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8-5.噂のミャーノ君

「この営業表示板は、もしや…」

「この前ミャーノが切ったアレなのだわ。ほら」


 営業表示板とは、お店の玄関によく下がっている「営業中」「支度中」が表裏になっているあのプレートだ。

 ビラールの店の表示板は「営業中」となっている。

 サラが指で指したのはその板の右上、付箋のように貼り付けられている紙なのだが、そこには、

『バニーアティーエさん()のミャーノ君がウチの短剣で斬ったのがこの断面です!』

 と記載してあった。


「こんにちは、ビラール。表のあれは何だよ。ヒトの名前を出すなら一言かけてからにしてくれ」

「そしたらミャーノは『嫌だ』って言うと思ったからなぁ。ああ、外す気はないよ? やあ、サラもこんにちは。そちらのお嬢さんは、初めましてかな? いらっしゃいませ」

「こんにちはー」


 店内に入ると、陳列棚を少し整理していたビラールがいた。

 抗議したところで、そもそも()()目的であの時私にかまぼこ板を切り取らせたのだということは悟れたので、のれんに腕押しなのは承知はしていたものの――恥ずかしいもんは恥ずかしい。


「バニーアティーエは知ってたとしても、そこで私の名前出したところで『誰だよ』となるだけじゃないか」

 家と名前を出す必要なかっただろ。

「そんなことないみたいだったけど?」

「ん?」

「オジギ亭を破壊した謎の悪漢を撃退した剣士の名が“ミャーノ・バニーアティーエ”だっていうのも、そいつが今度王軍の騎士になりにいくことも、その際自警団団長の娘さんを王都へ連れていくことも、わりかし噂になってるよ」


 誰だ、広めたの――いや、オジギ亭の一件は遠巻きに見ていた客もいただろうが、後の二つは少なくとも自警団か。アリー達言ってたもんな、団員達の聞いてる中で団長とミーネが揉めてたって……。


「入団試験に落ちるわけにいかないプレッシャーがひどいな」

「出世や配属先はともかく、入団はできるさ。よっぽど人格に問題ない限りは採用してそうだもん。不景気ってわけじゃないから、一般枠は人手不足なんじゃないかな」

 なるほど、好景気だと就職先や結婚相手としての公務員人気が下がるみたいなものか。


 一般枠というのは採用枠のことで、もう一方は「貴族枠」。王軍にはキーリスの貴族各家の子女の就職先としての側面がある。というか、元々は貴族だけで構成されていたようだ。そして各家派遣する子女がいない場合は、その代わりに納めなくてはならない税金が増える。

 一人だけの場合は無給、二人以上派遣できる場合はその内設定給与の高い方が、家に支払われるとのことである。それでも税金を払うよりは、損度合いはマシらしい。


 ちなみに、バニーアティーエ家は貴族ではなく、士族。士族には別に王軍へ入る義務はない。もちろん、一般枠のため、給料も一人目からもらえる。


 キーリスの士族というのは、

 ・現当主から数えて三世代以内に、百人隊長(ケントゥリオ)以上になった者がいること

 ・家系に筆頭百人隊長(プリミピルス)がおり、その者が田畑(でんぱた)を拝領したこと

 ・現在も継続してその田畑の税を納めていること

 この三つの条件を満たしている家を指す(もちろん、『○○の場合は適用されない』的な例外はある)。


 バニーアティーエ家は、ベフルーズのお祖父(じい)さんが筆頭百人隊長(プリミピルス)――魔導士団では「軍団長」が相当する――だったようだ。

 現当主はベフルーズだから、まだ見ぬベフルーズの子供が当主になる前に、バニーアティーエの誰かが百人隊長(ケントゥリオ)――これも魔導士団では「班長」が相当する――以上に出世しなければ、バニーアティーエ家は士族ではなくなる。

 とはいえ、土地の納税ができている限り、領地を没収されたりすることは最近は例がないそうだ。

 大きな戦争が起きたりしたら、褒賞の分配のために、士族でなくなった士族領は取り上げられたりするのかもしれない。


 閑話休題(かんわきゅうだい)――


「その噂の自警団団長の娘さんがこちらなのだわ、ビラールさん」

「タハミーネ・ダルヴィーシュと申します。ミーネとお呼びください」

「やっぱりか。改めて、俺はビラールだよ。王都までよろしくね」

 陳列棚の整頓で埃に汚れた手を拭うと、ミーネと握手を交わしていた。


「道中の野営用の調理用品等の相談と、必要な物のアドバイスが欲しくて」


 テントではなくツェルトを利用するつもりでいることを告げると、ビラールも「それならば」と同じくするとのことであった。

 元々テントもツェルトも持っていて、膂力(りょりょく)的にはテントも運べるそうなのだが、その場合はやはり荷馬(にうま)を用いて、売り物の武具とテントいずれも馬に運ばせているらしい。

 なお、今回は往路復路いずれも行商を行うつもりはないので、荷馬は使わないとのこと。


「カンテラはさすがに俺も使うよ。確かに純血のフクロウ族なんかは夜目がすごいらしいけど」


 ああそうか、混血というのもあるに決まってるな。一見する分には獣人とヒト族の間でも子供作れそうな気がする。


「鍋や包丁は俺が普段使ってるの持っていくから、自分のマグカップと、取り分け皿用に深めのボウルだけ用意しておいてもらえればいいよ」


 サラや私が更にどこかへ移動することになったら、その時に王都で器具を調達すれば良さそうだ。

 その参考のためにも、今回の旅程ではビラールの使っている道具をよく見ておかなければいけない。

ちょっと説明回でした。

苗字があったりなかったりするのも家系に士族歴があるかないかとかが関わってくるやつです。

名乗らないだけの人もいます。

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