1-8.はじめてのクエスト受注
「改めて名乗らせてもらう。俺はイスマイール。気軽にソマって呼んでくれ」
「ミャーノと申します」
降りてきた地下室は、端の方に在庫らしき武具が寄せられているが、概ねガランとしている。
ソマは設置されていたテーブルとイスをぞんざいに、やはり横に寄せていく。
「ソマ殿、一体…?」
「殿なんてつけなくていいって。俺もアンタのことはミャーノと呼ばせてもらうぜ」
「わかりました、ソマ」
背後でサラもソワソワしている。
彼は、何を始めるつもりだろう。――いや、何となく察しがついてきた。
ソマは、端にあった在庫の山から一振り、サーベルを取り出す。
「さぁ、遠慮はいらん。いや、殺されてはかなわんから、そこは手心加えてもらいたいが――ミャーノ、そいつを抜いてかかってきな。刃こぼれは気にしなくていいぞ。それに、その剣を無粋に扱って折ったりもアンタはせんだろう」
「ソマ、あなたは商人ではないのですね?」
「いいや、商人だよ。ただ、元傭兵ってだけさ」
「――サラ、申し訳ありませんが、あちらのテーブルの影に」
「え?いや、わかったけど、え?」
戸惑いながらも、さきほど寄せられていたテーブルに隠れるようにサラは身を潜めてくれた。
鞘から丁寧に片手半剣を抜き、その鞘は降りてきた階段に立てかける。
「俺からいくぜ」
「どうぞ」
シュッという鋭い呼吸音と共に、ソマは上段から斜めにサーベルを振りおろしてきた。
それを目で追うことはしない。切っ先ではなくソマの無骨な顔を見据えながら、避けずに受け流す。刃の部分を立てるのではなく、サーベルと刃と己の片手半剣の刃が平行になるように――防御。
上からおろされたものに対して、下から擦り上げるように。
サーベルの鍔に私の刃先が達する前に、ソマはサーベルを振り上げて引いた。
ソマは私を害したいわけではないのだろう。試されていることだけはわかる。
今の一合でわかったが、彼は私に「避ける」ことを求めていない。
防御をしてみせろ、そういう仕掛け方だった。
ソマは距離を取り直し、愉快そうに笑う。
「上品な騎士道剣術――だが、冷静だな!訓練だけでお育ちあそばされたってわけじゃァなさそうだ」
「ソマ、私は褒められているのでしょうか」
「ああ褒めてるとも。アンタの顔に傷がないのは、実戦経験がないからかと思ってたんだがね。」
そう言われてみれば、ソマの頬には縫い痕のある古傷がみられた。
「参ります」
短く告げて、わずかに間合いを詰めて、ソマの右肩で刃を止める。
止めなかったら、肩の関節から先は、本体から切り離されていただろう。
息を止めたソマと対照的に、私はふうと一息ついた。
ソマの髭がその風にかすかに震える。
ソマはスキンヘッドだったが、黒い髭はそこそこ豊かだった。
「まいった」
降参を告げるソマの表情は、しかし嬉しそうだ。
「ちょっとおじさん!どういうことなの」
「ああ悪い悪い、兄さんが快く乗ってくれたもんだからつい」
「私のせいにしないでいただきたい。私がサラを避難させなかったら、そのまま始めそうな勢いだったではありませんか」
「まあ、まあ。そいつが剣を遣えるかどうかってのは、やっぱりやってみるのが一番でよ」
「ちょっと相談があってな」
そう言いながらテーブルとイスを適当に戻し、着席を促す。
サラはソマへの警戒を解かない。
実は店内に入った時からずっとサラに荷物を持たせっぱなしで申し訳なかったので、サラが座りやすいようイスを引く。少し照れながら、サラは行儀よく座ってくれた。
「…ミャーノ、おまえマジで騎士だな…」
「さて」
もちろんそれが自分にわかるわけもないので、二コリとほほ笑んで適当に誤魔化す。
「なあに、おまえさんたちにならウマイ話になると思ったからこんなことしたのさ」
「とおっしゃいますと?」
「その剣をこのまま貸してやるから、西の鉱山でオスのキイキイ鹿を狩ってきてくれねえか。報酬は相場通り7銀貨。その剣は7銀と1000銅貨にまけてやる」
うん、そんな展開だと思った。
「あわよくば『お前にならこの剣を預けてやってもいいぜ』とかそんな展開もちょっと期待していたが現実はそこまでは甘くなかった」などと供述しており
2018/3/2:横書きWeb小説だしと思い文頭空白つけてなかったのですが、つけました。