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10-2.主人の憤慨

「あの…騎士様、サーラー・バニーアティーエという方がお連れ様をお探しということで受付にいらしてるのですが……その、恐らくそちらの方のことかと」


 地上階に続く階段から、先程ギルドの受付で騎士達を顔パスした職員が声をかけてきた。恐る恐るといった感じだ。


「おっと済まない。通してくれていいよ」

「承知しました」


(サラが来てくれた……)


 安全を期すことを考えたら宿で待機してくれている方が良かったのだが、ちょっと嬉しい。


「ごめんね。そういえば女性を連れていたな。…あの場で君の剣や賊の話をするわけにもいかず、気が逸ってしまった……。彼女もバニーアティーエだったのかい?」

「いえ、あの時一緒にいた方は連れではありますが、サーラーではありませんよ。彼女がサーラーに知らせてくれたのかと」

「……なあハルニス、魔術障壁張ってほしいんだけど」

「ああ残念だなあ、私もサリムも、自分の障壁だけで精一杯ですなあ」

「あっ、ひどい、上司守ってよひどい! ねぇ、ミャーノ君! ちょっと君の蔭に隠れてもいいかい?!」

「……うーん」

「ダメなの?!」


 サラがこの期に及んで問答無用で攻撃魔術吹っ飛ばすなら、既にこの地下ホールに乗り込んできてると思うんだよなあ。一応筋通してるし、そんなに怯える事態にはならないと思うよ。


 そう思ったのだが、この筆頭百人隊長の様子が面白くて、つい是非を言い淀んだ。

 ハルニスさんもそう考えているのではなかろうか。

 そんな思いを込めながらまたハルニスさんの目を見れば、うむ、頷いていらっしゃる。


(というか、サラが魔術士だと知っていたのか……いや、バニーアティーエ家の名前を知っているどころかフィルズの知り合いだったなら、彼以外のバニーアティーエが魔術士だとかの情報は知ってて当然なのかな)


「……失礼するのだわ。貴方がキア・アルダルドゥールさん? 私はサーラー・バニーアティーエです。連れが攫われたと聞いたのだけれど」

「ええ、お初にお目にかかる。このたびはミャーノ殿に無礼を働き、あなた方にご心配をおかけしたこと、お詫び申し上げる」

「……ミャーノ、怪我とかない?」


 そこでサラは初めて私の名前を口にする。そうか、偽名を使ったとかの可能性を考慮していてくれたのかもしれない。


「はい、問題ありません。乱暴なことは何もされていませんよ」


 椅子に座ったままゆったりと答える。

 その方がサラを刺激しなさそうだったから。


「……そ。ならいいのだわ。ビラールさん、来て」

「はいよゥ」


 階段の陰からビラールがひょっこりと顔を出す。寸前にサラから威圧を感じなくなったので、もしかして場合によっては攻撃魔術をぶっ放すつもりで、ビラールを避難させていたのだろうか。おっかない。ちょっと嬉しい。


「驚きましたよ、キア筆頭隊長どの。善良な一般市民を朝市で拉致るなんて貴方らしくもない」


 ビラールがそんなことを言った。キアは頭をかいている。

 知り合いだったか。いや、これは。


「ビラール、もしや仕事相手の騎士団の隊というのは」

「そう。朱雀(フェニックス)だよ」


 朱雀(フェニックス)とは、南大隊の通称だ。

 エル先生からあらかじめ聞いている話によれば、騎士隊は四つの大隊に分かれており、東西南北の名がついている。

 いわく、東大隊を青龍(ナーガ)、西大隊を白虎(マカイロドゥス)、南大隊を朱雀(フェニックス)、北大隊を玄武(コロッソケリス)

 なお、戦時下となるとここに麒麟(ペガスス)が中央統括隊として設けられるそうだ。鈴蘭の騎士などの千人隊長(キリアルコス)は、この麒麟(ペガスス)の所属となり、四大隊のいずれにも属さないらしい。


「君の連れでもあったんだな、面目なかった。ハルニス、お二人にも椅子を」

「はい」


「えっ? いえ、私はミャーノさえ戻れば」


 そうして帰ろうとしていたサラだったが、「ゾルフィータ盗賊団」の名前が出ると、彼女から血の気が引いた――


「それは、フィルズ・バニーアティーエが殉職した時の討伐対象だった盗賊団の名前で合っているのかしら?」


 ――そう、だったのか。

 私の表情筋は動かなかった。

 サラのその発言に、私が驚いたりするのは――それを知らないのは、状況的におかしい。そう考えただけで、簡単に取り繕えるこの身体(ひと)のポーカーフェイスは本当に大したものだ。なんて可哀想なまでの能力。


「その通りです、サーラー嬢。当時私は、彼の所属していた隊の百人隊長(ケントゥリオ)でした。――申し訳、ありません」

 キアは神妙にこうべを垂れた。

「……」

「――ご遺族には詳しい任務内容は伝わらないはずなのですが」

「家族が戦って死んだ相手を、知ろうとしないと思うの?」

「…ええ、そうですね」

「……残党狩りをミャーノに手伝えというのはわかったのだわ。キアさん、私をミャーノと一緒に雇いなさい」

「……えっ?」

「ミャーノ、悪いけどお願――」

「何も悪いことなどありませんよ、サラ。承りました」

「…ええ、ありがとう」


 キアは置いていかれたような表情できょとんとしていた。


「ミャーノ君…?」

「キア殿。サラの申し上げた通り、私だけでなく、彼女もお連れください。彼女が優れた魔術士であることは、ご存知だったのでしょう?」

「……そうだな、わかった。……ん、そういえば、なんで君たちはモスタンに? 温泉旅行かい?」


 今度は私とサラがきょとんとする番であった。


「ああ…それは」


 王軍への入団試験を受けようと思って王都を目指していたのだということを告げると、キアはなぜかそれを喜んだ。


「そうか、そうか。うん、君たちはバニーアティーエ家だし、加点は十分だと思うが…今回の討伐での協力において活躍があれば、私からも一筆添えよう。――よろしく頼む」

「……頑張ります?」


 サラはなぜか疑問形であった。

お読みいただきありがとうございます。


番外編と世界線は違いますが、もちろん情報的には繋がりがあります。

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