に費やした時間は、およそ二秒もなかった。

 光学迷彩はあっさり()()()()()()。まるで、岩が空気に溶けるかのごとしであった。

 エルドアンの片手半剣(バスタードソード)で撫でられたことで、擬態の魔術が無効化されたのだ。


「な――…んで」

「舌を噛みますよ。黙っていた方がいい」


 (ひざまず)いて術を行使していたのであろう彼は、私に首根っこを捻り上げられ、地面に押さえつけられることに対して咄嗟には抵抗ができなかった。

 騎士隊から貸し与えられていた縄で、彼を後ろ手に縛り上げる。


「こうしても使える魔術があることはわかっているつもりですが――私には通用しないと思った方が御身(おんみ)のためですよ。わかりますか? これ」


 柄の彫金飾りを見せる。


「エルドアン(こう)――」

「ご存知なのですね、話が早い。さて、今この場にいる十四名の他に、隠れているお仲間はいますか?」

「ほ、ほかにはいないと思う……」

「偽ったことがわかればあなたを生かす価値がないと判断して、改めてあなたを斬るだけですが。よろしいですか?」

「よ、よろしくない! でも俺はわからない!」

「結構」

「んわっ? !」


 彼を俵のように肩に担いで、幌のそばへ。

 倒れているサリムの横に彼を転がす。


「サリム殿、すみません」


 一応断ってから試す。

 剣先で、サリムの左小指をツプリと傷つけた。


「――……お? おお、動くな」

「事後でも効くのですね」

()()()()で試したのですか? まあいいですけど」

「奴等は今見えている十四人として良さそうです」

了解(ロジャー)、キア様を頼む」

了解(イエッサー)


 私が賊魔術士を担いで移動し始めた辺りで、野盗たちは自棄になったように動き出していた。

 ハルニスが幌から降りて、殿(しんがり)側の動きを抑えている。

 サリムの麻痺が解除されて尚、騎士隊の戦力は四人で、野盗側はその三倍だ。普通に考えれば、力押ししてしまえば良いという思考になる。だが、野盗側にとっては残念なことに、数が少ない側の一人分の単位は町人一人というわけではない。


筆頭百人隊長(プリミピルス)は伊達じゃないみたいじゃん)


 キアは二人麻痺したままの騎士を背に庇いながらにもかかわらず、八人もの敵をよくさばいていた。観察する間にそれは六人に減る。一人の脚が裂かれ、もう一人の肩が削がれたからだ。


「三人いただきます、キア殿」

「それはちょっと欲張りじゃないか?」

「若者は多少欲張りなくらいが可愛いとは思いません?」

「その思考が少し老けているよ、君――このっ」


 軽口を叩いている間に、キアは一人を昏倒させ、私は一閃で二人の脚を切る。


「ハルニス殿の方にあと五人」

「そっち頼む。いや、その前にあいつらの状態異常の解除を」

了解(りょうかい)


 私は三人目においては膝を割り、身を翻した。

 御者の(そば)で倒れて馬に踏まれかねない二人の――利き手がわからなかったので、彼らの場合も左小指に傷をつけてやる。


「アミュレットは一応まだ発動させず、とっておいてください」

「ああ、わかった」

「ええ…また麻痺は嫌だな…」

「たぶん大丈夫です。まずは倒した(やから)の捕縛からお願いいたします。キア殿をよろしく」

了解(ロジャー)


 野盗達には聞こえない程度に、二人にそう耳打ちして、ハルニスとサリムのいる殿側へ移動した時には、その五人も片付けられていたのだった。



「私、手伝う隙がなかったのだわ…」


 殿側で負傷して倒れている野盗たちをふんじばっていると、サラが幌の中から顔を出してきた。


「幌の中の人の状態異常解除をしてくださっていたではありませんか」

「ちょっと手間取ってしまってごめんなさい」

「いいえ、サラさん。貴女の基準がどこにあるのかは存じませんが、あれだけ手早い措置は王軍魔導士でも稀有だと思いますよ」


 恐らく、サラの基準はベフルーズなんだろう。救命医療系は彼の方が得意らしいし。


「でもミャーノの剣の方が早かったし」

「指先の傷は結構痛いものです。……っと、こんなものでしょうか。サラ、もしよければサリム殿達の指先の傷を癒して差し上げてください」

「わかったわ」

 賊魔術士を縛った時にも思ったが、この身体(ひと)は縄術も嗜んでいたのか、縄を持って“ふんじばろう”と思考しただけで、この手は対象を手早く縛り上げてみせた。

 まあ、騎士流の剣術を身につけているのなら、縄術だってそうなんだろう。

 都子(みやこ)は蝶々結びすら上手く出来なかった人間なので、ちょっとこの身体(ひと)が羨ましい。絵は下手になったけどな。


「この後どうされるので? …あれ、そういえば幌の中にいた方がいないような」


 キア達の方の捕縛も完了していたようだったので、私とサラの雇い主である筆頭隊長殿に尋ねてみた。


「やあ、目ざといね。彼らは別働隊に(つか)いへ出したところさ」


 いつの間に。気を抜いてたせいか、気づかなかった。


「王都に近い二隊は一旦引き上げるけど、こっち寄りの第三班はモスタンまで来させて合流させる。こいつらはモスタンで事情聴取するよ。やれやれ、想定よりも随分と街の近くで襲撃されたもんだ」

「私とサラはお役御免ですかね」

「そうだね。……困ったな、君の方が先に王都に着いてしまう」

「……何かマズイでしょうか?」


「そりゃあそうさ。だって、それじゃあ君の面接官ができないからね」

お読みいただきありがとうございます。

戦闘回はどうしても連続することになりますね……

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