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9-8.再びのサイコメトリー?

「カトレヤ! 見てください、我が国にも温泉があったとは」

「わたくしは知っていました、マ――いえ、オスタラ。わたくしを誰と心得ておいでなの? というか、そもそもこの温泉を中心に街を作るための査察にきたのですよ。確かに近衛隊にはそのことを言っておりませんでしたけれど……」

「ああ、そうだったのですね。済みません、私は先日ヴェスヴィウスで初めて温泉を見たものですから」

「まさか敵地で温泉入ったとか言わないでしょうね」

「……ごめん。入った……いや、大丈夫ですよ! 敵襲に関してはちゃんとガラシモスが見張ってくれていましたし」

「元敵将に何を任せているんですの、あなたは?!」

「だって入ってみたいではありませんか!」

「あなたはもう! そんなことは自分の国でおやりなさい!」

「はいっ。では早速入りましょう、カトレヤ!」

「まったく、調子の良いことね」

 カトレヤは、呆れたようにそう嘆息すると、


「ダメよ。今日はまず隊で測量の分担を決めるの。そして水温の経過観察を一日行って安全性を確認してからです」


 ――にっこり笑って、私に釘をさすのだった。



「――……」

 覚醒すると、目の前は小川の流れるオアシスではなく、薄暗い天井であった。

 モスタンの旅籠(はたご)

 窓の外に広がる朝焼けが、茫洋とした海のようだ。

 隣りの寝台でまだ寝ているビラールの寝顔を見て、さっきまでの情景は夢だったのだと理解した。


(ここまでの旅じゃ音沙汰なかったのに、急に、なんだよ)


 今朝の夢はこれまでの夢と比べて、いやにはっきりと記憶に焼き付いている。

 カトレヤと呼ばれた少女は、私の視点だったその声の主をオスタラと――そして、そのオスタラはガラシモスという名を口にしていた。

 あまりにも、私の知っている人物の名前が()()()()()()()


(これも過去視(サイコメトリー)だっていうのか、ベフルーズ? メシキの森じゃなくて、今度はこのモスタンの街が私に記憶を見せたとでも?)


 起きても名前は覚えていられたが、カトレヤ――鈴蘭の騎士の時代に女王として即位した王女が彼女だろう――の顔は、ミナの時同様に既に靄がかかっており、もう思い出せなかった。


(さっきの夢がこの地の過去視(サイコメトリー)だとしたら…私の妄想でないとしたら、この街が出来たのはカトレヤ…姫なのか、女王なのか、わからないけど、彼女の時代ってことになるよな)


 モスタンの街の歴史について私はそもそも知らないので、そこを確認してみれば少しは夢が妄想だったのか過去視(サイコメトリー)の可能性が高いのかの判断材料にはなるかもしれない。


(おっと、そろそろ起きて身支度整えるか)


 ミーネとは一階のカウンター前で落ち合う予定だった。


「おはようございます、ミャーノ。よく眠れまして?」

「おはようございます。ええ、概ね。ビラールなんてまだぐっすりでしたよ」

「あら、それではもしや、今朝ミャーノと初めてご挨拶出来たのは私でしょうか? 今日はきっといい日になりますわね」

「――……」

 ミーネがこれまたどうにも可愛らしいことを言うので、うっかりキョトンとしてしまった。誤魔化すように苦笑する。

「――私にそんなゲンがかつげるでしょうか。不安にさせるつもりはないのですが、あまり良くないニュースがありますよ、ミーネ」

 市場へと宿を発ち、その道すがら、昨晩ビラールから教えられた野盗の話をした。


 騎士団が派遣されているであろうことも付け足したが、ベフルーズの弟のフィルズが殉職したのも盗賊団狩りだったことを考えると、騎士団が派遣されているからといって一方的な討伐で済むとも限るまい。

 騎士団で油断できないのなら、こちらの戦力など――白兵戦担当が私で魔術戦略担当がサラという二人分の規模しかない我々など――その比ではない。


「他に足止めされてしまっているグループがいれば共にゆくという交渉も有りだとは思うのですけれど――その場合、おそらくそもそもこちらと同じく非戦闘員が少ないからこそ、足止めされてしまっているのでしょうしね」

 そのミーネの言葉には同意する。

「まあ、元々ここまでの行程でも山賊などを想定はしていたのです。この後も王都まで気を張るという程度の話でしかありません」

「そうですわね……。教えてくださってありがとう」

「いいえ。ビラールの持っていた魔道具のおかげですね。いやあ、あれは便利そうでした」

魔動石板(タブレット)でニュースが更新されると聞くと、都に近いところに来たのだと実感ができますわね」

「ミーネも使われたことが? 私は(ひな)びた村の出身なのであのテの魔道具にはあまり明るくなくて」

 実はどのテだろうと、明るかないのだが。

「私のものではないですけれど、自警団が所有している魔動石板(タブレット)は使ったことがありますよ。ニュース以外は年単位の更新で十分ですから」


 製品の等級(グレード)によるが、キーリスの法律が収録されており、それを利用して行政的な管理を行っていくのだそうだ。

 なるほど、紙媒体でいちいち刷り直して各自治体に触れ回るより絶対に安上がりである。


「確か、魔動石板(タブレット)のデータ更新も魔導士団の業務のはずですわ」

「では、将来的にはサラが更新することもあるのかもしれないのですね」

 具体的に魔導士の業務が想像できていたわけではないのだが、ぼんやり考えていたよりも、どうやらファンタジーというよりはサイエンス・フィクションに近くなってきた。


(勝手に、薬の調合とか研究とか、戦闘において攻撃や防衛の魔術を放つとか、そういう想像してたからなあ……)


 騎士団と共闘する場面があるということは、そういう戦闘における役割は必ずあるはずだが、戦争中でないキーリスにおいてそんな業務が毎日発生するわけがない。

 いつの間にか悪化していたファンタジー脳を、私は少し恥じたのであった。

魔導か魔道かで悩みましたが魔動でいいじゃん電動とかいうし

で落ち着きました

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